表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
2/44

はろーわーるど


「------------?」

 マジで此処は何処だ? つか俺部屋でゴロゴロしてたはずじゃ?

「おい、じょうちゃん?」

 不意に後ろから肩をたたかれ、俺はそちらを向く。そこに居たのは耳までひげを蓄えた、スキンヘッドのおっちゃんだった。


「あの、えと」

「おい、大丈夫か? なんかボーっとしてたからよ、親とはぐれたのか?」

「あ、いえ。違います。さよなら」

 俺はとりあえず礼をして、歩きだす。


(おちつけ、おちつけ、おちつけ、おちつけ)

(そもそも、そもそもだ。此処はどこなんだ?)


 周りはどっかのゲームでありそうな民族衣装を着ていたり、金属でつくられたような鎧を付けていたり、ローブを羽織っていたり。

「まるでゲームの世界に下りてきたような……これVRMMOか? 俺寝落ち?」

 小さく呟くと、もう一度辺りを見回す。金属の鎧を着た金髪のおっちゃんは腰に剣を差していて、その隣を歩くローブの茶髪女性は手に宝石の付いた杖を持っていた。


 やっぱVRMMOっぽい。ヨーロッパでもあんな格好の人たちが歩いているわけないよな? 映画の撮影ならありえるかもしれないが、カメラもマイクもそれを動かすスタッフすら居ないのは明らかにおかしい。って。


「あいたっ」

 どうやら俺は足元にあった石ころを踏んでバランスを崩したらしい。視界が一転しファンタジーな風景から、地面へ。

 何だか体に大きな違和感がある。まるで自分の体なのに自分の体じゃないような違和感だ。舗装されていない道だから? いや、だからと言って転ぶってそんな事は無いだろう。

 俺はゆっくり起き上がると、そのファンタジーな情景から空へ視線を向ける。見慣れた青い空は少しの間だけ俺の意識を日本に戻してくれた。


(ああ、そう言えばレポートの期限明々後日だったな)

 と、俺が空を見て現実逃避したのはほんの数秒ほどであった。青い空に黒いローブをはおった女性が俺を覗き込んできたからだ。


「大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 

 俺は心配そうに声をかけてくる女性で意識が覚醒する。俺はその女性の全体像を見て自分の体にある違和感の正体を見つける事ができた。

(俺の体、縮んでる。つか、なんだこの服、どっかで見覚えがあるような??)


「大丈夫そうですね?」

「あ、ゴメンナサイ。心配をおかけしました」

 俺は礼をすると、ローブの女性はニコリと笑う。


「いえ、怪我も無さそうで良かったです。……少し背中に砂が付いていますよ」

 彼女の身長はそれほど高くない。縮んでしまった俺の方がわずかに高いだろうか、目の前の女性は俺の背に回ると、手で軽く砂を払ってくれた。俺は彼女に向き直ると再度頭を下げる。


「ありがとうございます」

「気になさらず。では、貴方様に神のお導きがありますように」

 そう言って女性は身をひるがえすと人波の中に潜り込む。そして数秒としないうちに目視できなくなってしまった。

 俺は彼女と逆方向を向くと歩き出し、今までの得た情報を頭の中で整理した。


1.意味不明な場所に居る。ゲームの世界っぽい。

2.体が縮んでしまった。自分が着ている服装もファンタジー化している。

3.来た事がないはずなのに、なぜだか見た事があるような気がする。


 (いや待て日本語は通じてたよな?)


4.日本語が通じる。


(そうだ、情報端末はどうだ? ってそもそも服装が違うのに、ポケット入れっぱの俺が持っているわけがないのか。じゃぁ逆に今何を持ってるんだ?)

 俺は両手で体をまさぐる物の、何かが出てくる気配は一切ない。そもそもポケット何処よ。

(……マジで何も無いな)


5.何も持ってない


 考え事をしながら歩いていると、俺は大きな道へ出た。そこは巨大な十字路になっていて、その中心に崩れたゲートのようなものが設置されていた。

 ん、まて。

 俺はなんで崩れたアレを見つめてゲートって思い当たった?

