えぴろーぐ
ダンジョンを脱出した俺達を待っていたのは、ギルド職員と少しの冒険者たちと、太陽が描かれた神官服を着る女性だった。
その人の顔を見て驚愕の表情を浮かべていたエルに尋ねると、その女性が誰か教えてくれた。『あのお方こそアマテラス教の巫女カンナ様だ』と。
どうやらこの女性は、この近辺の諸国で信仰されてるアマテラス教の巫女らしい。彼女はエルフにしては珍しい黒色の髪に黒い目をしており、まるでヤマト民のように見えた。尖った耳だけがエルフである事を如実に示している。
身長は俺よりも10センチくらい低いだろうか。
ギルド職員と冒険者たちにビーチェ達を預けると、俺はその神官服の女性に礼をされた。
それを見たギルド職員やエル達は驚愕する。俺はなぜ驚いてるのか分からず一人クエスチョンマークを浮かべていた。
「お待ちしておりました。カグヤ様。お疲れの所申し訳ございませんが、アマテラス神殿までお越しいただけませんか?」
+----+----+----+----+----+----+----+----+----+
彼女に案内されたのは神木ユグドラシルの南に行ったところに立っている、アマテラス神殿だった。
ちなみに俺は皆疲れているだろうと思い、お誘いはお断りしようと思っていたが、エルとエリーゼ更にはツバメがそれを許さなかった。
「カグヤは馬鹿か?」
「馬鹿なのね、馬鹿でしょう。馬鹿と認めなさい」
「カグヤ殿、拙者ですらこの状況の重大さが分かるぞ?」
ツバメに言われるならば相当なのだろう。
俺は彼女たちに押されるように俺達は神殿に来て、今は奥へ案内されている。
石造りの建物の中には、いくつもの太陽が彫られた壁。そんな通路を俺達はぼそぼそと喋りながら、巫女カンナの後を付いていく。
「で、この人はどんな人なんだ?」
「おい、本当に知らないのか? ……このお方はアマテラス教の事実上トップだぞ?」
「え゛、あの人が?」
俺は思わず声をもらし、カンナさんがこちらを振り向く。
「し、失礼しました。何でもありません」
カンナさんは何事も無かったかのように、また歩き出した。
俺は体を少し小さくし声を絞るとエルに言う。
「う、嘘だよな?」
「私も嘘だと思いたい。私も仕事以外でお会いするのは初めてだし、頭を下げるところを見たのも初めてなんだぞ? カグヤは何をしたんだ?」
「何もしてねぇよ……なんで俺が呼ばれるんだよ」
「そんなの私が聞きたいぐらいだ」
頭を抱えるエル。相当大事らしい。
案内されたのは、儀式場みたいな場所だった。中央に巨大な水晶のようなものが置いてあり、その少し前に大きな魔法陣が描かれている。
巫女カンナは俺に礼をする。
「お越しくださりありがとうございます」
「のう、カンナ様。話を始める前に良いか? 拙者達もここに来て良かったのかのう? 大層な場所だとお見受けするが……」
珍しくツバメの腰が引けてる。そこまでの事なのだろうか……。
「確かに一般の方は入れない場所ですが、カグヤ様のパーティメンバーであるなら構いません。むしろ一緒に来てほしいぐらいでした」
(マジで何コレ俺どうした)
「なんで俺がこんな大層な場所に……」
「それは本人からお聞きしてください」
瞬間、俺の足元に魔法陣が浮かぶ。そして俺の目の前から皆が消えてしまった。
どうやら皆が消えてしまったわけではなくて、俺が移動したらしい。
俺が転移した場所は平和な田舎のような場所だった。俺が踏みしめている大地には芝生に近い何かの草が生えていて、近くには底の土が見えるほど透き通った川がある。
(なんだここは?)
俺はそれを見上げる。空にはなぜか太陽や月は無く、青色の不思議な球体が浮かんでいた。
(ゲームでもこんなイベント見たか? いやない。そして今居る場所にも全く見覚えは無い。空に浮かぶのは太陽で月でも無くて地球のような球体。いや、地球かと思ったが違う。見える緑色の大陸らしきものはユーラシアでもアフリカでもアメリカでもオーストラリアでもない)
(地球じゃないのならば何なんだ?)
