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異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
23/44

あらしのまえ


 おっしゃ許可取ったぜ! ついにダンジョン行ける。うっは知識チート最高! どんどんすすめるぜ!


 なんてことはやっぱり俺の妄想で、現実はそう甘くない。


「あ、明日明後日あたりに迷宮の作り変わりか起こるから、数日は入らない方がいいわよ?」

 エル、ツバメと再会し、いざ明日の準備をば……と意気揚々だった俺に、リンダさんのつめたい言葉でブレーキがかかった。

 

 迷宮の作り変わり、ゲームで言う所の『大変動』は定期的にダンジョンが大きく作り変えられる事である。この最中にダンジョンに居ると、どこかの階層にランダムで飛ばされてしまう。まあランダムとはいっても10、20、30、40……、のように10階層おき、ボスフロアの転移ゲートの所へであるが。


 ゲームプレイヤーは逆にこのシステムを利用して、わざとダンジョンに行ったものだ。なぜならランダムではあるが、下層のゲートまで行けるからだ。運が良ければ70、80階ぐらいに一瞬で行けた。ただ、ひとつ前の部屋に戻ってボスを倒さないと、転移ゲートが動かないため相応の実力が必要だが。


 もちろんゲームだったら俺は突っ込んでいる。別に死んでも構わないのだが、この世界ではまずいだろう。90階に飛ばされたら目も当てられない。ボスに殺されるだけだ。

 

 ちなみにダンジョン内では、既に設置されている転移陣以外の転移は使えないみたいだ。先ほど少し試してみたが駄目だった。さすがにそうだよね。俺達はダンジョンで実験をした後、少しだけ買い物しエリーゼの家に戻った。

 

 ちなみにエルはダンジョンに誘ったら、長期休暇取っているからいいぞとは言ってくれた。だが入るのは大変動が終わってからだから、結構時間かかる。申し訳ない。


 俺は小さくため息をつく。

 

 すると対面に居たエルは苦笑しながら盤上に黒い駒を載せると、黒と黒の間に有った白い駒を裏返した。

「まぁまぁ、仕方ないさ。ほら、カグヤの番だぞ?」


 俺は薬草をゴリゴリしながら白い駒を置く場所を探す。あ、これ角取られそう。こっちにするか。

 ちなみに今ゴリゴリしているのは薬屋で買った調合セットと薬草である。今は薬草を粉末にして丸薬を作るところだ。もしゲームと仕様が同じであったら、あのチートを使ってスキル熟練度を一気に上げようと思っている。


 ゴリゴリ連呼しているが、決してゴリラになったわけではない。勘違いしないでほしい。


 ちなみにエリーゼとツバメは現在絶賛料理中である。昨日は俺がエリーゼを手伝ったから今日は拙者が! と言ってキッチンに入っていた。少しだけ覗いてみたが、やはりツバメに料理の心配は不要だろう。代わりにひとつ心配事ができた。それは、


「まさかエルが、料理下手だったなんて……」

 エルさんは駒を盤上に落とす。彼女は少し顔を赤らめて咳払いをした。そうして落とした駒を拾う。


「き、騎士に、料理は不要なのだ……」

「いや、炊き出しとかしないのか……?」


「そ、それは部下に任せている。アルバートがああ見えても料理が上手でな」

 おい、そこに駒置いていいのか? 俺は遠慮なく角取るぞ。

 俺はそのまま角に白を置く。するとエルは悲痛な声を上げた。


「ああ、しまったぁ! カグヤ……待っただ。……駄目か?」

「エル3回使ったじゃん」


「くぅぅう」


「エルって何でも出来そうに見えたから少し意外だったよ」


 オセロもクッソ弱いしな。俺丸薬調合の片手間だけど余裕で勝てる。ただエリーゼには勝てない。アイツ強すぎ。これ一人でプレイできないだろうに。ツバメは俺と同じくらいかな?


