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11話

     ◇


 まずはオーク10体の討伐。場所指定はセルエナ街道付近。報酬は2000メニス。少し高めの額なのは、重要度が高いためのようだ。

 倒すのは簡単だが、シルヴェリッサは探すのに手間取った。しかしそれほど時間もかからず終了。


          《――所持依頼No.1 達成しました》


          《――依頼証No.1 ⇒ 『了』》


(自動で管理されるのか。……次にいこう)


「ピュイー」

     「ふわわわぁ……!」

     「すごいぃ~……!」

     「やっぱりたかいよぉ~……!」

     「……! ……っ!」

     「ひゃふ~っい!」


 ちなみに幼女5人はハーピーたちに運ばせている。歩く速度がシルヴェリッサと違いすぎたからだ。

 そんなに高空ではないし、若干名は楽しそうなので問題ないだろう。


 オークから取った素材は、食用の肉となんらかの調合に使うらしい血液。残った不要な部分は、綺麗にハーピーたちが食いきった。そしてさらに残った骨は、加工用として様々な用途に使えるらしいので、回収しておく。

 これら素材全て、”神の庫”に収納した。


 次の依頼は同時に2つ済ませる。ゴブリンの群れ討伐。そしてゴブリンの血液の入手。どちらも場所指定はなし。報酬は討伐ゴブリン1体につき30メニスと、血液1リットルにつき50メニス。

 ゴブリンは繁殖力が非常に強く、かなり遭遇できた。全て倒し、血を回収していく。残りは例の如くハーピーたちの餌に。


 また、討伐数については依頼証に自動でカウントされるらしかった。


 軽めの休憩を挟み、ゴブリン系依頼を継続しながら次の依頼へ。

 レッサースネークの牙×4の入手。場所指定なし。報酬、1000メニス。やがて達成。


 そして最後の依頼。


「……こいつで間違いないな」

「「「「「か、かわいい……///」」」」」


 シルヴェリッサの腕に抱かれた、小さな兎の魔物”スモールロップ”。これの捕獲が最終依頼だった。

 幼女たち5人がキラキラした目で見つめる中、当の兎は非常に大人しくしている。害されることはない、とわかったからだろう。


(簡単だったな。報酬が高いから、少し手こずるかと思ったが)


 驚くべきその報酬額は、7000メニスだった。かなりの高額さ故、それなりに難しいと予想していたが、外れたらしい。

 拍子抜けしながら、シルヴェリッサは胸に身を埋めてくる兎を撫ぜた。


「「「ピュイィィ~~……!!!!」」」


 兎に嫉妬の激炎を燃やすハーピーたち。死ぬほど怯える兎が気の毒だったので、シルヴェリッサはさっさと町に戻ることにした。




     ◇


「――で、では合計で、報酬13630メニスになります」


 目的達成証明になる依頼書を全て職員に渡し、合計の報酬を受け取る。ちなみにその職員は、依頼の受注手続きをした者であった。

 捕獲した”スモールロップ”が、魔物取扱所の者らしき女に連れられていく。幼女たちはそれを名残惜しそうに見送っていた。


 周囲の冒険者や職員たちが、シルヴェリッサに驚愕の目を向けてくる。


   「お、おいおい、もう終わらせてきたってのか……?」

   「し、信じられねぇ……」

   「なんて女だ……」

   「スゴいわね……」

   「アタシと同じくらいの体格なのに……」

   「ていうかさっきの、”スモールロップ”よね……?」

   「ウソ!? あれ捕まえるのってすごく難しいんじゃ……」


 だが当のシルヴェリッサは、それらの野次馬に微塵も興味がなかった。なので見向きもせずに、報酬の硬貨を確認する。

 銀貨が1枚、小銀貨が3枚、銅貨6枚に小銅貨3枚。これで13630メニスとなるようだ。つまり、


          銀貨が10000メニス、小銀貨が1000メニス

          銅貨が100メニス、小銅貨が10メニス


 という単位らしい。非常に分かり易かった。しかし……


(こいつらに賃金を払うには、硬貨の切りが悪いな)


 5人別々に均等で渡すには、少々都合が悪かった。なので銀貨1枚を小銀貨10枚に替えてもらう。

 そして小銀貨2枚ずつを彼女たち5人に渡した。


「……ご苦労さま」

「え、あれ、ぎんいろっ!?」

「ほ、ほんとだっ!」

「し、しかも2まいっ!?」

「す、すごい……!」

「こ、こんなにいいの?」


 かなり驚いているようだ。躊躇っていたので、シルヴェリッサは5人に受け取るよう促す。


「……かまわない。受け取れ」

「で、でもあんまりやくにたてなかったし……」

「……魔物の解体をしただろう」

「そ、それだけで、こんなに……」

「……かまわないと言ったぞ」


 最後の言葉はほんの少しだけ優しめにした。すると彼女たちはやっと硬貨を受け取り、嬉しそうに笑んだ。


「「「「「ありがとうございますっ」」」」」


 稼ぎの半分以上を簡単に手放したシルヴェリッサに、周囲はさらに驚いていた。




 もう時間も時間で日も暮れかけている。なので宿を探すことにした。


(可能なら風呂にでも入りたいが……この世界にもあるだろうか? ……いや、それはともかく)


