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異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
25/44

きゅうしゅつさくせん 2


 

 そこは大きな木が隙間なく密集している小部屋のようなところだった。小部屋には1つの扉と細い道があって細い道の先には31層への魔法陣が刻まれている。


「30層にはいないか……」


 もし大変動に巻き込まれるとこの待機部屋に移動されるはずだ。ここに居ないと言う事は、多分30層ではない場所へ飛ばされたのだろう。だが彼女たちが自発的に移動した場合は別だ。


「まさかだけど、ボス部屋に行って戦闘してるわけではないよな……?」

 ツバメは首を振る。


「確実に、とは言えんのう」

「カグヤ、どうする? 一応戻るか?」


 戻ったところで彼らが戦闘しているもしくは勝ち残っている場合ならいい。だが勝ち残っているなら、このダンジョンから抜けているだろう。しかしもし負けてしまった場合は体も、武器もダンジョンに取りこまれてしまうため何も残らない。


 今戦闘している確率? そんな確率低いに決まっている。でもゼロではない、行ったほうがよいのか? いや戦う時間が無駄だからさっさと31層行ってしまった方がいいのか?


 ……わからない。ならば一旦おいといて別の視点で考えよう。


 俺達がこのままダンジョンを進んで行く場合。1層を降りるのに約3時間だと仮定する。

 食事と休憩時間を6時間おきに20分、そして睡眠時間を5時間を入れるとすると……5層降りるので24時間、48時間かけて10層を降りる事ができる。


 しかし今回のメンバーは即席だ。それならまず連携の確認をしなければならないし、うまく敵を避けて進めるとは限らない。その連携確認時間等を3時間と仮定して、10層降りるのに約51時間。


 じゃぁいま30層のフロアボスに挑んだらどうなる? もしビーチェ達がそこにいるのなら、そこでボスを倒して捜索終了。またいなかった場合は、ボスを倒すのに約1時間かかると仮定する。

 

 まてよ、ならボスを倒す時間を連携の確認時間にしてしまえばどうだ? そうすれば連携の確認の時間を2時間にすることができる。そうだよ。だったらボスと闘ったとしても10層降りるのにかかる時間は約51時間と同じ。


 ならばビーチェ達がいる可能性もあるならなら戦ってしまおう。そして連携確認だ。


「戦おう。居る可能性は無きにしも非ずだ。ついでに俺達の連携も確認してしまおう、エルお前は壁役をやった事はあるか?」

「壁?」


 壁なんてゲームでしか言わないか。


「そうか、すまない。壁って言うのは、一番前で敵の攻撃を捌く役の事だ。お前にその役をお願いしたいんだが、いいか?」

「ああ、それなら何度かやった事がある。任せろ」


 俺はエルから視線を外しツバメへ。

「ツバメはエルの後ろから援護と敵にダメージを与えてくれ。でも何かあったら自由に動いていい。お前は臨機応変に頼むぞ」

「うむ」


 今度はツバメの隣にいるエリーゼへ。

「魔法で援護と回復は任せたぞ、一応俺も回復はするが、メインはお前だ。特にエルを注意してやってくれ」

「わ、わかったわ」


「俺は場面を見て動き方を変える。基本は後ろで魔法かな。もし前が危なくなったら俺も前に出る、っとすまん俺が勝手に仕切っちまったが大丈夫か?」


「いや、拙者も考えておったがほぼ同じ、妥当な配分じゃったよ。文句は無い」

「私もそれでいいと思う」


 俺は一応エリーゼに視線を向ける。


「あ、あたしほとんどパーティ組んだこと無いから……カグヤに任せるわ」

「……わかった」


 俺はヘイストダガーを抜くと30階層、ボスの部屋のドアに手をかける。

 するとエルは剣を、ツバメは長刀を抜いて俺の隣に来る。

「よしじゃぁ準備はいいか? ドアを開けるぞ?」


 皆が頷くのを確認して俺は目の前の扉を押した。


 その部屋の広さは学校の体育館くらいだろうか。俺達が入ってきた入口と、その反対側に有る扉以外には先ほどの部屋と同じように木々が隙間なく密集し、抜けることはかなわない。

 エルとツバメが部屋に足を踏み入れる。すると部屋の中央に深紅の魔法陣が浮かび上がった。

「来るぞ」


 俺達は武器を構え、召喚されつつあるモンスターに集中する。

 そこに現れたのは俺にとってはある意味馴染みのあるモンスター『アイアンゴーレム』だった。


 アイアンゴーレムの強さは、俺が寺院で倒したミスリルゴーレムよりも弱くアイアンオーアゴーレムよりも強いと言ったところだろうか。負けることは無いだろうし、連携確認するには丁度いいモンスターである。


