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異世界奇想曲  作者: 入栖
第壱章 ××××(章タイトルは章終了後に書きなおします)
37/44

『評価★5』 -ヤマトに来たらこの人力車に乗るべきです!-

>この連載小説は未完結のまま約1年以上の間、更新されていません。

>今後、次話投稿されない可能性が高いです。予めご了承下さい。

可能性が高いだけですね。

今まで待っていた方にはお待たせして申し訳ございません。

※内容を忘れていると思うので1話から読むことを推奨します。

 『閃光のセイエモン』と呼ばれるのは伊達ではなかった。彼は神速ともいえる速さでソウエモンに追いつくと、更にスピードを上げて目的地へ連れて行ってくれた。

 

 しかし、俺達のパーティは一人を除いてさんさんたる有様だった。

 

 エルは顔が白くなっていて、少しだけ足が震えている。エリーゼにいたっては半泣きでさっきから俺にひっついて離れる気配は無い。

 無理もない。ショートカットとか言って家々の屋根を走り始めた時は、俺も目と現実を疑った。そこらへんのレーシングゲームよりも圧倒的にヤバい。

 

「いやぁ、久々の人力車は最高じゃな、心が洗われるようじゃ!」

(なんだこいつは、俺は吐きそうを通り越して死にそうだったっつのに)

 唯一元気なのはこの鬼娘だけだ。あの異次元とも言える走りでも吐き気を催さないらしい。三半規管がマヒってるのかな?

 

「セイエモン殿も、ソウエモン殿も腕を上げたのう。あの体当たりはみごとじゃった」


 さて、その人力車で一番ヤバいと思ったことは何か。それは突如始まった直接攻撃だ。最初は人力車にソウエモンさんやセイエモンさんが蹴りを入れていただけだった。それだけならまだ良い。良くは無いけどまだマシだ。なぜならだんだんとその行為はエスカレートし、あろうことか人力車同士のぶつかり合いに発展したからだ。

 

 しかもぶつかりあいだけじゃない。他にもありえないことは幾つかあった。一つあげるとすれば、あのバナナだろう。セイエモンさんは急にバナナを食べ始めたかと思うと、前を走るソウエモンさんにその皮を投げつけたのだ。


 ソウエモンさんは突如現れたバナナの皮を避け切れなかった。踏んでバランスを崩している間に位置は逆転。セイエモンさんはこのまま独走するのかと思った。しかしそうはならなかった。不意に後ろから大きな衝撃が襲い、セイエモンさんがバランスを崩したからだ。見ると後ろからソウエモンさんが1メートルほどの岩を連続で3つ投げつけていた。もはやマ○オカート。つーかお前は俺らを殺す気か。

 

「今日はソウエモンに一本取られちまったが、次はそうはいかないぞ」

「なに、いつでも勝負受けてやる!」

 

 うん、次の被害者が出る前に重石付けて海に沈めてしまった方が良いかもしれない。検討する価値が有る。

 

「では、俺らは行くぜ!」

「じゃぁツバメちゃんもカグヤちゃん達も元気でな。また乗ってくれよ!」

 俺は何とか笑みを作ると手を振る。当り前だがもう二度と乗りません。この人力車に★1から★5の評価付けれるなら、圧倒的★1(最低評価)だ。『絶対に乗らないでください、後悔します』ってコメント残すレベル。いや、あえて★5(最高評価)にして『凄く刺激的な体験をしました、ぜひ乗るべきです』とコメントを残し、被害者を増やすのもありかもしれない。

 

「さあ、行くぞ!」

「お、おいツバメ、ちょっと待て」

 俺とエルは彼女の服をつかみ歩き出すのを阻止する。

「ん? どうした二人とも」


「きゅ、休憩を入れてから行こう、ほらあそこに茶屋が見えるじゃないか!」

 エルがそう言いながら指さしたのは、目の前の広大な敷地の日本家屋とは逆にある一件の茶屋だ。俺も彼女の意見に賛成だ。ツバメの家はここから少し歩かなければならないようだが、一人は腰が抜けてるし二人は顔面蒼白。途中で力尽きる可能性すらある。

 