そこで俺は見覚えのある島を見つけて思わず呟く。
「まさかここはテラス帝国の? じゃあこの上のがアマテラス大陸?」
「その通りです」
急に聞こえた声。俺は顔を上げるとの目の前にいたのは一人の女性。整った顔、いや整い過ぎた顔を見て俺は美しさと、ほんの少しの恐怖を感じた。
(一体どこから現れやがった?)
「初めまして……ね。わたしはアマテラス。いま貴方のいる世界、そして元貴方のいた世界の神をしています」
(……ある程度の事は予想していたけど、その中でも一番ヤバそうなのが来たな。どう対応するのが正解だ?)
「アマテラス様ですね、初めましてカグヤ。男です」
「ずいぶんと落ち着いていられるのですね」
(落ち着いている? そんなわけないだろう。頭の中は想定外がありすぎてぐちゃぐちゃで、どうしていいか解らないだけだ)
「まぁ落ち着いていると言うよりは、混乱していると言った方が正しいですけど」
「そうですか。整理するお時間は必要ですか?」
「大丈夫だ。問題ない」
俺がそう言うと、一瞬アマテラス顔をしかめたような気がした。
「分かりました。では早速本題に入りましょう。貴方をあの世界、エデンに呼んだのは私です。貴方とその事について対話するためにカンナを使いここに呼びました」
アマテラスは天空を見上げる。そこに浮かんでいたのはあの地球のような球体だ。
「エデン?」
(エデン? エデンって言えば理想郷のことか?)
「はい、エデンです。貴方がプレイしていたゲーム『Truth World』にそっくりで驚いた事でしょう」
(確かに。Truth Worldにそっくりで驚いた。だけど違うところだってかなりあったぞ?)
「ええ、驚きましたよ。気が付いたら地球じゃないし、よく見れば見た事ある風景でしたからね」
「実は『Truth World』はあの世界『エデン』を元にしてつくられたゲームなのです」
「え、エデンを元にしてつくられた?」
「はい。貴方は『ゲームに似た世界』であると認識していると思いますが、違います。エデンがあるからゲームが生まれたんです」
(なるほど、逆だったってことか……)
「じゃぁ、あの度々あった差異は……?」
(そうだよ、度々あった違い、転移門や荒れ果てたゴーレム寺院。そして転職しまくると上がりにくくなるレベル)
「それは地形的な意味で仰ってるのでしょうか? それならばゲームが作られてからこの世界は時間経過をしていますから当然の事です」
(ゴーレム寺院の蔦はそう言う事なのだろう。ならあそこはただ単に誰も使ってなかったから荒れたのか)
「転移門が使えなかったのも?」
「転移門が使えなかったのは違います。ゲームでも一時期はエデンと同じように一部の転移門以外は使えませんでした」
(転移門は違う? じゃあなんで転移門がゲームでは使えたんだ? そこまで同じなら同じ仕様にしてしまえばいいような気もするが……いや。無理だ、そんなことしたら怒る奴がいるんだ)
「そうか、プレイヤーが納得できなかったんだ……」
「そうです。ゲームプレイヤー達が仕様に納得できなかった、なぜエデン世界での数日を移動に使わなければいけないのだと。本来ならばまだ転移門が生きてるのは数個しかありませんし」
「ええ、生きてる転移門があるのですか?」
「ありますよ。テラス帝国で言えば帝都テラスとツクヨミです」
(ツクヨミ? じゃぁもしツクヨミに行くなら、イナバに行くのではなく、帝都テラスを経由した方が速いのか。いやそれはいい。今は置いておこう)
俺は大きく深呼吸する。
(そう、ならばあの上がりにくいレベル仕様ももしかしたら……?)
「では職業を変更しすぎると、レベルが上がらなくなるのはエデンでは普通で、ゲームでは違う理由も……?」
「はい、ゲームではαテスト時点ではエデンと同じにしていましたが苦情が殺到したため、βテストからその仕様を取り払ったのです」
(なるほど。それはわかった。でも、ならアレは? ゴーレム寺院のバグは?)
