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異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
17/44

しんとあまてらすへのみち 2

 アマウズメまでは本当に平和だった。一度狼の群れが出現したものの、それらはあっさり冒険者たちに倒され、ほとんど足止めなく辿りついた。


 ちなみにミカヅチを出てから一日目に、俺は女性メンバーと同じテントに入れられそうになった。そのため俺は二人にギルドカードを見せている。そんな呆れた目で見ないでほしい、少しだけ興奮しちゃう。もちろん冗談だ。


 ちなみに夜は自分の持っているテントをアイテムボックスから出してそこで寝て過ごした。


 到着したアマウズメで俺は適当に食料を買い込み、アイテムボックスに詰め込む。ちなみに買い出しはハンスさんが手伝ってくれた。

 

 今回も冒険者と商人に料理を振る舞ってるせいか、このメンバー内での俺の評価はウナギ登りだ。もう俺はアイテムボックスで商人やってた方が色々良いんじゃないかと思ってしまうレベルだ。


 そしてアマウズメを出発し、順調に進んでいた俺たちだったが、もうすぐニニギの町と言うところである問題が発生する。 

 

「どうしますか?」

 ナオムネさんはディルクさんに尋ねる。

「ちょっとキツイな、2、3匹なら余裕なんだが……」

 俺達の目の前に6匹の豚型モンスター、『オーク』が出現したのだ。



「ったく相談している暇はないぜ、っと」

 ハンスさんは弓を構えるとオークに向かって撃ち始める。魔法使いのエルフ達は詠唱を始め、カーヤさんは短剣を抜く。俺は少し後ろに下がると、一旦咳払いをして付歌を歌い始める。

 

 歌うのは歓喜の歌。さて俺の歌を聞いて戦うんだ皆のもの! ピンチになったら俺も動く。

 とは言え40LV相当の敵だし、よっぽどの事がない限り大丈夫だろうが。


 と思っていた時期が僕にもありました。


 護衛の冒険者たちは、率直に言って弱かった。接近する前に魔法と矢で1匹のオークを倒すことは出来たものの、それだけだった。敵はあと5匹、攻撃をさばいている壁役のディルクさんは本当につらそうで、いつ決壊してもおかしくない。


 俺はヘイストダガーを抜くと、いつでも魔法が使えるように準備する。それから彼らがなんとか1匹のオークを追加で倒した時だった。


「やばい、1匹逃した……ヘラ、逃げて!」

 それはカーヤの声だった。


 ヘラさんは回復魔法を放ったばかりだったせいか、反応が遅れ逃げるタイミングを失ってしまっていた。

 オークはそのままヘラさんの前まで走ると、持っていた槍でヘラさんに突き刺そうと、腕を前に出す。ヘラさんは顔を歪めながら杖で払おうとするも、そんなんじゃ力負けしてしまうだろう。


 そして突き出された槍がヘラさんの体に当たる寸前、俺はオークの槍をダガーで払った。


(あっぶねぇ、ギリギリだった……)

 そして追撃をされる前にオークの腹に蹴りを入れる。そしてオークの体が浮いた瞬間にオークの喉めがけてダガーを突き立てた。


 ヘラさんはペタンと尻もちをついて俺を見つめていた。多分大きな怪我は無いだろうし、このまま次を狩ってしまおうか。



「おい馬鹿。カーヤ、後ろだっ!!」

 ピンチをしのいだかと思った瞬間、今度はディルクさんの叫び声が響く。

「え、」


 カーヤさんは俺の動きに気を取られていたのか、呆けた顔のまま後ろを振り向いた。

(やべぇ、間に合え!)


