表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界奇想曲  作者: 入栖
第壱章 ××××(章タイトルは章終了後に書きなおします)
32/44

玉藻前と獣化

 俺は今猛烈に感動している。


「本当に何事もなくカグツチに辿り着いたのう」

「ああ、俺、初めてかもしれない……何事もなく町に辿り着くの……」


 思えば波乱含みの移動ばかりだった。盗賊に襲われたり、モンスターに襲われたり、道に迷ったり……。何かに呪われているんじゃないかとすら思っていた。

(この街ではいい事あるかもしれないな)

 と、そんな事を考えていると後ろから声が聞こえた。


「それにしても獣人がいっぱい、そして賑やかね……」

 そうポツリとつぶやいたのはエリーゼだった。エリーゼはフードを深くかぶり、さりげなくエルの後ろを陣取っている。


「ここはテラス帝国最大の獣人町と言われているしな」

 エルはそう言ってエリーゼの体を自分の方に引き寄せる。すると彼女の横を獣人男性が通り過ぎて行った。エルが引き寄せなければ、エリーゼはあの男性とぶつかっていただろう。


「ありがとう、そう言えばエルはここに来た事があるの?」

「何度かだけだがあるぞ? もちろん仕事でだが」

「エル殿は色んな町をめぐっておるのじゃな」

 お前も結構いろんなとこ行ってるような気がするがな。『迷って』だがな。

「仕事柄、な……」


「あ、そうだ。エル、稲荷神社はどこにあるか分かるか?」

 ゲームと同じであれば確か北側にあった気がするが、俺の知っているカグツチとは外観が結構違っていて、たどりつけるか分からない。ゲームと一番差異があるのは、いまのところこの街だ。

「ああ、分かるぞ。こっちだ」

 俺は明後日の方向へ歩きだそうとするツバメを引き寄せると、エルの後ろについて活気づいた商店街を歩いていく。



「おう、ねーちゃん達! 1本どうだ?」

「ほぅ綺麗なお嬢様がたおひとついかがです?」

「宿決めた? うちなんてどう?」

 初めはすいすい歩けたが、進むにつれて声をかけられる回数が多くなる。


 なかなか前に進まないんだが……。ちなみに売られている物は串焼きだったり、パンだったり、焼き菓子だったりと多種多様だ。

 と不意に俺の腕が引かれれる。


「カグヤ殿」

 そう言って指を差したのは串焼きのお店だ。炭火で焼かれたそのお肉の香ばしい香りは、風に乗って俺達の所まで漂ってくる。香りも見た目も素晴らしく、とても美味しそうだ。

「今日はコレだけで我慢しろよ?」


 俺はエル達に断るとツバメと一緒に屋台に並ぶ。そして一人2本分、計8本の串焼きを購入するとエル達のもとに戻った。

 ちなみに売っている人はおっちゃんだったのでいつも通り上目づかいで商品を購入したが、全くの無反応だった。あいつは多分ゲイだ。


 俺は半分をエル達に渡すと、残った半分のうち一本をツバメに手渡す。彼女は嬉々たる表情でそれを受け取り口を開けてパクリと食らいつく。

 喜色満面でお肉を食べるツバメに、つられて俺も口がほころぶ。本当に美味しそうに食べる奴だ。

 俺は袋から自分用に1本取り出すと、それを口の中に入れる。


 口に入れた瞬間味よりもまず気になったのが、鼻孔をくすぐるこのたれと肉の匂いだ。

 噛むと湧きでる肉汁と、肉についているタレが旨く絡み合い絶妙なハーモニーを奏でる。凄く美味しいです……。小並な感想しか言えません。


「柔らかい、それに……旨いな」

 と横に視線を移すとそこには既に2本目を食べ終わったツバメの姿が目に入った。俺は残っていた自分の1本をツバメに渡す。そして食べ終わった串を預かった。

「……良いのか?」

「ああ、食べろ」

 それを嬉しそうに受け取るツバメを見てふと思う。すこしツバメを甘やかしすぎているだろうか? まぁ良いや。

 先へ進もう。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 それはまるで鳥居のトンネルだった。


 赤い鳥居がいくつもいくつも並んでいて、その中心を通って俺達は先へ進む。

 興味津々に鳥居を見ているのはエリーゼだ。この並ぶ鳥居は伏見の神社を彷彿させる。つかあれそのままじゃないかな?

