表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界奇想曲  作者: 入栖
第零章 序曲 - プロローグ -
11/44

ごーれむじいん


 俺が当初の目的だったゴーレム寺院に向けて出発する準備ができたのは、ミカヅチに到着してから四日後の事だった。

 到着初日は盗賊の件でバタバタして準備する暇がなかったし、二日目は野営のアイテムを集める事と、クラウスさんに会うことでつぶれた。

 そして三日目想定外の事が発生し、急遽しなければならない事ができたせいで一日がつぶれてしまった。


 その想定外は回復アイテムの質が悪いと言う事だ。

 俺がMP回復ポーションを購入した事で発覚したのだが、売られているポーションはすべて下級ポーション以下だった。


 『ウチにある最高のポーションだよ』なんて店主が言うもんだから、俺は中級~上級ぐらいかなと安易に考えた。考えてしまった。そのポーションを購入しアイテムボックスに入れた際に『上』でも『中』でもなく、『下』と表示され俺の目の前は真っ暗になった。


 下級魔法数回分の回復しかしない下級ポーションなんて、ボス戦じゃ回復してる間に死んでしまいます。要りません。


 幸いにもゴーレム寺院で使用する最低限必要な薬は確保出来ていたため、直近で使う予定はない。だけど良い薬は持って置くべき……いや持たなければならない。何かあってからでは遅いのだから。


 その後、俺は慌ててこの街の神託の壁へ向かい戦闘職以外の一覧から商人と薬士を選択。そして転職が終わってスキルを覚えた事を確認し、元のシーフへ戻した。

 ちなみに必要になったスキルは鑑定スキルと調合スキルである。


 商人の鑑定スキルは今まで必要なかったから取っていなかったけど、今回の件で身にしみてわかった。必要だ。また薬士を経由したことで薬の鑑定がより細密になっている。


 その後鑑定スキルで町中のポーションを鑑定しまくったのだが、いくつかわかった事がある。一つは町に出回ってるポーションが下級ポーション以下だった事。

 

 二つ目が俺のアイテムボックスと鑑定スキルでは違う名称で表示される事だ。

 アイテムボックスでは『中級MP回復量上昇ポーション』と表示されるポーションが、鑑定だと『MP回復量上昇ポーションLV6』と表示される。


 その後、薬士のおばちゃ……いやお姉さんに色々質問したところ、俺のアイテムボックスが異常な事が判明した。

 

 そもそもアイテムボックスに入れるだけで、アイテムは鑑定されないらしい。ゲームでは誰のアイテムボックスでも特殊なアイテムや薬草以外鑑定されるんだが。


 またこの世界の人々はポーションは上級、中級と言わずにLVで表現するらしい。俺が上級ポーションと言ったら『何それ?』と言われてしまった。俺は『ポーションLV何それ?』状態なんだがな。



 ちなみに調合スキルは今は使用しない。その代わりにゴーレム寺院でのスキルLV上げが終了したのちに、ある作戦を実行するため使用する。

 

 それは『薬が売られてないなら、作ってしまえばいいじゃない』作戦である。


 今後この世界で過ごすにあたって必須なアイテムであろう薬。出来るだけ最高の物を取り揃えておきたいが、入手できなそう。

 じゃぁ作ればいいじゃない。


 と言う事で、今後の活動方針が決まった。スキルLV上げが終わったら、アマテラス大陸中央部にあるアマテラス大森林近くの街へ。そして準備を整えたのち森中央部にあるエルフの里、神都アマテラスへ向かおう。


 その神都アマテラスにはアマテラスダンジョンと呼ばれる転移型迷宮がある。そこには貴重な薬草が生えている上に、杖、弓、イヤリングが高確率で入っている宝箱が発見できる。

 

 ここでLVアップを兼ねて薬草を集める作戦だ。まあ、その後ひたすら一心不乱に薬草調合の地獄が待っているが。


 そんなこんなの予定を立てつつ、食料の買いだめしつつ1日を過ごした。


 そして今日、俺はようやくゴーレム寺院に行ける……! 


