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103話

おかしいとことかあったらごめんなさい。


今回はあの娘とあの娘ががんばります。

     ◆


 眼前にそびえる、白い竜。その瞳はしっかりとこちらを捉えており、口からは低い唸りが漏れ、全身に凄まじい敵意をまとっていた。


 自分は今から、これと戦うのだ。


 身には岩の鎧、手には大棍たいこん。そして隣には、蜂たちの女王ハニエス。

 もちろん、竜が恐くないと言えば嘘になる。だが自分には、あるじさまからもらった装備や、共に戦う仲間だっているのだ。怖じ気づいてなどいられない。


 自分はまだセルリーンやルヴェラのように強くはないが、二体でなら、きっと打ち勝てる。そう戦意を奮い立たせ、竜に向かって吼えた。


「ぐむぉおおおおおおッ!」

『ギヂヂヂヂィッ!』


 ハニエスも触角を鳴らし、威嚇を重ねる。が、竜はこちらをあざ笑うように鼻を鳴らしただけで、全く気にもしていないようだった。

 しかし、構うものか。もともと怯ませようとしたわけでもない。


 相手がこちらを見くびっているなら、その隙を突くだけだ。


「くむぅうううううううんッ!」


 棍を振りかぶり、竜に向かって走る。ハニエスも後ろに続いてきた。


「くむぅッ!?」

『ギヂヂィッ!』


 だが、竜に届く前にその尻尾で軽く払われてしまう。まるでうっとうしい羽虫を払うかのような動きだった。


「くッ、やはり厳しいか……!」


 と、端で固唾を飲んで見ていた、たしか騎士たちのリーダーの男が言葉をこぼす。けれど、それは間違いだ。


 全く痛みがなかった。ハニエスはそもそも躱していたので当然だろうが、自分は確実に直撃していたにも関わらず、である。

 怯んだのもただ驚いただけで、本当ならあのまま体勢を崩すことなく攻撃までいけたはずだ。主さまからもらったこの鎧にはその力、〈頑強〉があるのだから。


 再び手に力を込めて、竜へと駆ける。竜はこちらが無傷なことに少し驚いたようだったが、すぐにまたその尻尾を薙いできた。


 直撃。だが今度は怯まない。

 そのまま駆け続けると、竜は一瞬だけ唸り、爪を鋭く立てて腕を振り下ろしてきた。


 駆ける勢いを片足に乗せて地を踏みしめ、迫る竜の腕に向けて大棍を思いきりぶつける。


 手応え。


「ガギァアアアアアアアアアアッ!?」


 竜が痛みに叫ぶ。その振るった腕は大棍に当たった部分がひしゃげ、血がにじみ微かに滴っていた。


「おおッ!」

「なんとッ!」

「竜が血を流したぞ!」


 騎士兵士たちが沸く。そこへリーダーの男が声を張り上げた。


「総員、戦える者は他部隊の救援に向かえ! 優先すべきは民と怪我人の救護! および避難の援護とする! その他、状況によって各部隊長が判断しろ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 その指示に従って、騎士兵士たちが固まって動いていく。他のところへは自分より強い仲間たちが向かっているので問題ないと思うが、怪我をした者の救護などは彼ら騎士兵士たちのほうが上手いだろう。それに人数は多いほうがいいと、自分はあまり賢くないがそれくらいはわかる。


『ギヂヂヂヂィッ!』

「ガァアアアッ!?」


 ハニエスが横合いから素早く竜の懐に潜り込み、その針脚で腹部を突き蹴った。そしてまた素早く離れていく。

 彼女には〈毒撃〉のスキルがあるはずだが、相手の耐性のほうがスキルLvを上回っていたのか、毒状態にすることができなかったようだ。少しだけ苦々しそうに眉をひそめていた。


「グルルルゥッ……!」


 と、立ち直った竜が殺意を増した瞳で自分とハニエスを睨みつけ、



「ガルァアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」



 大気を震わせるほどの凄まじい咆哮。


 本能的な恐怖が沸き、身体がこわばる。ハニエスも怯んでいるようだった。

 次いで竜は身体から白い魔力を練り上げ、


「ガアァッ!」

「くむッ!?」


 次の瞬間、三つの光の束が自分を襲った。

 魔術だ。しかも詠唱が速い。


 全身に走る、たしかな痛み。これは少し危ない威力だ。

 ハッとしてハニエスのほうを見る。今の魔術に警戒してか先ほどよりも距離を取っていた。正しい判断だと思う。自分は鎧の〈魔導障壁〉もあって耐えられるが、遠距離攻撃なうえにこの威力、彼女に当たればただでは済むまい。


 幸い竜は受けたダメージの具合からか、ハニエスより自分を標的にしているようだった。なんとかこの状態を維持して戦わなければ。


 竜へ睨みを返し、再び接近を狙う。


「ガアアァッ!」


 しかし当然のことながら、竜もまた迎撃に移ってきた。その巨体から白い魔力が漏れ、続けて魔術が形成される。


 再び襲いくる光の束。

 先ほどと同じ魔術のようだが、感じる魔力量も束の数も今回のほうが多い。

 それに形成する時間も少し長かったあたり、どうやら先ほどのものは威力よりも発動速度を重視したからこそ詠唱が早かっただけのようだ。まあ、だからといって気を緩めることはできないが。


