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異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
20/44

しんとあまてらす


 ゲームプレイヤーに神都アマテラスと言えば? と問えば真っ先に神木と答えるだろう。俺だってそうだ。


 神木ユグドラシル。樹齢は4000年以上。高さは100メートルをゆうに超え、太さは数10メートルにもなる。神木の周りを歩くだけで数分かかるほどで、観光客やツバメで無い限りわざわざ一周する人もいないだろう。また神木の南側にはアマテラス神殿が立ち、北側には俺達がここに来た目的であるダンジョンが存在していた。

 ちなみにその巨木は町の西側にそびえ立っており、そこから東に向かって扇状に建物が立ち並んでいる。俺達が居るのはその扇の中央付近だろうか。


「冒険者ギルドはここよ」

 エリーゼさんによると、神都アマテラスのダンジョンにもぐるには、この街の冒険者ギルドで許可を貰わなければならないらしい。なんでもダンジョンの知識が無いまま潜って死亡してしまう事がよくあったため、ギルドの許可を得てからでないと入れないようにした、とかなんとか。


 ということで俺達は真っ先に冒険者ギルドへやってきた。エリーゼさんはフードを深く被り(俺もそうだが)、俺の隣を歩いている。

 俺達は市役所のようなギルドに入ると、総合受付でアマテラスダンジョン冒険許可を出してもらえる場所へ案内してもらった。


 案内されたカウンターにいたのは、白髪ショートカットのエルフだった。ぱっちりとした目に白い肌、少しだけふっくらしているものの、美人と言えるだろう。ついでにエリーゼには無い巨峰が彼女の胸に存在していた。


「あれ、リンダじゃない」

「あらエリーゼ、1週間ぶりくらいかしら。それで後ろの人たちは?」


 俺はフードを取ると、小さく礼をする。

「初めまして、カグヤです」

「お初にお目にかかる。拙者、ツバメと申す」

 エリーゼにリンダと呼ばれた女性は、軽く礼をすると笑みを浮かべる。


「初めまして。リンダよ、えとエリーゼとは幼馴染みたいなものね」

 ああ、一応知り合いはいるみたいだ。完全なボッチだと思ってました。


「にしてもあんたがこんな短期間で町来るなんて珍しいわね。何かあったの?」

「それは、その。魔石を取りに……」


「あれ、あんた確か先月ダンジョン行って魔石大量に集めてなかった?」

「それは、その……」

 そう言えばここに来た表向きの理由はそれだった。連れてきてしまったのだし、フォローを入れた方が良いだろう。


「あ、いえ。私が無理矢理来てほしいとお願いしたんです」

「ああ、そうなの? それにしてもエリーゼがねぇ……ふーん」


 リンダさんはニヤニヤしながらエリーゼを見つめる。エリーゼは頬をピクビクさせながら口を開いた。

「どうでもいいけど、ちょっと彼女らにダンジョンの許可出してやってよ」

「ええ、もちろんよ。って、そうだ。エリーゼ、あんたダンジョンから戻ってギルドカード更新してないでしょ? 隣のカウンターいって更新してきなさい」


 エリーゼは目を細くして露骨に嫌そうな顔を浮かべると、表情通りの言葉が口から出た。

「はあ? 面倒くさいわ、別にいいじゃない」

「あんたねぇ、次いつ町に来るかわからないんだから今やれって話よ。ひどい時なんて半年くらい家にこもるでしょ? いいから更新しときなさい。そのうちにこっちも対応するから」


「……分かったわよ。じゃぁカグヤ達は任せたわよ?」

 しぶしぶ頷いたエリーゼさんは隣のカウンターへ行く。


 それを見送ったリンダさんは俺たちに向き直ると頭を下げた。

「エリーゼの事よろしく頼むわね。口は悪いけど決して悪い子じゃないの」


「ソレは昨日身にしみてわかりました。なんだかんだ否定の言葉を言いますけど、困った人を見捨てられない子ですよね」

 おだてに弱過ぎてツバメとはまた違った危なさを感じるが、まぁツバメの方向音痴に比べたら全然問題に感じない。まぁどちらも危ないと思ったら、俺が止めれば良いだけの話だ。


「あの子結構年食ってるはずなんだけど、なんでか子供っぽいのよね……まぁ誰かが見ててくれるなら安心なんだけど」

 彼女はウインクしながら俺を見る。いわれずとも危ない時は手を出すつもりだ。

 

「なに、エリーゼ殿は拙者の大切な友人じゃ。わが身を呈して守ろうぞ、安心するがよい」

「ふふ、頼もしいわ。お願いね、っとそうそう、早速許可出しちゃいましょ」


「そうじゃそうじゃ、軽く許可出すと言っておるが、すぐ降りるのか?」

「多分すぐ降りるわよ」

「多分じゃと?」


「ええ、LV20を超えていて、どこでもいいからダンジョンに入った経験があればすぐ許可は下りるわ」

(……あ、なんだって?)


