みかづちのまち にて
ミカヅチの町は商人や冒険者が多く、この世界最大の国であるテラス帝国でもそれなりに栄えている町である。
何故栄えているか? それは町の北側にあるミカヅチダンジョンと呼ばれる、上昇型迷宮のおかげである。迷宮のモンスターから取れる魔石が人間達の必需品になっているから、らしい。ゲームでの設定ではそうだった。
確かにこの世界に来てから何泊かしたが、どの宿屋にも共通して魔石のランプが使われていた。また火をかけるための物も井戸から楽に水を汲む装置にも魔石らしきものがあった気がする。
要するにこの世界においての電気なのだろう。生活必需品だ。それに魔石は使えば使うほど小さくなって、最後には無くなってしまうらしい。俺は最後まで使い切った事がないから、見た事は無いが。
そんな事を考えながら俺は手に取った魔石型ランプを店主である狸族のお姉さんに持っていく。
狸族の特徴としては、その丸くぱっちりとした目に、少しふくよかな所だろう。また胸がとても大きく、牛族と比べても遜色ないぐらいだ。
現にお姉さんも推定でE以上ある巨峰を持っていて、どうしても視線がそっちに行ってしまう。いやまて、今の俺は女っぽいからじっくり見てもいいんじゃ……そんなわけないですよね。
「お姉さん、コレの替え魔石も此処で買えるんですか?」
「ああ、あるよぉ。どれくらい欲しいのかな?」
「予備として3カ月ぶんくらい欲しいんですけど?」
「え゛、それだと結構重くなっちゃうよ? 持てる?」
「大丈夫です。私、アイテムボックス持ちだから」
狸族の女性は大きな目をぱちぱちさせて俺を見ると、急にほわっと笑う。
「ふぇ。アイテムボックス? いいなぁ。アイテムボックスかぁ。それがあれば何処に行っても重宝されるわよ?」
「まぁ、どこかの商会に入ったらいいように使われそうですね。でも私は冒険者なので」
「そうだねぇ、いいローブ着てるし」
と彼女は俺の白いローブを見つめる。
彼女が見ているこれ、実は知り合いのプレイヤーに縫ってもらったものである。そのためデザインと機能性は素晴らしい出来栄えで、超お気に入り装備の一つになっていた。
また地球では特に気にしていなかったけど、こっちの世界に来て初めて良さに気が付いた事がある。それはローブについたフードだ。フードを深くかぶることで自分の顔をある程度隠す事ができるのだ。
ゲーム内では絶世の美女だらけだったので、俺なんて注目される事などなかったが、この世界に来てからある程度注目を集めるようになってしまった。顔ってやっぱり重要なんだね。
ちなみにフードをすっぽりかぶると、視界が非常に悪くなってしまう。初めは何度かぶつかってしまったが、いつの間にかなんとなく何処に何があるかや、人の気配が解るようになっていた。あとで気が付いた事だが、自身の索敵スキルが上がっていた。これで上がるのかよ……なんて思わず突っ込みを入れてしまったのは仕方のない事である。
「実はこれ友人に作ってもらった大切なローブなんです」
「へぇ、いい友人を持ったねぇ。これ凄く高価な物でしょう?」
「そうですね。まぁ代わりに色々請求されて大変でしたけどね……でもそれにみあった性能を持たせてくれました」
「本当によさそうだもん、いいなぁ」
物欲しそうにチラチラとこっちを見てくる店主。俺は苦笑いしながら言った。
「はは、あげませんよ」
店主もほほを緩め楽しそうに笑った。
「だよねぇ。もちろん冗談だよ」
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朝早くからいろんな店をめぐりゴーレム寺院用の荷物をある程度そろえた俺は、宿で一休みしたのち商人ギルドへ向かった。
目的はクラウスさんからもらうお金である。
ちなみに冒険者ギルドと商人ギルドの場所は、盗賊を捕まえた事を報告するために初日に行ったのでしっかり頭に入っている。一応言っておくが俺は方向音痴ではない。
さて、あの盗賊達だが、あれは護衛の人たちが捕まえた事にしておいた。理由は『そのレベルで盗賊倒せるわけないだろう』、とかなんとか言われたら面倒だから。
それに俺は目立ちたくないしな。ある程度の暮らしができれば良いぐらいの金さえあればいい。逆に彼らは声名をあげておけば仕事も増えるだろう、これはwin-winってやつじゃないか?