 

+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 ゴーレム寺院はミカヅチダンジョンの北西にある転移門から行く事ができる。基本的にはミカヅチダンジョンへ行く道と同じで、途中から西北に向かって進んでいけばいずれ到着する。


 俺は途中まで一緒にあるいて来た女性冒険者のグループに別れを告げると、ミカヅチダンジョンへ行く人たちから外れ、一人西北へ進む。


 そして歩き始めて五分と経たずに俺の心には不安でいっぱいになっていた。

 もちろん、一人で歩くのはさびしいから……というわけではない。


「えと、こんなにうっそうと茂ってましたかね?」

 俺は誰かに尋ねるように呟いてみたものの、もちろん返事が返ってくる事は無かった。


 人通りがなかったためか、足元は荒れ放題。

 両手で草をかき分け、伸びほうだいの草を踏みつぶしなんとか前に進むも、それらしき場所はまだ見えてこない。

(ゲームだったらこのあたりまで人が並んでる時もあったよな)


 俺が初心者の時に、何度もお世話になった場所だ。

 ここの狩り場は、有名なネズミテーマパークレベルで待たせられるのに、利用者の数は一向に減らない…………結構人気の場所だったはずなんだけどな。

 

 こっちの世界ではけもの道すらないとは。


 多い茂った草をかけ分け、俺は更に前へ前へと進んでいく。そして歩けば歩くほど、不安もつもっていく。

(俺正しい方向に歩いてるよな? つかゴーレム寺院がこの世界にないとかそんな事は……)

 道はあっているとは思うのだが、ゲームの頃と違いすぎる。

 引き返そうか、なんて考えが頭の中をかけめぐり始めたころに、それは現れた。


 石の門と石畳のしかれた道、そして半径1メートルほどの魔法陣。



「ああー良かったみつけた。転移門だ…………けど……これ使えんのか?」



 草などもろともせず突き進んだ結果、俺は寺院の入口である転移門にたどりついた。が、転移門はゲームのころに比べたら、変わり果てた姿をしていた。


 苔と蔦でおめかしした石の門に、ボロボロの石畳。その石畳の上には魔法陣が描かれているものの、その上に蔦が足を伸ばしていて、もはや石の灰色よりも蔦と苔の緑色割合のほうが大きいほどだ。


 俺は不安になりながらも、石畳の上に伸びている草を初心者用ダガーで切り裂きながら陣の前に進む。

 そして目の前まできた俺はしゃがみこむと、その魔法陣にそっと手を触れた。


(ふぅ。どうやら使えるようだな)

 俺が手を触れると陣は薄く青白い光を纏い、まだ魔法陣が動くことを示した。



 俺はため息をつき、陣の周りにあった蔦をダガーで切り、苔をむしる。

(こういう掃除を一度始めると止まらなくなるんだよな。だからA型ぽいとか言われるんだろう)

 とはいうものの、俺は血液型占いを信じていない。そもそも心理学の授業で一番最初に教えられたことが『血液型占いのウソ』についてだったしな。てか俺O型。

 まあたまに信仰している女性がいたりするもんだから、話を合わせるためにある程度の知識は持ってるけど。


 そんなこんなを考えているうちに陣の周りにあった蔦は切り取り終わる。ちなみに切り取った草は寺院の隅でファイアボールで燃やした。


 10分ほど掃除して準備が終わった俺は、ある程度片付いた魔法陣の中心に立つ。

 そして小さく呟いた。


「転移」


 言い終わった瞬間。俺は青い光に包まれ、その場から掻き消えた。


 

+----+----+----+----+----+----+----+----+----+


 

 転移した先もボロボロになっている事を予想していた俺だったが、それは裏切られた。

「入口はあんなに苔蔦だらけだったのに、こっちはそんな事ないのな」


 目の前の寺院は俺の記憶にあった寺院と全く同じだった。

(後はあのバグみたいな仕様が残ってればいいんだが……? まぁ無ければ回避しながら斬りつければ良いか)


 俺は一度だけ致死量ダメージを無効化してくれる課金アイテム『身代り人形』をアイテムボックスから取り出し、ローブのポケットに入れる。そして腰につっていたヘイストダガーを抜いて、石造りの寺院内に足を踏み入れた。


 石造りの寺院の中は暑くも無く、寒くも無く、非常に心地い温度だった。ただ少し空気が乾燥しているだろうか。乾燥していると唇が割れてしまって大変だった昔の俺だったが、今はどうだろう? リップなしでも大丈夫か? まぁ最悪水魔法で湿度をあげれば良いか。乾燥は肌にも悪い。


 俺がスキルアップポイントの拠点となる場所、寺院南東へ向かって足を進めていると、目の前の地面に赤い魔法陣が浮かび上がった。


 そこから召喚されるのは、もちろんゴーレムだ。ごつごつした石の体に少しだけ光沢のある銀色が混じっているモンスター、アイアンオーアゴーレムである。

 