「すみません、私の耳が現実を拒否したようで……。もう一度仰ってもらっても?」

「ん? え、ええ、20レベルを超えていて、どこかのダンジョンに入った経験が有ればすぐ許可が下りるけど……」


 空耳ではないな。20レベルか。後17足りないんですけど。つか俺のレベルアップ速度考えたら絶望なんだが。

「カグヤ殿……どうする……?」

 渋い顔をしているツバメ。俺も同じような顔をしてるかもしれん。


「……あの、レベル満たしていなかったらどうなるんですか?」

「え、満たして無いの? ならアレね、ギルドで主催してる初心者講習にダンジョンコースってのがあるからそれに出てもらうわ。それに出ればすぐ許可が出せるから」


 良かった、LV20越えてないと絶対入れないとかだったら何年かかってたか解らんぞ。

「それなら、一安心じゃな。ちなみにリンダ殿、その初心者講習のダンジョンコースとやらはいつごろやるのじゃ? それと日数は?」


 彼女は後ろを剥いて壁に有った紙を剥がす。そしてそれを見ながら言った。

「今日あるみたいね、午後から。ちなみに他に講習受けようとしているのが3人いるわ。その人たちと一緒で良ければだけど。ああ、期間は3マップを転移するだけだから数時間もあれば終わるわ」


「なら、それ私も受けます。お願いしてよろしいですか?」

「いいわよ、じゃぁギルドカード出して」


 俺はギルドカードを取り出すと彼女に渡す。


「…………えっ?」


 リンダさんの目元に皺が寄っている。そしてすぐに顔を上げ俺の顔を凝視して、またギルドカードを見つめる。

「……あんた…………男だったの……」


 とりあえず返事の代わりにウインクをしておいた。なんかもうみんなこの反応のしすぎで慣れてしまったな。

「あたしよりかわいいとか、ってか本当に男? ん、ちょっと待って……エリーゼ……」


「ああ、大丈夫です。エリーゼさんはもう知ってますよ。その上で昨日泊めていただきましたし。その時に彼女の事も軽く聞きました」


「……聞いたのね?」

「ええ、具体的な内容は無かったですけど、大体把握できました。そこも含めてしっかり見るので安心してください。特にツバメとかは慣れてるんでしっかり守ってくれるでしょう」


 俺は視線をツバメに向けると、彼女は頭にはてなマークを浮かべていた。


「ん、何の話じゃ?」

「ああ、エリーゼさんが変な男に絡まれてたら助けてやってくれよって話だ。俺がいないときは頼んだぞ、ツバメ」


「ほおう、任せよ。なぁに、男をあしらうのは慣れているしのう」


 なんだかんだ言ってお前美人だから結構声かけられるんだよな。さすがに対応もなれるか。まぁこいつの場合美人の前に残念が付くが。


「はぁー知ってたのね? エリーゼも成長したわねぇ……ちなみにあんた襲ってないわよね?」

(襲ってないよ、でも襲われてはいたけどな。……ツバメに)


 俺は笑いながら言う。

「襲ってたら彼女はここまで来てませんよ」

「そうよねー。ハイ、登録完了したわ。あと2時間ぐらいしたらここに集合ね」

 俺はギルドカードを受け取るとアイテムボックスにしまった。


「ああ、そうだツバメさんって剣士系の職業についてるわよね? お願いがあるの」

 リンダさんの視線は俺から外れツバメへ、そして背中の薙刀に向く。


「ほう、どういった?」

「ええ、実は今日は初心者講習の剣士コースで、戦士系の講師が足りなくて……出来れば講師として参加してくれないかしら?」


 ツバメは俺に視線を合わせてくる。俺は軽く頷く事で許可を出した。どうせ今日は俺が初心者講習のダンジョンコースに出なければならない。だったらツバメは勝手に歩き回らないであろうギルドに縛りつけておいた方がいい。


「拙者は構わんぞ」

「ホントにいいの? 給料も出るんだけど、スズメの涙程度なのよね……」


「ああ、構わん。今日はカグヤ殿とダンジョンに潜ることも出来なそうじゃしな」

(ゴメンね、レベルが低いばっかりに……)


「ちなみにLVはいくつ?」

「81で戦乙女をしておる」


「え、81! 凄く高いじゃない! ちょっとちょっと今日の剣士コースの教官の中で一番高いわよ?」

 ってか81でそこまで驚かれるくらいに高いのか……。ゲームではそれほど高くなかったんだがな。むしろ低いくらいだし……って上から目線で言ってるけど実は俺の27倍なんだがな。


