けっせん だいだらぼっち
俺達が再度大広間に足を踏み入れた瞬間、地面に刻まれていたその魔法陣はゆっくりと赤い光を帯びて行く。
深紅の線が一本、また一本と刻まれ、辺りには蛍の光を赤くしたような粒子がいくつもいくつも浮かび上がる。
時間経過とともにそのは粒子はどんどん輝きを増して、刻まれていた魔法陣が鮮血の色に染まっていく。
粒子がフロアの中心を赤く染めあげ、血のような線で魔法陣が描き終わる。すると魔法陣が赤く光り輝き、ソイツはゆっくりと姿を現した。
赤黒く染まったその姿。痩せた関取のように体中が固く締まった筋肉で覆われ、低レベルの人間の斬撃や魔法なんかは何もせずとも防いでしまうだろう。目は出目金のように顔から少し飛び出していて、顔全体がジャガイモのようにボコボコしている。
姿を現したダイダラボッチは、人なんか楽に飲み込めるほど大きく口を開け、咆哮した。
「GYAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa」
ビリビリと辺りの空気が振動する。耳だけでなく体全体までが震えてしまうようなその咆哮に対して、俺は真正面から受ける。
するとダイダラボッチの前に二つの魔法陣が出現し、2匹のダイダラが魔法陣の上に実体化する。ダイダラ達は持っていた棍棒を2、3度振って構えをとる。
俺はちらりと仲間たちの様子を確認した。
咆哮を受けてもニヤリと笑続ける、余裕を崩さないツバメ。
全く微動だにせず、真剣な表情で盾と剣を構えるエル。
そして少しだけ足が震えているエリーゼ。
三者三様の反応を見せるパーティメンバー。
俺はエリーゼにいたずらをしようと思い、わざと彼女の隣まで行って呟いた。
「ふふっ。なんだ、ボッチの咆哮はこんなものか」
俺の呟きにエリーゼは勢いよく振り返る。彼女の目は大きく見開かれ、今にでも『あんた何言ってんのよ!』なんて言われてしまいそうだ。
俺は彼女に小さく笑うと彼女の耳を手でふさぐ。そして大きく息を吸い込み、凶戦士バーサーカーのアーツ『大咆哮』を使用した。
「UUUUUUGAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」
ビリビリと空気が振動する。いや、振動しているのは空気だけじゃない。踏みしめる大地が部屋を支えている壁や支柱が、この巨大な木全体が大きく振動している。
(バーサーカー熟練度最大で、歌スキル系も高レベルなんだ。こんなボッチの咆哮なんざ蚊の音ぐらいにしか感じないな)
俺の叫びは凶器となって、ダイダラボッチ達に襲いかかる。
ダイダラボッチは召喚された場所から動く事は無かったものの、その厳つい顔を歪め、俺を睨みつける。
ダイダラ達はその巨体を丸め、数歩後ずさった。
エリーゼは呆然と俺を見ている。またツバメは笑い、エルは苦笑だ。
「じゃあ援護は頼んだぞエリーゼ。分かってると思うが、もしツバメやエルがヤバくなったら回復か、あいつの体狙って魔法を頼む」
俺はエリーゼが何か言う前に、ヘイストダガーを抜き左手に持つ。そして右手にはビーチェから借りっぱなしの斧を持つと、その場から駈け出した。
俺は一直線に2匹のダイダラへ向かうと、俺の咆哮によって腰が引けているダイダラに向かって次元斬を放った。
初めは俺の次元斬に耐えようと足を踏ん張っていたようだが、俺はダイダラの腹を思い切り蹴飛ばすと、できた次元の裂け目に入れてやった。
「GAaaa」
とそこにダイダラボッチがその人間一人以上ある拳を、俺に向かって振り下ろす。だんだんと加速するその拳は、まるでいん石が俺に向かって落ちてくるかのようだった。