「じゃぁゴーレム寺院の小部屋のバグはいったい……?」
「あれはやはり仕様なんです。エデンが本当にそうだったから、あえて直さなかったんです」
(いや、それはおかしい。バランスが崩れる事を一部プレイヤーは忌避しているはず。だったらそこも転移門や小部屋と同じように直してしまえばいい)
「なんで……直さなかったのですか? そんな事したらゲームのバランスが崩れますよ?」
「それに関しては私が貴方をここに呼んだ目的につながります」
「目的?」
「ええ、私がここに貴方を読んだ本当の理由。それはこのエデンに生まれかけている魔王を倒してほしいのです」
「ま、魔王?」
「はい。正確に言えば魔王のタマゴです。現在魔王のタマゴがこの世界にあるどこかのダンジョンに眠っています。孵化のためエネルギーを蓄えてると考えれば、多分コアのあるダンジョン最深部でしょう」
「ま、魔王ですか……タマゴの状態のまま倒すと言うのですか?」
「タマゴの状態だからこそ倒すんです。孵化してしまえば人間獣人エルフなんかは相手になりません。魔王に世界が支配、人間達は全滅してしまうでしょう。神並みの力が有れば倒す事は出来るでしょうが」
「ちょ、待ってください、全滅?」
「ハイ、貴方の仲間であるエルネスタ、ツバメ、エリーゼはもとより、出会った商人、冒険者だって例外ではありません」
「エルやツバメやエリーゼが死ぬ……?」
(熱い。おちつけ、頭に血が上ってる。平静を保つんだ。まずは確認からだ)
「じゃぁ、いろいろ質問したいです。まず、どこのダンジョンにタマゴかあるか詳しくわからないんですか? それとアマテラス様がそのタマゴを壊してしまえばいいんじゃないですか?」
(ダンジョンといってもゲームでは世界最大の国テラス帝国だけで10個以上、他の国にだって一つの国に最低10はあったはずだ。それを考えればダンジョンは何十、最悪100以上あるはず、そんなのしらみつぶしに探すのか? きつすぎないか?)
「タマゴの場所は分かりません。私はタマゴの気配を察知してすぐに探しました。ですが私では探知ができなかったんです。なぜ探知ができなかったのか、それを考えた結果、消去法でダンジョンが残りました。そのためダンジョンと私は断定しています」
(ある程度の探知は出来るのか)
「なぜダンジョンの中が探知できないのですか?」
「ダンジョンは私の管轄ではないのです……ダンジョンが一つの別世界と考えてくれれば分かりやすいかもしれません。ちなみにアマテラスダンジョンは私の作ったダンジョンですので、そこに魔王のタマゴがない事はわかります」
(なるほど、魔王の気配を読む事と自分の世界であるエデンのことなら分かるが、別世界を探知は出来ねぇぞってことか)
「分かりました、ではもう一つの方は?」
(そう、神がさっさとタマゴを破壊すればそこで試合終了だ)
「それは私は直接世界に干渉できないからです。それにダンジョンによっては私自身が入れない場所もあるでしょう。私ではない別の神がつくっていたりしますし、一部の神には私も干渉できません」
(ダンジョンは神々が作った? ここはアマテラス一神じゃないってことか? ……そういえば、ゲームでもアマテラス以外の神が祭られている場所があったな。人間至上主義のベテルギウス王国とか)
「なるほど分かりました。じゃぁなんで私なんですか? この世界の人間にやらせることだってできたでしょう?」
アマテラスは頷く。そしてエデンを見つめた。
「確かに仰る通りです。この世界の者に頼めば良かったと私も思います。でも駄目なのです。この世界の者は弱すぎたのです」
「弱すぎた?」
「はい。貴方のパーティメンバーのツバメ、彼女はエデンでもかなり上位の強さにあたります」
(アレで結構上位!? 嘘だろう!!)