「ほう、まぁ良いか。あそこの茶屋は拙者の知り合いが営んでおってな、久々に拙者も会いたかったところじゃしのう」

 意気揚々と歩き出すツバメ。


「エル、ツバメを頼む。注文は適当でいい。俺はエリーゼを連れていく……」

「分かった」

 未だに顔が蒼いエルは小さく頷くとツバメの後を追う。

 

「大丈夫かエリーゼ?」

「あ、カグヤ? なんかね、私の周りがね、高速で動くのよ。不思議ね。これが走馬灯ってやつかしら」


 おい、気をしっかり持て。駄目だ。足が笑ってる。

「少し歩いた所に茶屋が有る、そこまで頑張るんだ……!」


「うん……」


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 引きずるような足取りで、なんとか赤い椅子の所まで来たエリーゼは倒れるように座り込む。俺は彼女の隣に座ると、先に入ったエル達を待つ。


 結構時間はたったと思うが、未だに彼女は俺に寄りかかり辛そうな表情で吐息を漏らしている。少しだけ顔色はよくなっているから、このまま休んでいれば時期によくなるだろう。

 

 すこししてエルは茶屋から出てきた。そしてエリーゼの顔を正面から見つめる。

「エリーゼ、大丈夫か? 中で座布団を敷いてもらったから、少し横になってはどうだ?」

 

 確かにその方がいいかもしれない。横になればすぐに回復できるだろう。

 

「エリーゼ、そうらしいから中まで頑張るぞ。立てるか?」

 エリーゼは小さくうなづくと俺の服をぎゅっとつかみ、立ち上がる。俺は彼女の肩を支えながら中に入っていった。

 

「いらっしゃい……って偉い別嬪さんつれてきたなぁ。っとソウエモン達にやられたのはその子かい。大丈夫?」

 現れたのは狸族の男性だった。すこし丸っこい顔に、垂れた目。狸耳茶色い髪の間からは狸耳が顔をのぞかせる。また、とても手入れがされているだろうその尻尾は、ふかふかそうで少し触ってみたい。可愛い系のイケメンだ。

 

 エリーゼは顔を上げることなく、口を開くこともなく、俺の腕に体重をかけてくる。

「すこし横になれば大丈夫です。すみません、場所お借りします」

 俺が代わりにそう言うと、彼は自分のお腹をさすりながら座敷を案内してくれた。


 案内された場所では既にツバメがいた。彼女は座布団を敷いてくれたようで、何枚かの座布団が一列に並べられ、寝転がれるようになっていた。

 エリーゼは座布団の上に寝転がると、一つの座布団を叩いた。

「座って。そして枕になって……」

 

 俺は言われたとおり座ると、エリーゼは俺の脚を枕にして目を瞑る。

(しかし、凄く綺麗な顔だよなぁ)

 引きこもりのような生活をしていた為か、他のエルフと比べても白い肌。閉じた目から伸びる長いまつ毛に、つやのある青緑色の髪。また柔らかそうな唇は、気分が悪いせいかいつもより白く、口からは温かい吐息が漏れている。

 

(柔らかそうな唇だなぁ)


「カグヤ殿、茶は4人分頼んじゃのだが……そんなに驚いてどうした?」

 俺は小さく咳払いをする。なんで驚いたかって? それはツバメが急に声をかけるからだ。いや、俺がまじまじとエリーゼの顔を見ていたことの方が悪いが。

「いや、何でもない。団子とかって有るのか?」

「みたらし、きな粉、ごま、あんこ。好きな物を頼むとよいぞ!」

 

 団子なんて久々だ。いつ振りだろうか。日本に居た時でさえ余り食べていなかったし、相当前だろう。

「オススメは?」

「全部じゃが……まぁカグヤ殿の好みを鑑みるにきなこなんてどうじゃ?」

「じゃぁきなこを頼もうかな。エリーゼは……甘そうなあんこでいいか。食べられそうにないならアイテムボックスに入れとくよ」


 多分しばらく起き上がりたくないだろうが。

「私はみたらしを頼む」

 エルはツバメのとなりに座りながら店員さんに言う。横のツバメは手を上げて元気な声で喋った。

 

