はじめてのぎるど
「おう、なんだじょうちゃん。船に乗るのか?」
船着き場までは迷うことは無かった。海のモンスターと戦うためにはこの港を利用してたからな。
この近郊の海には稀に大量にモンスターが出現したり、あの弱くて可愛い? なボスモンスターも出現してたため一時期は凄く混雑していた。まぁある程度の情報がwikiにアップされ、そこまで効率がよくない事が分かってからは過疎ってしまい、資材が必要な時に来る程度の場所となってしまったが。
「はい、アマウズメまで」
俺はカウンターに居るおっちゃんに言う。じょうちゃんの訂正は面倒だからしない。だって誰がどう見ても女の子にみえるよう作ったし。俺が見ても女にしか見えないだろう。それもめちゃくちゃ可愛い。ナルシスト? 自画自賛? いやこの顔を見てみろよ、絶対惚れるだろうから。
「アマウズメまでか、金は大丈夫か? 一人部屋だと40000エルかかるぞ? まあお勧めはしないが雑魚寝部屋で10000エルだ」
「大丈夫です、40000エルならあるので」
「おう、じゃぁ身分証をだせ」
「身分証ですか?」
はて、身分証とはなんぞ? 俺がゲームをやっていた時にはそんなもの存在しなかったのだが。ここではそんなものが必要なのか?
「もってねぇのか、まぁ嬢ちゃんの年じゃ持ってねぇのもいるしな。てっとりばえーのは……冒険者ギルドだな。冒険者ギルドにでも行って登録して来い。発行してもらえっから」
なんだ簡単に発行できるんじゃないか。おっちゃんの言葉で俺は少しだけ安堵する。それに『冒険者ギルド』があると言う事は、冒険者という仕事はほぼ確実にあるだろう。
「はい、……それってもしかしてお金かかります?」
「あーどうだったかな? 初回は銀貨くらい必要かもしれんな」
「なるほど……ではギルド行ってきます。ありがとうございます」
俺はぺこりと礼をすると、身をひるがえしドアへ向かう。
(いやぁ幸先いいな。これならこの世界を楽勝でやってけるんじゃないか?)
が、そこである事を思い出しおっちゃんの前に戻る。おっちゃんは頭にはてなマークを浮かべていた。
「おいおい、どうした?」
「あの……ですね。ギルドってどこに有るんですか?」
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冒険者ギルドは町の中央部、あの風化した転移門の近くに有るらしい。あのさあ、俺さっきそこいたよ。とんぼがえりじゃないか!
しかし冒険者ギルドなんてあのあたりにあっただろうか?
そもそも冒険者ギルドなんてゲームではなかったぞ。さっきは冒険者と言う職業がありそうでウキウキしていたが、今になって急にいろんな懸案事項が湧きあがってきた。
登録に年齢が足りないとかないよな? この町の住民じゃなきゃダメとかそんあこともないよな? 金は足りるよな? 等々。……まあ大丈夫か。多分、きっと。
とりあえずそれらは置いといて、登録にあたってしておいた方がよさそうな事を済ませようか
俺は切符売り場を出て同じ道を通りギルドへ向かう――――のではなく、すこしそれた場所向かっていた。それは教会である。
ギルドカードがどういったものなのか分からないが、ステータス画面の職業欄が空白なのはまずいだろうと思い転職に来たのだ。日本でもそうだろう? 20代男性が『学生』でも無く『サラリーマン』でもなく『無職』だったら明らかにヤバい。
幸いなことに『Truth World』の転職は、基本職であれば簡単にできる。そこらの町に有る神託の壁に向かって、お祈りを奉げるだけでいい。まぁゲームと同じであればだが。うん、ぜひ同じであってください。頼むから。
基本的に街にある神託の壁は、教会が管理している。このテラス帝国だとアマテラス教の教会かな。野ざらしになってるとこもあるがそれはごく少数だ。
そう言えばゲームでは利用料金なんかは一切かからなかった筈だが、こっちの世界では有料とかないよな? 無いことを祈ろう。
俺は昔の記憶を頼りに道を歩いていくと見慣れた教会? いや……記憶より少しボロいがそれらしき教会についた。そこには小学生くらいの少年少女が中に沢山入っていて壁に向かってお祈りをしていた。多分転職をしているのだろう。
小学生でそれをしていると言う事は、だ。今の俺のように職が空欄なのは、やはりまずいのだろう。ギルドで空白だったら変に勘ぐられそうだったな。こっち先に来て良かった。
「あら、こんにちは」
俺は子供たちから視線を移し、声の方を向く。そこには俺が転んだときに砂を払ってくれたローブの女性が立っていた。
