和の島ヤマト
「カグヤさんといると苦になる移動が楽しくなりますね」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「それに毎日料理が豪華になりますし、本当にカグヤさんがいてくれてよかった!」
「もう、照れるじゃないですか」
ヒノカグツチまでの道中は狼が何匹か出たぐらいで、それ以上の事は無かった。出て来た狼自体も俺達が出るまでもなく、冒険者たちで簡単に討伐出来るぐらいのものだった。
今回もまた皆に料理を振る舞って俺の株をウナギ登りさせた。
大量に買いだめしておいた料理はまた役に立った。
「積んだ荷物はコレで全部ですね」
「ええ、今回もまた荷物を運んでいただきましたし、本当に感謝です。これはお礼です」
そう言って差し出してくる袋を俺は首と手を振って断る。
「いえいえ、今回はそれほど備蓄も減っていないですし、構いませんよ?」
「そうは言っても、私の気が晴れないんですよ。せめて食事代だけでも貰ってください」
「……本当に要らないんですけどね……では3日分の食事代だけ頂きます」
俺は差し出された袋から大銀貨を2枚取り出すと彼に返す。そして自分のアイテムボックスに入れた。
「それだけしかとらないとは……」
「いえ、私もクラウスさんとお話しできて楽しかったですし」
久々に男同士の話ができたことは大きい。同姓の友人は本当にでかいと思う。
それにディートリントとエリーゼが結構会話できてたのも嬉しい誤算だった。同姓で、学園という話すネタがあるのが良いんだろう。
「カグヤさん達はこのまま船に?」
「ええ、ヤマトへ」
「そうですか、私はヒノカグツチでする事が有るので、ここでお別れですね」
苦笑いするクラウスさん。俺も同じ気持ちだ。
「私も残念ですよ。気軽に話せる人が居なくなってしまうので
「はは、カグヤさんには3人も気軽に話せる人がいるでしょう? 良いじゃないですか」
彼の言うとおり話せることは話せる。しかしやっぱり俺は男であいつらは女なんだ。やはり話せない事も、ある。
「確かに気軽に話せますけど、でも話せる事と話せない事が有りますからね……」
「なるほど。では次会ったらまた話しましょう」
そう言って彼は見えないグラスを持ちあげる。
「ええ、ぜひお願いします」
俺も同じように見えないグラスを持ちあげて二人で乾杯した。
「では、またいつか会いましょう。カグヤさん」
「ええ、クラウスさん、お元気で」
「別れは済んだのか?」
「ああ、待たせてすまないなエル、ツバメ。エリーゼは?」
「うむ、エリーゼ殿も今こちらに来たようじゃ」
「ゴメン、待たせたわね……!」
「いや、俺もさっき話し終わったところだ。さ、それじゃ行こうか」
エリーゼは多分ディートリントと話しこんでいたのだろう。どうやら仲良くなれたようだ。
俺はツバメの腕を取ると町の西へ歩きだす。目指すは船着き場だ。
「んもう、カグヤ殿は仕方ないのう」
俺はもうこのパターンには慣れた。もうツッコまないぞ。とそこで、俺はある事に気が付いた。
実はエリーゼが羨ましそうに腕を見ていた事に。
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「それにしても、和服の人がいっぱいね……」
「うむこの空気久しいのう。ヤマトは久々じゃ!」
テラス帝国アマテラス大陸西に位置するこの島は、人族やエルフ族のほかに、鬼族、狐族、狸族等々多種多様な種族が存在している。
町の見た目は江戸時代の日本だろうか。時代劇でよく見る水戸の校門様が歩いていそうなこの町並みであるが、時代劇で見なれたものがここにはほとんど無かった。
それは『ちょんまげ』である。
長髪を後ろにまとめた男性を見ることはあるが、それだけである。別の町で見かけて来た人たちのように、ありふれた髪型だ。刀を持ってる人は結構いるのだが。
俺は町行く人から視線を外すとエルに言う。
「それで、ハナカゴ家はどこにあるんだ」
「なに、あっちじゃよ」
それに答えたのはツバメだった。すまんお前に道は聞いていないんだ。