 シルヴェリッサは後ろを振り返る。ハーピーがいるのはいいのだが……、


「……お前たちの仕事は終わっただろう」

「「「「「う……」」」」」


 なぜまだ幼女たちがついてくるのか。

 シルヴェリッサが言うと、彼女たちは所為なさげに息を詰まらせた。そして意を決したように前へ出てくる。


「わ、わたしたちをずっとやとってくださいっ!」

「「「「おねがいしますっ!」」」」


 揃って勢いよく頭を下げてきた。かなり目立っている。

 しかし気持ちは伝わってきた。つまり、言い方は悪いが「味を占めた」ということだろう。


 けれど、シルヴェリッサはそれを不快に感じることはなかった。彼女たちの生への希望となれるなら、迷う必要も感じない。


「……宿を探すぞ」


 シルヴェリッサの遠回しな受け入れの言葉に、しばし時間を要して理解する幼女たち。やがてこれ以上ない程の喜びをまとった。


「「「「「はいっ!」」」」」


 その嬉しそうな声を聞いて、シルヴェリッサは自分の中にほんのり灯る何かを感じていた。




     ◇


   ◎ セルエナ平原・東部 ウェルデの森


 セルエナの町近辺に生息するオーガたちには、昔から特殊な習性があった。


 元々”オーガ”という種には、『強さ』に敬念を持つという性質がある。


 性別などは関係なく、群れで一番強き者がリーダーとなるのだ。


 ”セルエナ”のオーガたちは雌個体がリーダーとなったとき、ある行動を取る。


 大量の雌個体を産んだ後、雄個体を全て群れから排除するのだ。


 さらに他の群れを取り込んで同様にし、雌オーガの大群を作り出す。


 そして群れから排された雄個体は、セルエナの町方面に逃亡。


 実はこの習性は、上位個体を生み出すためのものだ。


 しかしそれを知るのは、当のオーガたちだけであった。



     ――そして先日、この森の群れの一つに、


     ――雌のリーダーが誕生していた。



     ◇


 シルヴェリッサは町の中心部にある宿『いやしの羽亭』、その行水場に身体の汚れを落としに来ていた。幼女5人とハーピーを連れ立って。


 結局、風呂のある宿は見つからず、代わりに行水場があるというここに泊を決めた。

 行水場は小部屋程度の広さで何もないが、身体を洗うには十分である。床は地面の上から木板を敷き詰めただけのようだ。別館で簡素な造りなので、壊れてもすぐに直せるということだった。

 ちなみに、あまりにも衛生的に良くない魔物は利用できないらしい。


(大桶1杯分の水で500メニス、か……高いのは綺麗な水だから、と言っていたな)


 他の安い宿では、平均して1杯200メニスだそうだ。あまり清浄ではないらしい。

 ともあれ全員、身体は綺麗にできた。シルヴェリッサに不満はない。


「「「「「……」」」」」


 シルヴェリッサが髪を洗い終えた頃からか、幼女たちが呆然と見つめてきていた。さすがに彼女もそろそろ気になってきたので、声を掛ける。


「……どうした」

「あ、ご、ごめんなさい」

「その、すごくきれいだったから……」

「……そうか」


 どうやらシルヴェリッサの正銀色の髪に見惚れていたようだ。


(そういえばこの世界にきてから、ずっと汚れたままだったか……しかし、少し気恥ずかしいな)


 生まれて初めての『照れ』という感情を抱きつつ、


「……先に部屋へ戻る」


 言い残し、行水場を後にした。そして今回の宿泊費と残金を再び確認する。

 夕食と朝食付で1人1500メニス。魔物は1匹につき1000メニス。そして大桶7杯分の水で3500メニス。

 計13500メニスで、残金は手持ちの50メニスを合わせ180メニス。早くも本日の稼ぎがなくなったが、幼女たちはあまり気にしていなかった。シルヴェリッサも同じだ。

 元々今日の目的は1日分の宿代を稼ぐこと。なので結果は目的通りなのだ。


(明日からは本腰を入れて稼ぐとしよう)


 そう考えながら、シルヴェリッサは自分の泊まる部屋へと戻った。

※ オーガたちの習性について、「理由なし」ではさすがに無理があると思ったので修正しました。


※ 最後の方の手持ちメニス確認で、雑貨店でのお釣りを合わせ忘れていたので修正しました。

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