おかしなとうぞくだん
いやおかしいだろう。なんで俺みたいなごく一般的な冒険者が狙われるんだよ。本来なら可愛いお嬢様とかさ、貴族や金持ちとかさ、モブ商人が襲われてるだろ。もしくは襲われているのを助けに行くもんだろ。いつフラグ立ったよ、おかしいだろう……。
俺は馬車から顔を出しクラウスさんの横に行く。すると盗賊の一人が俺を見つけると小さく口笛をふいた。
「ヒュゥ、可愛いお嬢様もいるじゃねーか。今日は大当たりだぜ。嬢ちゃん、どうだこっちに来ないか、まぁ俺らの玩具になるだけなんだがな!」
下卑た笑いをする盗賊達。俺は彼の言葉のある部分に反応していた。
(ん、俺が可愛いお嬢様? ちょっと待てよ?)
モブ商人 → クラウスさん
お嬢様 → 俺?
お金もち → 俺結構お金ある?
(フラグ大量に立ってたわ……ビーチフラッグで全員がフラグ取れるくらい立ってたわ)
「どうした? 絶望で声も出ないか? ひぇっひぇっひぇ!」
クラウスさんは雇った冒険者と盗賊達を見つめながら俺に言う。
「ふん、カグヤくん。安心すると良い。この人数だった押し切れる。…………ん? ちょっと待て、なんだあれは? なっ、まさか」
クラウスさんは視線を前に向け、口を半開きにして茫然としていた。俺はクラウスさんの視線を追うとそこには馬に乗った二人組の男がいた。
「まさか、あ、あの二人は…………」
「ふふ、なんで俺らがこんな余裕を持ってるのかやっとわかったようだな。アレは俺達のおかしらだ!」
こちらに近づきだんだんと大きくなってくる二人組。ある程度近づくと彼らは馬から降りる。
(あ、小太りの方足首ひねった。痛そう)
馬から降りた二人組は、ガニ股でゆっくりとこちらに歩いて来る。一人は少し足を引きずっていた。
「おかしら!」
おかしらと呼ばれた男は口を吊り上げて、ニヤリと笑う。彼はまるでクマを思わせるように体が大きく、そして黒くて濃い毛に覆われていた。
不意におかしら以外の盗賊は、全員目礼をはじめた。
(いったい何が起こるんだ……?)
親分は両足を開き腕を組くと大きく口を開いた。
「へっへ、驚いて声も出ねぇようだな。森のクマさんといやぁ俺の事だ」
「さすがニキ! まじイケメン!」
頭の中が、『ん? なんだって?』と言う言葉でいっぱいになる。俺の耳がおかしくなったのかと言う結論を出そうかと思いながら、辺りを見回す。
周りを見てみれば、時間が止まっていたのは俺だけのようで、彼の言葉を聞いたクラウスさんや護衛の冒険者達は狼狽し、顔を青くしていた。
「くっ。今有名なあのはちみつ盗賊団かっ……!」
クラウスさんはそんな事を言っていたが俺はそれどころじゃなかった。
(くそ、俺の耳は正常だったか……。片方からとてつもなく嫌な予感しかしないのは、気のせいだよな? 気のせいだよな?)
「ファッ!? ニキ、ニキィ、あの女の子すごくかわい……ンゴッ。ニキ、俺の足ふんでるンゴ」
「た、確かに。か、可愛いじゃねーか」
絶対一人話し方がおかしいし。
「ニキ! この女の子には奴隷商人から奪った『奴隷の首輪』をしてしまいましょう! くぅ~俺らぐう鬼畜」
不思議な話し方をする方はメタボリックな中年のオッサンで、少しサビた鉄の防具をしている。
「そいつぁいい考えだ。やっちまうか」
もう一人の大男は毛が多すぎてしっかりとは分からないが、顔が丸くて、目がつぶら、そして丸い鼻をしている。
気持ち悪い言葉遣いの方が、背中に付けていた荷物を下ろし中をあさる。そしてすぐに悲痛な声をあげた。
「ファッ!? ニキぃぃぃ、首輪最後の1個だったンゴゴゴ」
「大丈夫だ、問題ない。捕まえるのはあの可憐な銀髪のエルフだけでいいだろう。後はわかるな」
……うぜぇ。ただ話してるだけなのにストレスが特級列車だ。
俺は腰から短剣を抜くと二人に向ける。
「はーはっは。俺達とやる気か? この森のクマさんに挑もうとはなかなか骨のある女の子じゃねぇか! 良いぜぇ。ほら来いたっぷり可愛がってやる」
「ねぇクラウスさん。私があの二人を私が相手すれば他はなんとかなるんですよね?」
「あ、ああ、もちろんだが……」
「じゃぁ私が相手しますので後お願いしますね」