「どうだ? 鳥居は?」

「初めてこんなに沢山の鳥居を見たわ、凄いわね、コレ……」


 とその鳥居歩きながら興味津々と行った様子でぺたぺた触る。そんな彼女に俺は少しだけ悪戯をしたくなった。

「エリーゼ、知ってるか、それ触りすぎると呪われるんだよ? 枕元に幽霊が出てきて……」


 ビクゥ、と体を震わせ急いで手を離す。そして恐る恐る俺を見つめた。

「う、うう嘘よね? そんな事であたしを驚かそうとしても無駄なんだからね……!」

「何だ、恐いのか?」

「えっと、べべべっべえ別に恐くなんてないわ!」


 お前幽霊駄目なのか……それ系しか出ないダンジョンもあるぞ? そこに魔王いたらどうすんよ。

「大丈夫じゃ、エリーゼ殿、そんなもの出て来おったら拙者が成敗してくれる!」

 幽霊系は物理効かないからしっかり魔法かけろよ? って戦闘に関してツバメの心配はいらないか


「まぁ、すまん。エリーゼ嘘だ。触っても問題ないと思うぞ」

 日本には触れば金運が上がる鳥居もあるらしいしな。ツバメがそこに行ったら面白半分に体ごと体当たりしてるだろうな。さすがにそれは言いすぎか……いや、容易に想像できたわ。


「おい、皆、ここから階段だから気をつけるんだぞ。それとエリーゼもカグヤの冗談は気にするな」

 と、そこに一番前を歩いていたエルが俺達に言う。そして皆で上を見上げた。

 そこには百段ぐらいはありそうな長い長い階段と鳥居のトンネルが続いていた。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 鳥居のトンネルを抜けるとそこは神社であった。ってあたりまえか。


 と、俺が文学ボケをしていると前方から二人、女性と男性がこちらに歩いてくる。女性は日本人女性で当てはめれば、大学生くらいの年齢だろうか。女性は白と赤の巫女服を着ていて、また男性も同じくらいの年齢で赤いほうに紫色のはかまをきている。

 また二人は茶色い髪でそこからキツネ耳が生えており、たまにピクピクと動いていた。二人の顔立ちがとても似ている事を考えると、もしかしたら双子なのかもしれない。


 彼女達は俺達の前まで来ると女性は無表情のまま口を開く。

「お待ちしておりました」


 そう言って二人同時に礼をする。俺は驚きながら彼女達に問いかけた。

「まさか俺達が来るのが分かっていたんですか……?」

 しかし彼女達の口から出た言葉は意外なものだった。

「あ、いえ。ただ言ってみたかっただけです」


 俺は目を細めエルを見つめる。苦笑いしていた彼女は小声で『こういう人たちだ』と教えてくれた。俺は大きく息を吐く。


 また変なのが出て来たよ……。


「それで本日はどのような御用件で……?」

 と今度は男性が無表情で淡々と俺に話しかけてくる。

「アマテラス様より玉藻前様にお会いしろと言われまして」

 俺がそう言うと女性の耳がピクリと動く。そして一歩前に足を踏み出すと少し慌てた様子で言った。


「失礼ですがお名前は?」

「カグヤと申します」

 そう言った瞬間、彼女は両手を口に当て目を見開き、ふらふらと後退する。

「カグ……ヤ様ですって……まさかっ…………!」

「え、私何か大変な事でも?」

 おいおい、まさかアマテラスはこっちの人に変な事を吹き込んだんじゃないよな? それ否定できないのがヤバい。つかマジで何なんだよ。


 と俺の不安がピークに達しそうになったときである。彼女がまた無表情になったのは。

「あ、いえ、ただ言ってみたかっただけです」


 俺はもう一度エルを見つめる

「ずっとこの調子だぞ?」

 ここにきて10分も経っていないが、俺の疲労ゲージはかなり溜まってしまった。今日を乗り切れるだろうか。

 この世界は変なやつ、てか、キャラ濃すぎる奴が多すぎるんよ……。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 その後手水舎で体を清めた俺達は、二人に案内され赤い建物、多分本殿に通された。