 そこにはカーヤさんに槍を振るうオークがいた。カーヤさんはすぐに真顔になると地面をころがるようにして攻撃を回避する。しかし、完全には避ける事ができず、肩から赤い血が零れていた。


 オークは豚のような顔で歪んだ笑みを浮かべると、彼女に向かって槍追撃する。彼女は口を半開きにしてぼぅっとオークを見ていた。もう駄目だと思ったのだろうか。


 しかし、その槍は彼女に当たる事は無かった。寸前にオークの頭が燃えあがったからだ。

(また、ギリギリだったぜ……)


 それは俺の魔法だった。無詠唱で発動したファイアボールがオークの頭を焼いていた。しかし一撃ではオークが死なず、燃え盛る頭のままその場で悶えていたため、俺は再度ファイアボールをいくつか放って止めをさす。


 残り2匹になってからはすぐだった。1匹を俺が魔法で倒し、残り1匹を男たち3人が連携で倒してくれた。

「とりあえず、立て直しましょう。まずは回復です」


 俺の言葉で冒険者たちと、ナオムネさんは動き出す。色々と聞きたそうにしていたけど、あとでゆっくりと話そうか。『私の戦闘力レベルは3です』だなんて今言っても信じる事ができないと思うし。


 それにしても私のレベル低すぎ。銃を持った農夫でさえ5だと言うのに。いやそれはマンガの話か。

 

 ヒーラーであるヘラさんはカーヤさんを連れて、男性陣から少しはなれた所で治療を行う。なぜ離れた場所でしているのかと言えば、少し肌を露出させたいから、らしい。


 俺はヘラさんの代わりにヒールを唱えるため、俺は男性陣に近づいた。まずは一番攻撃受けてたディルクさんに。

「じゃあディルクさん、回復魔法唱えますよ?」

「え? お前バードじゃ……?」


 俺は有無を言わさずディルクさんに回復魔法をかける。

「回復魔法まで………………ああ、信じられねぇ。……聖女様だ……聖女様がここにいる」


 なんか超美化されてるみたいだが、無視してハンスさんに向きを変える。そして魔法を唱えた。

「女神様……」


 ……うん、次はユリアンさんだな。

「結婚したい……」


 ……おい、ユリアン。初めて喋ったと思ったら第一声がそれかよ。

 俺は色々な危険を感じたため、男性陣から離れると今度は女性陣の元へ。

「大丈夫そうですか?」


 俺はカーヤさんに回復魔法を唱え終わっていたヘラさんに声をかける。ヘラさんは俺の目をじっと見つめながら答えた。


「カグヤさん……いえ、カグヤ様、先ほどはありがとうございます」

 あれ、こっちもなんか呼び方が変わったような……?


「あ、いえ、気にしないでください。あれ、ヘラさん少し怪我してますよ?」

 俺が駆け付けるの少し遅かったか、ヘラさんの右腕には小さな切り傷があった。


 こいつは確実に俺のせいだろう……助けに行くのが遅かったんだ。俺は傷口にヒールを唱えて完治させる。

「か、カグヤ様」


(なんか先ほどからヘラさんの視線がヤバい気がするのは気のせいだよね? ね?

 カーヤさんもさっきから黙って俺を見てるし。つかお前ムードメーカーだったろ、いきなりどうしたよ……。甘ったるい目で見られているような気がするが、見なかった事にしよう。うん、そうしよう)


 それからすぐに出発して1日もせずにニニギの町に着いた。もちろんその道中は質問攻めにあったが乙女の秘密と言う事で押し通した。『LV1の時にLV100越えのモンスターで、ある程度のスキルをMAXまで上げました』なんて言っても信じてくれないだろうし。

 ちなみに俺が『乙女の秘密』と言う度に女性陣は苦い顔だった。


 俺はそのままアイテムボックスに入っていた荷物を下ろしそのままサヨナラバイバイするつもりだったのだが、少し予定外の事が発生した。


 それは一緒にここまで旅していた皆が、俺のために送別会的なものを開いてくれたのだ。

 本当にありがたい。とてもうれしい。だけどな、男たちの愛は受け取れない。好きな人がいることにして断った。俺こっちの世界に来てから男にモテまくりじゃないか?


 そうして一日が過ぎ俺は冒険者たちとお別れをした。ディルクさんには、チームに入ってくれないかと言われたが、丁重にお断りした。つかあそこに入ったら俺をめぐって男性陣が対立するぞ? 

 俺はチームクラッシャーになりたくない。


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 皆と別れた俺はニニギで食料を買い込み、すぐに町を出発する。俺の知識さえあれば、すぐに神都アマテラスに辿り着くさ!