しかし俺はその迫りくる拳を回避する事はしなかった。それどころかもう一匹のダイダラに向かって次元斬を放つ。
なぜ俺は避ける事をしなかったか。それは俺の後方から彼女の声が聞こえたからだ。
「そのままでいい。私達に任せろ、頼むエリーゼ!」
エルの叫び声に合わせて、エリーゼの放った氷の槍が次々とダイダラボッチの腕に突きささる。そして今度はツバメが前に出るとダイダラボッチの腕を横から切りつけ、攻撃をそらす。そしてそれた拳は地面にぶつかり、辺りに地震のような振動が巻き起こった。
エルはその腕に向かって、アーツを発動しダイダラボッチの手を血で赤く染める。
「GaaaaaAAAAAAAA」
悲鳴を上げるダイダラボッチ。
俺はその隙にもう一匹の雑魚、ダイダラを次元の裂け目に蹴りいれ片づけると、ダイダラボッチに向かって走り出す。
ダイダラボッチは走り出した俺に気が付くと、血の付いた腕で横薙ぎする。
しかしその瞬間。辺りにまるでトラックが衝突したような爆音が鳴り響いた。
その音はエルが盾を使ってあの何メートルもある腕を防いだ音だった。ミシミシとエルの盾が、体が、足が、陥没していく地面が悲鳴をあげる。
辺りにはダイダラの腕から流れる血が飛び、俺やエルにも赤いシミを作っていく。
受け止めて少しして、ズル、ズルと少しずつエルが押され始める。無理も無い。体格も体重も筋力も圧倒的なあのダイダラの一撃を受け止めたのだ。彼女は腕と足だけじゃなく、腰や、背中、体全体を使って上手く防御しているため、何とか耐えられたのだろう。体にかかる負担はすさまじいはずだ。
俺がエリーゼに回復を頼もうとした瞬間、エルに向かって優しい光が降り注ぐ。それはエリーゼの放った回復魔法だった。
俺は心にわき上がる喜びでブルリと震える。俺はさっき何も言っていなかったのに、エリーゼがエルを回復したのだ。
「よっしゃ、ツバメぇぇ右足だ! バランスを崩させるぞ!」
「合点招致!」
ツバメと一緒にダイダラボッチの足元に入り込む。
ツバメはダイダラボッチの踏ん張っている右足に薙刀で抉るよな攻撃を入れる。そして俺はそのツバメの攻撃した場所に寸分の狂いも無く、全力で斧を叩きつけた。
「倒れろこんの糞ボッチやろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
斧がダイダラボッチに直撃した瞬間、白い閃光が辺りを染め上げた。
発動したのは斧アーツの爆砕弾。
勢いよく斧がぶつかった場所で大きな爆発が起こる。腕を伸ばすために体重をかけていた足。そこに大きな衝撃を受けたのだ。倒れないはずはなかった。
10メートルあるダイダラボッチは、まるでビルが崩れるような音を立てながら横に倒れる。俺はそんなダイダラボッチの顔、体に無詠唱でファイアボールを連続で放つ。すると後ろからエリーゼの氷の矢も追随し、ボッチの体全体に突き刺さっていった。
またツバメはダイダラボッチの体を飛び越え、そのジャガイモみたいな頭についていた目をめがけ、薙刀を突き刺した。
「GaaaaaaaaaaaaaaaaaaaAAAAAAAA」
たまらずダイダラボッチは悲鳴を上げる。
俺はその叫び声を聞きながら、腕が、足が、体が、心が震えているのを感じていた。
このLV140を超えるダイダラボッチの上位種と言う圧倒的な敵を前にして、俺達の連携が綺麗に決まっていたからだ。
最初のボッチの攻撃をそらしたツバメ、エル、エリーゼの三人のコンビネーション。いつもなら一泊遅れていた魔法も、まるで先読みしていたかのように使用された。