 俺は久々に踏みしめる畳みとスッと開けられるふすまに少しだけ感動しながら歩く。ここ最近の宿屋も、日本でも住んでいた家も洋式だったから和室は久々だ。

 そしてある程度歩くと彼女達は立ち止ると俺達に向き直った。

「お待たせいたしました」


 そう彼女は言うと彼女は俺達に背を向け、ふすまに手をかけ勢いよく引いた。


 彼女が開いたふすまの先、そこにあったのは畳まれた布団だった。

 俺はじっと巫女狐を見つめる。

「あ、いえ、ただやってみたかっただけです」

 ……コイツ殴っていいだろうか。エル達も文句は言わないんじゃないの? ここまでくると。


 それから今度は畳みではなく木の廊下を歩いて数分、俺達はやっと目的の所に来ることができた。


「お待たせいたしました」

「……今度は大丈夫ですよね?」

「はい。この先におわすお方こそ、玉藻前様です。どうぞ」


 そう言って彼女達は俺達に道を開ける。俺は前に出てふすまに手を掛けゆっくりと引いた。



 そこにいたのは光沢と艶のある美しい金髪の女性だった。腰まで伸びたその髪はふすまを開けたことで差しこんだ光に反射し、まるで宝石のように輝く。またその美しい髪からは二つの狐耳が顔をのぞかせている。

 もちろん美しいのは髪だけではない。その長いまつげも、金色の瞳も、均整のの取れた顔も、ハリのある白い肌もすべてが美しい。


 しかし俺の目に入ってしまうのはそこではなかった。もちろん彼女のお尻辺りに生えている9本の尻尾も気にはなるが今はそれどころじゃない。

 俺が気になっていたのは彼女の胸についているその巨大な果実だ。なぜかは分からないが玉藻前の着ている着物ははだけていて、その白い果実がほとんどあらわになっているのだ。


 ちなみにゲームでNPCとして出現していた彼女と、見た目が全く同じである。ちなみに俺の持っていたパソコンのデスクトップにある『玉藻前』というフォルダ。これの容量は数百ギガを超えていた。察してほしい。


「ほう? 来客か?」

「初めまして、カグヤと申します。こっちにいるのがツバメ、エリーゼです、エルネスタとはお会いされているんですよね」

 と、なるべく胸は見ないように顔を上げて自己紹介を行う。ツバメ達は俺が名前を呼ぶと頭を下げた。


「ぬしがカグヤ、か、アマテラスから聞いておったぞ、エルは久々よのう」

 そう言うと彼女は立ち上がり、俺に近づいてくる。そして目の前に止まると俺の体を値踏みするように見つめた。

 目の前で果実がぷるんぷるんしてます。頼むからちゃんと服着てくれ……。

「ふむ。本当に男に見えんのう、それに多少キツネの血を引いておるのか。なるほどのう。アマテラスから話を聞いておるか?」


「いえ、会いに行けとしか……そうすれば力を貸してくれると……」

「そうか、なら早速本題に入ろうかの。簡潔に言えばわらわがぬしに加護をあたえるぞ」

「加護ですか?」


「ああ、キツネの血を引いているぬしであれば、更に効果は倍増するじゃろう」

「ちなみにどんな効果が……?」

「なに、狐族の特色がうまく生かせるようになるのじゃ。まぁそちのキツネの血を活性化させるようなものかのう」


 なるほど、素早さと魔力強化か。とそこで俺は一つ閃いた。

「そ、それじゃあもしかして私、獣化を使えるようになりますか?」

「なんじゃ使えんのか?まぁ使えるようになる可能性はあるのう」


 獣化は引いている獣の血が濃くなければ使えないスキルで、俺は見た目『男の娘』を重視してキャラクリエイトしてしまったせいで、獣化は使えなかった。

 ちなみにだが獣人族の中でも獣の血が強ければ強いほど、獣化の際に獣に近づき、薄れれば薄れるほど人間の形をする。


 俺は天井を見上げ拳を突き上げる。


 よっしゃ! 

 獣化だぞ! あのツバメの使っていた鬼化のように自身のステータスを大幅にあげることができるのだ。今後の戦闘の助けになるだろうし、それよりもだ。


 なんと言っても、獣化はカッコいいのだ。


 ゲームでは白いトラ獣人の友人がいたが、そいつの獣化は最高だった。見た目は大きなホワイトタイガーだ。もっふもふで可愛いくせに、あのりりしい顔。かっこかわいい。もちろん戦闘面でも頼りになる。素早い動きに攻撃力の高い攻撃。メインキャラがエルフだった俺は、獣化にかなり憧れていた。


 俺の場合はキツネだから尻尾が生えて、爪が伸びて、耳が生えて、もしかするとキツネのようにもっふもふになってかっこかわいいになれるかもしれない。


「俺が獣化……」

「ふむ、どれくらいわらわと親和性が有るか分からんから確実をは言えんがな……。どれ、やってみようぞ」

 そう言って彼女は俺の頭に手を置くと何かをブツブツ言い始める。そして俺と玉藻前の足元に魔法陣が出現すると、俺の体を温かい何かが全身を覆っていく。

 