 エルとツバメは武器を構えるとゴーレムに向かって突撃していく。


 こうして戦闘が始まって、1時間もしないうちに戦いは終わった。しかし結果は散々だった。


 もちろんモンスターは倒す事ができた。でも余裕は余りなかった。それもそうだろう。連携なんてものはまったく取れなかったのだから。


 

 エルはアイアンゴーレムの攻撃を上手く受け流すものの、受け流す先にツバメがいたり、それたアイアンゴーレムの攻撃がツバメに向かっていったりと、事あるごとにツバメの動きを阻害する。逆もまたしかり。

 

 またエリーゼは暴発してエルやツバメに当たる事を心配してなのか、魔法を使うのが消極的になっている。そしてタイミングも悪い。ツバメが連続攻撃をしようとしているのに、エリーゼの放った雷球が邪魔をして、ツバメが足を止めている。


 その様子はそれぞれが一人で戦っているようなものだった。全くかみ合わない連携に妨害しあう攻撃。偶々相手がそれほど強くないモンスターだったから良いものの、これが40層のボスだったと想像したら冷や汗が止まらない。


 パーティの役割を無視したその個人技はアイアンゴーレムを倒すまで続いた。傍から見れば見所ない大道芸のようだっただろう。


(……この調子じゃ50層なんて無理だ。10層上がるだけで敵LVは20はあがるんだぞ? こんなんじゃ40層ボスですら危ない)


 ゆっくりと地面へと崩れ落ちていくゴーレム。

 そして俺の立てていた計画も一緒にバラバラと崩れ落ちていく。

(おい、どうすりゃいいんだよ? マジでどうすりゃいいんだよ……)


 崩れ落ちたゴーレムから少しだけ淡い白い光が浮かび上がると、だんだんと透明になっていく。そしてそれと同時に部屋の中心に宝箱が現れた。


 しかし誰ひとりその宝箱を開けに行こうとしなかった。皆下を向いて口を一問字に結び、動く事さえしない。どうやら全員理解はしているようだ。

 

 俺は重い空気を吹き飛ばすように大きく息を吐く。


「宝箱を開けて次の階層へ行こう」


 俺が開けた宝箱に入っていたのは鋼鉄の盾だった。

 それは盾スキルもある前衛のエルが持ち歩くことになった。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 31層から35層のセーフティーゾンまで進んだ俺たちだったが、経過は最悪だった。時より現れるモンスターのトレントを倒しながら進んでいたが、俺達の歯車は全くかみ合ってなくて、みんな勝手に一人で回っている。


 それに戦えば戦うほど余計にタイミングはずれて、連携という言葉とはほど遠くなっていく。今はもう邪魔と言えるレベルだろうか。


 俺は目の前に生えている木々を見つめながら、今後を考えていた。

 正直にいえば連携が全く上手くいかない理由はわからなかった。だからこそ思いついた事を色々試してみたが結果は空回りどころか悪化。もう目も当てられない。

(クッソ、ただでさえ進むのにも計画から遅れているっていうのに)


 進めば進むほど危険度は上がっていくのに、連携は下手になっていくばかり。現時点でどうにかしないと雑魚モンスターにでさえやられてしまうかもしれない。


 焦燥はどんどん積もっていき、大きな山になって今にでも崩れそうだった。言い案も浮かばずにただひたすら貴重な時間だけが経過していく。こんなふうに考える時間だって有限なのに。

(どうすればいい、どうすればいいんだ?)


「カグヤ、すまないちょっといいか?」

 俺はブツブツつぶやいていると不意に後ろから声がかけられた。俺は振り向くと彼女の名前を呼ぶ。

「……どうした、エル?」

「ちょっとあっちまで付き合ってくれ」

 そう言って彼女は俺の返答を聞かずに歩きだす。俺は黙って彼女の後ろを付いて行った。


 

(どこまで行く。そして何の用だよ?)

 エルはエリーゼ、カグヤ達が小さくなったところでやっと足を止めた。そして俺に近づくと俺の顔に手を伸ばす。

 

(えっ?)

 彼女の両手は近づいてくるせいでだんだんと大きくなって、そしてそのまま俺の顔に触れる。

(おい、何だこれ?)