「はっ?」

 俺は口に手を当て叫びそうになるのを堪える。そして分かった、此処がどうして俺が見た事があるのか!


 

 昔やっていたVRMMORPGの世界にそっくりなんだ。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+ 


 俺が昔プレイしていた『Truth World』と言うゲームは、世界中で人気を博した国産VRMMORPGである。人気の理由は最初に選ぶことのできる種族が多いことと、素晴らしいキャラクタークリエイトのおかげだろう。


 まず選べる種族だが、人、エルフ、ホビット、犬人クー・シー猫人ケット・シー兎人ラビ・シー竜人ドラゴニュートと言った西洋ファンタジーの生物から、狐人フォク・シー狸人ラクー・シー、鬼人、妖怪といった日本でなじみのある種族の中から選ぶ事ができる。そして父母を別の種族にしたハーフも作成可能だ。

 種族を選択した後は細かいキャラクター作りだ。身長や体重の操作や髪の色はもちろんのこと、骨格や肉付き、鼻の大きさ、目の大きさ、胸の大きさだって変更することが出来る。だから高身長黒髪長髪犬耳イケメンだって作れるし、猫耳金髪碧眼ロリ眼鏡巨乳だって作れる。此処まで来るとどれだけ属性付加させれば気が済むんだレベル。

 

 そして嬉しいことにこだわって作ったそのキャラクター達は、まるで現実にいるかのように動いてくれる。あの狐耳だって、あの猫の尻尾だってまるで生きているかのように自然に動く。


 そのキャラクタークリエイトがどれくらいすごいかで言えば、キャラクタークリエイトをしているだけの動画が、数憶万回再生されるレベルでと言えば分かりやすいだろうか。派手な戦闘だったり、この世の物では無いぐらいに美しい世界が動画に映っているわけではない。ただただキャラクタークリエイトしているだけ。それが億を超えるのだ。


 もちろんであるが、人気のあった理由はキャラクターだけではない。オーストラリアの広さはあると言われている広大なフィールドに、多種多様なスキルや魔法。臨場感のある戦闘。どれもこれも数あるVRMMOのなかで最高峰と言ってよかった。


 それがもたらした影響は凄かった。日本だけでなくアメリカのゲーム会社をことごとく捻りつぶし、登録者数は世界最高の十億ユーザーと信じられない記録を打ち立てるほどに。


 もし此処が『Truth World』の世界ならば……。

 俺は頭の中で『ログアウトメニュー表示』と念じる。が、何も反応は無い。

 ならば、今度はこっち。俺は頭の中で『ステータス表示』と念じる。すると、目の前に半透明のメニューが表示された。


ステータス

 名前:カグヤ

 性別:男

 LV:1

 種族:ハーフエルフ(エルフ・狐)

 職業:

 称号:転移者

 スキル:異世界言語LV-M、精霊魔術LV1


 スキル欄はいたって普通に見えて、明らかにおかしい所が一つあった。ゲームでは存在していなかったあるスキル。

(異世界言語……ふぅん。異世界言語ね。って異世界言語!? なんでこんなのが有るんだ? 俺が異世界に来たとでも? はぁ? ちょ、ちょっと待て、異世界?)

 

 異世界に来た? んな訳ないだろ……。いやちょっと待ってほしい。


 何だかこの世界の画質はおかしくないか? やけにリアルだし、地面の凸凹がこんな足に伝わってくるのか? それに町中になら腐るほど見つけられるNPCノンプレイヤーキャラクターが一人もいない。そして何よりメニュー画面やログアウト画面が見当たらない……。


 これは冗談抜きで異世界に来てしまったのか? 


(ちょっと落ち着こう)

 

 信じられないが、異世界に来てしまった確率が高いだろう。だとしたらえどうすれば帰れるんだ? 俺は明後日までに大家さんに家賃を振り込まないと行けないし、レポートの提出期限が……。


(……いや、ちょっとまてよ)


 このまま帰っても、来週までにレポートをつくらなければならないし、異世界だとしたらこのまま此処に居てもいいんじゃないのか? 残して来た人や物はいあるか? あるとしても父母ぐらいだろうか?