「驚くのも無理はありません。ゲームでは200レベルを超える者だってざらにいます。ですがこの世界では200レベルを超えた者はいないんです」
「い、一部ダンジョンはその高レベルプレイヤーたちだって攻略出来てないんですよ?」
「アレは難易度を少し上げていますから、エデンで同じ事をすれば別の結果が出るかもしれませんが……。とはいってもこの世界の人々のレベルが低い事に変わりはありません。また、すぐにレベルが上がるとも思えない」
「って、そうか、だからプレイヤーである俺が呼ばれたのか、いや待てなんで『カグヤ』なんだ」
(何度も死ぬ事ができるゲームプレイヤーだからこそ色んな場所が試され、そして掲示板やwikiによって効率が計算され、レベルアップに最適な場所を割り出す事ができた。この世界の人にそれができるか? いや無理だろう。ゲームのゴーレム寺院バグ。あれをあえて残したのは、プレイヤーがこっちの世界に来た時に、効率良くスキルレベル上げ出来るよと言う事を教えるために、わざと残していたのか)
(いや戦いだけではない。知識もだ。特に合成レシピ。ゲームであれば発見されてすぐにネットでレシピが公開されるが、この世界ではそうではない。もしかしたら最上級のレシピを知っているのはエデンで俺だけかもしれない)
(そう、だからこそ、ポーションがあんなにも粗悪だったんだ。レシピを全体に伝えられない、もしくは国や人が金のためレシピの流出を嫌ったせいで知識がいきわたらず、ポーションが粗悪になってしまった)
(でもなんで『カグヤ』をこっちの世界によんだんだ? 俺のメインキャラでもいいだろうし、他の攻略組でもよかったはず)
「……色々気が付いたようですね。私が『カグヤ』を呼んだのにはいくつか理由があります、一つは高レベルキャラクターと高レベルアイテムは移動しようとした際にエデンに阻まれてしまったのです。
「阻まれた?」
「それは昔、私では無い一人の神が、エデンに他の世界から大きな干渉を受ける事を避けるためにつけた安全装置なのですが、私にその解除は出来ませんでした。そのため送るのはそれに阻まれないような低レベルキャラクターでなければならなかった」
(なるほど、メインじゃなくてカグヤが来たのはそれが理由か、なら何故俺が?)
「私は厳選しました。知識があって、レベルが低くて、ある程度のレベルのアイテムを初期に所持している。それに該当したのが貴方『カグヤ』なのです」
「なるほど……一応ききますが、俺は地球に戻れるのですか?」
「それは私が逆に問いましょう、貴方は戻りたいですか?」
(……戻りたくない。確かに地球にはゲームだったり、家族だったりがいる。でもこっちにはエルツバメエリーゼがいて、大好きなファンタジー世界が広がっている)
(ん、いやちょっとまて。なんでそんな事を聞く? コイツもしかしてこうなる事を予期してわざと説明せずに適当な町に俺を放り出したんじゃないよな?)
(いや、可能性はある。俺がこの世界に愛着を持つように、わざと最初に合う事はせず変な場所に放り込んだんじゃないか?)
「まさか、俺の心情がこうなる事を予期して俺をイナバの町に……」
「いえ、それは違います。私の所に召喚しようとしましたが、それがうまくいかなかったのです。安全装置の影響だと思います。代わりに、貴方が一番最後にログアウトした場所。イナバに飛ばされました。私が言いたかったのは単純に元から地球に関心が薄そうな方を選んだというだけです」
(考えすぎたか、少し落ち着こう。それに色々な事があったせいか頭が痛い)
「確かにそう言われれば、地球にあまり関心は無かったかもしれない……それに戻りたいとも思ってないし。だが俺が戻りたいと言っていただそうするんだ?」
「それは……平謝りするつもりでした。もう戻れません。このエデンに送り出した時に貴方の存在と記憶が地球から消えてしまいました。あなた××××さんはもう地球では存在していません。その貴方の情報を持つ人間ももういません、その人の脳内から貴方は既に抹消されています」
「……そうか」
「私を怨んでくれて構いません。殴ってもかまいません。罵倒してもかまいません。ですが私のお願いを聞いていただけないでしょうか」
アマテラスはそう言うと頭を下げる。
「魔王のタマゴを壊してください、お願いします」
(アマテラス様は本当にエデンの人たちの事を考えているんだろう……。じゃなかったら地球にゲーム作って送り出すなんて面倒な事をしないだろうし、そもそもエデンを放置しててもいいんだ。だけど彼女はそれをしなかった。彼女は多分エデンの人たちを守りたかったんだ)
(なら俺はどうする、いや決まってる。俺が守りたいのはエルとツバメとエリーゼと知り合った人たちだ。その人たちと一緒に楽しく暮らせるんなら他には何も要らない。要らないけれど……)
「そうですか。分かりました。まず初めに一つ言っておきます。いや言わせてもらう」
アマテラスは顔を上げると俺をじっと見つめる。