 そして彼女の顔が近づいて……

 くることは無く、彼女の両手は俺のホッペをギュッとつまんだ。


「や、柔らかい……」

 俺は目を細めて睨みつけるようにエルを見つめる。


「おふぃ、ふぁんのふもりふぁ(おい、なんのつもりだ)」

「いや、実はずっと前からカグヤのほっぺは柔らかそうだなと思っていたんだ」


 俺は右手でエルの手を払う。

「あのなぁ」

「あのなぁ、と言いたいのはこちらだぞ、カグヤ」

 エルは俺の言葉にかぶせるように言う。俺は『それどころじゃないんだよ』と言おうとしていたものの、真剣な顔をしたエルを見て、続きを言う事はできなかった。


「気を張り詰めるのは分かる。カグヤが頭を悩ませているのも分かる。だけどお前は背負い過ぎで気負いすぎなんだ。そのせいで今周りが全く見えなくなってるぞ」

「そんなことは……」

「そんなことは無いだと? ならカグヤ、今エリーゼがなんで不安そうな顔をしているかわかるか?」


 俺は小さくなったエリーゼを見つめる。……それは…………わからない。


「お前とツバメがいつもと雰囲気が違いすぎるから恐がっているんだ。ダンジョンに入るときはまだお前はマシだった。だけど最初の一戦だ、あれから完全におかしくなった」


 言われてみれば最初のゴーレム以降はどうやって40層のボスを倒すかということだけを考えていたかもしれない。


「お前も、ツバメも肩に力が入りすぎだ。確かに真剣になる事はいい。必要な事だ。だけどなエリーゼがおびえてるじゃないか。普段ならお前が一番に気が付いてフォローを入れているところだろう?」


 その言葉は悩んでいた俺の体を貫いていく。確かに彼女の言うとおりだ。

 今思えばさっきエルが俺にやったことは、本来ならば俺がツバメやエリーゼにやらなければならない事だった。気負い過ぎて凝り固まった感情をときほぐして、心に余裕を持たせてあげなければならなかった。


 俺がしていた事は逆に彼女達の不安をあおっていただけだ。


(そうだよ、俺はこのダンジョンに来てからあのツバメがボケた所はあったか? 一切ないぞ。アイツ俺と同じようにずっと気負いっぱなしだったんだ)


「そうだ俺は今まで今後どうするかをだけを考えて、あいつらの事を考えてなかった……」


 ツバメは『どうにかして助けないと』と、そればかり考えてしまっているせいだろうか、余裕が一切ない。そしてエリーゼもツバメとはまた違った意味で余裕がない。多分今の俺とエルにどう接していいかわからなくなっている。


「やっと分かったか。そうだ、もっと周りを見てくれ。そしてもう少し肩の力を抜け。お前の焦りはツバメとエリーゼに大きな影響を持ってしまうんだから。それと、それとな」


 彼女は一旦言葉を切る。そして彼女は俺の瞳を見つめながら肩をギュッと掴んだ。 

「確かに私はお前より弱いし、知識も無いし、頼りないかもしれない。だけど相談には乗れるし、お前の抱えている物を一緒に持つことは出来る。だから……だからもっと私も頼ってくれ……」


 彼女の言葉は掠れて最後の方はほとんど聞き取れなかった。

 俺は大きく2回深呼吸すると、そっと彼女の手に触れる。そして彼女の震えている手を両手で包み込む。


「いや、頼りなくなんかない……」

「カグヤ……」

「エル、ありがとう。もし次また俺が間違えそうになったら俺を止めてくれないか? 多分また今回のように失敗しちまうこともあるだろうから」


「……ぁぁ、まかせてくれ。仲間だろ」

 そう言って彼女は笑みを浮かべた。




 俺達はツバメとエリーゼの所に戻ったがそこはまるでお葬式会場だった。会話は無くツバメは何か瞑想していてエリーゼはしょんぼりしている。

 

