この森の先へ!!
ゼクスとの会話を終えたあと、俺は様々な考えが頭の中をめぐり、寝付くことができなかった。
これで、装備や武器、スキルなど当分戦っていけそうな状況にはした。ゴブリン程度にあのざまでは、魔王討伐まで何年かかるかわからない。ゴブリンには申し訳ないけど。
しかし、新たなモーションなど、ゲーム通りでない部分が多い。当たり前だとは思うが。ここはリアルな世界だ。モンスターも生きるのに必死で、どんな動きをしてくるかなんてわからない。
そして、HPもおそらく、ゲームの設定より、2倍近くはあるだろう。あのときはスキルを使ってないから、正確な検証はできないが、ウッド系といえども、SSR4人で1時間かかった。ゲームでは絶対にもっと早い。
ーーー俺は、認識を改めなければならない。
しかし、現実世界にいるゼクスとつながったのは、非常に良かった。ゲーム内の設定がこちらの世界にある程度干渉するのなら、ガチャを引いて新たな武器、防具に変えることも可能だろう。
実は先ほどの会話でゼクスが言っていたことなんだが、さすがにパーティーメンバーは固定で変えられないらしかった。やはり、向こうでもできることは限られてくるようだ。
だが、何もないよりはずっといい。最初のままの状態だったら、命がいくつあってもたりない。とりあえず、最低限のやるべきことはやった。寝よう。俺は目を閉じた。
ーーーーーーー朝。
「リーダー!!!起きてください!!!私たちの装備が!防具が!!!なんか、すごいことになってますってこれ!!!!」
ミレナは激しく興奮していた。朝からハイテンションだ。
「ん...ああ。防具は《アイアン系》から《邪竜の鎧》に変えたし、武器はそれぞれの最強のモチーフ武器だ」
モチーフ武器とは、それぞれのキャラの設定になぞらえた武器で、基本的にそのキャラとの相性が抜群であるように設定されている。餅という言葉で略されて使われることが多い。
「でもなぜ!?リーダーがやったんですか??どうやって!?ああ、力がみなぎってくる!!」
「詳しいことはいえないんだが、まあそれがお前たちの『本来の姿』である、ということだ。もちろん、『スキル』も使えるぞ。」
「本当ですか!?一定の経験値積まないと使えないと思ってましたが....ああ、でもこの感じ、使える気がする!!」
「ユーノスとネアが起きたらすぐに出発するぞ。早くゴーラの町に着いて、情報収集をおこないたい。」
「了解です、リーダー。いい朝迎えられましたしね。起きなさい!ユーノス!!ネア!!」
すぐに2人も目を覚ました。「ふあああ!?」とか「おおおおおお!!」とかみなぎってくる力と装備の輝かしさに歓喜の声を上げた。
「よし、行くぞ。だが、我らの武器や防具はまだレベル1だ。素材を集めて『錬金』しなければレベルは上がらない。この程度で浮かれてはならんぞ」
「逆にいえば、まだまだ強くなれるってことですよね!?」
妙にポジティブだな、このパーティー。今までがよっぽど大変だったのだろう。心中お察しする。
「では、手始めに探索は僕がやります。《サー.....」
「まて、ユーノス。今の装備であれば、レベル1でもMPは高い。《サーチ》なんぞよりもっと上級魔法が使えるずだ。手始めに第2級魔法だ。《エクスプロレーション》を使ってみろ」
「え...そんな魔法使ったことないですよ」
「いいからやってみろ」
「はい。《エクスプロレーション》」
するとユーノスがかすかに光り、一瞬周りが光った。
「!!!すごい!広い範囲で把握できる。....ゴーラの町まであと3キロってとこですね。あと、200メートル先にゴブリン2体がいます。」
「そんなこともわかるの!?」ネアが叫んだ。
本来なら、この装備だと第4級魔法までは使える。ちなみにこの世界の最大級の魔法は第15級だ。魔法などのシステムも機会があったら語っていくとしよう。
「このまままっすぐ、進むのが最短なんですが、ゴブリン2体が...」
「構わん、いくぞ。今の我らの敵ではない」
こうして俺たちは前進した。案の上、ゴブリンたちは俺たちに気づいた。2対4では勝てないと思ったのか、逃げ出そうとした。
