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105話

なにげにこの娘の視点で書くの初めてでした。ちょっと難しかったです。

     ◆


「ピュ、イィッ!」

「グギォオオオオーッ――……!」


 魔力で生じさせた風をまといとっしんして、翼の刃でトドメをさす。

 竜が力つき、その黄色の巨体が地面におちていった。


 ――やった!


 圧勝、というほどではなかったけど、それでもケガはほとんどないしよろこんでいいと思う。一息ついて、自分の身体に着けられた装備に目をむけた。


「……ピュイ~♪」


 思わずうれしい鳴き声が出てしまう。

 ゴシュジンにこれを作ってもらったときは、ほんとうにうれしかった。いまもそんなウキウキした気持ちで心がいっぱいで、ゴシュジンのお手伝いで戦えるのがとてもうれしい。


 アーニャたちには自分以外のハーピーやパピヨンたち、ほかのみんなもいっしょについているので安心して戦える。

 さあ、残りの竜もたおしてしまおう。と――気合いをいれたのはいいのだが、馬たちもがんばっているからかエモノが見あたらない。


 どうしよう……。キョロキョロ空や下のほうを見回しながら考える。


「――ピュイ」


 そうだ。

 この辺りは戦力が足りているけど、城からはなれたところはどうだろう。いってみることにした。


 翼を返してそっちのほうへ羽ばたいていく。

 とちゅうで下の街を見てみると、いろいろ壊されたりつぶされたりしていて、たおれた人間をほかの人間がたすけたりしていた。いくつか竜の死体も転がっているし、やっぱりここらには自分がいなくてもよさそうだ。


 ……けど、たぶん自分たちがやったのとはちがう死体もけっこうある。それもあきらかにグチャグチャだったり一方的にやられたんだろうな、と思えるくらいのやつもまじっていた。自分たちのほかにも竜をたおせる、とても強いのがいるみたいだ。


 ――でもゴシュジンのほうがもっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと強いしスゴいんだ!


 むふー、と少しほこらしくなって鼻から息がもれた。


「ピュッ」


 と、いまはちゃんとゴシュジンのためにお手伝いをしなければ。

 おわったらナデナデしてくれるかな、なんて思いつつ街を見下ろしていると――あれは……竜が二匹いる!


 よろいを着た人間もいっぱい戦ってるみたいだけど、まわりにたおれてる数がとても多い。あきらかに死んでるのも少なくないし、早くたすけにはいったほうがよさそうだ。


 相手は二匹。勝てなくはないけど、気をぬいたらあぶないだろう。

 でも、いっしょにきた仲間たちだってこの街のどこかで戦っているし、ムリそうならたすけを待つこともできる。だから――少しこわいけど、大丈夫だ。


 さあ、まずは気づかれていないうちに大きい攻撃を当てておこう。空に飛んだまま身体から魔力をぐうぅぅッとあつめて、強く強く、魔術をつくる。


 まだ、まだ……もう少し強く。


   「グルル……?」

   「ギャァ?」


 ――気づかれた。でも、もう十分。ためた魔術を勢いよく発動させる。


 ギュルルルルルルォォオオオオ――と、大きな大きな風のうずができあがって、ほえるような音をならしながら一気に竜の一匹へ飛んでいった。


 《ツイスターパイル》。


 ゴシュジンが作ってくれたこの装備のおかげで、自分の使う魔術はとても強くなっている。それにさっきとちがって大きく強く魔力をこめたから、スゴい勢いがでていた。人間たちも音と魔力に気づいてこっちを見上げている。


   「ギギャォオオオオオオオオーーッ!」


 当たった。

 さすがに勢いがありすぎて、よけるには気づいたのがおそすぎただろう。


 《ツイスターパイル》がおさまると、あとに残った竜の身体はキズと血だらけで、はげしく痛みにうめいていた。もう一匹の竜もそれを見てケイカイしたようにこっちをむいて、グルル……と低くうなる。そして、空へ飛び上がった。