 俺のせいだな。確かに、こりゃ連携も取れないわ。普通の会話できないぐらいなんだから。

 じゃぁどちらから荒療治する? 簡単そうなエリーゼにしとくか。


「エリーゼ」

 ビクリと体を震わせるエリーゼ。俺は彼女のそばに行くと、手で頭を撫でる。

「なによ?」


 顔も真赤になる事は無くてどもる事も無い。俺は相当追い詰めていたんだろう。


「いや、すまなかったな。心配掛けて。俺はもう大丈夫だ」

「は、ハァ? 私、心配してないし!」


 ちょっと不機嫌気味のエリーゼに、俺は有る人から聞いた秘密をぶちまける。

「学校ではいつも一人ぼっちだったらしいな。ウウゥッ、グスゥ。うん大丈夫だ。俺達はそばに居てやるからな!」

「ちょ、ちょっとまちなさい、それ誰から聞いたのよ!?」

 エリーゼは顔を真っ赤にして俺に詰め寄る。俺は彼女の頭を撫でながらもうひとつの秘密を暴露した。


「実はデザート欲しかったのに、恥ずかしくて言い出せなかったんだって? ウウゥッ、グスゥ。大丈夫だ。俺はしっかりお前の為におやつ用意してやるからな! 知ってるぞ、チョコレートが大好きなんだよな!」

「あ、ああああ、りりりりりんだねぇぇ!」



 叫び出すエリーゼを放置して、今度はツバメの元へ歩く。


「ツバメ」

 問題はこいつだ。

「なんじゃ?」

 今のこいつは熱された油だと思う。火を放っても危ないし、水をぶっかけても危ない。だったら自然に冷めるのを待つ方がいい。


「お前は一旦落ちつけ。そしてゆっくり寝ろ」


 聞いていたのか全く聞いていないのか分からないけどツバメは顔をそらし目を閉じる。多分また瞑想でもしてるんだろう。多分邪念だらけだろうな。


 俺はため息をつくとアイテムボックスからテーブルとご飯を取り出し並べていく。アイテムボックス本当に何でもありだな。


「うし。飯だ。飯食うぞ。飯を食わねば戦は出来ぬっていうしな。っつても今日は食い終わったら寝るぞ。どうせここはモンスターが湧かないセーフティーゾーンだし時間もころ合いだしいいよな」


 そう言いながら俺は全員分の料理を並べると今度はイスを出す。なんで俺こんなのアイテムボックスに入ってるんだろ。しかも4脚。

 

「おう、そうだ。エルには世話になったし、褒美に今日は添い寝してやるぞ」

「ふぁ? ななななな、カグヤおお前は何を言ってるんだ!」

 なんかエリーゼみたいだぞ、どうした? もちろん冗談に決まっているだろう。


 俺がご飯の準備を終えるとエルとエリーゼはイスに座って食べ始める。しかしそれでも微動だにしない奴が一人。


「おい……ツバメ、飯は食ってくれ」

 飯を食わないツバメか。こいつは相当ヤバいかもしれん。なんで俺はこうなっている事に気がつかなかったのだろう。

 

 俺はツバメの手を取るともう一度言う。

「頼むから食ってくれ」


 そう言うと彼女は無言で俺の置いたに座るとご飯を食べ始める。

 あ、それ俺が食おうと思ってたやつ……とはさすがに空気を読んで言わなかった。


 食事を終えた俺達は二つのテントを張り、布団を敷く。

 まさかダンジョンに来て布団で寝れるとは思わなかったわ、とエリーゼ。本当にアイテムボックスはチートだと思う。


 俺は布団に入って目を瞑っていると、近くを人が通り過ぎていく気配を感じて俺は布団から抜け出す。ツバメだろうなと思ったら案の定ツバメだった。


「何のようじゃ?」

「寝むれないだろうから子守唄歌ってやろうかなと思ってな」

「……よく拙者が寝むれない事が分かったな」


「俺だって……眠れないからだよ」

「そう……か」


「お前なぁ、心の余裕をなくすな。お前は今周りが見えてない。俺もそうだったけど。テヘ」

「自覚はある」


「なら俺よりはましだな。俺は自覚すらなかった。だからエリーゼとエルに凄く気を使わせてた。お前もアイツらは苦しめるなよ」

「……じゃから今ここに一人でいる」

「だからと言って自分も追い込んで苦しめるなって」

「それは拙者の勝手であろう」


「じゃぁ俺はお前がお前自身を苦しめるのを俺は見てられん。そう言う事で俺のテントにいくぞ」

「いや、拙者は……」


「実はなさっきエリーゼから眠くなるお香貰っといたんだよ。俺のテントで軽く焚くから来い。明日引きずるのが一番ヤバいんだから」


 なんでそんなお香持ってるかは聞かなかったが。

「しかし……拙者は」 

「しかしじゃねぇよ。ほら行くぞ」


 そう言って俺はツバメを無理矢理テントへ連れ込み布団に入れると、俺は隣に布団を敷く。そして敷いた布団の中に入って、お香をたくと目を閉じた。


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