「俺はあなたが俺をエデンに送った事に文句もある、あるがそれ以上に得るものも大きかった。だから決してあなたを怨んでいないし嫌いでもない」
アマテラスは小さく息を吐く。
「むしろ感謝さえしている。ありがとうございます。エルやツバメやエリーゼと合わせてくれて」
「そう言っていただければ幸いです……」
「だけど、だ」
「だけど?」
「ああ、俺はこの世界ははっきり言ってどうでもいい。魔王? 知ったこっちゃない」
アマテラスは少しだけ体を震わせる。
「世界はどうでもいい……が、ビーチェ達やクラウスさん達が、出会った冒険者たちが、そしてなによりエルやツバメやエリーゼが俺にとって大切なんだ。特にあの3人とはずっと一緒に居たい」
(そうだ、俺はあいつらが大切なんだ)
変なところで勘違いしたりするが、他人の為に一生懸命になる事ができ、戦闘では冷静に周りを見て皆の盾になってくれるエルネスタ。
馬鹿で方向音痴で自分の欲望に忠実だけど、困っている人がいれば自分の事も考えず手を差し伸べるツバメ。
ツンデレボッチの男性恐怖症なんだけど、実は言葉とは裏腹にとても優しくて困ってる人を見捨てられないエリーゼ。
「でも魔王があいつらに害をなすっていうんなら話は別だ。だったら……だったらその魔王のタマゴ? まかせろ俺がぶっ潰してやる。俺がお前の願いを聞いたわけじゃないからな、俺もお前と同じようにエデンの人間達が好きだからだ!」
「本当ですか?」
「本当だ! ああ、やってやろーじゃねぇか」
(それに俺はダイダラボッチとの戦いで感じたんだ。あいつらとならどのダンジョンだってクリアできるだろうって)
(まぁ魔王のタマゴを壊す為にあいつらを巻き込んじゃうけど良いよな? あいつらだって絶対アマテラスを見捨てる事はしないだろうから)
「……本当に良いのですか? 貴方はすでに大きなハンデを背負っているのですよ?」
「もしかしてレベルが上がりずらいことですか?」
アマテラスは神妙な顔で頷く。
(なんだそんなことか。そんなのはどうでもいい事だ。まぁお前は知らないかもしれないが人間はな……)
「アマテラス様、知っていますか。人間……ゲーマーの一部には……低レベルで超高レベルのモンスターを倒すことにクソ快感を得るドMだっているんですよ」
「逆境? 最ぃっっ高のスパイスじゃないですか、レベルが上がりずらい? 燃えますよ。やってやろうじゃないですか!」
俺の言葉を聞いたアマテラスはここにきて初めて笑みを浮かべた。その笑みは美しいなんて言葉におさめられらない。目が、体が、心が幸せになった。
「……わかりました。カグヤ、貴方を呼んで本当によかった。この世界をよろしくお願いします。それと、私から一つアドバイスがあります」
「アドバイス?」
「ハイ、貴方はもうすでにレベルアップする速さは既に最低になっています。これ以上下がる事はありません。ですのでもうどんどん職を変えてスキルを覚えるといいでしょう。ちなみに貴方の持っている『転移者』の称号はスキルレベル上昇の効果があります。そして今から私の加護を与えますから、それによって更にスキルレベルの上昇率が上がるでしょう」
「なるほど、あんな下手くそな武器作っただけでスキルレベルが上がった理由はそれですか……加護を貰えるてことだが加護にはどんな効果があるんですか?」
「私の加護は熟練度とスキルレベルが上がりやすくなります。ちなみにですが加護の上には寵愛があります。そちらの方が恩恵が多い上に特別な効果も発揮しまが、それは私が本当に気にいった人にしかつかないので諦めてください。もしかしたら貴方の行動次第で寵愛に変わるかもしれません」
彼女はそう言うと俺の前まで歩くと、足元に魔法陣を浮かべ何かを唱える。すると俺の体に何か温かい者が全身を覆って行くのを感じた。多分加護を与えたのだろう。
と、その時アマテラスは俺を見て呆然としながらポツリとつぶやく。
「え、嘘……。なんでもう? もしかして私いつの間にか……いやでも」
そして俺の顔をじっと見つめる。
(近い神々しいヤバい惚れるやめてくれ)
そして『まぁいいでしょう』と呟きくすりと笑うと彼女は後ろに下がった。
「さて、これから魔王のタマゴを破壊してもらうため、貴方にはダンジョンを攻略してもらいます。その前に私の友人である玉藻前を訪ねてください。彼女が力になってくれるはずです」
「玉藻前ですね……わかりました」
「お願いします。エデンは……貴方に任せます。一つ覚えていてください。私はいつでも貴方を見守っていますからね」
そして俺が決意を胸に秘めた瞬間であった。その声が響いたのは。
「……ハイカット~。よしよしおっけー」
「は? え、な、なに……」
「おっけおっけーカグヤ君よかったわよぉ最高だったわ~。うぁぁぁでもつっかれたーこの話し方マジたるいのよね」
……アレ? 何だコレ……。
目の前のアマテラスは手の上に何かを召喚すると……ってアレはポテチ? 後ろにはイスが召喚されたぞ?