「ああ、さっきの。先ほどはありがとうございます」
「いえ、気になさらずに。貴方も転職を?」
「ええ、そのようなものです」
初めての転職なんです……とは言えないね。周5、6歳の少年少女達だし。
「そうですか、では、こちらへどうぞ」
俺は彼女に案内されるまま教会の中に入っていく。
神託の壁と言っても見た目はただの崖だ。ロッククライマーがいたら登っちゃいそうな崖だ。
俺がそこでする事は、ゴツゴツした岩肌に向かって祈りをささげる事だけだ。無論ゲームと同じで有ればだが。するとステータス画面のようなものが出て、転職可能な職業の一覧が表示される筈だ。
「どうぞ」
俺は彼女に案内され、岩場の前に立つ。するとその女性はスッと向きを変え入口まで戻っていく。
俺はその姿を見送って、彼女が目線から消えると、壁に向き直る。そして転職と小さく呟き祈りをささげた。
すると目の前に半透明のメニューと転職可能一覧が表示される。ゲームと違ってたらどうしようとか思ってたけどそんな心配いらんかったみたいだ。
□戦闘職
戦士
シーフ
ハンター
マジシャン
プリースト
ワンダラー
エレメンタラー
表示された職の中から迷いなく一つを選択する。もう選ぶのは決めていた。マジシャンだ。
俺はマジシャンを選択し、OKボタンを押す。
するとどうだ、体に白い光が包み込む。そしてメニューの文字がすべて消え、新たな文字が浮かび上がる。
『おめでとう、貴方はマジシャンになった。ようこそマジシャンへ』
メッセージが表示されると、俺はすぐにステータスメニューを開いた。
ステータス
名前:カグヤ
性別:男
LV:1
種族:ハーフエルフ
職業:マジシャン
称号:転移者
スキル:
異世界言語LV-M
魔力強化(new)
魔力回復量増加(new)
火魔法(new)
風魔法(new)
土魔法(new)
水魔法(new)
精霊魔術LV-1
よしマジシャンになった。これからバンバン魔法を使って最強の魔法使いを目ざすぞ! なんてことはもちろんない。俺はステータスメニューを閉じるともう一度転職を願う。
すると再度転職可能職が表示されたので、俺は迷いなくプリーストを選択。そして転職後また転職メニューを開きシーフを選択した。
そして俺は自分のステータスメニューを開く。
ステータス
名前:カグヤ
性別:男
LV:1
種族:ハーフエルフ
職業:シーフ
称号:転移者
スキル:
異世界言語LV-M
身体強化LV-1(new)
索敵LV-1(new)
隠密LV-1(new)
魔力強化LV-1
魔力回復量増加LV-1
火魔法LV-1
風魔法LV-1
土魔法LV-1
水魔法LV-1
神聖魔法LV-1(new)
精霊魔術LV-1
よし。完璧だ。これで必要なスキルは大体確保できた。早速冒険者ギルドへ行こう。
俺は神託の壁から離れ、先ほどの女性のもとまで歩いていく。
「終わりましたか。少し時間がかかりましたが何事もありませんでしたか?」
「すこしだけ迷っちゃって、時間がかかっただけです」
「なるほど、それはよくあることです。……貴方はもう行かれるのですか?」
「ええ、転職も終わりましたし、ギルドへ行こうと思います」
「そうですか。ではお気を付けて。貴方の行く先に幸があらん事を」
彼女はそう言って小さく礼をした。俺は彼女に背を向け教会から出て冒険者ギルドまで歩いていく。
冒険者ギルドはほぼ迷うことなく見つけることができた。なぜなら、ごっつい筋肉のオッサンや、獣耳を携えた女性、ローブをはおった男性等々、沢山の冒険者らしき人がある建物に出入りしていたからだ。
剣と魔物のような看板があるそこは、ほぼ間違いなくギルドだろう。いかにも冒険者って人がこんなに出入りしているんだ。それにあの看板。剣と魔物っていったらそりゃ冒険者ギルドって感じじゃねぇか。
それに今だって恰幅のいいオッサンがご機嫌な様子でそこに入って行った。多分依頼成功の報告にきたんだな。うんやっぱり此処だ。此処が冒険者ギルドだ。もし此処が違うのなら何処だって話だ。
俺は意気揚々とそのドアを開き前に進む。すると目の前のカウンターに立つ男性が笑顔で声をかけて来た。
「おう、新顔か? ステッツの酒場へようこそ。んでなに呑む?」
「あ、ゴメンナサイ違います。冒険者ギルドってどこに有ります?」
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「酒場かよ……おいおい、もっと違う看板付けとけよ、間違えるだろヴォケが……」