もちろん俺は全く指示していない。それなのにだ、それなのに最適な場所に、最適なタイミングで、最適な魔法が唱えられる。
「最高だよ。本当に最高だ!」
俺は震える手に力を入れ武器を持ち直す。そして転んでいるダイダラボッチに追い打ちをかけようとした。
しかしダイダラボッチはそれを許さなかった。
ダイダラボッチは急に両手両足を我武者羅にばたつかせたのだ。それはまるで赤ん坊のように、叫び声を上げじたばたと。
しかし相手は赤ん坊なんかじゃない、身長10メートルを越える身長で、鋼のような筋肉を持っている。俺やツバメに降り注いだのは小さく優しいおてて、あんよじゃなく、まるで沢山のいん石が四方八方から降り注いてきたようなものだった。
俺とツバメはたまらず後退し、ダイダラボッチを睨みつける。
ダイダラボッチは俺達が後退するとすぐに体を置きあがらせ、残った目を血走らせると、ぎろりとツバメを睨む。そして大きく息を吸い込むと咆哮した。
「GYAGYAGYAAYAAA」
するとダイダラボッチの体に異変が起こる。ただでさえ太く鋼のような筋肉が、ぶくりと膨らんだのだ。そしてテノールだった声もだんだんと低くなり、ついには数オクターブは低くなった。もはや地鳴りのような声である。
「どうやら奴も本気を出して来たようじゃのう!」
「ああ、暴走を始めたな。こっから先は少しの攻撃じゃ全くひるまないぞ、エル! 真正面からうけるなよ!」
「ああ、わかってる!」
「エリーゼ、俺かエルの後ろに居ろよ! 守れねえからな!」
「わ、分かったわ! あたしあんたら信じてるんだからしっかり守んなさいよ」
俺はこんな緊迫した場面だけどクスッと笑ってしまった。それを見たエルは俺に言う。
「カグヤ? どうした嬉しそうにして?」
「なに、エリーゼが凄く素直に『信じてる』なんて言ってくれたからな!」
俺は後ろにいるエリーゼに聞こえるように大声で叫んだ。見なくてもわかる。アイツは今顔真っ赤だろうな!
隣にいたツバメも俺と一緒になって笑う。
「ほーう。確かにエリーゼ殿は素直じゃのう! なら拙者も今日は素直になろうぞ! うむ、拙者アイスが食べたいのでござる!」
「……お前は基本的に自分の欲望に忠実じゃねぇか!」
エルは剣を構え直すと苦笑しながら呟いた。
「なんだカグヤもツバメも……余裕だな!」
俺は筋肉が膨張するダイダラボッチを見つめながら首を振る。
「余裕じゃないさ。アイツの攻撃力を考えれば一つ一つの攻防が命がけだ。それにこっちは一人でも削られたら一気に瓦解するだろうからな」
「たしかにのう!」
弾んだ声で俺に賛同するツバメ。
「そういうお前は余裕通り越して楽しそうじゃないか」
「ああ、ここまで血湧き肉躍るのは初めてじゃ! どう言えばいいのじゃろう? 敵が強ければ強いほど、燃えないか? 特にな、『連携や工夫を凝らして戦えば勝てる』と言うのが特にじゃ!」
「ツバメぇ! ソレすげぇ分かるぜ! 俺実は低レベルでボス倒すの大好きなんだわ。ドМって言われるから隠してたんだけどな!」
それを聞いたエルは大きな声で笑う。
「おいおい、ツバメもカグヤもドМか? なら一つ言おう。私も同じだからドМだな!」
「何だみんなドМか。あーでも後ろにいる奴は高圧的だからドSか、残念だな~一人仲間外れが居るぜ~!」
「あ、ああああああたしだってドМよ! 仲間外れに…………ってなに言わせてんのよかぐやあぁぁぁぁぁ!」
一つのミスで瓦解してもおかしくない状況の中で、皆が笑い冗談を言い合っている。もう何も怖くなかった。
俺は一回り大きくなったダイダラボッチを見つめる。さあ、第2ラウンド開始だ。
※マミりません。期待しないでください。