 どうやらこっちのことをキケンな相手だと感じて、下にいたままは不利だと思ったようだ。

 身体の色が赤い。たぶん火属性だ……。風属性の自分にはあぶない相手だけど、大丈夫。きっと――いや、ぜったいに勝てる。


 勝つんだ。


「ピュイイイイイイイイーッ!」

「グオオオオオオオオオオォォンッ!」


 お互いにおたけびをあげて、魔力をねる。こっちは風、相手は火の魔力だ。


   「おい、なんだあの”ハーピー”は!? 見たことねえ種類だぞ!」

   「み、味方なのか!」

   「刻印! 刻印は!? 誰か見えねえか!」

   「あんなきっちりした装備つけてるんだから従魔にきまってるわ!」

   「そうよ! じゃなかったら竜に攻撃なんてしないはず!」


   「みんな、大丈夫だよ! あの”ハーピー”は味方! 助けがきたよ!」


 下のほうで人間たちがこんらんしていたみたいだけど、よろいを着た人間の女が自分をしっていたようだ。それからまわりの人間に指示をだしているようだし、たぶんあいつは城にいた『きしだん』とかいう群のエライやつ、リーダーかなにかだと思う。


   「こっちの竜はわたし達でやるよ! 戦える人は構えて!」

   「「「はっ!」」」 「「「おうッ!」」」

   「魔術を使える人は翼、弓の人は顔と目、前衛は腕と足を狙って!」


 どうやら下の竜はあっちでやるらしい。人間たちはみんなキズだらけで数も多くなかったけど、あの竜だっていまは自分の魔術でボロボロだ。きっと大丈夫、だと思う。


 それよりもいまは――目の前の竜だ。

 魔術を完成させて、発動。


「ピュイイイイイィィィィッ!」

「ギャオオオオオオオオンッ!」


 自分の《ツイスターパイル》と、竜が吐いた炎の息がぶつかる。勢いは……大丈夫だ、負けていない。

 竜は息を吐きつづけていなければいけないけど、自分はちがう。風と炎の下をくぐって、竜のおなかへ飛んでいく。いま竜の目には風と炎しか見えていないと思うから、つづけて攻撃するのだ。


 ――ここ!


 右の翼を思いきりふって、竜のおなかに刃をぶつけた。


「グッ!? ギァァアアアアアアアアーッ!」


 竜が痛みにさけぶ。そして――


「ギャオオオオオッ!?」


 炎の息がなくなったから、とうぜん《ツイスターパイル》も竜にとどいた。勢いはさっきまで炎にけずられていたからそんなにだったけど、ちゃんとダメージははいっている。

 よし、これなら――


「グ、オオオオォォーッ!」

「ピュイィッ!?」


 竜のウデに叩きとばされた。痛い。身体に痛みがおそってくる。

 むこうもトッサの攻撃だったようだけど、ダメージをうけてしまった。


 翼をひろげて体勢をなおす。


「ピュイィ……!」

「グルル……!」


 互いにケイカイしてうなり声をあげる。そして、同時にうごいた。


 もういちど魔力をねる。と、竜はこっちの魔術をキケンだと判断したのか、今度はとっしんをしかけてきた。――まずい!


