次の目的地
「え? 捜索願…………ですか?」
「ええ、そうです。ツバメ様の捜索願が出てまして」
そう離すのはアマテラスギルドの受付嬢だ。彼女はツバメを見つめ苦笑いする。
俺達は一度転位でアマテラスまで戻っていた。それは活動拠点であるエリーゼの家があるからだ。
玉藻前様の所にも転位用の魔法陣をしかけさせてもらったので、いつでも行ける。ならばどこで寝泊まりしたって良い。
と言うことで一度アマテラスに戻っていた。ある人たちのためにお土産を渡さないといけないし。
今の時間帯は暇なのか、アマテラスギルドの職員のほとんどがイスに座ってぼうっとこちらを覗き込んでいた。
「ちなみに、それはどこから」
エルは俺の隣に立つと言う。
「あ、ええと。ハナカゴ家からですね」
どう言う事だろう? こいつは確かダンジョンで修行をするためにヤマトを出て来たんだよな?
俺、エルそして後ろにいたエリーゼの視線がツバメに集まる。
「ふむ。拙者はしっかりと修行してくると置手紙残してきたぞ?」
「なら、だいじょ……」
ふと、思う。もしだ。エリーゼの家に置手紙が有って、ツバメの姿がないとなったら。
「……大丈夫、じゃねぇな。俺家出て死ぬ気で探すわ、お前何やってんだよ!」
「心配であたし夜眠れなくなりそうだわ……」
エリーゼも不安そうにツバメを見つめる。が、当の本人は首をかしげていた。
そこに恐る恐ると言った様子で受付嬢が話しかけてきた。
「えと、そのもうひとつ依頼がありまして……。実は縛りつけてでもいいから、その場から動かないようにしてほしいとのことで……それと絶対一人で外出させるなと」
……うんそのとおりだ。やはりハナカゴ家の人は分かってるな。樹海にアイスクリーム買いに行こうとするこいつだ、絶対一人歩かせない方が良い。
ふと思案する。予定とは少し変わるが、エルも用があるっていうし、ツバメにも捜索願いが出されてるならヤマトへ行くべきだろうか?
それに俺も忍者に転職するならば、一度ヤマトへ向かわなければならないのだから、皆に利点はあるか。
「それならヤマトに向かうか……。皆はいいか?」
「そうだな。ハナカゴ家には顔を出しておいた方が良いだろう」
「私もかまわないわ」
「拙者は行かなくても……」
「いや、ツバメがそう言おうとも駄目だろう。一度向かおう。家族だって心配してるだろうし」
そうなるとまずは玉藻前のいるカグツチに転移して、その後西へ進みヒノカグツチへ、そこから船でヤマトだな。
と俺がこれから先の予定を考えていると、ギルドの受付嬢が困り顔をしていた。
「あの、こちらとしてはこのギルドに留まっていただきたいんですけど……」
「なに、ハナカゴ家には私から言っておこう。それなら大丈夫なはずだ」
さすが貴族さま。エルは色んなところで頼りになるね。……料理以外。
「えと、どちらさまで?」
「私はエルネスタ・アンネリーゼ・フォン・ベルンシュタインだ。責任を持って私と仲間が連れて行くから安心してほしいと伝えてくれ」
そう言って彼女は懐からギルドカードを取り出すと受付嬢に渡す。
「は? え、ベルンシュタイン……? こ、これは大変失礼致しました!」
「依頼主には私の名前を出すだけで察してくれるだろう。よろしく頼む」
「は、ハイ。承りました」
と話がまとまったところで俺はエリーゼ達に言う。
「じゃぁ一旦玉藻前の所まで転移して、そこから西だな。ツバメ、お前は勝手に変なとこ行くなよ?」
「カグヤ殿、ヒノカグツチ付近は歩いた事がある。拙者は大丈夫じゃ。安心するがよい」
俺はツバメを無視してエリーゼに向き直る。
「エリーゼ、俺もしっかり見ているがお前も頼んだぞ……」
「そうね……」
エリーゼはツバメを見つめながら大きなため息をついた。
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人数とは力である。大抵の事は人数が多い方が圧倒的優位に立つことは明らかである。よっぽどの事がない限り。