おれはわるくねぇとブツブツつぶやきつつ、酒場のマスターに聞いた通りの道を進むと、白くこぎれいな建物があった。
そしてそこにはしっかりと『冒険者ギルド』と書かれていた。あ、うん。これ間違える奴いねえわ。いや一人此処に居るか。
俺はため息をつき、建物の中に入る。
冒険者ギルドに入って真っ先に思ったことは少し汗臭いだった。カウンターの前では狩った獲物の査定をしてもらっているエルフ。職員に向かって悪態をつく大男。美人な受付嬢に群がる筋肉質な男達。
また掲示板の前では厳ついにーちゃんが、顎に手を当て『今日はこれをやるか』とか呟きながら一枚の紙を剥がす。またその横では数人の荒くれ者っぽい男たちがいて、初心者らしき人に絡んだりしている。そこをギルドの職員が及び腰になりながらも注意している。
と言うのは俺の妄想である。冒険者ギルドがそんな場所だと思っていた時期が俺にもありました。
「こんにちは! 本日はどうなさいました?」
総合受付と書いてある案内板の下に居る20代くらいの女性。機械的な営業スマイルでハキハキ挨拶する彼女は多分日本の会社の受付でもやっていけるだろう。
周りには冒険者らしい恰好をした人はいない。皆身なりが普通の一般人だ。武器とか持ってない。それどころか依頼が貼ってあるであろう掲示板がない。え、此処本当に冒険者ギルド?
「あの、冒険者ギルドに登録したいんですけど……」
「新規登録ですね? ではこのプレートを持ってあちらの椅子に座ってお待ちください。準備ができたらお呼びいたします」
俺は『5』と書かれたプレートを持ってイスに座る。ああ、なんかこれすげー日本を思い出すぞ? アレだ引っ越しした時。プレートを持たせて他の人が終わるのを待たせる……ってこれってどこの市役所だよ! 住所変更したときこんな感じだったよ! 後は携帯ショップもこんな感じだよな!
「5番の方お待たせしました、こちらのカウンターまでお越しください」
「あ、はい」
俺は立ち上がり呼んだ耳の尖ったイケメン男性の所まで歩いていく。そして彼にカードを差し出すと、彼は受け取って黒い箱を取り出した。
「では登録にあたりまして10000エルいただきますがよろしいですか?」
「はい」
俺はアイテムボックスを開き、大銀貨を一枚取り出す。その様子を見て一瞬顔を歪ませたがすぐに営業スマイルを浮かべなおした。
「確かに頂戴いたしました。ではこちらに手を当ててください」
そう言って彼は黒い箱を俺の前に出す。俺は恐る恐るその箱の上に手を当てた。瞬間、箱の上に薄い半透明のメニューが表示される。
名前:カグヤ
性別:男
LV:1
種族:ハーフエルフ
職業:シーフ
どうやらこの箱はステータスを読み込むことができるみたいだ。年齢やスキルや称号は省略か。しかし職業を変えてきてよかった。危なくぷーさんになったまま登録する所だった。
と俺がステータスをみていると不意に受付の男性は一瞬動きを止め真顔で俺を見た。そしてすぐに彼は目をそらし何かを始めた。
あれ、何かおかしな所でもあったかだろうか? 俺の背中に冷や汗が伝う。
(いや、おかしな所って何処だ? おかしい部分があるのか? もしかしてハーフエルフが珍しいとか? 実は迫害されてるとか? いやありえる。そうなるとこれからの生活が面倒になるかもしれない)
「あの、どうかなさいました? ハーフエルフが珍しいとか?」
俺が尋ねると、彼は首を勢いよく振った。
「あ、いえそんな事はありません。ただ、その、失礼ですが、男だったとは……あの、思っていなくてですね……それにいや、でも……」
あ、そう言えばそうでした。今の俺男の娘だ。プリティフェイスカグヤです。
「っと、申し訳ございません。大変失礼な事を」
「いえいえ、慣れているので気にしていません。それよりも続きをお願いします」
そう。慣れている。『現実は男ですがゲームでのメインキャラは女なので、ネカマプレイには慣れてます』だ。
「ああ、そうですね。少々お待ちください」
彼は箱のメニューを操作すると、表示されていたメニューが消える。
「もう手を離して結構ですよ」
俺が手を離すと箱が開き、中から一枚のカードが現れた。
「どうぞお持ちください」
俺は恐る恐るそのカードを取り、じっと見つめる。
そのカードには先ほど開かれたメニューで見た俺のステータスが描かれていた。
冒険者ギルドカード
名前:カグヤ
性別:男
LV:1
種族:ハーフエルフ
職業:シーフ
ランク:G
20151219 いろいろ修正