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異世界奇想曲  作者: 入栖
第壱章 ××××(章タイトルは章終了後に書きなおします)
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-- ハナカゴスズメの苦悩 --

「心配してくれてありがとう。でもね私は100層までのトラップとボスは全部頭に入ってるから、心配しなくても大丈夫だよ」

 

(はぁぁっ)

 思わずため息が漏れる。一体この人は何を言っているのでしょうか?

 

 100層と言いましたか? そんな場所冒険者のトップクラスでないと潜ることが出来るわけありません。そこまでのトラップとボスが全て頭に入っている? あなたの頭の中には夢物語が詰まっているのではないでしょうか。

 

「~~♪」

 『彼女』にしか見えない彼は、手に持った地図を見ながら、鼻歌交じりに次の階層への魔法陣へ向かう。


 意気揚々と歩く彼は、明らかに私なんかよりも綺麗で、未だに男であることが信じられません。一応、エルフの血が入っているということで、もともと美しい素養を持っています。だけど彼はそのエルフの中でも、別格と言って良いほどの美しさ。こんな顔が自然界に存在していいんでしょうか。


 私はちらりと彼の顔を見つめる。

 鏡にうつしたような左右対称の顔、真珠のように綺麗な肌、鍛冶師がうった名刀でさえ色あせるその長く美しい銀髪。また銀髪にはかんざしで左右の髪が後ろにまとめられている。

 

(これが男かぁ……)

 何故『ムジナ処』で会った時に普通の人と疑わなかったのでしょうか? 姉が連れて来たという時点で、怪しむべきでした。姉と仲よしの8割は変人だったと言うのに。

 

「よーし、ここも終了。皆来てるよね?」

「おお、しっかりついてきておるぞ!」


 私たちが魔法陣の上に乗ると、彼は次の階層へ行くために魔法陣を起動させる。

 

 何故見破れなかったか? 初めて見た時はただの綺麗な人にしか見えなかったことと、エルネスタ様がいらっしゃったからでしょう。

 エルネスタ様と言えばベルンシュタイン侯爵家の長女で、テラス帝国陛下からも信頼の厚い家でもあります。そんなお嬢様とともにいる人が、まさか……男だったなんて。不都合と言うか……手違いというか……まぁそんなのが有ればベルンシュタイン家に消されてしまってもおかしくないでしょうに。

 

 それに初めて話した時、カグヤさんは確かに普通の人でした。丁寧な対応をしてくださいましたし、何より一般常識を心得ていらっしゃる。ウチの家族に爪の垢を煎じて飲んでもらいたいとも思ったんですが……ねぇ。まさか女装趣味だとは。ギルドカードを見せてもらった時は卒倒しなかったことを褒めて頂きたいぐらいです。

 

 またある意味ではウチの家族の誰よりもぶっ飛んでる人であるかもしれません。ぶっ飛び鬼姫と呼ばれている母よりもです。

 その見た目もそうですがLVと強さがおかしい。本来ならばレベルと強さは紐づいていますが、彼は違う。なんと彼はLV5と言う10歳児以下でもありえるレベルで、100LV近い父上を倒したのですから。それもエルフの一番得意な精霊魔法ではなく、忍法を使って。


 LVが上がればどうなるのでしょう。私には想像もつきません。

 ちなみに彼に何故忍法をつけるのか聞いたら、今はくノ一をしているのだそうです。意味が分かりません。くノ一は女性しかなれない……ですよね? 余りに美しすぎるため、神様も職を間違えて与えてしまったのでしょうか。

 

「はぁ」

 

 何度目か分からないため息をつく。もう、どうして私のそばにはこんな変な人や、面倒事が舞いこんでくるのでしょうか。

 今すぐ『ムジナ処』に駆けこんで、カエデさんに泣きつきたいぐらい。私の苦しみを理解してくれるのはカエデさんと……魔法学園の友人ぐらいだけ。ああ、彼についてこないで、地上に残ったエルさんのお仕事を手伝えば良かったかもしれない。

 いえ、やっぱり地上に残ることはありません。彼が心配です。ヤマトダンジョンはテラス帝国でも指折りのダンジョンなのです。一歩間違えたり運が悪ければ、簡単に死んでしまいます。

 

「あ、また次の階層への魔法陣見っけ。ふふ、おみくじも大吉だったし今日はついてるなぁ!」

 彼は私たちが通りやすいようにふすまをいっぱいに開くと私たちに手招きをする。確かに彼はついていると思います。この階層でもこの階層でもモンスターに合わずに進むことが出来たし、ダンジョン入口近くで引いていたおみくじでもそうです。


 彼は姉上達と一緒に、ダンジョン入口近くの売店でおみくじを引き、『大吉』を出しました。ちなみに姉上も『大吉』でエルネスタ様が『吉』でした。そしてエリーゼさんがなんと『凶』(初めて見ました)。とても肩を落としていましたが、彼が自分のおみくじと交換してあげたようです。優しい性格なのに、どうして女装趣味があるんでしょうか。


 以前何かで聞いたことがあります。世の中には完璧なものなんて存在しないと。彼も例にもれなかったのでしょう。

 

 さて、私はあの(彼にほとんど無理矢理ひかされた)おみくじをどこにおいたんでしたか。いらないと言ったのに。

 ……多分巾着きんちゃくですか? 末吉と言う中途半端な物でしたが、読み進めるうちに一つだけ気になることが書いてあった為、どこかに入れて置いたのですが。

 

 私は魔法陣の上に乗りながら巾着をあさり、畳まれた紙を見つける。それを開くと、ある一行を目で追った。

『待人 ついに現れます。その人に身も心も委ねましょう』

 私はダンジョンで何か出会いがあるのでしょうか。いやないでしょう。そんな小説にありそうな事が、おこりえるわけがありません。

 

 そもそもヤマトダンジョンは同じグループ以外の人に合うことは極めて稀です。他のダンジョンではよく他の人に会います。ですがここは入るたびに地形が変わるランダムダンジョンです。基本的に人に合うことはありません。ただ聞いた話ですが、ボス部屋前だけは他の人と会える事があるそうです。私は一度も会ったことがありませんが。


(それにしても、凄いペースで進んでいますね……)

 たまに出現するモンスターも無詠唱で魔法を発動させ、一撃で屠る。彼が歩みを止めることはありません。それも落ちた魔石だって目もくれません。


 私はいろんな人とパーティを組んでヤマトダンジョンに潜りましたが、こんな速さで進んでいく人は初めて見ました。ソレはまるで定型化された仕事を黙々とこなしているような……?

 

「みんなちょっとまって!」


 不意に彼が立ち止ります。そして壁に掛けられていた掛け軸をじっと見つめ小さくうなづく。

 いったいなんでしょうか? と彼を見つめていると、不意に彼は笑顔を浮かべ信じられないことを言いました。


「よし行けそう! じゃぁショートカットしようか!」


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