だからこそ、盗賊は相手の人数が多ければあまり襲ってこないし、人が多ければ獣たちも近づくことは無い。
だが、人が多くなれば気の合わない奴がいたり、なれなれしい奴がいたりと、ストレスをためることもある。特に俺達のパーティは見た目は可愛い。そのせいで面倒事も発生する可能性があるが、滅多にないだろう。多分。
だからこそ一緒に行こうと誘われて。俺はべつに良いかと、簡単に許可を出した。それに相手も俺のよく知っている人物だったから。
「クラウスさん。荷物はコレで全部ですか?」
「ああ、本当に助かるよ。それにしてもカグヤさんには本当に縁があるな」
「ふふっ、そうですね」
と言うことで、俺達はヤマトへ向かう途中のクラウスさん達に混ざることとなった。まさか玉藻前の稲荷神社から出て、ばったり会うとは正直思ってもいなかったが。
「さて、ここも終わりましたし、カグヤさんも顔合わせしましょうか」
「はい」
ちなみにいまエル達は一足先に今日一緒に旅に出る皆さんと顔合わせをしている。エリーゼが少し心配だが、なに、エルもツバメもいるし、なによりクラウスさんが変な人を雇うわけないじゃないか。
俺とクラウスさんが向かった先に居たのはツバメ達と、5人の冒険者だった。
その冒険者のうち男性3人と1人の女性は、まあ普通だった。よくあるエルフと獣人の混合パーティ。しかし1人明らかに変なのが混じっていた。
フリルのついたミニスカート、そしてかわいらしい上着には大きなリボンが付いていて、手には宝石がちりばめられたステッキ。
また緑色の髪に尖った耳が出ていて、頭には小さなとんがり帽子。
魔法少女である。
俺は頭を抱えてため息をつく。
「……この世界に実在していたのか……クサビシリーズ」
クサビシリーズ。ゲームでの通称は魔法少女シリーズ。
ツクヨミの町に本店を構えるそのクサビ屋で売られている、魔法使い向け防具。その見た目はどこからどう見ても魔法少女であるが、見た目とは裏腹に性能はとてもいい。
魔法防御力が高いし、動きやすい。そしてこんなに肌を露出させているのに、なぜか物理防御力もある。
それは体に透明な膜が覆っていてような感じで、露出している肌に攻撃しても、あまりダメージが入らない。まほうのちからってすげー。
そう、ネタ装備かと思いきや、実際に強いのだ。
ただ、1つ難点を上げるとすれば恥ずかしい事だろうか。激しく動けばパンツが見えそうなほどのミニスカートに、このふわふわ衣装だ。いや実際にパンツ見えてただろうな。
まあ何度か着ていると、いつの間にか吹っ切れてノリノリで着れるようになる。ソースは俺だ。ネカマ時代の俺はノリノリで着ていた。
でも今は……ちょっと勘弁してくれ。実際に着るのは……。
ちなみにゲームではこの衣装はもちろん大人気だった。トップギルド『魔法少女マジョか・マジか』では公式コスチュームとして採用され、全員がコレを装備している。また入団するためには魔法少女であることが前提となっていて、一時期それを着ていた俺も声をかけられたことがある。
『私と契約して魔法少女ギルドにはいってよ』と。もちろん断ったが。だってネカマ紳士と淑女だらけだったんだもん。変態が付く。
とそこで冒険者達が俺に気が付きこちらを見つめる。そして俺は笑いながら礼をした。
「初めまして、カグヤです」
「はぁい! 初めまして、ディートリントです」
この魔法少女は声高いな……しかもアニメ声。ま、まあ彼女の身長は俺よりも少し小さいぐらいだろうか? 少しだけ頬がふっくらしていて、とても柔らかそうだ。動物に例えるとリスだろうか。プニプニしたい。
ちなみに彼女の後に他のメンバーの自己紹介もあったけど、俺の頭には全く入ってこなかった。インパクト強すぎる子が目の前にいるからな、無理だ。後でエルに聞いておこう。
と俺達の自己紹介を聞きながら、口を開けてポカンとしていたエリーゼが視界に入る。何かあったのだろうか?