戦わないで済むのなら、戦いたくはなかった。だって面倒だし間違って殺すとLV上がるし。でも、これ以上あいつらと会話をしたくなかった。
そう言うと俺は腰を落とすと、本気で走り出す。すると二人は口を半開きにし、呆然とその場に立ちすくんでいた。あいつらは多分俺の速さに驚いているんだろう。
実は俺が今装備している装備品、ヘイストダガー、みかわしのローブ、疾風の靴。これらはすべて速度を超強化するものである。その装備に後付けでエンチャントを行い、更に速度アップをつけた。
装備品のスピードアップだけじゃない。更に俺の種族、狐族とエルフ族のハーフと言う事で、その恩恵を受けている。つまり速さが上がっているのだ。
そのため、剣士のLV90ぐらいが相手であれば、今の俺の方が速くなっているはずだった。さすがにLV100を超えたキャラや素早さ特化のキャラクターが居れば話は別だが。
一瞬ひるんだ二人だったが、すぐに自分のメイスをやら斧を構え俺に相対する。
俺はまず言葉使いがおかしい方にむかう。するとアイツはメイスをふるってきた。
(遅い……)
エルさんぐらいの強さであれば何とかなるだろうとは思っていたが、彼はエルさんのひとまわりもふたまわりも弱かった。俺はヘイストダガーを使って余裕で受け流すと、顎を殴りつける。
「ンゴゴ!」
そんな言葉をもらしながら彼は倒れる。彼はすぐに立ち上がろうとするも上手く動けないようだった。
(脳しんとうだよ。しばらく立てないだろう)
「てめぇっ!」
おかしらの方は、一人やられたことで目の色を変えて俺を攻撃してきた。だがしかし。
(お前も遅い……斧スキル100も行ってねえだろ)
俺は体をそらして攻撃を避けると、足払いをする。するとおかしらは簡単に転び、地面に体を打ち付けた。
俺はヘイストダガーを男の首筋に当てる。
「あの盗賊さん? リーダーはこんななんですけど。まだ、やります?」
俺の声に反応して冒険者たちが武器を構える。そして盗賊達は武器を地面に放り投げた。
俺が商人の荷物をすべてアイテムボックスに入れ、空いたスペースに縛った盗賊達を突っ込んだ。俺はきつく縛った盗賊に、
「ねぇ私を捕まえるって大見え切ったわよね。結局貴方達が縛られてるけど今どんな気持ち?」
と言ったら彼は恍惚の表情で震えていたので急いで逃げた。彼は新世界が見えたんだと思う。頼むから俺を巻き込まないでくれ。
「いや、すばらしい。本当に素晴らしい」
クラウスさんは俺を絶賛だ。
あの盗賊、ああ見えても実は名の知れた盗賊らしく、もうこの馬車は終わったものだと思ったらしい。つかアレなら騎士団数人いれば何とかなると思うのだが……。エルさんだけだと少し厳しいかな?
「それにしてもカグヤさんが一人で全滅させたようなものなのに、報酬は五割でいいんですか?」
「ああ、いいですよ。護衛の方に分けてあげてください。リーダーを倒した後に、残りの盗賊が武器を捨てたのは皆さんのお陰ですし」
「本当にもう。素晴らしい方だ……」
ちなみに盗賊達のリーダーが持っていた奴隷の首輪は俺のアイテムボックスに入ってる。多分使わないと思うが一応貰っといた。つか所持してていいのかよ……。まあ商人クラウスさんがいいっつってんなら、いいんだろうな。そう言う事にしておこう。
その後、護衛の冒険者たちとも仲良くなって、毎晩俺のアイテムボックスから出てくるアイテムと酒で、どんちゃん騒ぎをした。モンスターに襲われてたら危険だったと思います。
それと冒険者メンバーのシーフ(男)から剣を教えてほしいと言われたが断った。
だって俺がした事はスピードで錯乱させて、一人の脳を揺らした事と、攻撃して重心が崩れているやつを転ばせただけなのだ。それもこれも装備チートのお陰で、素のステータスなら俺はそこらへんのごろつきより弱いと思うし。
また冒険者メンバーの剣士(男)に告白されたが、俺のギルドカードを見せたらこの世の終わりのように崩れ落ちて行った。
……ゴメン。悪い奴じゃないんだけど……。
右翼曲折あったが、俺達がアマウズメから出発して五日後、ようやく当初の目的地であるミカヅチの町に辿り着いた。