 そして彼女は一歩下がると最初に居た場所に戻り、そこに置いてあった座布団に座る。

「……かなり親和性が高いのう。どれ、ステータスを確認してみよ」


 そう言われて俺はステータスを確認すると『アマテラスの寵愛』の後に『玉藻前の加護』が追加されていた。

 そしてドキドキしながらスキル欄を覗く。そこには今まで無かったものが追加されていた。


 もちろん獣化である。


 俺は再度拳を天へつきあげる。


「ほう、有ったようじゃのう。少々わらわの影響を受けるかもしれんが、なぁに大丈夫だろう。それ、つこうてみよ」

 俺の頭を駆け巡るのはあの友人のホワイトタイガー。そして今度は俺が変身できれば良いなと思っている大きな狐。尻尾も9本あれば更にカッコいいよなあ。


 俺は期待に胸を膨らませ、心の中で獣化を念じる。


 するとどうだろうか。まず体の中で一番最初に起きた変化は耳だった。まるで塞がるような感覚が有ったかと思いきや、すぐに頭の上に不思議な違和感が発生し、今度は微細な音の変化を聞き取れるようになった。

 またそれだけではない、今見えている視界が少しだけ広くなった。どうやら目も変わったようだ。それと少し視点が下がっただろうか。


 ああ、ヤバい。嬉しすぎるせいか胸が苦しい。


 そして自分のお尻の少し上にまるで腕が1本生えるような感覚が俺を襲う。予想だが多分尻尾が生えたのだろう。

 俺は両手をあげ、頭の上に有る耳を触る。ああ、耳ふわふわだ……最高。


 だが残念なことに体の変化はそれまでだった。それ以降はまったく体が反応しなかったからだ。

 期待していた完全獣化(狐化)はできないようだったが、まあ仕方ないだろう。もともと血を薄めてこのキャラをクリエイトしたのだし。


 でも十分だ。

 獣化の影響でか、さきほどから俺の体の奥底から力が湧いてくる。コレ使ってオーバードライブとクイックタイム併用したら最強になれるんじゃないか?

 魔力が体中を駆け巡り、体が羽根のように軽く……ってあれ、なんか前が少し重いか……?


 と、その時であった。目の前にいた女性が大声で笑い出したのは。


「ププフ、ぷあああああはははははあ、まさか、親和性が高いと思うておったが、そっちにいくとは。クククク耐えられん、耐えられんぞ! あははっはああ! 腹がよじれる」

 そう言って玉藻前は腹を抱えて文字通り笑い転げる。


「は?」

 俺はそう呟く事しかできなかった。そもそも何故彼女がこんなにも笑っているかが理解でき無かったから。


「カグヤ殿……」

 呆然と呟くツバメ。目をまん丸に見開くエリーゼ、そして開いた口が塞がらないエル。

「皆? い、一体どうしたんだよ?」


 エルは自身の荷物から鏡を取り出すと俺に見せる。そこに映しだされていたのは一人の獣人女性だった。美しい銀髪に白い狐耳、そしてローブと体の間からのぞかせる白色の尻尾。そして胸についた巨峰。何この子すげえ可愛い結婚しよ。


 ん、ちょっと待て。女性? 巨峰?


 俺は視線を下に向ける。

 あれ足元が見えない。代わりに大きな脂肪が俺の胸に二つ……ってぇぇぇぇぇぇぇえええ。

「えええええーーーーーーーーー!?」


 いや違う、これは錯覚だ錯覚なんだ。そうに違いない。

 よく考えろ、俺は男だ。胸におっぱいがついてるわけがないじゃないか。まておっぱいは男にもついているか。落ち着くんだ。おちつけ、ってこればっかりは無理だぁぁぁ!


 そ、そうだ。これは幻術だ幻術。狐や狸っていやぁ化けるもんだしな。ほらコレも実は幻術で中身がないんだ、そうだそうに決まってる。そうであると言ってくれ。

 俺は無きに等しい可能性に全てをかけて、自分の手で恐る恐るその巨峰を触る。


 ふよぉん。


 柔らかくて弾力がある、大きいおっぱいって重いんだな。


 あ、うん、コレ本物だわ。 

 俺は誇張抜きで目の前が真っ暗になった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