「あ゛ーピッツァ味食べたいわねピッツァ味、あ、さっきのカグヤ君カッコよかったわよ~」
ちょっとまて、話し方が180度変わったぞ? 目の前にいるのは神だよな? さっきまであった威厳が一瞬で消え去ったぞ? それにカッコ良かったってどういうことだ? 何がどうなってるんだ?
「混乱しているとこ悪いけど、さっき話した事は本当だからがんばってね。魔王が復活すれば人間なんてそこらのアリンコよ」
アリンコって……。
「それとねカグヤ君私の事嫌いじゃなくて私すっっっごくほっとしたわぁ。私カグヤ君大好きだし」
頼むから待ってくれ、俺の思考が全く追いつかない。おい神、首傾けてウインクするな。可愛いだろ!
「それと先に謝っておきます。ゴメンナサイ。でも本当は全く反省していないわ」
急に真面目な顔するな。不安になるっつの。
「ん、ちょまっ。それどういう事だよ? 」
(ああ~、嫌な予感がぷんぷんする。なんだこの寒気は? それに何だお前のノリは。おかしいだろ、お前ギャグ要員じゃないよな、突っ込みが足りねーぞ。おい今ポテチ持って来たそこにいる天使、お前突っ込みしろよ!)
「それは戻れば、分かるわよ。あっそうそう忘れないで。玉藻前にはちゃんと会ってね」
そう言って神は腕を振ると魔法を発動させた。
「ちょ、ちょっと待て、分かるって何だよ! おい、マジでなんか嫌な予感しかしねーぞ。ちょ、体が言う事をきかねぇ!」
「あ、そうそう。ついでにカグヤを地球から呼んだ一番の理由今教えてあげる。実は私男の娘が好きだからなの! だから……ね!」
「ってそれがいちばんかよおおおおぉおっぉぉおおおおおお、もっとましな理由にしろよぉぉぉおおお!」
その瞬間俺は転移する。
俺がエデンのアマテラス神殿に戻って来て、一番に視界に入ったのは正座したツバメだった。
「不束者じゃが……よろしく頼む」
(って……は?)
「い、いやどうしてそうなった?」
また横にいたエルは膝をついて俺を見つめる。
「アマテラス教が一夫多妻制で良かった。コレでツバメとエリーゼと争わなくて済む……」
(まて、なんの話だ?)
そして顔を赤くしたエリーゼは体丸めて上目使いでチラチラこちらを見てくる。
「ああああ、あたしもあんなこと言われたら、……そのしし、仕方ないわね!」
(だ・か・ら何の話だっ!)
そこにアマテラスの巫女さんは顔を真っ赤にして俺に言う。
「あの、先ほどのアマテラス様とのやり取りは、えと、アレで私たちも見ていて……その」
え、なに。さっきの見てた? え、何を? と巫女が指さしたその巨大な水晶を見つめる。するとそこには俺とアマテラスが写されていた。え、何これテレビ?
「あ、今2回目、再放送が始まりましたね……しかも名場面を厳選してます。素晴らしいチョイスです……! アマテラス様!」
ちょっとまて、おい巫女お前もボケか、お前もボケなのか! 真面目そうに見えたぞ……1時間もせずにキャラ崩壊で急にボケるのか!
