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異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
6/44

-- 騎士エルネスタの船旅 --

他者(エル)視点になります。


「アルバート、首尾はどうだ」

「は、順調です。他の者は既に部屋に行きました」

「そうか、まぁ何事もないだろうが、何かあったら動かないといけない。いつでも剣を持ちだせるように言っておいてくれ」


「承知いたしました。そう言えば、隊長。昨日はとても楽しそうでしたね」

「ああ、久々に話のわかる奴にであってな。長居してしまった」

「あの女性の方ですか?」


 その言葉に私は苦笑する。やはり皆そう思うのだろう。

「ははっ。やはりお前もそう思うか。アレは男だよ」

「えっ?」

「アレは男だ。ギルドカードを見せてもらうまでは私も信じられなかった」


 ただ、話すうちに男っぽいなと言う事は少しだけ感じた。ちょっとした仕草や目線。彼は気が付いていないかもしれないが、たまに私の胸を見ているたのは知っている。すまんな、私はそれほど乳が無くて。さぞかし彼はがっかりしただろう。


「あ、あの子が男?」

「そうだぞ。それと彼はこの船に乗ってアマテラス大陸まで行くそうだから、会おうと思えば会えるぞ? 夜這いに行ってくるか?」

「か、勘弁してください……」

「ははっ。そうだったな、お前は宿屋の……エリちゃんが居るもんな」


 アルバートは顔を赤くして俯く。コイツとエリは本当にお似合いだ。エリもコイツの事をしたっているようだし。


「次昇格したらしっかり貰ってやるんだぞ?」

「……それを言うなら隊長こそどうなんですか?」

「まだないな……惹かれる奴もいないし……それに父上が持ってくる縁談がどれもこれもつまらない相手ばかりで結婚する気も起きない。しばらくは一人身だな」


「隊長は相手を選ばなければすぐ結婚できそうなんですけどね」 

「家も家だし、無理な話だろうな……っと、出港のようだ。私は少し風に当たってくる。アルバートは好きにするといい」

 汽笛の音と外に居る船員達の声が響く。イカリがなんちゃらと聞こえるからもうすぐ出港なのだろう。

「はい、では私は部屋に居ます」


 私はアルバートと別れると、つうろを進み看板へ出る。どうやらイカリをあげ終わったようで、ゆっくりと離れて行く陸が見えた。


「あ、早速会いましたね」

 横から聞こえるのはソプラノの声。昨日よく聞いた声だった。

「やあ、カグヤ」


 彼は身長168センチくらい、男性にしては低く女性にしては少し高いだろうか。剣を持てるのだろうのかと思うほど華奢で、虫も殺した事がなさそうな顔をしている。また耳がほんの少しだけ尖っていて、彼がエルフ族の血を引いている事が伺える。


「じっと見つめて、どうかしたんですか」

 彼の肩甲骨辺りまで伸びた銀色の髪は、日差しによってまるでミスリル剣のように光り輝く。

「なに、先ほどなアルバートと君の話をしたんだが、アイツもカグヤを女性だと思っていてな」

 少しだけ釣り上った彼女の目、それの眉根が少しだけ下がる。そして小さな笑みを浮かべた。それを見て私は思わず笑ってしまう。


「ふふっ。苦笑いの姿もかわいらしいな」

「もう色々と諦めましたよ。逆に人をからかう為に使って行こうと思うぐらいにね」

 はにかむ彼女、いや彼は本当に女の子みたいだった。美しい白い肌に青い瞳、長いまつげ。マシュマロのように柔らかそうな唇に、小ぶりな鼻。うん、女の子だ。


「そうだ、今日の夜か明日の夜は時間があるか? 酒を買ってきたんだが、どうだ?」

 航海は二泊三日の予定だ。彼と会えるのはその間だろう。

「いいですね。今日大丈夫ですよ」

「じゃぁ、今日の夕食後……そのまま食堂でどうだ」

「ええ、楽しみにしています」

「ああ、ではな」


 彼はそのまま客室に入って行く。私は甲板に向かった。

 照らす暖かい日差しに、肌を撫でて行く塩の風。もうアリみたいに小さくなった港町。そして反対側に見えるのは青い海と水平線。

(いい天気だ。このまま何も起こらなければいいが……)



 

 今回の公務は様々な町を回って、書類と物を渡して対話をするだけの簡単なものである。ゆえに基本的に戦闘する予定はない。あるとすればモンスターが出現する場合だが、今回は船を使っての移動。そしてここ最近の海ではモンスターの活動はあまり無い。


