いざ、ヤマトダンジョン!
ヤマトダンジョンはこの世界に数多あるダンジョンの中でも、特殊なダンジョンと言えるだろう。
まず、そのダンジョンシステム。
アマテラスダンジョンを含む一般的なダンジョンならば、大変動(こっちの世界では作り代わりだったか)がおこらない限り地形が変わることがない。
だけどこのヤマトダンジョンは、なんと入るたびに地形が変わる。そのため地図を作製しても次回使うことは出来ない。また一度次の層に降りたら、前の層に戻ることが出来なくなる。もし脱出したくなったら、ダンジョンの5層ごとにある転位魔法陣を使うか、特殊なアイテムを使うことが必要となる。
またヤマトダンジョンは一般的なダンジョンに比べて一層一層が狭い。そのため比較的早くに次層に行くことが出来る。どれぐらい違うのかと言えば、アマテラスダンジョンの5分の1ぐらいだろうか。もしかしたらもっと小さいかもしれない。層によっては広い階もあるが、アマテラスダンジョンに比べれば狭い。
そのため40層と数字だけ聞けば、あまりの多さに身構えてしまいそうになるが、それほど長いわけではない。むしろアマテラスダンジョンの30層~40層の方が長いんじゃないかと思う。
「ふぅ、3層はこれで終わりと……思ったよりもサクサク進めてるな」
俺はヘイストダガーをしまうと、転位魔法陣の上に乗る。するとすこし後ろをついてきたツバメとエリーゼ、そしてスズメさんが魔法陣の上に乗った。
「よし、皆乗ったな。行くぞ」
俺達の足元にある魔法陣が光り輝くと、俺達の体は転位魔法陣によって次層へ転位する。そして次の部屋に到着した俺は目の前のふすまを開け、4層の1フロア目を見渡した。
どうやら4層は屋敷の中のような作りになっているようだ。ふすまの先は畳と小部屋になっていて、部屋の奥には右左にふすまが設置されている。
(迷路階がもう来たのか? いやアレは30層からだったはず)
俺はどっちにするか一瞬迷ったが、右にする事にした。俺は靴のまま畳を歩いていき右のふすまの前まで来る。畳の上を靴で歩く感触に違和感を感じるが、ここで靴を脱いでしまうと次の層で靴が無くなってしまう為脱ぐことはしない方が良い。それに俺の『疾風の靴』は移動速度向上の効果があるため、脱ぎたくない。
俺はダガーを構えると、ふすまを開く。部屋を見渡した。
ふすまの先は、さっきの部屋と同じような作りの小部屋だった。しかしさっきの部屋とは違って左右にドアは無く、部屋の中心には葛篭が置かれている。
(今回は敵がいないか)
屋敷系フロアは低層でもふいうち狙ってくる奴がいるため、気が抜けない。ただ、最初のフロアだけは、敵が奇襲してこないのでゆっくりできる。
(10層までは罠無かったよな。開けていいか)
俺は葛篭の前に歩いていくと、一応辺りを確認してから開く。中に入っていたのは一枚の地図だった。パッと見る限りだと、この部屋の地図だろう。ここからそう遠くない所に階段のマークが書かれていた。
「順調のようですが、気を抜かないでください。深層に行けば行くほど、罠が増えモンスターもふえます」
そう言うのは先ほどから俺の後ろをついて来ているスズメさんだ。彼女はツバメとは比べ物にならないぐらいまじめな性格をしている。思考回路ぶっ飛び鬼姫と、思い込み激しい筋肉な父と、頭のネジが10個くらい外れていそうな姉を持っているとるというのに、なんと彼女は普通の子だ。俺が彼女に二つ名をつけるならば『ハナカゴ家の良心』とするだろう。ああ、数日前のやり取りが頭に浮かぶ……。
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「や、ヤマトダンジョンをソロで40層まで行くことが出来たらお前を認めよう!」
「ち、父上ソレは余りにも無茶では!」
そう言うのはスズメさんだ。焦った表情でエンジュさんにそう言う。
「40層までソロだなんて、明らかに危険です。ご再考をお願いします!」
「いや、40は超えてもらわんとツバメを預けることは出来ん!」
「ソロで攻略できる人なんて、手の指で足りるのではありませんか? 死地におくるようなものです!」
確かに今まで出会った人たちが彼女はそう言うけれど、俺はそうは思わない。
「確かにカグヤさんは私たちを騙していました。姉を騙した不届き者である可能性を否定できません。それに女装趣味のある変態であることも否定できません。パーティを女性だらけにしてハーレムを作り上げているであろうことも否定できません。でも、姉やエルネスタ様の仲間で人なんですよ!? 死んでしまって良いわけがありません!」
あれ、一瞬スズメさんが味方になってくれるかと思ったけど、俺の事ディスってないかな? それも結構辛辣に。
「駄目だ駄目だ駄目だ! 40層だ。最低でも40層いけないとツバメを任せられん!」
「40層か……それくらいなら何とかなりそうですね」
エンジュさん、ツグミさん、スズメさんの三人は、驚愕の表情を浮かべ勢い良く振りかえった。そしてエンジュさんは引きつった顔で俺を睨む。
「ほぅ、貴様は40層を突破できるというんだな?」
「40までなら何とか。100超えたらちょっと辛いですけど……」
ゲームと同じなら、ヤマトダンジョンの100層までならクリアできると思う。だけどアマテラスダンジョンは無理だ。アマテラスの100層は、ゲームプレイヤーが誰も到達していないぐらいモンスターが強い。だけどヤマトダンジョンは100層でもまだモンスターはそこまで強くない。101層からはさすがにパーティメンバーが必須だろうけど。
「ちょっと、なにをおっしゃるんですか! 駄目です父上を挑発しないでください。私は変態……じゃなかったカグヤさんの身を案じて言っているのですよ!?」
俺は変態に見られているのか。どこが変態なのか小一時間問い詰めたい。
「40層なら大丈夫ですよスズメさん。安心してください」
「いえ、安心なんて出来ません。私は心配です。父に勝ちましたし確かに強いと思います。だけどダンジョンには罠だってあるんですよ?! 一歩間違えれば死んでしまうのです。そんな所にカグヤさんを送り出せません!」
おいおい、スズメさん。なんかすごく心配してくれてるよ。なんかちょっと嬉しい。ってか俺の仲間である筈のあいつらは、全然心配してないどころか仲良く談笑しているようだけど…………これは俺を信頼しているんだよね?