 うわ、もう着いた。さすが俺!


 ……なんてのは頭の中でしていたシュミレートだ。もちろんそうは問屋が卸さない。


「……やべぇ迷った」

 俺は光届かないアマテラス大森林を一人彷徨っていた。

 今は俺もツバメさんを馬鹿に出来ない。……いやすまん。アレは馬鹿にしていいわ。ひどすぎる。岩を避けるだけで方向を狂わせるとかある意味最強だよ。誰にもマネ出来ないよ。


「それにしても、さびしいな……」

 最近は一人で十人分くらいの元気さのあるツバメさんがいたり、俺にアプローチをかけてくる冒険者たちと一緒にいたりしていた反動か、人恋しさがヤバい。


「マジでずっとこのまま迷い続けるのか? それは無いと思いたい……が、詰みかけなんだよな。帰り道分んなくなったし……」

 迷ってから方向感覚が無くなって、もう何処を歩いているかもわからない。ニニギから神都は一日歩けば着く距離なのだけれど、一日経過しても一向につかない事を考えると同じところをぐるぐる回っている可能性すらある。


「一応最終手段はあるけどさ……」

 そう本当の最終手段。ゴーレム寺院の神の四畳半へワープする事。それは出来る、出来るが。


「……10日前に戻りたくないな」

 せっかく10日かけてこっちまで来たのに今更戻りたくない。当然だ。


「転移門が生きてれば話は別なんだけどなあ」

 そうすればわざわざカグツチからここまで馬車で来る必要もないのだが。頼むからゲームのように大きい町や、ダンジョン前にはゲートを設置して欲しい。ウィザード・カオスである俺だから、魔法陣さえ刻んでしまえば転移は使える。しかしソレは一度その場所に行って魔法陣を刻まないと駄目なんだよな。


 ああ、陰鬱だ。以前ゴーレム寺院を探して草むらを歩いているときも思ったが、一人で道なき道を進むのはかなりさびしく精神的にキツイ。かなり不安になる。

 

 『夜にあまり深く考えすぎない方がいい、暗いと悪い事ばかり考えてしまうから』。そんな事を言っていたのはネトゲ仲間の廃人だったかな。


 確かに彼の言う通りだわ。暗い森の中を一人彷徨い歩いているが、さっきから頭に浮かぶのは悪い想像ばかりだ。本当に道があってるのかって。今回は確実に間違ってるだろうね。


「そういやゲームの設定で神都を目指そうとする者には、結界に阻まれるっていうのがあったよな。もしかしてその設定で俺阻まれてる? だとしたら一生辿り着かないぞ?」

 今更後悔しても遅いが、町でしっかり道聞いとくべきだった。誰だ自分の知識に自信持ってたやつ。私です。


 とその時だった。俺の気配察知が反応したのと、遠くで何かが倒れるような音が聞こえたのは。


 俺は口を閉じ腰を落とすとヘイストダガーを抜く。

(何だ……モンスターか?)


 そしてその気配を探り、辺りを警戒しながらゆっくり歩きだす。

 足の踏み場のないほど草の生えた道は、自分の足で踏みつぶして道を作り、少しづつ進んでいく。

 なるべく音は立てないように。


 俺はそのまま数十秒進んだ時だった。俺は一部不自然に草が倒れている場所を見つけた。

(足跡? そして草をかき分けている後だ。まさか人間? いや、ゴブリンと言う可能性もある)

 俺はその足跡をたどり、慎重に、慎重に前に進む。

(罠は、ないな。ただ歩いているだけか? ん?)


 そして俺は見つけた、見つけてしまった。少し開けた場所に、1メートル以上の黒っぽい何かを。

 俺はコクリと唾を飲み込む。

(何か……いる!)