 トッサに魔力を風にかえて自分の身体をよこにとばす。かわせた。


「グルオオッ!」

「ピュイッ」


 こっちが体勢をなおす前に竜が身体をよこに回転させて尻尾で攻撃してくる。右アシの付け根にかすった。じくっ……とした痛み。


 今度はウデがきた。でもこれはくらわない。一瞬だけ翼をたたんでほんの少しおちながら、ウデをよけるついでに身体を上むきになるようにねじり、翼の刃できりつける。


「グォッ!?」


 竜がうめいてウデをひっこめた。よし、いまだ。


 もういちど魔力をねる。今度は量を少なくするかわりに、早めに。たぶん三秒くらい。同時に魔術式もくんで、発動。


 《ウィンドネイル》。


 アーニャたちくらいの大きさの風の刃が三つあらわれて一つの爪になり、そのまま竜をひっかいて消える。


「グアアアッ!?」


 と、竜がいまキズついた胸のところをおさえてひるむ。チャンスだと思ってまた攻めようとしたけど、すぐに体勢をなおしたようだからやめておいた。


 とりあえず魔力をねって様子を見ていると、竜が低くうなって身体を小さくさせ、力をこめはじめた。


 なにをするつもりだろう。わからないけど、なんだかまずい気がする。だから自分もそのまま魔力をねりつづけて強く魔術を作り、発動させた。


 《ツイスターパイル》。


「ピュ、イィッ!」

「グ、ォォオオオオオオオオッーー……!」


 自分の身体くらいの大きさの《ツイスターパイル》が、竜のおなかにギュルルルルァアアッとくいこむ。それで竜はくるしそうにさけんでいるけど、体勢はくずしていなかった。


 しばらくして《ツイスターパイル》がおさまると――





「――グル、ルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァーーーーッ!!」





「ピュイッ!?」


 大きくはげしいおたけびと同時に、竜の身体が、赤く燃えるようなとても強い魔力につつまれた。


 なんだこれは。

 自分の身体にビリビリとするイアツカンがおそってくる。いや、だめだ、ひるんでは――


「グオオオオオオオオオオーーォッ!!」

「ピュッイィ!?」


 竜がとっしんしてきた。なんとかよけたけど、これは……あたったらまずそうだ。かなりあついネツをかんじたから、たぶんだけど火の魔力をそのまま身体にまとっているんだと思う。だから風属性の自分があたるのはまずい。


 自分によけられた竜はくるりと身体をまわしてこっちにむくと、両ウデを身体の前でコウサさせてのけぞりながら、大きく息をすった。


 ――炎の息だ!


「ガアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」

「ピュイッ――イィッ!?」


 羽ばたいて上によけたけど、左アシに少しうけてしまった。

 あつい……! それにとんでもなく痛い。これは、ちょっとしばらく左アシはうごかせそうにない……。


 気をとりなおそうと、あたまをかるくふった。

 竜のあのすがた、見たこともないしよくわからないけど、なにかのスキルだと思う。火属性をまとうスキル……ちかづくのもあぶないだろうし、たぶんアイショウのわるい風属性の魔術もききにくくなってそうだ。


 ヤッカイ。だけど……にげたくない。あきらめたくない。

 ゴシュジンはすごく強くて、自分が手伝えることは少なかった。


 だから……強くなりたいと思った。だから、ルヴェラといっしょにクンレンもした。


 でも、まだまだ自分は弱い。……けど、それでもいまは、ゴシュジンのお手伝いで戦える。それがうれしい。たまらなく、うれしかった。


 だから……だから……――




 ――負けたくない!




「ピュイイイイイイイイイッ!」

「グルゥッ……?」


 風の魔力を、ムリヤリひっぱりだすような勢いでねりあつめる。


 強く強く、強く強く強く。もっと強く。

 いま残ってる半分よりも、もっともっと。もっとだ。


「グ、ガアアアアアーッ!」


 竜がどこかあせったような、とまどったような様子でとっしんしてくる。けど心にヨユウがないからか、さっきまでの勢いがない。


 魔力はあつめたまま、羽ばたいてよけた。まわりの火の魔力はよけきれなくて少しやかれてしまったけど、これくらいでひるむもんかと、痛みにたえてくいしばる。


「グォッ!? グ……グルオオオオオオオーーッ!」


 竜は一瞬だけおどろいた様子をみせたけど、すぐに魔術をつくってとばしてきた。あれは、《ファイアボール》だ。やっぱり竜の魔術だけあってふつうより大きい。それに――はやい。


 よけられなくて、おなかにうけてしまった。


「ピュ、グッ!? ……ピュ――――イイイイイイイイイイイイィィーーッ!!」


「グルゥッ……!?」


 とんでもないネツと痛み。……でも、もう魔力もあつまった。

 いままで生きてきていちばん大きなさけび声といっしょに、あつめた魔力を一気にカイホウする。




 ――できた。




 自分をおおいつくす風の魔力。竜がつかったあのスキルと同じかはわからないけど……できた。


 竜が口をあけておどろいている。もしかしたら、これを自分ができるとは思わなかったのかもしれない。たぶん、むずかしいスキルなんだろう。


「グル、グルル……!?」


 とまどっている。いや、こわがっているようにも見えた。

 それから自分自身がそんな様子なのに気づいたように「……はっ!」となると、竜は大きくおたけびをあげてこっちをにらんだ。


 まるで、こんな相手をこわく思ったことをみとめられない、というかんじだった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 とっしん、それから思いきりなぐりかかってくる。


