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10話

 ブックマーク、ならびに評価が少しずつ増えてきました。ありがとうございます。励みになります。

     ◇


「――説明は以上となります。そしてこちら、冒険者の証となるネームタグです。再発行には3000メニスが必要となりますので、失くさないようにしてくださいね。では、お疲れさまでした」


 掌サイズの金属板をトレイに載せ、カウンターに置く職員。シルヴェリッサはその冒険者証を受け取り、今聞いた説明を頭でまとめる。


        1.冒険者にはランクがあり、それに応じた依頼を受領可能。

        2.新人はFランクから。E D C B A Sと順に上がっていく。

        3.ランクが2つ離れた依頼は受領不可。

        4.ただし特別にギルドの許可を得た場合は受けられる。

        5.『緊急依頼』はA~Dは強制参加。S、E、Fは自己判断。

        6.魔物などの素材は冒険者以外の者でもギルドに売却可能。

        7.ギルド内での揉め事は禁止。喧嘩なら表で。


 といった具合だ。完璧に覚えたわけではないが、ひとまずこんなところだろう。


 日が沈むまではまだ少し時間がある。今日の宿代くらいは稼いでおこう、とシルヴェリッサはさっそく壁面のボードへ。貼り出された依頼書を見てみる。


***  ***************************  ***


        〆 ~ オーク5体の討伐 ~


              場所: セルエナ平原・西部

                     黒葉地帯 付近


              期限: なし


              報酬: 700メニス


        〆 ~ ゴブリンの群れの殲滅 ~


              場所: セルエナ平原・全域


              期限: なし


              報酬: 一体につき 30メニス


        〆 ~ ヒーゼ草の納品 ~


              場所: 特に指定なし


              期限: 本日より7日後


              報酬: 100gにつき 70メニス


        〆 ~ 雑貨商店の手伝い ~


              場所: セルエナの町

                     中央通り・南 周辺


              期間: 4日間


              報酬: 1200メニス


        〆 ~ グレーウルフ1匹の捕獲 ~


              場所: 特に指定なし


              条件: ♀ 幼体~成体

                  健康体


              期限: 本日より5日後


              報酬: 捕獲体の状態によって変動

                  1500~3000メニス程度


                  :

                  :

                  :


***  ***************************  ***


 本当に様々な種類の依頼があるようだ。できれば報酬額の高い物がいいのだが。

 悩みながら見ていると、ふと思い至った。


(複数受ければいい話だな。目的地の近い物を、いくつか見繕うか)


 結果、ちょうど良さそうな依頼書を5つ見つける。そのまま剥がして受付へ。


「え? あ、あの、失礼ですがお仲間は……?」

「……いないが」


 というかいらない。とシルヴェリッサは思ったが、ここで言う必要もないので口にはしなかった。

 簡潔な返答を受けた職員(登録受付時の者とは別人)は、少し引き気味で続ける。


「え、ええと、ですね。さすがに新人の方にこの数はちょっと……」

「……禁止されているのか」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「……なら早くしろ」

「で、ですが……」

「…………」


 少し威圧を込めて睨むシルヴェリッサ。すると職員は「ひぃ……!」と小さく悲鳴を漏らし、あせあせと依頼の手続きを済ませた。そして依頼番号の書かれた委託証を5枚、怯えがちに渡してくる。


「こ、こち、こちらをっ……」

「……」


 シルヴェリッサは委託証を受け取ると、さっさと受付を後にした。そのままギルドを出ようと足を動かしたとき、


「あっ、あのっ」

「まってください!」


 なにやらみすぼらしい格好をした、数人の幼い少女たちが前に立ち塞がってきた。そのうちの3人は、一目見て普通の人間ではないことがわかる。なぜなら、


(頭に獣の耳……? ……尻尾まであるな)


