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異世界奇想曲  作者: 入栖
第壱章 ××××(章タイトルは章終了後に書きなおします)
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ネカマスキルの使い時

 

 ツバメの家を形容するなら、江戸時代にありそうな豪邸である。これがもし日本にあるならば多分世界遺産に認定されていただろう。


 まず平等院鳳凰堂みたいな門を潜ってすぐに、広大な庭園を見ることが出来る。石の道をたどっていくと、左右に松やら紅葉やらの木と、苔の生えた石が見えた。それらはこれ以上ないと思えるほど絶妙に配置され、見ているだけで心がいやされる。また庭園には池もあり、そこでは色とりどりの鯉が泳いでいた。


 もちろん門や庭園だけではない。広さも凄い。団子屋で休憩していなかったら、エリーゼは多分途中でダウンしていたんじゃないかって思うぐらい広い。


 建物にも圧倒される。江戸時代の名家の人なんかはこんな場所に住んでいたんだろうか。庭園を眺めることのできる廊下があって、そこに腰かけて庭園を眺めるならば一日中飽きないで見ていられそうだ。

 また凝った作りのふすまや、金で描かれた屏風。そして何らかの文字が書かれた掛け軸。これらを売りに出したら一体いくらの値がつくのだろうか?


 以前行ったことのあるアマテラス神殿も凄かったけど、そっちとはまた違った雰囲気で圧倒される。圧倒されるのだけれど……。

 

(はぁ。本来ならばすげー、って見とれてるんだけどなぁ)

 

 だけど今の俺にそんな余裕はありません。

 なぜなら目の前にはツバメにそっくりな鬼族の女性二人と、2メートルはこえていよう巨体の男性がいるからだ。


 女性のうち一人は茶屋で会ったツバメの妹のスズメさん。年齢は……分からないけれど、見た目は15歳くらいだ。もう一人はツバメの母親だというツグミさん。20代後半ぐらいに見えるが、ツバメの年齢を考えると見た目通りの年齢ではないだろう。


 ちなみにツバメもスズメさんも、このツグミさんの特徴を大きく受け継いでいると言っても過言ではない。髪の色も目の色も鼻の形もそっくりだ。ただスズメさんだけ目元が父親似だろうか。

 

 ではその隣の男性はどうか、彼は多分筋肉が友達なんだろう。

 一応フォローを入れるが、鬼族はかなり筋力が発達する種族ではある。ソウエモンやセイエモンもそうだった。だけどこの男性は彼らと比較してもおかしい。セイエモン達が自転車だとしたら、この人はブルドーザーだ。同じ鬼族なのに、もやし日本人と黒人ボディビルダー並みに違う。

 

 この筋肉こそツバメの父親、エンジュさんである。どこかに祭られててもおかしくないような肉体だ。東大寺に二つありそう。こんなのにタックルされたら俺なんかは数十メートルは吹っ飛ぶんじゃないか?

 

「そうかそうか、カグヤ殿にはウチの娘がたいへん世話になったようだな、感謝するぞ!」

「いえ、才色兼備のツバメさんには戦闘や家事で私も大変助けられております。アマテラスダンジョンでは居てくださって本当に助かりました」

「はは、ツバメはワシに似て強く育ったからな! だが誰に似たんだが方向音痴でな、島全部を探して見つからなかったときは家族全員で蒼白になったものだ。男と一緒に居たら……それを想像すると、ワシも眠れなくなっての」

 

 今はエンジュさんの代わりに、俺が蒼白になってるけどな。

「こんな素敵な女性パーティに入っていたのね、母は安心しました。それにエルネスタ様もいらっしゃるようだし」


「エルネスタ様やエリーゼさんにもご迷惑をおかけしたなぁ。変な男がツバメにつかなかったのはエルネスタ様達が追い払ってくれたからだろう?」

「えっ? え、ええ」


 エルも少し蒼くなってるな。やっぱり俺は茶屋で待っていた方が良かったのかもしれない。だけど茶屋でスズメさんに『世話になった貴方も是非に!』と言われて、無理矢理連れてこられたから逃げる暇は無かったんだが。

「そうかそうか、本当に世話になった!」


 エンジュさんは見た目がゴツイせいかとても恐い。それにツバメが勝てないと言っていた相手だから、多分かなり強い。もしバレて怒りだせば…………いや、バレなきゃ大丈夫そうだ、バレなきゃ。


(まぁ顔は良いとして……それよりも隣にあるアレだ)

 俺はこの部屋に通されてからずっと気になっていることが一つある。それは、エンジュさんの横に大太刀が置かれていることだ。

(めっちゃ気になる。なんでこんな所に大太刀持ってくるんだ? 自衛のためだよな? 恐すぎる。ちょっと探りを入れてみるか……)


「あ、あのその太刀はどうされたのですか? もしかしてこれからお出かけとか? であれば忙しそうなので私どもはお暇しようかと……」

 太刀の存在理由を聞きながら、更にはこのまま逃げ出す一手を俺は繰り出す。将棋で言えば桂馬で両取りを差したようなものだ! さあ、これでどう対応する?