 ゴーレム寺院に出現するゴーレム内では一番弱く、一番もろい。とは言え、倒す為には最低でも50LVは必要だろう。まぁ武器が強いのならば話は別だが。


 俺はこのゴーレムに向かってダガーを振りおろす……なんてことはしない。ゴーレムのハエが止まるパンチを軽くかわして、横を駆け抜ける。


 そう、敵前逃亡である。俺が攻撃した所でダメージは与えられない。倒す事ができないのに、いつ他のゴーレムが現れるかもしれない此処でわざわざ戦う必要があるか? いやないだろう。それならばさっさと目的地へ向かうべきだ。


 俺はたまに出現するゴーレム達の横をするすると抜けながら目的である南東の部屋に辿り着いた。

 バスケットコートぐらいはあるだろうか。結構な広さの部屋で、入口は俺が入ってきた一つと奥の方に小さな小部屋が隣接しているだけ。


 俺はアイアンオーアゴーレムが追ってが来ない事を確認すると、部屋の隅にある小部屋、通称『神の四畳半』に入った。


 『神の四畳半』、ここは窓がついた四畳半の小部屋である。

 俺はそのまま歩いて窓まで行くと外を眺めた。そこからは寺院の横にある湖、ミカヅチ湖が見え、その横には小さな崖がある。


(うわ、湖ちかいなぁ。こっから出れるか? 出れるならいちいち体を洗いに行くために入口まで戻らなくて済むんだが……よし、出れる)


 ゲームでは体を洗う必要なんかなかったが、こちらではそうもいかない。水自体は水魔法でもよいのだが、この生活の中心となるであろう、神聖な四畳半だ。ここを水浸しにするなんてとんでもない。

 体を洗うなら湖まで行けばいい。


 それと湖の横には野ざらしになっている神託の壁がある。このおかげで職業の熟練度が最大になってもいちいち転職のために町に戻らなくても良い。


 俺は四畳半で一息つくと、体を伸ばし戦闘準備を行う。そして俺は四畳半から一歩だけ足を踏み出した。それから数10秒ほどして部屋の中心に魔法陣が出現する。


 出現した魔法陣は先ほどのアイアンオーアゴーレムを召喚した魔法陣よりも一回り大きいものだった。

 それから数秒とせずにその魔法陣は発動し、光の中から白銀の体を持ったミスリルゴーレムが召喚された。


 ちなみにミスリルゴーレムこの寺院の中ボス的存在である。この場所ではミスリルゴーレム以外が出現することは無い。そしてゴーレムを倒すと中心に宝箱が現れミスリル系の装備が入手できる。


 出現したミスリルゴーレムは俺に視線を向けると、俺がいる方向に体の向きを変えた。


 実はミスリルゴーレムの大きさはアイアンオーアゴーレムとそう大差ない。

 しかし攻撃力と防御力は圧倒的にミスリルが上で、俺が一発攻撃を貰ってしまえば即死するだろう。


 残念なことに素早さはアイアンオーアゴーレムより少し早くなったぐらいのため、回避はたやすいが。


 俺は出現を確認すると急いで四畳半に戻る。そして最悪を想定して窓から身を乗り出し、四畳半から逃げだす準備をした。


 ミスリルゴーレムはその巨体を傾け、まるでボディビルダーのような姿勢を取る。するとゴーレムの足元に赤い魔法陣が浮かび、ゴーレムの銀色の体が、赤い光に包み込まれた。

 STR(攻撃力)強化魔法だ。ただでさえ高い攻撃力をさらに上げたゴーレムは俺に向けてゆっくり走り出す。


 ドス、ドス、ドス。初めはふとった男性の走っているような感じだった。

 ドスドスドスドス。とだんだんと速度があがり、

 ドドドドドドドド。最後には近くで工事でもしてるのかな? と思えるほどの爆音になり、速度も上昇していく。


 猪突猛進、と言う言葉がぴったりくるだろう。まるでイノシシのように俺のいる四畳半に向かって走ってくる。そのゴーレムの迫力は凄まじいの一言だ。ロードローラーが自動車ぐらいのスピードで突進してくるような感じだろう。


 そしてゴーレムが四畳半の目の前まできた時にそれは起こった。


 耳をふさぎたくなるほどの爆音。

 辺りに舞う砂埃。


 そして……ある地点から一歩も動けなくなったゴーレムがそこに居た。


 それを見て俺はため息をつく。

 「良かった。これはゲームとおんなじだな」

 