「ならばスズメよ! お主もカグヤ殿と一緒にダンジョンに潜ると良い! そして見届けるのだ。こいつが逃げ帰る所をな」
「逃げたりしな――」
逃げたりしないですよと言おうとした時にだった。俺の言葉を上書きするように大きな声が部屋に響く。
「分かりました。はい、分かりました! そうします。お父様が意見を変えてくれないのならば私はカグヤさんとダンジョンに潜りたいと思います。カグヤさんがピンチになったら、私が助けたいと思います。良いですか、カグヤさん!」
「は、はい」
スズメさんの気迫におされ、どもりながらもなんとか肯定する。が、すぐに不安が頭をよぎった。
(って、スズメさん連れていくのか。危なくは無いだろうか? 一応確認しておこうか)
「あ、あの。私は大丈夫なんですが、スズメさんがふいうちで襲われでもしたら……」
ヤマトダンジョンはパーティメンバーを巻き込むトラップや、ふいうちで攻撃を仕掛けてくるモンスターがいる。そういった奴にあったら危険だ。俺も気をつけるが、確実に彼女を守れるとは言えない。
ちらりと俺は談笑していたツバメ達を見つめる。
「父上。拙者らも一緒にダンジョンへ行き、カグヤ殿がソロで攻略する所を見届けましょう。さすればスズメも安全じゃろうし、拙者もカグヤ殿の凛々しい姿が見えるからのう!」
「あらあら、凛々しい姿を見るって! んもぅ、ツバメったら。妬けるわ」
ツグミさんは何が妬けるんですか。餅ですか?
(あれ、ちょっと待てよ?)
そういえば思ったんだけど……俺って結婚の話をちゃんと否定出来てないよな。この際だからはっきり今言っておこうか。もしかしたらダンジョン行く事自体が無くなるかもしれないし。
「あの、みなさん! 話を切って悪いのですが、お伝えしたい事がありまして。私とツバメは――」
と話を続けようとした所で、今度はツグミさんの言葉で俺の言葉が打ち消される。
「大丈夫よカグヤさん。あなたの言いたいこと、実は分かっていたわ」
おお、ツグミさん。俺はツバメと一緒に冒険はしたいけど、結婚と言うのはちょっと気が早いというか、ちょっと恥ずかしいというか、でもツバメが他の男と仲良く談笑しているのが許せない……みたいな俺の複雑な男心を分かってくれるのか……いや分かるわけないよな。何だかとても嫌な予感がする。
「『私とツバメは帰ったら式を上げる』と言おうとしていたのよね。式場の心配はしなくていいわよ。手配は私がしておくから」
うわぁい。こんなやり取り、つい最近ツバメとしました! ツバメは母親似ですね!!
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……ツグミさんの妄想は強烈だったな。思わず現実逃避するレベルだった。
ちなみにツグミさんは結構頭がぶっ飛んでいるが、ハナカゴ家親族内では常識人としてくくられているらしい。代わりにスズメさんが変った子扱いされているとか。ツバメがそう言っていたから多分そうなんだろう。
俺にとってはスズメさんが一番の常識人だというのに。多分ハナカゴ家では、俺ら一般人と価値観が逆転しているんじゃないかと思う。うん、否定できない。
「聞いていますかカグヤさん!」
「ああ、ゴメンね。聞いてる聞いてる」
スズメさんはちょっとだけ頬を膨らませると俺をジト目で見つめてくる。本当ですか? なんて言われてしまいそうだ。
「はぁ、それに罠だけじゃないんですよ? ダンジョン10層ごとにはボスモンスターもいます。確かに父に勝っていましたが油断をすると死んでしまうんですからね! 集中してください!」
スズメさん、結構本気で忠告してくれているよな。ありがとう。でもその心配は不要なんだ。だって、たった40層だろう?
俺は安心してもらうために笑顔をつくる。そして彼女に言った。
「心配してくれてありがとう。でもね私は100層までのトラップとボスは全部頭に入ってるから、心配しなくても大丈夫だよ」