「ははっ違う違う。これは男が来た瞬間切り捨てようと思ってもってきただけよ。不要じゃったがな。そんな事だから今日はゆっくりしていきなさい。むしろ泊まって行きなさい。部屋とご飯は今用意させているからな」


「え、そ、そんな。ご迷惑ではないですか?」

「もう、カグヤ様ったら、何を仰るの? ツバメがお世話になったんです。縛ってでも泊めますわ!」


 どうやら俺は王手をされたようです。逃げ道はありません。つかツグミさんは素敵な笑顔でとんでもないことを言うなあ。もちろん冗談だよね?

「は、ははは。あ、あありがとうございます」

 俺が怯えながら返事をすると、ツグミさん何かを思い出したように手を叩いた。


「そう言えばツバメはカグヤ様にいくらか借金があると聞きましたわ。そちらを今お返しいたしますね」

 俺が『結構です』と言う前に横から声が聞こえる。それはツバメの声だ。


「母上、その事なのじゃが、出来れば拙者が稼いだ金で返したいのじゃ。全ては拙者の身から出た錆。最後までしっかり自分で返したい!」


 姿勢は凄く立派だ。自分に娘がいたら、多分目の前に居るツバメの両親のように感動していただろう。だけどしっかり自分でお金を返したいなら節制を心がけろ。お前は団子屋でいつの間にか3種類頼んでたよな。止めなかった俺も悪いけど。


「おお、さすが我が娘! 立派に育って……!」

「ええ、素敵よツバメ。これならいつ嫁に出ても恥ずかしくは無いわぁ」

 と、ツグミさんがそう言うとエンジュさんが顔を歪める。


「おいおい、ツグミよ。俺は絶対に結婚は認めないぞ?」

「あらあら、お父さんはツバメの幸せを考えてあげて下さいな。ツバメだってちゃんとした女の子なんですから!」


 話を聞く所だとツグミさんは男に寛容そうで、俺が男でも問題はなさそうだ。しかし隣の筋肉さんが俺を切り捨てる可能性があるため、結局ばらす事は出来ないが。


「駄目だ駄目だ。巷の男どもなんかにはやれん。最低でもワシを倒すくらいの実力が無いと任せられん!」

「そんな人物現れるのに何年かかる分かりませんわ」

 確かにエンジュさんより強そうな人はほとんどいなそうだ。


「父上より強い者ならここにおるぞ?」

 そう言ったのはツバメだ。それって誰だと思いながらツバメを見ると、ツバメは笑顔で俺を見返してきた。


「カグヤ殿じゃ。カグヤ殿は拙者がどんなに挑んでも勝つことのできん御仁! 美しく、そして力強くてな。剣を持たせれば勇猛果敢に攻め、杖を持たせれば広範囲をせん滅し、回復を任せれば簡単な怪我なんかすぐに回復してくれる」


 おいおい、俺の評価がずいぶん高いじゃないか。一応レベルだけで見ればお前の方が10倍以上なんだけどな。


「あらあら、こんなにお綺麗なのに。戦闘も出来るんですね」

「ほう。ツバメがそう言うなら本当なのだろう。素晴らしい御仁だ。ならば是非手合わせ願いたいものだな!」

 

 お、おいおい。ツバメの家族が尊敬のまなざしで俺を見てるぞ? ちょ、ちょっとうれし恥ずかしいからやめてくれツバメ。 

 

「蝶のように舞い、蜂のように刺す。魔法だって簡単なものなら一瞬で発動! 更には多数の職業をマスターしており、アーツの数は並ぶ者はおらん!」

 ちょっ。そんなに褒めるな、恥ずかしいっていってるだろ。


「い、いやぁ~//」

 ちょっと、お世辞が過ぎるぜツバメさん有頂天になっちまう。それにそんなに褒められると、帰りに団子を奢ってしまいそうだからマジでそろそろ勘弁してくれ! 