 ゴーレムはまるで見えない壁に阻まれてしまったかのように、突進を止められていた。また、もがけばもがくほどその体は動きを鈍らせていく。それはまるでクモの巣に引っ掛かったトンボのようだった。


 このゴーレムが四畳半前の壁に阻まれる現象。これがこそが神の四畳半と呼ばれる所以である。また見えない不可侵の壁は『エターナルウォール』とよばれていた。


 ちなみにこの『エターナルウォール』が発見された当初は重大なバグとして運営に報告されていたが、運営から帰ってきた言葉は一貫して『仕様です』だった。運営大丈夫だろうかと思ったのは俺だけでないはず。


 そのため此処、ゴーレム寺院はいつでも人で溢れかえってしまうのではないかと思われた。しかしある時期を過ぎてから人の数は減少し、テーマパークレベルに落ち着いた。もちろんそれでも多いが、それ以上に人が多い場所が他には有ったため、稼ぎ場所としては比較的マシだ。

 

 ちなみに此処より人の多い稼ぎ場所は、深夜でさえコミケ並みに人がいると考えてくれれば良いだろうか。絶頂期は1日待ちとか言うふざけた待ち時間になったこともある。もちろん俺は(友人と入れ替わりながらだが)並んださ。

 

 

 またゴーレム寺院のモンスターのレベルが100程度だったことも、人が想像よりも少ない理由の一つだろう。ゲーム後半では100LVゴーレムなぞスズメの涙程度の経験値にしかならないのだ。

 まぁそれでも1時間待ちの狩り場だったが。


 ちなみに『「エターナルウォール」でブリザードをしてみた -エターナルウォールブリザード- 』と言う動画は数100再生しかされていなかった。俺は評価している。


 

「にしてもすげえ迫力だったな。思わず窓から飛びところだったわ」

 俺は半分身を乗り出していた窓から、四畳半の中に戻る。


 そしてアイテムボックスから用意していた布団を取り出すと四畳半に広げた。そして枕元におやつ。そしてランプを置くと、狸族の女性が店主をしているお店から買っておいた魔法書を取り出す。


「それにしてもあの狸お姉さんツクヨミの魔法学園行ってたなんてラッキーだったわ。まさか魔法の教本が手に入るなんて……」


 俺が彼女にお願いし売ってもらった魔法書は、彼女が行っていた学園で教科書として使われていたものである。その数14冊。ちなみに100万エルしたが、これでも安い方らしい。


(日本の大学教科書に使われた本の中古なんて、100円でたたき売りされてんだぜ。てか教授よ、お前自分の書いた本買わせんなよ。しかもわかりにくいしつまらないんだよ)


 俺はその魔法書を布団で横になっても手の届く場所に置く。そして今度はMP回復量増加のポーションも手に届く位置に置いた。


「うし、始めるか……」


 俺はポーションを飲み込み、動けなくなったゴーレムに使えるだけ魔法を使用する。

(魔法を使いすぎるとなんか倦怠感に襲われるんだよな。MPが表示されない以上、この倦怠感でどれくらい魔力が残ってるか把握できるように今練習しとくか)


 そんな事を考えながら俺はゴーレムに風魔法を放ち続ける。そしてMPがすべてなくなって、ひどい倦怠感に襲われた俺は、布団の中に入り込む。

 

 そして片手にダガーを、片手に本を持つ。そして休日のだらしないサラリーマンのような体制で本をめくりながら、片手間にゴーレムを切りつけた。


 ちなみにスキルLVは魔法を使ったり攻撃していれば上がる。そして相手は超格上のモンスターのため上昇率は40倍。

 

 シーフの熟練度は適度に索敵と身体強化と短剣スキルを上げているうちに上昇するだろう。隠密は後でいいや。身体強化や短剣スキルを最大まで上げれば上位の忍者とか怪盗に転職出来るだろうから。それに町中でも上昇する事が判明した為、いつでも上げることができるし。


(ああ、それにしても素晴らしい)


 お腹がすいたらご飯かおやつを食べ、喉が乾いたら飲み物を飲み、ゆっくり読書をしながらスキルLVをあげる。眠くなったら布団でそのまま寝る。風呂に入りたくなったら湖へ行って水浴びすればいい。暇つぶしは魔法書。

 転職するときは湖横の神託の壁へ。


(このスキルLV上げ……最高だわ。何日もかけて此処に来たかいがあったぜ)

(よし、俺はこの四畳半でスキルLVをしながら暮らせるだけ暮らそう!)



 こうして、一人の引きこもりが誕生した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