 その容姿が異常であったからだ。

 まるで獣のそれのような耳と尾。ぴくぴく、ゆらゆら、と不規則に動いていることから、本物だとわかる。

 しかし意外にも、シルヴェリッサの中に驚きは少なかった。恐らく魔物などを見ているうちに、知らず知らず耐性ができていたのだろう。


「……なんだ」

「う……」


 最初に声を掛けてきた紫髪の少女に視線を向けると、彼女は怯んで後ずさった。その隣にいたあさぎ色の髪の少女が、猫耳と尻尾を逆立てながら前へ出てくる。


「お、おねがいがあります」

「…………」


 普通ならここで立ち去っていたシルヴェリッサだが、今回は違っていた。

 彼女たち5人の酷くボロボロな出で立ちを見たからだ。その様はあまりにも、かつての己に似ていた。虐げられ、手を差し伸べられることのなかった自分に。


 シルヴェリッサはこのとき、彼女たちを放っておく選択肢が選べなかった。


「わ、わたしたちをやとってくださいっ!」

「く、くだ、さい……!」

「おねがいだよ、おねえちゃんっ!」


 残りの3人も出てくる。赤茶髪の犬耳尻尾、クリーム色の兎耳尻尾、そして濃桃色の髪をした普通の人間だった。3様に恐々という表情をしている。


「……まず内容を言え」


 急に「雇って」と言われても、内容がわからなければ答えようがない。

 幼女たちもそれに気づいたか、慌てて説明を始めた。


「あっ、えと、”いらい”のおてつだい、します!」

「にもつとか、もちます!」

「まものの”かいたい”もできますっ」

「お、おねえちゃんのおせわも、します……」

「がんばって、いっぱいやくにたつよっ、あ、ですっ」


 揃ってぺこり、と頭を下げてくる。その様相には必死さが窺えた。


(日々の糧を得るため、か……)


 その幼い身を危険に曝すのは、ただただ生きるために。


 そんな彼女たちの懸命な姿に、シルヴェリッサは応える。


「……こい。すぐに出る」


 隣で大人しく見ていたハーピーを連れ立って、少女たちの脇を抜けた。彼女らの輝かんばかりの笑顔を横目にしながら。




     ◇


 シルヴェリッサたちが出ていったあと、ギルド内はちょっとしたざわめきが起こっていた。今しがた冒険者になったばかりの少女が、もっと幼い少女たちを連れて依頼に向かったのだ。それに見たところ、他に冒険者の仲間もいない。

 騒ぎになるのも当然であった。


(と、止めたほうがよかったんじゃ……で、でもあの人こわかったし……ああもうっ、しらない!)


 先ほどそのシルヴェリッサに依頼手続きをした職員――ポーリアは、葛藤の末に不干渉を決めた。


(死んじゃっても私のせいじゃない……うん、そうよね。だってあんなこわい目で見られたんだから!)


 そもそも自分の身の程を知らない冒険者は、いつ死んでもおかしくないのだ。もし今回ポーリアが依頼の手続きをしなかったとしても、近いうちにシルヴェリッサはもっと危険なことをしていただろう。


(もし無事に戻ってきたらすごいけど……っと、仕事仕事)


 ポーリアはその少女のことを思考の端へやり、自分の役目へと戻った。




     ◇


 まずは魔物解体用の刃物を用意しなければ。

 そう判断したシルヴェリッサは、ギルド近くの冒険者向け雑貨店に赴く。ハーピーは表に待たせておいた。


 店に入る前に、”神のくら”から銅貨の入った袋を取り出す。幼女たちが驚いていたが、軽く説明してやると落ち着いた。

 扉を開き、店内へ。カウンターに直行する。


「……これで買えるナイフを」


 言って、店員の女に袋ごと銅貨を渡す。サナルの村で手に入れた物だ。

 シルヴェリッサはこの世界の金銭状況を知らないので、店員に任せた方が早いと考えたからである。


 店員の女――シルヴェリッサより5つほど年上の緑髪が、袋から銅貨を取り出し、その数を確認した。


「ん、銅貨が8枚、800メニスだね。ちょっと待ってな……ほれ、こんなんとかどうだ?」


 彼女が奥から持ってきたのは、小振りな短剣。粗末な物だが、普通に使えそうだ。


「……これでいい」

「あいよ、1本250メニスだけど、何本にする?」

「……3本」

「了解。んじゃ、これとこれ、それからこれ、と。あと、お釣りの50メニスね」

「……ん」


 差し出された3本のナイフと、小さめの銅貨5枚を受け取る。小銅貨は袋に入れ、ナイフは幼女たちに渡した。


「……解体役が持っておけ」

「「「「「は、はいっ」」」」」


 3人分しかないが、ひとまずこれで依頼に出ることにした。

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