「ピュイッ、ィイッ!」


 くるん、とよこに身体を回転させてよけて、そのまま右の翼をふりぬいて竜の肩をきりつけた。よし、深い。


「グァアアアッ!? グ……ゥ、ォォオオオオオオオオオオオーッ!」

「ピュグッ!?」


 たいあたりをうけてしまった。痛みはある。けど、ネツはそれほどじゃない。風の魔力が守ってくれているみたいだ。

 なるほど、これはいいスキルだと思う。


「ピュイイイイイッ!」

「グオオオオオオッ!」


 お互いにひるまず、弱めず――攻撃がつづく。


 自分がカギヅメでひっかけば、竜はウデでなぐり。

 自分が翼の刃できりつければ、竜はアシでけりつけて。

 自分がたいあたりをすれば、竜は尻尾でたたいてくる。


 どれだけつづいたのか。どっちがかっているのか。

 わからないけど、やがてお互いボロボロになって……攻撃がやんだ。


 ――そして、


 スウウゥゥゥッ……! と、こっちまで音がきこえてくるくらいに、竜が大きく大きく息をすいはじめた。炎の息、それもたぶん、いままでのよりずっと強いのがくる。


 それにそなえて、自分も魔術の式をくんでいった。ちょっと前にシュウトクしたばかりで少し安定はしないけど、自分がつかえる中でいちばん強い魔術――。


 ……お互いが、ただしずかに力をこめつづける。








「ピュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイーーーーッ!!」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!」


 同時にときはなつ。


 まわりの空気ぜんぶまでやくような炎の息。

 魔術式からあらわれた四つの風の円刃。一つ一つが自分の身体と同じくらい大きいそれらが、四つあわせてかみつくように炎の息にぶつかった。


 《ゲイルカッター》。

 ギュルルルルゥゥアアアアアアッ……! と、そんなスゴい音といっしょに炎のかけらをまきちらす。どうやら勢いは負けていない。


 けど、炎の息もぜんぜん小さくなる様子がなかった。それどころかむしろ少しずつ強くなっているようにも思える。むこうも全力できているんだろう。


 ここでさっきと同じように下からもぐりこもうかと思ったけど、どうも相手もそれはケイカイしているようで、ウデや尻尾をいつでもふれるように気をつけているのがわかった。


 それなら――




「ピュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィーーッ!!」




 自分の身体をタマとして、炎の息につっこむ。たぶんこれは、相手からは見えていない。


 《ゲイルカッター》に自分も足されたことで、少しずつ少しずつ、炎の息に勝ちはじめていた。あつさにたえながら、魔力をどんどん、どんどんと足していく。


 炎がほえる声と、空気がやかれるにおい。

 そして自分の風の音だけがみちる中――



「ピュ――イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィーーッ!!」



 ――炎の息をかきけして、おどろきに目を見ひらく竜の胸につっこんだ。少しだけおくれて《ゲイルカッター》が肉と血をきりちらす音がする。


 肉とホネをつきやぶり、竜のずっと後ろまでとおりすぎて……とまった。




 胸の部分がなくなった竜が、ゆっくりと下におちていく。じめんがゆれる音。

 竜はもう、うごかない。


「ピュ、イイィ……♪」


 身体の力がぬける。ゆらゆらと、ゆっくりガレキの上におりた。

 ペタリ……たおれこむ。








 ――勝っ、た……。








次はいよいよ我らが主人公――ていうか、いつぶりだろう……。


シルヴェリッサ「…………」


ごめん。


シルヴェリッサ「……別になにも言っていない」

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