表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/115

12話

     ◇


 翌日。

 日が昇ってまもなく、シルヴェリッサは幼女たちとハーピーを連れてギルドへやってきた。カウンターへ目をやると、疎らな冒険者たちの中に異質な格好の者がいる。全体的に品のある雰囲気に、特徴的なその衣装。いわゆる”メイド”と呼ばれる職種の者だった。職員となにやら話しているようだ。


 興味もないので、シルヴェリッサは依頼の物色に向かった。


(昨日の宿の3泊分くらいは稼ぎたいが……)


 思いつつ、手頃な依頼を探していく。3泊分というのは、もちろん6人(+1匹)全員分の、である。

 しかし、なかなか良いものが見つからない。他のボード、他のボード、と渡り歩くシルヴェリッサ。


     ◆


 そんな彼女を、周囲の者たちは一様に見つめていた。そのあまりに美しい正銀の髪と、凛とした雰囲気に見惚れたからだ。

 着ている服はボロボロだが、その見目麗しい美貌の前では些末なことであった。


   「綺麗……」

   「う、うん、ほんとに……」

   「妖精みたい……見たことないけど……」


 女性陣はその神秘的な容姿を讃える。しかし男性陣は、呆然と見惚れるあまりに何も言えなかった。


     ◆


 当のシルヴェリッサは、自分に視線が集まっていることには気づいていた。しかしそれが、己の美貌によるものだとはわかっていない。

 どちらにせよ敵意は感じなかったので、放っておくことにした。


 そんなことよりも重要なのは、


(いい依頼がないな……)


 シルヴェリッサの受けられる依頼の中に、高報酬の物がないことである。やはり安定して稼ぐには、ランクをある程度上げる必要があるらしい。

 だがどうすればランクが上がるのか、シルヴェリッサはわからなかった。


(……カウンターで聞くか)


 そう判断し、中央のカウンターへ向かう。メイドらしき者のすぐ近くだった。


「……ランクを上げたい」

「はい、えっと――ああっ! あなたはっ!」


 なにやら書類作業をしていた職員は、顔を上げていきなり大声を出した。昨日にシルヴェリッサの依頼手続きをした女だ。


「先輩。お客さまが参られているんですよ?」


 傍でメイドの相手をしていた職員――よく見るとシルヴェリッサの冒険者登録を担当した女だった――が、どうやら先輩らしいこの職員に注意をした。


「あ! もっ、申し訳ございません、使いの方!」

「いえ、私めのことでしたら、どうかお気になさらず」


 職員(先輩)が頭を下げると、そのメイドは微笑みながらそう言った。


「……おい」


 そろそろこちらにも対応してもらおう、とシルヴェリッサが声を掛ける。


「あ、ああっ、そうです! この方ですよ、使いの方! この方が”スモールロップ”の依頼を受けた方です!」


 再び職員(先輩)が叫ぶ。

 確かにシルヴェリッサは昨日、”スモールロップ”の捕獲依頼を受けたが。しかしそれが何だと言うのか。当の彼女は内心で首を傾げた。


 そんなシルヴェリッサの許に、メイドと職員(後輩)がやってくる。そしてメイドは1呼吸置き、優雅な動きでお辞儀をしてきた。


「はじめまして。わたくし、シェーランド家の下女をさせて頂いております、リタと申します。……あなたがシルヴェリッサ様でしょうか?」

「……そうだ」


 口振りから察するに、どうやら自分を探していたらしい。何用か、と怪訝に思いながらも、シルヴェリッサは話の続きを待った。


「本日はあなた様に、シェーランド家よりご依頼をさせて頂きたく参りました。内容は”スモールロップ””プチウィーズル”、そして発見できれば”ジュエリーパピヨン”の捕獲です」