「私だって苦手なものはある。裁縫もそうだ」

 まぁそこらのスキルは不要っちゃ不要だもんな。やってくれる人もいるのだし。

 しかし嫁に行く時大変そうだな……。いや、相手にやってもらえばいいのか? でも少しくらいは出来ないと相手減りそうだよな……。


「おい、カグヤ。止めてくれ。お母様みたいな顔をしないでくれ。大体カグヤだって料理や裁縫ができるのか?」


 とここでキッチンから声が飛んでくる。


「エル殿~、カグヤ殿は拙者より料理が上手そうであったぞ?」

 エルはジト目で俺を睨む。そんな羨ましそうにしたってスキルは他人にあげられないぞ。


「だ、だがさすがに裁縫は出来ないだろう?」

 俺できなそうに見えるが、場合によっては出来るんだよなぁ? ゲームと同じ仕様だったらこの世界には魔法ミシンがあるはずだ。それさえ使えれば作れる。


「ミシンさえあれば作れるが、あるかな?」

 と今度はキッチンの方からエリーゼの声が聞こえる。


「ウチにあまり使ってないけど魔石ミシンあるわよ~!」

 エリーゼが『あまり使ってない』と言うなら、使う事は出来るけどあまりやらないってことだろう。裁縫ができない訳ではなさそうだな。できるらしいツバメとエリーゼはマジでいい嫁さんになりそうだ。


「ああ、それなら俺も簡単な服ぐらいなら作れるかな?」

 俺の場合は一時期服屋でバイトしていたときに仕立て直しとかやっていたし。それに余った布で服つくって遊んでいた事もある。そのあと『布勝手に使いやがって』と、めっちゃ怒られたけど……。


 まぁ、糸渡されて『織れ』なんて言われたら無理だけど。


「……カグヤは男なのに本当に何でもできるんだな。私は女のくせに剣を振る事しか能がないのに……」

 エルは肩を落とし、駒を置く。おい、そこ置いていいのか?

「あ、いや。偶々だって」


 もちろん俺は隙を逃さない。しっかり盤上を白く染める。

「まっ」


「まったは既に三回使っているんだよな」

「参りました……」


 どうやら俺はオセロでも女子力でもエルに勝ってしまったようだ。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 リンゴ酒のグラスを机に置く。そして机の上に置かれた金貨を見て不思議そうに首をかしげた。

「え、要らないわよ? ツバメじゃあるまいし」

 エリーゼは俺が差し出した金貨を見ると、はっきりそう言った。ツバメの扱いが最近ひどい気がする。

 

「ばか、いいから受け取れ……これからも世話になると思うから」

「別に気にしなくてもいいのよ……それに……そ、その。と、ととと友達じゃない!!」


 エリーゼは俺から視線を外すと、両手で自分の服をギュッと掴む。

「ばか、友達だからこそだよ。ああ、そうだ買い物行く時は声掛けてくれよ。荷物持ちとか俺がするから」


 俺はここを完全に拠点にしようと画策しています。ごめんなさい。ですから手伝えることがあれば言ってください。ツバメと俺が誠意を持って対応します。


「ん、ま、まぁそう言うなら……」

 彼女は明後日の方向を見ながら一応金貨を受け取ってくれた。

「ああ、今後も頼む。何かあったら俺に言ってくれ」


 すると彼女はグラスを握ると俺の顔を覗き込んでくる。

「えと……早速だけどいいかしら?」

 俺は持っていた葡萄酒を飲み込みながら頷く。


「貴方魔法スキルすごく高いでしょう? どうやって上げたのか教えてくれない?」

「拙者もそれは気になる」

「私も」


 隣でオセロしていた二人も俺に寄ってくる。戦況は……エルが勝っているように見えるけど2、3手でひっくり返ってツバメが圧勝しそうだな。


「ああ、いいよ、つってもただ低LVで高LVのモンスターとずっと戦っていただけだぞ。それにLVが高いお前らじゃ効果は薄いぞ?」


「……高LVって何のモンスターよ?」

「ああ、LV110のミスリルゴーレムだ」


「はぁぁぁぁぁぁあ?」

 目を丸くして俺を見るのはエリーゼ。その横でジト目になるのはツバメ。そして頷いているのはエル。三者三様の反応だな。


「……カグヤ殿それは戦いになるのかのう?」

「まぁ、ちょっと特別な方法だからな……」


「信じられないが、被害ゼロでクラーケンを倒した事があるからな……信じざるを得ないか」

「えぇ、クラーケンも!? 倒したの?」

「ああ、カグヤ殿の指揮のもと、一度も攻撃を受けずに、な」


 エリーゼは首を振り、信じられないと小さく呟く。

「ああ、ちなみにツバメにあげたその指輪はミスリルゴーレム倒した時に宝箱から出た指輪だぞ? その時にLVは3まで上がった」


「なんだと、たったの3? なぜだ?」

 エルは一人別の部分で驚きの声を上げる。そうだよね。俺もゴーレム寺院で叫んだわ。


「エル殿、信じがたい事じゃが、カグヤ殿は既に10以上の職業をマスターしておるのじゃ」

 俺は舌をぺろりと出してエルさんにウインクする。やべ、このポーズ可愛いかも。


 エルは頭を抑えながら深いため息をつく。そんなに呆れられるようなことかな? ゲーマーには普通の事だったんだけどな。

 