 何も起こらないことが予想され、五人と言う少数メンバーで任務にあたっているが、一人でよかったんじゃないかと思うほど何も起こっていなかった。


「それにしてもエルも面倒なの押し付けられたわね。今回の仕事ほとんど移動だし」

「まぁ適役が居なかったのだし、仕方ないだろう」

「まぁわたし的には楽が出来たからいいんですけど」

 そう彼女、ローゼマリーが言うと、持っていた小型の杖をくるくる回す。


「そうだな、私は出来れば体を動かす方がよいのだが……今回は来てよかったと、そう思っているよ」

「へぇ、どうして?」

 ローゼは回していた杖をキャッチし私を見つめる。


「なぁに、面白いヤツと会えたからな」

「? そんな人いた?」


「お前はいなかったしな。あったのは私とアルバートだけだ」

「あ、もしかしてお泊りしたときに一緒に居た、可愛いハーフエルフの子?」

「まぁそいつだ」


「へぇー貴方が気に居るなんて、珍しいわね。何か特殊技能でも持ってたの?」

「特殊技能って……お前は私をどう見てるんだ? まぁ確かにそうなのだが。そいつはなモンスターに関する知識がすごくてな、多分私以上だ」


「はあ?」

 ローゼはありえない物を見るような目で私を見つめる。さりげなく彼女は私の事を馬鹿にしていないか?

「まぁ今日食堂で飲む予定だから、一緒にどうだ?」

「ちょっと気になるし、少しだけ一緒するわ」


 そのままローゼと話をして時間をつぶし、夕食を食べに食堂へ行く。今回の船旅は客があまり居なかったからか、席が結構開いていた。


 既に騎士団の男どもは食事を始めていて、魚料理を食べていた。彼らは私の姿を見つけると手を振ってきたので近くによって『羽目を外すなよ』忠告しその場を去る。

 そして私は空いている席に行こうとしたが、ある人物を見つけたのでそちらに向う。


「ちょっとエル? どこにいくのって……この子ね。確かに可愛いわ」

 後ろを付いてきたローゼは一人でブツブツ何かを言っていたが、私は無視をして彼に声をかける。


「やぁカグヤ。朝ぶりかな?」

「こんばんは、エルさん。朝と言うよりは昼ですかね」

 私は彼が引いてくれたイスに座りながらローゼに聞こえないように小さく呟いた。


「少しだけ女の子のフリをしていてくれ」

 彼はウインクすると、ローゼのためにイスを引く。

「ありがとう、えっと」

「カグヤです。よろしくお願いします」


「ああ、カグヤさんねあたしはローゼマリー。ローゼでいいわ」

「はい。ローゼさん」


 そう言って彼は顔を数度傾けニコッと笑う。

 いやちょっと待て、確かに女のフリをしろと言った。だけど此処まで可愛いとかずるい。その可愛さが私にもあれば。

 彼の可愛さにローゼもやられたのか、こころなしか目元が緩んでいる。


「……参ったわ、凄く可愛い子ね」

「そんな、私が可愛いだなんて……ないです」

 彼は両手を頬にあて恥ずかしそうに下を向く。あ、これダメだ。ウチの男どもはこれだけで落ちる。禁断の愛直行だ。


「私なんかよりローゼさんの方が。知的な美人さんだとおもいます。特にその赤い目が綺麗です。羨ましい。それに髪から香る……バラかな? バラの香りも素敵です。すごくローゼさんに合ってます」


 彼はローゼを口説いてるのだろうか? あのローゼが嬉し恥ずかしそうに頭を掻きながら、お礼を言っていた。


「もちろんエルさんも私なんかより美人です。髪の毛が綺麗で肌が凄く白くて、綺麗。さらに剣で戦うこともできるカッコよさも持ってる。私将来はエルさんみたいになりたいです!」


「はは、ありがとう。君も凄く可愛いよ。多分私の部隊の男どもが此処に居たら一瞬で恋に落ちるだろうね」

 そう言うと彼は一瞬笑顔が歪む。私は笑いを堪えながらメニューを手に取って注文をした。


 彼は私たちの料理が待っててくれていた。そして三人分がそろうと彼は手を当てていただきますと食べ始める。

 そういえば、いただきますを使うのは確かアマテラス大陸西の大和島出身のやつが多かったはず。 


「へぇ、じゃあ男と付き合ったことは無いんだ」

 ローゼは魚を口にしながら、彼に言う。


「そうです。その。えっと、男性の方は苦手で……」

 私はまた吹き出しそうになるのを堪える。そりゃ彼は男と付き合ったことは無いだろう。


「勿体無いわ、貴方は男なんて選り取り見取りでしょうに」

 彼は絶対に要らないだろうな。


「いやぁ、私なんかよりお二人はどうですか? お二人こそ選り取り見取りでしょう?」

 ローゼは首をぶんぶんふる。

「ダメよダメ、こうね、グッとくるいい男が居ないの。騎士団の上部には骨のある奴もいるんだけど、大抵結婚してるか年を召してるし」

「確かにローゼの言うとおりだな。騎士団は女性にとっては宝箱なんだろうけど、あいつらじゃなぁ」


 彼は横目で私の部下をちらりと見て苦笑する。


 私たちが色々と話しているうちに食事を食べ終わり、三人でお酒を注文する。彼は前と同じく葡萄酒を頼んでいたので私も同じものを頼んだ。まぁ私も葡萄酒は大好きだしな。


「あ、そうだ。エルさん。おかみさんからアレ貰ってきましたよ」

「ん、あれって?」

 彼はアイテムボックスから皿を取り出す。そこには昨日食べたチーズの盛り合わせ、私の大好物が乗っていた。その様子を見ていたローゼは驚いた顔をしている。多分彼女が驚いたのはアイテムボックスのせいだろう。