 ツバメはギルドカードを差し出すとリンダさんに渡す。リンダさんは受け取ってカードを確認すると足元から黒い箱のようなものを取り出しカードを入れた。


「拙者腕には自信がるのでな! 任せるがよい」

「うわぁ、ありがとう。本当に助かるわ~急に二人足りなくなってね……」


 リンダさんは机の引出しから何かの紙を取り出すと、すらすらと文字を書いていく。


「へぇ二人ですか、もう一人は? 大丈夫なんですか?」

「ええ、大丈夫よ。それは別の所から確保したらしいわ。どんな人かは知らないけれど」

「ほう、でも急に二人もキャンセルが出たのはどうしてなんじゃ?」


 リンダさんが何かを掻書いていると、カードへの処理が終わったのか、黒い箱からカードがぬっと出て来た。リンダさんはカードを手に取るとツバメに渡す。


「近々迷宮の作り変わりが起こるらしくてね、その調査に出てもらったのよ」

「なるほどのう、そう言う事じゃったか」


 リンダさんが言う『作り変わり』とは多分ダンジョン内が定期的に一新される、ゲームで言うところの『大変動』の事を差しているのだろう。


 大変動が起こると大きく地形が変わってしまい、以前と全く違う場所に来てしまったかのように錯覚してしまう。もちろん今まで作っていたマップは役立たずになる。


「ふぅん。アマテラスダンジョンの変動ってどれくらいの周期で行われるんですか?」

「3年おきくらいかしら、そう言えばあなたはダンジョンの知識はあるのね、レベル低いし全くの初心者かと思ってたわ」


「まぁ、それなりに……」


 ゲームでは1000回じゃすまないぐらいダンジョン潜ってました。


「して、拙者は何処に行けばよいのかの?」

「ああ、ごめんなさい。えと、昼少し前にここに来てくれれば大丈夫よ、っともう少ししたらヘルプで頼んだもう一人が来るみたいだから顔合わせだけしとく?」

「そうしとこうかのう」


「カグヤ、終わった?」

 とそこにエリーゼが顔を出す。彼女の方は終わったのだろう。


「終わりましたよ」

「そうだエリーゼ。あんた今日のダンジョン初心者コースの監督員手伝いなさい。前やった事あるでしょ?」


「は? いやよ。なんであたしがやらなきゃいけないのよ?」

「ほら、そこのカグヤさんが今日受けるからよ」


 とりあえず笑っとこう。


「え、ん、でも……カグヤがいても……」

 うむ、やっぱ監督してくれる人は知っている人の方がいいよな。ちょっと押しとくか。


「私もエリーゼさんが居ればうれしいんですけど……」

「……私出なきゃダメ?」


「エリーゼさんじゃなきゃ嫌です」

 本音を言えば別に誰でも良い。講習と言っても数時間らしいし。ただ知っている人が居る方がやりやすいのは確かだ。


「し、仕方がないわねぇ。そこまで言うならあたしが監督するわよ」

「はいはい、じゃぁエリーゼあんたもカグヤさんと一緒に昼ごろここね」


「わかったわ」

 と俺達が話しているときだった。不意に後ろから声がかけられたのは。



「あれ、カグヤじゃないか!?」

 俺達は一斉にそちらに振り向く。そして俺は驚愕した。


 そこにいたのはとても見覚えのある女性だった。肩まで伸びた金髪、青い瞳そしてテラス帝国の紋が刻まれた鎧を身につけた彼女。

 

 アマウズメで別れた聖騎士エルネスタである。


「やっぱりカグヤじゃないか」

「うわ、お久しぶりですエルさん!」


 俺は笑いながらエルさんの手をつかむ。そしたら彼女も握り返してくれた。


「本当に久しぶりだなぁカグヤ! ってツバメもいるじゃないか!」

 エルさんは俺から手を離すと、今度はツバメさんの背中を叩く。

 あれ、二人って知り合いですか?


「おお、エルか。久しぶりじゃのう」

 三人で軽く挨拶を交わし、たわいのない話をしていると、俺のローブが引っ張られた。


「ちょっ、ああ、あん、あんた達、こ、このお方とし、知り合いなの!?」


 引っ張ってきたのはエリーゼだった。あなたの声震えすぎの噛みすぎ。良く見れば彼女は顔を青くしていて、それは目の前にいるリンダさんも同様だった。


「エルネスタさまと……お、お知り合いでしたの?」

 リンダさんはどうした? いきなり敬語になったぞ。なんか俺不安になってくるじゃないか。


「えっと、どうしたんです? てかエルさんが何か?」

 リンダさんはごくりと唾を飲み込むと口を開く。


「こ……このお方はエルネスタ・アンネリーゼ・フォン・ベルンシュタイン様、あのベルンシュタイン侯爵家の長女ですよ?」


 ……侯爵家? へぇ、貴族の中でも上から数えた方が圧倒的に早いな……ってん? あれ?


「はは、そう言えばカグヤに言ってなかったな。ついでに言うとだな、お前の隣にいるツバメはハナカゴ家と言う武術の名門のご令嬢だ。ハナカゴ家は貴族ではないが、貴族たちから尊敬を集める名家だぞ? うちも剣術で大変お世話になってる」


「貴族さまと名家かぁ。へぇぇ…………ってぇ、ええぇぇぇえええええええええええ!」


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