「うん、納得した。納得したよ、カグヤの強さに。おいカグヤ、明日朝模擬戦するぞ」

「おお、エル殿、拙者も入れてくれ。カグヤ殿と闘ってみたかったのじゃ」


 お前ら血気盛んだな。いやでも結構プラスになるか? 確か対人戦だとスキルLV高い奴と闘うとスキルLV上がりやすかったよな?

 

「いいよ。ただし木剣でな、って薙刀は無いか……今から作ればいいか」

「鍛冶スキルもあるのね……もう驚くだけ無駄な気がしてきたわ……」


「ああ、多分エルとツバメは俺と闘うとスキルLVが上がりやすいだろうし。そうだ、エリーゼはこれ飲んで魔法使ってくれ、スキルが上がりやすいと思う」


 俺はアイテムボックスから死蔵していた上級MP回復量上昇ポーションを取り出すと、エリーゼに渡す。


「何これ?」

「上級、じゃなかったな……」


 エリーゼは俺の渡したポーションを光に当てて、その青い液体を見つめる。俺は彼女の手元に視線を合わせ鑑定で名前を確認する。


「それはMP回復量上昇ポーションLV8だ」

「え、きゃぁ」


 エリーゼは手を滑らせたのか、そのポーションを落としそうになるも、体ごとテーブルに突っ込んでなんとかキャッチしていた。


「……カグヤ殿、そのポーションはいくつあるのじゃ?」

「えーと数十個はあるぞ?」


「うん……城が建てられるな」

「え゛これが?」


 エルは神妙な顔で頷く。

(こんなんで城が立つ? いやぁでもな)


 城が建てれると言われてもな、よく考えてほしい。城なんかに住まなくてもこのエリーゼの家で、皆とわいわいしていた方が幸せそうじゃないか? 城とか管理面倒そうだし。だったらすべてエリーゼの魔力強化に使ってしまった方が圧倒的に良いんじゃないか? お金なんて必要な分有ればいいんだよ。

 

「エリーゼはウチの大切な魔法使いだからな。もちろんこれはエリーゼに全部使う。城とエリーゼの成長だったら、どう考えたってエリーゼだろ?」


 調合スキル上がれば多分普通に作れるだろうし。はっきり言ってMP回復量上昇ポーションなんてそれ以外に使う道あんまないし。


「えっ。あ、あの、その…………それホントに?」

「ああ、当り前だろう」


 エリーゼは持っていたポーションを優しく両手で包むと、下を向く。

 そしてポツリとつぶやいた。


「あ、の。……ぁ、ありがとう」


 あれ? 俺エリーゼを真っ赤にさせるような事言った?



+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 神都アマテラスは、野菜や動物の肉が多く流通している。それは周りに広大な自然があるためだろう。エルフ達は森の幸に感謝しながら、その恵みを頂いているそうだ。


 現在俺達はその食材を物色中である。俺がいれば、そこらのお店で作ってもらった料理をアイテムボックスに入れておく事で、料理なんかせずともご飯にありつけられる。しかし俺はできるだけそれは控えたかった。

 その理由は金、なんかではない。

 

 ただ単純にそこらの料亭よりも、エリーゼの料理の方が上手いのだ。俺は彼女に食べたい事を力説したら、エリーゼは『仕方ないわねぇ』と言ってくれた。目を合わせてくれなかったけどすごく嬉しそうだった。


 そのため俺達は朝に少し模擬戦をした後、新都アマテラスで買い物である。


 ちなみに模擬戦の結果、わかった事は速さと技術力では俺がツバメやエルよりも上だったが、力や防御力や体力は彼女達の方が上だった事だ。エリーゼは俺にほぼすべての能力で及ばなかったが、魔法スキルが上がれば追いつくこともできるだろう。俺のLVはあがる気配ないし。