-- だけど、だ --
-- だけど? --
-- ああ、俺はこの世界ははっきり言ってどうでもいい。魔王? 知ったこっちゃない --
水晶の中のアマテラスは少しだけ体を震わせる。
「ってちょっとまてぁあぁぁぁあああああああああ、何流してんだぁぁぁぁああああ!」
って何だこりゃ、俺の言葉に黄金の字幕がついてやがる! おい流れてる曲と効果音、やたら壮大なの流してるんじゃねぇよ! ふざけんな、もはや映画じゃねぇか!
いや待てこの後俺はなんて言った? うわああああああああああああああああまさかアレ聞かれたのか、あんな恥ずかしいセリフが聞かれたのか!?
-- 世界はどうでもいい……が、ビーチェ達やクラウスさん達が、出会った冒険者たちが、そしてなによりエルやツバメやエリーゼが俺にとって大切なんだ。特にあの3人とはずっと一緒に居たいんだ --
「ぅぅぅぅわわわわわあああああああぁぁぁぁぁああああぁぁぁああ、やめろやめるんだああっぁあぁっぁぁあぁ」
恥ずかしいっつか顔が燃ええそうなほど熱いんだよボケ! おいクソ巫女キラキラした目で俺を見るなぁぁ!
俺は急いで水晶の前に立つ。だがその巨大な水晶は俺が前に立ったところですべて隠す事ができない。
後ろに写し出された俺は今も決め顔で何かを喋ってる
「じ、実はわたくし、ちょ、ちょっと憧れていて、そ、その……わ、私も一度でいいのであんな風に言われてみたくて、お願いします、私も守っていただけませんか?」
もじもじしてる巫女さん可愛い上目使いもいいな。
「かわいい……いくらでもまもって、ってわぁああああああああああああああ、って何言わせるんだあんたは!」
まてまてまて俺の人権は無いのか! 訴えたら勝てるんじゃないか! 神訴えてどうすんだよ審議せず負けるわ!
「ほ、本当ですかぁ! 嬉しい!」
ああ、黒髪エルフ可愛いな癒される……ってちげーよ!
「み、みんな、ち、違うんだ。あああああ、アレはな……ことばのあやというかその口から勝手に出て来たっていうか……」
すると笑顔があふれていたこの部屋に絶望が訪れる。
「なん…………と。じゃ、じゃカグヤ殿、あれは嘘じゃったと言うのか……」
と、俺の言葉を聞いたツバメが顔を真っ青にして、震える声で言う。
「……そ、そうよね。わ、私なんて守る価値もないし友人ほとんどいないボッチだし……」
今度はエリーゼは目を伏せブツブツと呟く。
「そうだったのか。私なんかはやっぱりカグヤの隣に立てない弱い女なんだな……」
エルはそう言ってさびしげな笑みを浮かべると、自身の剣をぎゅっと握る。
「え、ああああ、アレがウソだったんですか? ひどぃぃ!」
そう言うのは巫女カンナさん。てめぇはなに便乗してんだよ、ツッコミ増やすなボケがぁぁぁぁあ!
「いや、ちちちちち違う、えっと大切な仲間で皆可愛くてだから守りたくてみんなとずっと一緒に居たくてぇぇぇぇぇぇぇぇ、ああああああああああああ。くっそぉぉおおおおおお、ぁぁあんのクソアマ、反省してないってこれかぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ」
俺は天に向かって叫ぶ。
「あまてらすぅぅぅううぅぅうう、俺ぇぇぇぇ、やっぱお前大っっっっきらいだわぁあぁぁああああああ」
+----+----+----+----+----+----+----+----+----+
第0章 序曲 -プロローグ- end
ステータス
名前:カグヤ
性別:男
LV:5
種族:ハーフエルフ(エルフ、狐人)
職業:バード(熟練度-M)
称号:転移者、スキルコレクター
祝福:(new)アマテラスの寵愛
このプロローグで入栖が今後書いていくすべてのパターンが書けたと思います。
基本はコメディ8か9割シリアス1か2割でしょうか。日常ボケもあれば、コメディ戦闘もある、また稀にシリアス戦闘もあります。今後もこんなノリで続いていくでしょう。
もしここまで読んで更に続きが気になる方は、今後もよろしくお願いします。