 ともあれ、身を固めて防御する。今度は鎧に魔力を流し〈魔導障壁〉も発動させた。自分の全身を薄い魔力の膜が覆う。


「くむぅッ」


 あまり痛くない。〈魔導障壁〉がしっかり守ってくれたようだ。

 しかし、障壁がなければ危なかったかもしれない。感じた威力が先ほどとは段違いだった。


「グルゥッ!?」


 見た限り直撃したのにほぼ無傷なのがあまりに予想外だったのか、竜が瞠目する。その隙にハニエスが動いた。


『ギヂヂィッ!』


 腰にある刃を両手の指間ゆびまに挟んで抜き、腕を振るって投げつける。的が大きいのもあってか全て命中したようだ。あまり深く刺さってはいない様子だったが、竜は低く唸って顔をしかめた。


「グルァアアアアアッー!」

『ギヂッ!』


 そして上空のハニエスを見つけると、怒りの混じった咆哮を上げて身をかがめる。


「くむッ!」


 まずい。相手の目標がハニエスに移った。焦りながらも再びこちらに注意を向けさせるべく、地を蹴る。間に合うか。


「グル、ルゥッ……!?」

「くむ?」


 と、竜の様子がおかしいのに気づき、警戒して足を止めた。


 どうも飛び立とうとしたようだが、羽ばたく翼は広がりきっておらず、動きも完全にぎこちない。これはもしかすると……、


「ガァ、ゥ……ッ!」


 やがて竜が前腕を地につける。間違いない、麻痺状態だ。


『ギヂヂヂッ』


 ハニエスが触角を鳴らし、両腰の宝石に手を触れて刃を呼び戻す。そしてまた素早く指間に挟んで投げる準備をすると、自分に向かってうなずいてきた。


 自分もそれにうなずきを返すと、竜の頭部へ向かって再び走る。


「グル、ルォオオッ!」


 しかし竜もそのままではない。全身に大きな魔力を集めはじめた。


 また魔術がくる前に叩こうと、自分も速度を上げる。そして、


「くむむぅんッ!」

『ギヂヂヂィッ!』


 自分が竜の頭に向かって大棍を振りかぶり、ハニエスが竜の背に刃を投げた――その直後。


「グルォオッ!」


「くむぅッ!?」

『ギヂヂッ!?』


 竜の全身から閃光が弾け、自分の身体とハニエスの刃が吹き飛ばされた。


 激痛が走る。まともに直撃したのだから当然か。

 まさか魔術を組まずに魔力そのままを爆裂させるとは思わなかった。術式が形成されていなかったからと、油断していたことを悔やむ。


 しかし、もう同じ手はくらわない。

 強烈に痛む身体に顔を歪めつつも、なんとかよろりと起きあがった。ここで自分が隙を見せるわけにはいかないと、歯を食いしばりながら全身に力を入れ、再び竜へと駆ける。気を持ち直したらしいハニエスもまた、呼び戻した刃を指間に構えていた。


「グル、ゥ……!」


 大して怯まずに再び向かってくるこちらに、竜は一瞬だけたじろぎを見せると、また全身に魔力を集めはじめた。その身体が動かない以上、おそらくそれしか迎撃の手段がないのだろう。


 さっきのをもう一度まともに受けたら、おそらく死ぬ。運よく耐えられたとしても、とても戦える状態ではいられないはずだ。

 だが自分には〈魔導障壁〉がある。自分の魔力量ではそう何度も使えるものではないが、相手の魔力だって無限ではない。それに至近距離まで詰めることができさえすれば、竜とて魔力に集中できないであろうし、勝ち目は十分にある。


 走りながら大棍で前を防御しつつ、鎧に魔力を流した。


「グル、ルォオオッ……!」


 くる。


 次の瞬間、再び大量の光の魔力が爆裂した。――が、今度はさっきと同じようにはいかない。


「くむぅううううッ!」


 耐えた。傷はほとんどない。

 足を止めないまま気合いを上げつつ、大棍の防御を解いて右肩に担ぐ。そして、それを持つ両腕に魔力を込めた。上空ではハニエスも、こちらの攻撃に合わせようとしているのか腕を振りかぶっている。


「グル、ォオッ……!?」


 竜が瞠目してひどく慄いたように唸り、大きな隙を見せた。


 ここだ。


「ぐむぉおおおおおおおおおぉぉんッ!」


 駆ける勢いそのまま、竜の頭部に向かって全力で大棍を振り下ろす。


 《剛臥割ごうがわり


「グギャアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!?」


 ゴギャッという鈍い音とともに血しぶきが舞い、竜の絶叫が響き渡った。さらに続いてハニエスの投げた刃も次々と刺さっていく。

 竜はまた苦しそうに何度も叫び、その痺れた身体でのたうった。しかしやはり痺れているためか、動きが小さい。


 まだ叩き込める。

 そう判断し、今度はさっきよりも強く魔力を練った。そしてもう一度、


「ぐむ、むぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉんッ!!」



 《剛臥割》



「グギァッ……オォ……」


 すると竜は力なく声を漏らし、大量の血を流しながらやがて動かなくなった。






 ――――やっ、た……?


 そう理解したとたん、張りつめていた緊張とともに全身から一気に力が抜ける。


「くむ、ううぅ~……」

『ギヂヂヂヂ!』


 ハニエスも興奮に触角を震わせながら下りてきた。

 騎士や兵士たちの歓声がどっと沸く中、身体の痛みが消えていることに気づく。首をかしげるも、ああそうだと思い出した。


 これも装備についている能力だ。相手を攻撃したことでそのダメージの一部をHPに吸収したのである。改めて主さまに感謝が沸いた。


 ともあれ、ここはこれで一段落。


「くむう」

『ギヂヂ』


 ともに強敵を打ち倒した喜びを胸に灯しつつ、ハニエスと微笑みあった。

わりと少ない攻撃で倒せたのは、武器の性能によるものです。それと威力を込めた一撃を頭部に直撃させたのも大きいですね。



あと一回か二回くらい挟んでからシルヴェリッサに戻ろうと考えてます。

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