 メイドがそこまで言ったところで、周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちがざわめいた。


   「いやいや”ジュエリーパピヨン”は無理だろ」

   「かなり希少なのよね」

   「実際に見たことある人なんているのかしら」

   「でもあの魔物でプロポーズされるのって、憧れるわよねー」

   「「「「ねー」」」」

   「…………女の考えることはわからん」


「……報酬は」


 シルヴェリッサは次に、一番知りたいそれを尋ねた。どうやら”ジュエリーパピヨン”の捕獲は相当に難しいようなので、それなりに期待できそうである。


「はい。それぞれ1匹につき――”スモールロップ”は8000メニス、”プチウィーズル”は4000メニス、そして”ジュエリーパピヨン”は500000メニス。とのことです」

(……文字通り、桁が違うな)


 至って冷静なシルヴェリッサ。

 しかし周りはそうもいかなかった。一気にギルド内が驚愕に包まれる。


「「「「「ご、ごじゅーまん、めにす……?」」」」」

「ピュイ~」


 幼女5人も呆然と呟く。ただ、ハーピーだけは変わらずシルヴェリッサに甘えた声を発していた。


「……期限は」

「3日で可能な限りを捕獲してほしい、とのことです」

「…………」


 思案する。

 どちらにせよ、他に高報酬の依頼はない。ならば決まりだ。


「……受けよう」

「ありがとうございます。旦那様にお伝えしておきます。ではこちらが対象の資料ですので、お受け取りください」

「……ん」


 さらに起こるざわめきを尻目に、シルヴェリッサは差し出された数枚の紙を受け取る。

 と、そこに職員(後輩)が補足を加えた。


「では”直接依頼”という形になりますので、ギルド側での手続きはございません。このまま依頼へ向かっていただいて結構です」


 そういうことらしいので、シルヴェリッサはさっそくギルドを後にした。



     ◇


 町の外に出てすぐさま、ハーピーたちに対象の魔物を探させた。結果、


「”スモールロップ”が3ひきに」

「”プチウィーズル”2ひき」

「すごい! まだはじめてすぐなのに!」

「か、かわいいなぁ……」

「でも”ジュエリーパピヨン”はみつかんないねー」


 依頼開始から30分ほどで、すでに32000メニス分を捕獲。まだ一番の大物は見つからないが、この調子でいけば2種類分の報酬でも問題なさそうだった。

 とはいえ”ジュエリーパピヨン”の金額は無視できない。シルヴェリッサは”神のくら”から資料を取り出し、再度確認する。


***  ***************************  ***


      〆 ジュエリーパピヨン


         妖精種


         〃 宝石のように透き通った美しい羽を持つ

           様々な色種がおり、現在で確認されている色は

           赤、青、黄、緑の4色である


           その希少さ故、実際に見ることは困難

           この魔物を飼うことが、高貴な者たちの間では

           非常にステータスとなっている


           尚、目撃場所が世界各地に広がっていることから

           どのような環境にも適応するのでは、といわれている


***  ***************************  ***


 つまりは、この地方にはいないかもしれないし、いるかもしれない、と。


(頼りない情報だが、探してみる価値はある、か。……まずは捕まえた5匹を町に置いてこよう)


 シルヴェリッサはその旨を幼女たちに伝え、平原を町に向かって歩き出した。

 たまに襲ってくる魔物は全て倒し、解体せずハーピーの餌にする。22匹もいるので、餌事情が大変だ。


(そろそろ、自分たちで狩らせるようにしなければな)


 1人そう思うシルヴェリッサだった。




     ◇


   ◎ セルエナ平原・東部 ウェルデの森


 この日、1体の雄オーガが森に戻ってきた。


 その身体は酷く傷つき、己とも敵の物とも知れぬ血にまみれ。


 しかしそれでもその歩み、その双眸そうぼうは揺らぎなく。


 襲い来る大量の雌オーガを、己が肉体のみで屠り進む。


 やがて群れを率いる雌リーダーへと辿り着いた。


 最後の闘いである。


 死闘。死闘。また死闘。


 幾多の同胞を葬り超えたその先に、上位への進化が待つ。


 だが、それまでに力尽きる者が殆どであった。


 そして一定期間を過ぎれば、この特殊習性は収まってしまう。


 故に今まで上位進化を果たした個体は少ない。


     ――しかし今、その少ない例の中に、


     ――更なる1体が加わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