 もちろん戦いは俺の全勝だ。もっとレベルの高いプレイヤー達とやりあっていたんだ。まだまだだぞ、お前ら。まぁツバメは少しだけひやっとした部分もあったが。

 ちなみに三人は模擬戦後こんな反応だった。


「なにとぞ、なにとぞ! 拙者をカグヤ殿の弟子に!」

「クラーケンの1件後、あんなに訓練してレベル上げたのに勝てないのか……」

「あたしこの神都の中でも上位の魔法使いなのよ。全部防ぐって……嘘でしょう?」


 と俺が先ほどの模擬戦を思い出していると、隣の鬼人が俺のローブを引っ張った。

 

「おお、カグヤ殿、カグヤ殿! あそこに氷菓屋さんがあるのでござるよ、行くのでござる!」

 はしゃぎながら俺のローブを再度引っ張るツバメ。お前は祭りに来た時の子供か。

 

「ああわかった、わかった。買うからそんなに引っ張るな」

「よし、では拙者先に行っておるぞ!」


 ツバメは嬉しそうにほほ笑むと、スキップしながらアイス屋へ入っていく。俺達は笑いながら彼女のあとを追って店に入った。

 

「おお、まっっっこと素晴らしい! 店主、お勧めはどれだ?」

「そうでしょう。ぜぇんぶ、お勧めですよ!」


 女性エルフ店主は両手を大きく広げると、にっこり笑う。

 ツバメはじっとそれを見ていたが、やがて悔しそうな表情をうかべた。

 

「くぅ~そうかならば仕方ない。店主、ここからここまで全部くれ!」

 と、調子に乗ったツバメの頭に俺はチョップを入れる。


「なな、何をするんじゃカグヤ殿!」

「仕方なくねえよ! お前は俺のアイテムボックスをアイスで埋める気か!」

「しかしじゃな、氷菓であるぞ、しかも抹茶もあるのじゃぞ!」


 確かに抹茶は好きだけどさ。だからなんだよと問いたい。


「そんなにいらねえよ。また買いに来ればいいんだから一つで我慢し……」

 『しろよ』と言いかけたところで、俺は物欲しそうな目でみるエリーゼに気が付く。こいつもか……。


「ああ、わかったわかった。一人三つまでだからな……それ以上は次来た時な」


 それを聞いたツバメは声を上げて両手を天に突き上げる。そしてエリーゼも花が咲いたように笑顔になった。お前らそんなに嬉しいのか。つうかエリーゼよ、お前は自分の金あるのだから好きなだけ買ってもいいぞ……。


「や、やったのじゃぁあぁぁぁ! エリーゼ選ぶぞ!」

「ええ、私はバニラとレモンと……いえストロベリーも捨てがたい」

 全く。こんな喜ばれたら俺の口元がゆるんでしまうじゃないか。


 先ほどから黙ってその様子を見ていたエルは俺を見てポツリと言葉を漏らす。


「カグヤは二人のお母さんみたいだな」

「……エルは性別知っているんだからさ、そこはせめて父と言ってくれよ」


 否定できないのだから。ちなみに俺は抹茶、エルは葡萄のアイスを買った。そう言えばアイス全般が嫌いな人を見たこと無いな。


 俺達がアイス屋からて少し歩いた時だった、少し離れたところから俺を呼ぶ声が聞こえたのは。

「み、見つけた! カグヤさん、カグヤさん!」


 俺はそちらを振り向く。俺を大声で呼んだのはダンジョン講習をしてくれたカールさんだった。

 彼は走って俺達の所まで来ると、肩で息をしたまま言う。


「すまない。はぁはぁ、カグヤさん貴方の力を……貸してくれないか……はぁはぁ、び、ビーチェさん達が、ビーチェさん達が大変なんだ!」


設定を見てて気がついたこと

料理   カグヤ○、ツバメ○、エリーゼ○、エル壊滅的×

裁縫   カグヤ○、ツバメ○、エリーゼ△、エル壊滅的×

掃除洗濯 カグヤ○、ツバメ○、エリーゼ○、エル△

空気読む カグヤ○、ツバメ×、エリーゼ△、エル○

やっぱ主人公が最高のヒロインだったんや(遠い目)


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