「ん? エリーゼどうした?」
「あ、ええ。昔私が着ていた制服にそっくりだったから」
「あるぅぇ! もしかしてツクヨミ魔法学園の卒業者さんですかー? じゃぁ先輩?」
「やっぱりそれ学園制服だったのね……ええ、そうよ。あたしも卒業生」
「あ、いえ。似てますけど制服ではないです。卒業時に評価4をいただいたので、その時にもらえたんですよぉ。制服よりも魔法防御力が高いんです。ちなみにエリーゼさんは服じゃないとしたら何を貰えたんですか?」
二人の話を聞いて推測するに、卒業するときにランク付けされるようだな。それでこの魔法少女は評価が4だったと。んで『よく頑張りましたね』みたいな感じにランクに合わせてアイテムが貰えるのかな?
「あたしは杖とローブだったわ。そっか、卒業時のランクで貰える物変わったのね……」
ってお前知らなかったんかい。……こりゃボッチ確定だな。後で頭を撫でてやろう。
「ってえええ! 杖ってことは評価5ですか!? そ、そう言えば結構前に評価5卒業生が出たっていうのは……?」
「それもしかしたらあたしかも。評価は5だったし」
「エリーゼさん……ってまさか孤高の一匹狼、エリーゼさんですか!? あまりに実力が有りすぎて、並べる人たちがいなかったせいで、ソロ活動をしていたっていう。しかもグループで攻略するのが基本の卒業要件をソロで攻略してしまたとか」
「え、ええ。そうよ」
(孤高の一匹狼か……口下手すぎて人に声かけられなかっただけじゃ……?)
ちらりとエルを見つめる。ほぼ同じタイミングで彼女も俺を見つめてきた。多分思いは一緒だろう。
「うわ、本当ですか。まさか評価5の卒業生と会えるなんて! あ、先生達には凄くお世話になりました」
「ええ……」
話を聞く限りだと評価5はエリートっぽいな。こいつの場合は半分引きこもりだったわけだが。あれか、大学で主席だったけどその後は……ってやつなのかな。
ん、ちょっと待て先生方にはお世話になった?
「もしかしてエリーゼの親って学園で教師してるの?」
と俺がエリーゼにくと彼女は俺に体を向けると頷く。
「ええ……まあ、そうよ。私は卒業後にアマテラスに来たけど……」
なんとなく歯切れが悪いな。
「へぇ、なるほどな……」
そこは機を見計らって聞くとしよう。
「まさかこんな所であのエリーゼさんに会えるなんて、思ってもいませんでした! 凄くうれしいです!」
そう言うのはディートリントさん。
「そ、そう?」
少しだけ顔をそらすエリーゼ。それを見てはてなマークを浮かべるディートリントさん。
ああ、今のこれはアレだ、ディートリントさんの言葉が嬉しくて顔をそらしただけだからな、顔赤いし。あまり気にしなくて良いぞ。
「うむ。エリーゼ殿の魔法は頼りになるからな! 学園で優秀な成績を収めていても全く不思議じゃないのう」
それは俺も同感である。
「ああ、ツバメの意見に私も同意だ。凄く頼りになるしな。今のエリーゼなら宮廷魔法師に引けを取らないだろう」
「ちょ、皆何言ってるのよ!」
うん。顔を真っ赤にするエリーゼは和むな。
と、俺はそんなエリーゼを見てふと思う。
そういえば、だ。学園生だったと言う事は、彼女は着ていたんじゃないか。この魔法少女コスチュームを。このエリーゼが。
俺はエリーゼの体をじっと見つめる。
あのふわふわ衣装を着て、青緑色の髪を背中に流すエリーゼ。
普段はクールビューティ。黙々と敵をなぎ倒すエリーゼ。
褒めると顔を真っ赤にして身を小さくするエリーゼ。
実は料理がすっごく上手なエリーゼ。
魔法少女エリーゼ。
エリーゼ、我が力。我が心。我が家庭。我が魔法少女。エ・リー・ゼ。
ふぉぉ、エリーゼが魔法少女。あ、ヤベ可愛い絶対可愛い。凄く見てみたい。ついでにあの杖持ってノリノリで魔法を使って……。
「ふぉぉぉ……!」
とそこにツバメが俺の目の前で手を振っていることに気が付いた。俺は小さく咳払いをする。
「……なあ、カグヤ殿。大丈夫……そうじゃのう。いったい何を悶えておるのじゃ?」
「あ、いやすまんエリーゼが魔法少女になってつい」
「おい、本当に大丈夫か……?」
エルはあきれた様子で呟いた。