 俺は目を凝らしそれを見つめる。草むらに倒れている物、いや違う。アレは者。

「……おい……ここアマテラス大森林だよな。ありえねぇだろ…………」


 そこには黒濃い紺色の着物を着た女性が倒れていた。髪は黒くて背中に薙刀、腰に刀。また髪の間にはかわいらしい角がちょこんと二つ…………おい。


 …………あれ、コレ凄く……見覚えがあります。


 倒れていたその女性は、人の気配に気が付いたのか、ゆっくり顔をあげると震える声でこう言った。 

「拙者に……なにか食べ物を恵んでくださらんか……」


「ってまたかよぉ! ツバメぇぇぇえぇえええ!」


+----+----+----+----+----+----+----+----+----+ 


「いや、かたじけのうござる!」

 俺の三日分をたいらげた彼女はお腹をさすりながら笑顔を浮かべる。よく食えるよな……。


「ええ……。それにしても、どうしてツバメさんはアマテラス大森林に?」

「いやな、それが不思議な事が起きての。ツバメ殿と宿屋で別れたではないか。そのあとすぐにのう拙者、人とぶつかりそうになったんじゃ。それでな危ないなあと思て、避けたんじゃが、その後ギルドに向かって歩いていたら辺鄙へんぴな村に辿り着いてな」


 んん゛? ちょっと待て、お前は何を言ってるんだ? 急に話が飛んだぞ。ちょっと整理しようか。

「んと。私たちカグツチの町に居ましたよね……村ですか?」

「ああ、村じゃった。それでなそこで拙者は有り金はたいて食料を買ってカグツチに戻ろうとしたんじゃ。したらな、今度はここに来てしもうてな! ははは、もうだめかと思うたわ!」


 いやもう突っ込むだけ無駄だ……。これが普通なんだ。そうだ普通だ。ギルドに行こうとしたらアマテラス大森林に行っちゃう事なんて良くある話……んなわけねえだろ! 思わずノリツッコミしたよ!


 駄目だ。これはダメだ。彼女には誰かが付いていないとだめだ。いやマジで。

「……ツバメさん、あなたダンジョンに行きたいって仰ってましたよね、そのダンジョンにこだわりってあります?」


「うむ、ヤマト以外ならどこでも良い……自身を鍛えられるならな」

「……私、アマテラスダンジョンへ向かう予定なんですけど、ツバメさんも一緒に行きませんか? 出来れば、そのダンジョン内も一緒に」


 あ、あれだ薬草を採取している間、少しだけ見張ってくれていると非常に助かる。けして一人がさびしいわけでは……な、無いんだからね。


「おお、ダンジョンか? 嬉しいお誘いじゃ。もちろん一緒に行かせてほしい。が、拙者お金がなくてな……その……」

「ダンジョンで稼いだら少し私が報酬を多くもらいます。それならどうですか?」

 ツバメさんは嬉しそうに笑うと俺の手を取る。ツバメさんスキンシップ取りすぎ。顔赤くなっちゃうからやめて。

 

「おお、なるほどのう! 是非一緒に行かせてほしい。なぁに拙者に任せておけ、戦闘もマッピングも完璧でござる。大船に乗ったつもりで良いぞ!」


 ん? マッピングで大船? 泥船と間違えたのかな?


 まったく。

 何故だろう。なぜか彼女と話しているだけなのに、凄くうれしくて口元がゆるむ。


「ん、カグヤ殿、どうしたニコニコして? もしかして拙者とまた一緒できる事が嬉しかったのか?」

「あ、俺は、その」

 べ、別に図星じゃないんだから!


「拙者はうれしかったぞ、さあ、行こうか」

 俺は彼女に手をひかれ、森の中を歩き始める。

 ツバメは目の前の枝を手で払ったのをみて、俺はすぐに俺はツバメの前に立つ。そして彼女が歩きやすいように道を作りながら、前へ前へと進んでいく。


「ああ、そうじゃ、カグヤ殿。拙者の事は呼び捨てで良いぞ。そっちの方がいいやすかろう? それに拙者もカグヤ殿には呼び捨てで呼んでもらいとうござる」


 すでに呼び捨てで叫んでたし。今更なのかもしれないけれどな。

「……そうだな。そうするよ、ツバメ」


 昼間でさえ木々によって光が遮られ、まるで夜のようなこの森。だけど今はこの森が少しだけ、明るくなったように俺は感じた。

 

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