 父母達には悪いが、此処が『Truth World』に似た居世界でるならば、こちらで暮らしたい。

 ま、まあ、そっちの話はとりあえず置いておこう。


 それよりも現状把握だ。『Truth World』っぽく見えるのだけれど色々違いがある事が問題だ。NPCもそうだが、ステータスもだ。本来なら表示される筈のHPとか攻撃力とか防御力が表示されていないんだが、どうしてだ?


 それに名前が『カグヤ』になってるし。俺の本名は何処にでもいる普通の日本人男性の物なのだが。


(ん、でもまてよ、『カグヤ』か。うんカグヤ。なんとなくだけど覚えがある。アレはいつの事だったか……)

 

(確か酔った勢いで…………うん。そうだ。サブキャラとして作ったカグヤだ!! そうだ、そうだよサブキャラだよ。確かどうせサブキャラだしネタに走ろうと思って、男キャラをどこまで女っぽく作れるかを試していたはず)


 種族はそう、ハーフエルフ。ステータスでも確かハーフエルフと表示されていた。どんな顔だったか。記憶が確かなら、エルフと狐族の混血でエルフを強めにしたんだ。そのせいで獣耳と尻尾はないけれど、エルフ耳ぽくなっているはず。


 鏡があればしっかり容姿を確認できるのだが、あいにく鏡なんてもんは持っていない。

 確かあのキャラは誰が見ても女の子にしか見えなかったよな……っだからあのおっさん俺の事を嬢ちゃんと呼んでたんだろう。


(男の娘かぁ……。こんなんで異世界の中を過ごすとか……)


 ……いや、よく考えろ。以前の世界だったらフツメンの下ランクだぞ。それに比べれば全然ましな顔だよな。男の恰好すればそれなりに男っぽくなるんだろうし。うん、多分大丈夫だろ。


 まあ、そうだな。容姿に関しては一旦置いておくとして、だ。コイツの能力を思い出そう。


 たしかこのキャラクターは一般的な人族に比べて魔力と俊敏性が高くなっているはずだ。それもエルフと狐族のハーフの所為だ。狐族の強みである速さと、エルフ族の強みである魔力。これで攻撃を回避する魔法使いを作ろうと画策していたんだ。代わりに力と防御が凄く低いはず。エルフも狐も力と防御は低い種族だし、そこは切り捨てたからな。


 そんでたしかキャラ名は適当な姫からとって、『カグヤ』にしたんだよな。

 どうりで服装も見た事あるような気がしてたんだよ。コレ、俺が着せた服だわ。


 ってことは、だ。


 俺は頭の中でアイテムボックスを念じる。すると目の前に半透明のメニューが表示され、俺の荷物一覧を表示させた。


所持金計

601000エル


内訳

 銅貨×0

 大銅貨×0

 銀貨×1

 大銀貨×10

 金貨×5


アイテム

 ・初心者用ポーション×5

 ・初心者用マナポーション×5

 ・中級MP回復量上昇ポーション×100

 ・中級MP回復量上昇ポーション×100

 ・上級MP回復量上昇ポーション×100

 ・初心者のダガー

 ・ヘイストダガー

 ・みかわしのローブ

 ・疾風の靴

 ・混沌の意思

 ・身代り人形


(ああ、この装備はアレだ……LV上げる準備だけして放置してた臭いな。ある程度のお金と速度アップ系装備ときたらそれ以外考えられねぇわ。サブキャラじゃなくメインキャラならもっといい武器が大量にあったんだが……)


 いや、今その考えは捨てよう。逆に考えるんだ。ある程度の金があって、必要最低限の武器防具があると。そう考えれば悲観したものではない。


(ん、いやちょっと待て。そもそもだ、この世界ではゲーム通貨エルは使用できるのだろか?)