ーーーーーだが。
「逃がさん!!!我の真の力ーー見せてやろう!」
レベル1だから、真の力と呼べるか甚だ疑問なんだが、それでも最初とは別人のような強さであるのは間違いない。
「なんか、ノリノリっすね。リーダー。でも今なら任せられそうな気がします!」
「くくく...。任せておけ。ーーースキル《ダークブラインド》」
すると、一瞬あたりが闇に包まれた。ゴブリンたちは動揺し、少し動きが鈍くなる。防御力20%減の影響か。このスキルの強みは『全員』に影響を与えることだ。俺たち4人は攻撃力があがり、ゴブリンたちは防御力がさがる。
さらに。
「第3級魔法」
次にゴブリンたちの動きが止まった。動けない状態になったのだ。
「これでゴブリンたちは5分は動けまい。とどめだ。」
俺は、動けないゴブリンの脳天めがけて、暗黒剣を突き刺した。一撃だった。2体のゴブリンは大量の血を噴き出しながら絶命した。即死だった。
ーーーーあまりにあっけなかった。『初陣』での悲劇が嘘のようだ。やはり、ゼクスとの接触は大きな意味を持っていた。だが。やっと『所詮はゴブリン』と呼べるレベルだ。俺たちはようやくスタート地点に立ったにすぎない。この先何があるかわからないのだから。
「お手柄ですね、リーダー。実は私たち諦めかけてたんですよ、魔王討伐。今まであまりにうまくいかなっかたから。でも、今は違う。私たちは変わったんだ。本当にいけるかもしれない。夢ではないんだ!!」
ミレナは涙ぐみながらいった。
この入れ替わりは運命なのかもしれない。俺はこの世界を変えられる存在として、やってきたのだと少し思うようになった。
「ええ!目指しましょう!ゴーラを!あと少しだ!!」
ユーノスが叫んだ。
その後俺たちは安全な場所で野宿をしながら、2日間ほど森を歩いた。ゴブリンやゴブリン級の小型モンスターを10体以上は狩り、金目になるものを剥ぎ取った。
そして、新たに分かったことがある。『スキル』はどうやら1日に2回しか、使えないらしい。これもこの世界独自のルールである。
ーーー初陣から5日目の夕方。
「あと、100メートルほどで、この森を抜けれます。ですが...この先は、この森最強のモンスター《ジャイアント・グラー》の縄張り一帯です。やつとの戦闘は避けられないでしょう。」
《ジャイアント・グラー》とは蜘蛛型の巨大モンスターで、粘着性のある糸の他に毒を吐いたり、視界を遮る霧を発生させるなど厄介なモンスターの一種である。ゲームでは序盤に登場する大型モンスターだが、油断はできない。
「わかった。避けて通れぬのであれば、戦うのみ。我らはゆくぞ。ユーノスよ、まずはスキルを使ってくれ。」
実は4人ともスキルを発動させてきているが、持続時間は2時間程度であるようだ。俺のスキルはすでに朝に使っていた。
「スキル《クリティカル・ストライク》。」
ユーノスのスキルはクリティカル攻撃になる確率を2倍にする。つまり急所に攻撃を当てやすくなるスキルだ。
「どうします、リーダー?」ネアが怯えながら聞く。
「ふふふ。《スペシャルアタック》を使ってみよう。」
実はまだ試していなかったものがある。それが《スペシャルアタック》だ。ゲームにおける必殺技で、絶大な威力を誇る。もちろん、装備、レベルに応じて威力は変わる。
俺は自信に満ちた表情をして、興奮していた。リアルな戦闘では、ゲームでは決して味わえない感覚があった。実際にスキルや魔法を使い、敵を倒していく。腐った現実世界では決して味わえない。
もちろん、人としての情もあった。初陣の日や、ゴブリンの脳天に剣を突き立てた日の夜などは、みんなに隠れて嗚咽もしていたし、泣いた。だが、狩っていくにつれて、どんどん薄れていった。慣れ、適応というのはある意味恐ろしいものだと俺は思った。
そして今。俺は試すことにより、新たな喜びを得ようとしている。ついに大型モンスターを倒す時が来たのだ。
「ではーーーーゆくぞ!!」
俺たちは力強く踏み出して、《ジャイアント・グラー》のもとに向かっていった。