自信満々に答えるツバメから視線を外しエルに視線を向ける。するとエルはツバメが指し示す方角の反対方向に指を差した。
「ああ……こっちだ。結構歩くぞ?」
結構歩くのか……だったら先に神託の壁に行って来ても良いだろうか。
ヤマトの神託の壁実は今居る場所からめちゃくちゃ近い。ならば先に忍者に職を変更しておいていいのではないだろうか。
「だったら少し神託の壁に寄っても良いか?」
「ん、ああ、転職か? すぐ済むだろうし良いんじゃないか」
「構わんぞ」
「別にいいわ」
と3人から許可を取り、俺達は一旦神託の壁に向かう。
ヤマトにはいくつか神託の壁があるが、そのうちの一つは町中にある。ここからなら歩いて約1分くらいだろうか。
俺達は活気にあふれている商店街の一角、そこに店と店に挟まれて立っている屋敷の前に立つと皆に言う。
「すぐ終わると思うが、来るか?」
「いや、私達はここで待ってるから終わったら来てくれ」
「ああ、分かった」
そう言って俺はその屋敷の中に入って行った。
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「こんにちは」
屋敷に入った俺にそう挨拶してくれるのは、カンナと同じ様な服装をした狸族のお姉さんだった。
どうやらここの神託の壁には受付すらあるみたいだ。ゴーレム寺院のような野ざらしとは大違いである。
「こんにちわ」
「今日は神託の壁をご利用ですか?」
「ええ、そうです。転職をしたくて」
少しふっくらしているが凄く愛嬌のある顔の彼女はニコリと笑う。そして
「はい、ではどうぞ」
そういうと俺を壁まで案内してくれた。
俺は案内された神託の壁で、いつものように転職可能一覧を開く。そしてなろうとしていた忍者を探した。
それから数分ほどしただろうか。
俺はいくら探してもその一覧から忍者という文字を見つけることは出来なかった。
「ん? 忍者は?」
もう一度流し見するも、忍者の忍の文字すら見つからない。
「あれ? 嘘だろ? に、忍者がない? ニンジャナンデ?」
ここは唯一忍者に転職できる土地のヤマトだし、シーフ系統の熟練度はあげたし、条件は完全にクリアしているはずだ。
おかしい。なんでだ? 実はエデンとゲームでは条件が違う? いやまて、もう一度心を落ち着けてよく見てみよう。
一旦目を閉じて、そして深呼吸だ。……よし。今度は一つ一つ見て行こう。
そして俺は今度は上からゆっくり探していく。
そしてあるものを見つけ俺は安堵した。
・くのいち
くのいちが有るじゃねぇか。なるほど忍者で探してるから見つからなかったのか。ああ良かったあったぜ。驚かせやがって、マジで胸をなでおろしたわ。ゲームとは違うかと思ったぜ。
やはりシーフ系とヤマトが条件だったんだな。
そっかー。くのいちか。そう言えば知ってるか?
くのいちって『女』と言う漢字を分解して、ひらがなの『く』と片仮名の『ノ』と漢字の『一』になるから、くのいちって呼ぶらしいぜ?
はは、なるほどな! 女の漢字を分解か。女オンナおんな?
「ってこれ……女でしかなれない職業だろヴォケがぁぁぁぁああ!!」
俺はもう一度転職可能一覧を見つめる。そこにあるのはやはり忍者ではなくくのいちだった。
ってなんで忍者無くてこれが有るんだよ!! おかしいだろ、明らかにおかしいだろ。
「ど、どうかされました?」
俺が叫んだことで慌てて駆けつける受付、その後ろからエルも駆けてくる。
「聞いてくださいよ、職業欄にくのいちがあったんですよ! おかしいじゃないですか!?」
俺の全身を見る狸族の女性。すると疑問符を浮かべ俺に言った。
「え、いや別に女性でしたら、あってもおかしくは無いと思いますが……?」
「そうだよ。だっからおっかしいんだよそれじゃぁああああ!」
「えと……?」
って、ちょっと待て。まさか他の職業も!? 俺は急いでメニューを確認する。
しかしそこにあったのは絶望的な現実だった。
「う、嘘だろ!?」
・くのいち
・巫女
・メイド
「なぁぁぁああんで巫女とメイドまであるんだよぉぉぉおおお!」