 俺は少しだけ道をそれ、屋台へ向かう。そして買い物している女性の手元を見て安堵の息を吐く。


(あれはエル大銅貨だな。大丈夫、これなら何とかなるぞ)

 ある程度状況がのみこめて来たここで、もう一度状況整理しよう。


 Q.此処は何処

 A.『Truth World』に似た世界もしくはそれ


 Q.私はだれ

 A.以前クリエイトした『カグヤ』になっている


 Q.生活どうすんの

 A.ある程度の金はある


 さて、これからどうするのかだが、とりあえず俺が今すべきことは生活基盤を整えることだろう。今ある金では心もとないし……それで、金を稼ぐならなんだ? 冒険者とかってあるのか?

 もしあるならば冒険者をしよう。実を言えば中学2年生のころから憧れていた職業なんだ。


 もしなかったら……を考えるのは後だ。まぁ何をするにしてもにしてもレベルを上げはしておいた方がいいだろう。俺の記憶が確かならこの街、港町イナバにはダンジョンがない。近くでレベル上げ出来る場所はと……いや待て。レベル上げする前にする事があるじゃないか。


 それを考えるならばまず行く場所は……テラス大陸北のアマテラス大陸だ。あのゲームと一緒であれば、その大陸南東に有るミカヅチ領にはミカヅチダンジョンと呼ばれる上昇型のダンジョンがある。俺の目的はそのダンジョン……ではなく、近くに隠されたゴーレム寺院だ。


 目的は此処に出現するゴーレムだ。こいつの特徴としてはSTR(攻撃力)とDF(防御力)が馬鹿高いものの逆に行動速度が遅く魔法が使えない、と言った完全な脳筋タイプ。

 レベルアップしたパラメーターを全て筋肉に振ってれば多分こんなのが出来上がるのだろう。


 俺がこいつと闘って、超高速レベルアップ……と行きたいところだが、ソレは無理だ。俺が戦ったところで、勝てる確率は万に一つもないだろう。


 なぜならそれほどまでに相手の防御力と、自己修復力が高いのだ。ある程度のレベルがあれば倒しきることは出来るだろうが、1の俺の攻撃なんて毛ほども感じないだろう。


 だが、それでいい。俺の目的はLVアップなんかではない。格上相手に得られる武器熟練度、魔法熟練度、アーツ熟練度だ。このゲームでは格上相手の戦闘では熟練度の伸びが非常に良い。確かゴーレム寺院に出現する雑魚ゴーレムたちは最低80そして最高で150までのはずだ。最低と比べてもレベル差は79ある。これだけレベル差があると、熟練度の伸びは同レベルモンスター相手に比べると40倍にもなるはずだ。


 ここで俺はあげられるだけ熟練度を上げよう。とりあえず身体強化と魔力強化をマックスまで。身体強化と魔力強化があるのとないのでは大違いだ。あるのとないのでは平均パラメータが大体10倍くらい違うからな。もしゲームで新キャラ育てるなら、確実に此処に向かうだろうし。


 ただスキルを最大値まで上げるまでに、どれくらい時間がかかるのかわからない。ゲームと同じだったら一ヶ月もかからずに終える事ができるだろうが、こっちの世界でどれくらい時間がかかるのだろう。


 とりあえずある程度の金はあるのだから問題は無いか。


 そうときまれば移動だ。しかしこれには大きな問題がある。ゲームであれば移動するのに転移門を使う。転位門と言うものはこれまた凄い物で、長距離の移動を一瞬ですまさせるものだ。例えて言えば東京からパリを一瞬で移動するような感じだ。

 

 しかし此処の町の転移門は北にある。アレ。

 

 そう、ボロボロで少し崩れているアレだ。もはや今すぐに全て崩れてもおかしくないぐらいボロボロだ。

 

(アレで転移できるか? 考えるまでもないな)


 そうなると移動をどうするかだ。出来ればモンスターは狩りたくない。レベルが上がれば上がるほど熟練度は伸びにくくなるから。であれば……船だな。


 幸いにもこの港町イナバには船でアマテラス大陸南にあるアマウズメ領、アマウズメの街へ行く事ができる。そこまで船でいって、北東のミカズチの街に向かおう。そこからはすぐ行くことが出来る。


 そう思って俺はくるりと向きを変える。海は東だ。よし、東へ行こう。

 

 

2015/12/19

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