 ほら、お前の妹だって俺をキラキラした眼で見てるぞ?



「それにな、カグヤ殿困っている人に無償で手を差し伸べてくれる心優しい御仁でな。そんなカグヤ殿に助けられたのは拙者だけではない。串焼きを落として泣き出しそうな子供、ダンジョン初心者冒険者等々数知れず!」

「素敵ね! 素敵よカグヤさん!」

「そうじゃ母上の言うとおり、素敵で心優しくて強い最高の、伊達男なのじゃぁ!」


(だからもう褒めるなって。伊達男とかおしゃれなイケメンに使う言葉だろ、俺にはそんな言葉に合わないさ。でもな最近『くのいち』で女扱いされてたから、こうはっきりと男って言われるとちょっと嬉しくてな。ありがとうツバ…………っておーーーーーーーーーーい!)


 ちょっと待て。彼女は今なんておっしゃいました? この子今なんて言った? コイツ今なんてほざきやがった? 男? 男って言っちゃったよ。男って!)


 背中に冷たいものがつたう。ああ、これはもうだめかもしれん。俺は絶望を顔に出さないように気をつけながら、恐る恐る前の二人を見つめる。

「そうかそうか最高の伊達男か、いや、いい仲間を持ったものだ!」

 エンジュさんは笑いながら腹を叩いており、気が付いた様子は無い。隣ではツグミさんが一瞬驚くも、すぐに『あらあら』と笑いながら俺を見つてきた。

 

(アレ……エンジュさんはなんで気が付いていないんだ? ……そうかっ。俺は重大な事を忘れていた。彼はあの・・ツバメの親なのだ! 細かいことは気にしていない、いや気がついていない! これはごまかしでいけるかもしれない)


 俺は小さく息をつき意識を切り替える。

(ここはゲームで培ったネカマスキルを使う時だ! いま使わずしていつ使う)

「え、えへへ……//」


 ちょっとぶりっこポーズでのこの照れた顔、もはや奇跡の一枚。KAWAII。思わず全世界に通じる日本語で表現してしまった。日本だったら一万年と二千年に一人の逸材と言われるレベルだ。そこらへんのアイドルに負けない、これなら大丈夫だ。どこからどう見ても女にしか見えないはず。


「ほう、可愛いのう…………ワシも妻がおらんかったら思わず心奪われておったわ……!」

(よし、筋肉は気が付いていない。このまま押し切ろう!)

 ただスズメさんが、依然として驚愕の表情を浮かべている。だが構いやしない。この筋肉にだけ伝わらなければいいのだ。

「うわぁ、ありがとうございます!」


 エリーゼやエルが引きつった笑みで見てくるが、無視だ。

 もはや男としてのプライドなんか知ったことではない。今は生きるのが先決だ。それに、よく考えてみろ。日本の神話でも有名なあの『スサノオ』だって女装して『八岐大蛇やまたのおろち』を倒したじゃないか。女装が必要なことはあるんだ。少年よ神話に学べ。


「うんうん、本当に可愛い子だなぁ!」

「あらあら、そうね。ツバメ。それでいつ結婚するの?」

(よしエンジュさんは気が付いていない、っておぉぉぉおおおい! ツグミさんあなたなんてことを言うんですか!)

 結婚って話が一気に飛躍したぞ。いや、確かに俺は男でパーティメンバーだけどさ! それだけだぞ!? どうして結婚に行くんだよ。


「おいおい、ツグミ。結婚って何を言ってるんだ? そんなの女と男がするものであって、ツバメと伊達男であるカグヤ殿が……伊達男?」


「きゅ、急用を思い出しました! 申し訳ございませんが、私はこれで!」

 俺は立ち上がると皆に背を向けふすまの方へ歩き出す。しかし。

「カグヤクン」

 ボンと俺の肩に手が載せられる。俺は恐る恐る振り向くと、そこには般若の顔が有った。

 

「どど、っどうか、さささされたんですか」

 彼は右手に力を込めるせいで、俺の肩がミシミシと悲鳴をあげる。また左手に持った大太刀が俺の体に触れている。

「カグヤクン、チョットオジサン、ハナシガアルンダガ」

「わ、私にはありませぇぇん」

 俺は必死で首を左右に振る。

「ナニ、スグオワルヨ。チョット、ドウジョウマデイコウカ」


もうすぐダンジョン潜ります。

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