 

「……どうしてそれを?」

「うーん。昨日エルさん凄く美味しそうに食べてたし、無くなるたびにしっかり注文してたので」

 ニコッと笑って言う彼。本当に気がきく奴だ。それはローゼも思ったのだろう。感心して頷いていた。

「ありがとう、カグヤの想像通り私の大好物だ。いただこう。だが今日の此処の代金は持たせてくれ。申し訳ない」


「わかりました、ありがとうございます。そうだ、もしかしたら他にも人がいるかと思って、色んなものをアイテムボックスに入れてきました。ローゼさんこちらはどうですか? もちろんエルさんも食べてくださいね」


「……本当に気がきく子ね。私のお嫁さんに欲しいくらいだわ。この子にそこら辺に居る男は全く釣り合わないぐらい」

「そんな、ローゼさんの配偶者なら喜んで立候補しますよ?」

 彼は笑いながら言う。その様子を見たローゼも一緒に笑っている。それを見ていた私はなぜか内心複雑だった。


「おいおい、カグヤは私が狙ってたんだ。カグヤ、私の所にどうだ?」

「もう! エルさんはわかってるくせに!」

 そう私はわかっている。彼が男だから冗談でも何でもなく一緒になれる事を。

「はは、冗談だよ」そう言葉に出そうとしたところで、私は言う事ができなくなった。その後に続いた彼の一言で。


「意味解ったうえで言っているなら、もちろんおっけーですよ?」


 ウインクする彼に私は問えなかった、それは本気なのかと。私が言葉を探していると横からローゼの声が聞こえる。

「ふぅん、何か訳ありそうね?」


「そうですね。ローゼさんにはまだ、内緒です」




 そこからある程度飲んで、ころ合いだと思った私はローゼに向き直る。そしてあの事を言う。

「ああ、そうだ。ローゼ、信じがたいではあるが、聞いてくれ」

「ちょっといきなり何よ?」

 ローゼは完全にカグヤを気に行ったようで、私と二人きりの時にしか使わない素の喋り方をしていた。


「実はな。カグヤは男なんだ」

「は?」


 ローゼの顔が歪む。そしてカグヤをちらりと見て、すぐに私の方に向き直った。

「何言ってるの?」


「くくっ、いや、本当だ」

 カグヤはローゼに向けて小さく舌を出す。おい、カグヤ。そろそろ君が本当に女に見えるからやめてくれ。


「ゴメンナサイ! 騙すつもりはなかったんですけど。エルさんに言われちゃって。ギルドカード見ます?」

 そう言って彼はカードを取り出そうとした。がローゼは右手を上げて彼を静止させた。

「いえ、いいわ。エルの顔見ればさっきの事が本当だとわかるから」

 ローゼは悔しそうに私を睨む。


「ああ、今日は本当に酒がうまいな」

「……あたしを肴にしたわね」

「ははっ、すまない。いつもやられてばかりだからな。でも今日はカグヤのおかげで、まな板の上を踊る魚を見れたし最高だった」

「はぁ、それにしてもこの子が? ウソでしょう?」


 ローゼは私への嫌がらせなのか、チーズを大量に手に取ると、自分の皿に載せる。そして葡萄酒を一気に飲み干し、空になったグラスをテーブルの隅に置くと、追加を注文した。

「いやぁ、よく言われるんですよ」

「よく言われるどころじゃないでしょ? 何これ100%よ100%! 誰が見たってかよわい女エルフじゃない」


「そんな事ありません、私はれっきとっした男のハーフエルフですよ? そうそう、お嫁さんにはなれませんが、お婿になら行けますので、良ければ考えてくださいね。あ、私男色のケは無いので」


 ローゼは大きくため息をつく。

「サキュバスみたいに可愛いと思ったけど、悪魔である事はあながち間違いじゃなさそうね」

「ははっ、ローゼの言うとおりだな」

「エルさんも何気にひどいですね……」


 それから1時間ほど三人で酒を飲んだ。そして後で聞いた話だがローゼはカグヤを大層気にいったようだ。もちろんカグヤが男だと知ってなお。

 

20151219 修正

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