それぞれの始まりⅠ
俺は死んだのだろうか...。結構な衝撃だった。ただ、あまりに一瞬すぎてよく認識できなかったーーーー。
「......ゼクスさん!ゼクスさん!」
「リーダー!!」
大きな声が聞こえてきて、目を開けた。目の前に広がる森、程よく差し込んでくる光。ここが天国かと思って、しばらく上の空でいると、自分を覗き込む姿があった。女性が2人だ。
1人は金髪で、騎士風の格好をしており、スレンダーな体型であった。胸はそこそこある。目は大きく、少し赤みががっている。威厳を感じさせる雰囲気だった。ただ前髪パッツンな所が、おちゃめなポイントかなと俺は思った。
もう1人は青髪で、おしゃれな格好をしている。オタクの知識的には魔導師が着るような服だろう。目も大きく青っぽくて、こちらもスレンダーな体型だ。ただかなりの巨乳である。胸に目がいきそうなので、なるべく見ないようにしよう....。これほどの巨乳にあったのは生まれて初めてだ。
耳が大きく横に伸びていることからおそらくエルフであるだろう。
大学のチャラチャラした茶髪の女子大生としか遭遇していなかった俺にとってはすごく新鮮だった。.....ただこの2人、どうも見覚えがある。
「起きた!!食事中にいきなり倒れこむから何事かと思いましたよ。」
「あ、ああ。まああれか、異世界にきちゃった〜〜とかいう妄想乙な展開なのか...。」
「何言ってんですか、リーダーしっかりしてください、魔王討伐への道のり、どんだけあると思ってるんですか。うまくいかないからって現実逃避しないでください」
もうすでに逃避してるわ!と思いながらも状況を把握していく。まず体が重い。鎧を着てるからだろうか。ただ筋肉はかなりある感じで男だ、という認識はある。
鏡はないため、顔や姿はよく確認できないが、おそらくそれなりにスリムだろう。現実の俺よりはずっといい体だ、ということまでは確信した。
そして、見覚えがあると思ったこの2人、思った以上に身近だった。俺がソシャゲの中でも最もプレイ時間が長く、課金金額も高い『グレーブル・オンライン』というMMOだ。
ただソシャゲの要素が強い新しいタイプで、ガチャで引いたキャラ、武器を基本的に使っていく。
レベル上げや経験値といった要素も十分にあるが、キャラの急激なインフレや簡単な操作といったソシャゲの要素も強い。
ただし、グラフィックなど、ほとんどPCゲームと遜色ないレベルで発展していた。
このゲームには6つ「職」があり、魔導士、剣士、弓士、竜騎士、召喚士、格闘家である。
基本的に剣士、格闘家、竜騎士は前衛で、魔導士、召喚士、弓士が後衛だ。
種族なども様々あるが、詳細なことは機会があれば後ほど説明していくとしよう。
とりあえず、目の前の女性2人はそれぞれ、剣士、召喚士であり、金髪の方は聖騎士ミレナ、青髪のほうは、エルフのネアというの名前だろう。たぶん。
「えーーと、ミレナ」
「はい。なんですかリーダー?」
うんあってるね。よかった......。
「こ、この世界について、と俺たちの目的ってのを教えてくれないか?そ、そう!状況整理だ!状況整理!なんか記憶が混乱してしまって.....あはは」
「は!?どうしたんですか??こんな一瞬で記憶狂います?それになんか口調違いますし。いつもなら『われに、ついてこい、この純白の光が差す聖なる森を早く抜けようぞ』とかいうのに」
どこの厨二病だよ、と軽く突っ込んだ。心の中で。
「と、とにかく教えろ。そうじゃないと我は前に進める気がせん。」
「.........。まあいいでしょう。うーーん、なんか頭がすごいことになってそうなので本当に初めから、簡潔に説明しますね。」
「頼む。簡単でいい。」
「この世界はアトラと呼ばれる世界で私たちはリオ村というところに所属しているギルドのメンバーです。冒険家として4人パーティーで魔物を狩って生計を立ててました。ところが、一週間ほど前に魔王の軍団に襲われてしまいまして......村人が全員殺され、ギルド施設は焼き払われました。私たちはちょうど任務についていたので大丈夫でしたが。親しい人もたくさんいた村だったのです。」
「なるほど」
「それから、すぐ、魔王により、王国は転覆してしまい、支配下になってしまいました。反乱しようとするものは見つかったら皆殺しになってしまう、でも、魔王の統治に反対するものも多く、今はまだ、反乱しようとしているものも多いようです。」
「それで我らもその中にいると。そういうことだな。村の人たちやギルドの仇か。」
なんか、すごく話が重い。俺、やばいことに巻き込まれてる。
「えー、まあそれもありますが、今一番大きい反乱軍組織『アルタナ』というものがありまして.。もちろん裏の噂なんですが...。魔王を討伐したものに懸賞金が与えられるとのことです。ぐふふふふ..........。』
一番の目的金かよ!ゲスいな....。聖騎士要素はどこいった。
「まあ、存在するかわからないんですがね。ともかく、我々は魔王を討伐することに決めたんです。このままだと世界は大変なことになる。みんな、これは確信しています。」
「そうか。で、魔王ってのはどんな奴なんだ。名前とかわかるか?」
「わかりません。スキルやステータスなども全くの不明です。魔王に挑んで生きて帰ってきたものはいないと聞きますしね。ただ、冷酷無比な性格、殺戮を好むというのは、確かです。」
まさに、THE・魔王って感じだな。
「わかった。概ね理解した。で、今は何の時間だ?」
「昼の休憩中です。アイツが戻ってくるまで、とりあえずゆっくり待ちましょう。ゆっくりご飯食べて。」
アイツ? そう疑問に感じながら、俺はふと思った。現実の俺ーー木戸鋭介の体はどうなったのだろうか?死んだのか?あれだけの事故だ。その可能性は高い。
だけど、どうなっているか心配だ。非リアのまま死ぬなんて、悲しすぎる。はかなすぎる人生だ。仮に生きていて、意識が戻るとしたら?俺はどうなっているんだろうかーーーー。