「拙者には全種おくれ!」

 お前は我慢出来ない小学生か。

「二種類までにしなさい……!」

 と俺がつっこみを入れると狸店員さんがメモを取りながら笑った。

「ふふっ、何だかスズメちゃんを見ているようさ。注文は承ったよ」

 

 そう言って彼は店の奥に引っ込んでいく。俺はそれを見つめながら、ツバメに聞いてみた。

「なぁ、スズメって誰なんだ?」

「ああ拙者の妹じゃよ」

 と茶を飲みながらこともなげに言うツバメ。

「私も何度か話したことが有るが、凄くおしとやかで真面目な子だぞ」


(そうエルはそう言うけど、ツバメに比べたらどんな子でも真面目に見えそうな気がするな)

「へぇ、そうなのか?」

「拙者とは違って近接戦闘はあまり得意ではないが、魔法使いの素質が有る。まだ経験不足じゃが、いずれ巫女として大成するじゃろうな」

 そう言ってツバメはウンウン頷く。ツバメの妹ならばかなり強そうだが……どうなんだろうか。

(ツバメの妹か……ちょっと気になるな)


「おまたせ。さあ、めしあがれ」

 そう言って持ってきた店員さんにお礼を言って俺達は団子を食べる。ソレを見ていた店員さんは俺に顔を近づけニヤリと笑った。

「どうだい、うち団子は?」

 味は非常によいと言って良いだろう。甘すぎないところも、この弾力も、形も、大きさも。完成されていると言って良いんじゃないか?

「美味しいです」


 そう言うと目の前の狸は笑い、俺の手を取った。

「なぁ、君。今度は僕と二人っきりでお茶でもどうだい? もちろん僕のおごりさ!」

 おいおい、お前は店員だろう。お客様を口説いてどうする。日本だったら速攻SNSでその言葉が拡散されてるぞ。そしたら首なんか楽勝で飛ぶんだからな。


 そもそも俺は男で、そのケは無いから近寄らないでくれ。

「あら、その言葉は凄くうれしいのですが、あいにく忙しいもので……」

「僕はいつでも暇さ。君が時間を見つけてくれるなら僕がその時間を開けるから。なぁ、どうだい?」

「ちょっと……」

「チッ。駄目かいな」


 そう言って彼は俺から離れると、腰に手を当てため息をついた。すると彼の周りに煙が現れる。

(あれっ? こはゲームでも見たことが有るな……確か変化の術だ)


 そして現れたのは一人の女性だった。顔は余り変わっていないが、背が縮んで髪が伸びている。そして何より服を圧迫する大きな胸がついていた。

「ちょいと化かして落としてみようと思ったけど、駄目だったねぇ。エルネスタ様にも口止めしてもらたっちゅうのに」

「じゃから無理じゃと言ったろ。そもそも、お主はすでに化かされてるんじゃからのう」

 

「はぁ。なにさ、ツバメはウチが既に化かされてるって言うんかいな? 変化大会で優勝したウチが?」

 腰に手を当て口をぷっくり膨らませたその女性は、不機嫌そうに俺を見てくる。俺としては化かしてるつもりはないんだけどな。

「はっはっは。そうだな、既に化かされているぞ」


「エルネスタ様もわろうて。もう。彼女全然変化の魔法使っているようには見えんわ。そんなに笑うんなら正体見してくり」

「ほう、カグヤどのはもうすでに正体を見せておるぞ?」

「はぁ、ツバメは何をいっとんね?」


 俺はギルドカードを取り出すと彼女に見せる。

「へぇカグヤさん、ね。ウチはカエデや。呼び捨てで構わんよ……それにしてもめずらしいなぁ。くのいちかいな。エルフでくのいちなんて滅多に見られんよ。それに性別が男やし。男のくのいちなんてウチ初めて見たわ…………って男のくのいち!?」


 俺はカエデに笑顔を向けると小さく笑った。彼女は俺とギルドカードを何度か見比べて、ようやく我に返ったのかその場で大きく飛びあがった。

「ど、どどど、どっひゃぁ!」

「よろしくね、カエデ」

 

 

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