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異世界奇想曲  作者: 入栖
第壱章 ××××(章タイトルは章終了後に書きなおします)
43/44

-- ハナカゴスズメの苦悩 2 --

「はい……ってはぃぃ??」


 ショートカット? 私の耳は幻聴でもきいてしまったのでしょうか?

「あれ、どうしたの皆? ショートカットだよ、ショートカット」

 確かにそう言っているようです。ああもう頭が痛い。この人は何を言ってるんですか。ショートカット? そんなものあるわけないでしょう。別のものと勘違いしているのですか。

 

 と、思っていたら、どうやら姉やエリーゼさんも同じことを思っていたようです。

「のうカグヤ殿。お主はイチゴの乗ったケーキでも食べたくなったのか?」

「それはショートケーキでしょ?」

 

「えっと、確かその種類のお酒は作りたてを飲むのが良いのよね? 私も作れるわよ!」

「エリーゼが言ってるのは、多分ショートドリンクだよな」

 

「ふむ、では射程の短いクロスボウの事じゃろう!」

「それはショートレンジだろ!」

 

「カグヤあんたまさか髪を切ってしまうの?」

「それ、髪型のショートカット! 全然意味違うよ!」


 姉上とエリーゼさんの言うどれもこれもが違うみたいです。

 ではなんだというのでしょうか。私が問おうとしたときに彼は頭を抱えて大きくため息をついた。

「ああもう、ショートカットだよショートカット! 近道だよ近道!」

 私の中で幾つか候補がありましたが、どうやら一番信じがたい事を彼は言っているようです。

 

「ちょっとカグヤ。ショートカットってねぇ……あたしはダンジョンについて学園で習ったことが有るけど、そんなの聞いたことがないわよ?」

「拙者もきいたことないぞ。十年以上も前からこのダンジョンに潜っておるが……」


 二人はそういいます。無論私だってそうです。ショートカットなんて聞いたことがありません。もしそんなものがあるのだとしたら、ヤマトダンジョンに革命がおこります。

 

「えぇうそぉ……」

 彼は何言ってるのとばかりに眉をひそめ、ダンジョン通路にある掛け軸をめくる。そして壁に耳を当てるとコンコンと2回叩いた。

「やっぱり、あるでしょ?」


 いえ、真顔で言われても無いものは無いんです。

「あのですね……カグヤさん。たしかに忍者屋敷のようなこのダンジョンに、隠し扉と隠し部屋は沢山あります」


 ヤマトダンジョンの屋敷では、やたらトラップの多い罠フロアと呼ばれる階層に当たることがあります。そこではいろんな仕掛けがあって、ヤマトダンジョンに慣れている人や、罠探知系スキルの高い人でないと突破は難しい。そのフロアでは隠し部屋なんかもいっぱいあります。ですが。

「ですが、宝部屋はあってもショートカットなんて聞いたことありませんよ? あるとも思えません」


 カグヤさんがしているように部屋の先に空洞があることに気がついて、それを調べた人もいたそうです。ですがあいたとしても宝部屋です。それどころかファイアボールを当てても、刀で切りつけても、ハンマーでたたいても開かない場所だってあるくらいです。多分カグヤさんが見つけたのはそのどちらかでしょう。

 

「それがあるんですって。ちょっとコツがいるんだけど、簡単です。慣れれば誰だってショートカットを使えると思いますよ?」

 ああもう! まったくこの人はっ!

「ええと、簡単にできるんならみんなが使ってます! 実際問題聞いたことがありません、あるとも思えません! ショートカットできるダンジョンってダンジョンとしていいんですか!?」


 ふぅふぅと息を吐きながら私が言うと、姉上が私の肩に手をおいた。

「スズメ。父上との会話もそうじゃったが、少し落ち着いた方がいい」

 

 姉上はそう言いますが、私は彼が心配で心配でここまで付いてきたんです。なのに彼は何度も何度もふざけた事を口走るんですよ?! 怒ってしまっても仕方ないでしょう!


「わかりましたわかりました。そんなに言うんならやってみてください。もしあなたができるのであれば、私は今後なにも言いません!」

 私がそう言うとカグヤさんは


「よ、よし、じゃぁやるよ。いま開くから……」

 と言って壁に向き直り、小さく深呼吸しました。


 さあ、彼はどうやって開くと言うのでしょうか。

 魔法ですか? 火の魔法、水の魔法、風の魔法、土の魔法、さらには精霊魔法を使っても開くことはないでしょう。

 じゃあ剣で切り裂く? ハンマーで叩く? それは鬼属の力自慢が既に試しました。あんな細腕でどうにかできると思えません。


 彼が言っていたことか戯言でないことを祈りますが、残念ながら戯言でしょう。

 彼は掛け軸のかかっていた壁に近づくと、スッと右手をあげた。


 何をするんでしょうか? 壁を破壊するつもりなのでしょうか。

 驚いたことに彼の右手にはなにもありませんでした。ナイフも、クナイも、ハンマーも、ガントレットも。では破壊する訳ではない? ではどうするというのですか。まさか魔法? いえ、杖は見当たらりません。


 彼はゆっくりその壁に手を近付けリズムを刻みながら壁をノック・・・した。そして大きく息を吸い込み……。


「宅配便でーす!」

 ……そう、大声で言った。


「ふふ、ふふふふふ…………」

 私の体の震えが強くなっていくことが分かる。余りのむごさに私は怒りでわれを忘れそうになりました。エリーゼさんが慌てて私の体を押さえてくれたお陰でなんとか踏みとどまっていますが、いつ決壊してもおかしくありません。

 

「あなたは何してるんですか! そんなので隠し扉が開くわけ無いでしょうが……! 私を舐めるのもいい加減に……」

 と、私が罵声を浴びせている最中でした『ガガガガ』と音がきこえ、私は言葉を飲みこむ。そして視線を壁に移すと、そこでは彼の前の壁がスライドしているではありませんか。そして開いた通路の奥には輝く魔方陣が設置されています。


 ほらね、とばかりにドヤ顔するカグヤさん。私はその時呆れと疲れと怒りが混ざって頂点に達しました。


「ってなんでそれで開くんですか!? 学者ですら匙を投げた空洞ですよ。冒険者を舐めてるんですか、管理者出ていなさい! 私がギッタギッタに成敗してあげます!」

 もう我慢なりません。よくもまあこんなふざけたショートカットを作りましたね。管理者がいるならさっさと出てきてください。私がかけらも残さず滅ぼします。


「ちょ、ちょちょちょっと! あんた落ち着きなさいよ!」

「エリーゼの言う通りじゃぞ、そんなんじゃ誰も嫁にもらってくれないぞ?」


 姉上の一言で私の怒りメーターが一段上昇したのが自分でもわかりました。

 まったく、なぜ姉上は私の気にしてる事をさらりと言うんですか? 確かに姉上はモテモテです。顔の造形はほとんど同じなのに、私より数倍モテます。ってなんでですか! 性格ですか? それとも胸ですか、やはり胸ですか!?

 

「やっぱり胸なんですかぁぁぁ!」

 私が叫んで魔法を唱えようとすると、慌ててカグヤさんが駆け寄る。

「ちょ、ちょっとスズメさん。大きく深呼吸、深呼吸! そんなことして魔法陣が壊れちゃったら大変だから! それにスズメさんの胸は……その、ね? 一部に需要があると思うよ、私は全く気にしないし!」


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ」


 私が落ち着くことが出来たのは、それから数分後の事でした。

 

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