リーダーの剣士(俺が一回振った)は申し訳なさそうにしていたが、そんなこと無い。そもそも俺は報酬いっぱい貰う予定から十分だ。ちなみにおやぶんは金貨30枚(三百万エル)子分達には金貨10枚(百万エル)の懸賞金がかけられていた。
しかもそれだけではない。盗賊が所持していた装備品を売ったお金や、クラウスさんの荷物を運んだことでもお金をもらえるらしい。ウハウハだ。
商人ギルドに入った俺はすぐにクラウスさんを見つける事ができた。クラウスさんはギルド内に備え付けられたイスに座って、一人の男性と会話しているようだ。
俺はクラウスさんのもとに歩いていくと、クラウスさんは俺に気が付いたようで、スッと立ち上がる。またクラウスさんの前に座っていた男性も立ちあがった。
「カグヤさん、お待ちしておりました」
「お待たせしました、クラウスさん」
俺とクラウスさんは軽く会釈をする。またクラウスさんの前に座っていた男性は、会釈することなく俺の顔を見て立ち尽くしていた。兄さん顔赤いけど大丈夫?
「おお、これは……なんと美しい銀髪……。こんにちは美しいお嬢さん」
そう言って彼は俺に会釈をする。
「ハイ、こんにちは、お兄さん」
俺はニコリと笑って彼に言う。クラウスさんはその様子を見て苦笑いした。
「君は相変わらずだな。いつもこうなのか……なんて聞くまでもないか」
「クラウスさんも同じような反応でしたね」
「そうだったな」
俺とクラウスさんはあははと笑う。一人、若い男性だけが状況を飲み込めず顔には愛想笑いと?マークを浮かべていた。
「さあどうぞ、こちらにおかけになってください。ああ、失礼彼はウチで働いてる者です。おい」
「始めまして、ゲルトと申します」
「こちらが、カグヤさんだ。実力ある冒険者だぞ」
「大げさですよ、クラウスさん。ご紹介に与りましたカグヤです。自分には過ぎた評価ですので真に受けないでくださいね?」
ちな男です。
「はは、御冗談を。あの実力でそんな事は言えませんよ」
「あれは、まぐれですよ?」
「まぐれ? 私の目の前で、あの盗賊達を捕まえたのを見た限りでは、そうは見えませんでしたがね」
その言葉にゲルトさんは顔を歪めた。
「え、あの盗賊達を捕まえたのはカグヤさんなんですか!?」
「先ほども申しましたけど、まぐれですよ」
ゲルトさんはしきりに感心しているが、そこまで感心されても困る。だってあれくらいなら騎士団のエルさんとローゼさんが居れば余裕でボコボコだよ。
その後世間話を10分ぐらいして、ようやく今日の本題に入った。
「それでは本題に入りましょう、とその前に此処では話ずらいですし、あちらの部屋に移動しましょうか」
言うと彼は商談室と書かれた部屋の一つを指をさす。
商談室は6畳ぐらいの部屋に机といすを並べたようなところだった。ちなみに大きい部屋もあるらしいが、少人数なので今日は此処を利用するとのこと。
俺達は席に着くと早速本題に入った。
「ではカグヤさん、貴方の報酬なんですが合計で……300万エルになりました」
「結構行きましたね。ありがとうございます」
「内訳は、盗賊達の懸賞金と装備品を売ったお金を2で割って280万エル、それに荷物を持ってもらった代金に護衛料金を合わせまして20万エルです。どうぞお納めください」
「ありがとうございます」
俺はそう言ってお金を出された受け取るとアイテムボックスにしまう。
「それとだが、追加で報酬が発生するかもしれない」
「え、追加ですか?」
俺が聞くと、ゲルトさんが口を開いた。
「ええ、あの盗賊達に奴隷の首輪を付けて吐かせたところ、どうやらアジトにいくらかアイテムやお金をため込んでいるらしくて……。
彼の言葉をついで今度はクラウスさんが口を開く。
「それが回収できたら『ほぼすべてをカグヤさんに渡す』、ということで護衛の冒険者たちと話はついた」
「え、全部いいんですか?」
クラウスさんはこれ見よがしに首を振った。
「はぁあ……君はどれだけ彼らに与えたと思っているんだ? 彼らに200万エルは渡してるんだよ?」
まぁイナバの宿屋で宿泊するのに1日1万エルだったから、200日分かな? かなりの大金だ。
「もう十分だと言っていたよ。私も儲けさせてもらったし……。ということで一部を輸送量で引いて、あとは全額君だ」
うむ、くれると言うなら貰っておこうか。
「わかりました。ではありがたく頂戴しますね」
「では……そうだな、後で冒険者ギルドの通帳に入金しておこう」
「はい、よろしくお願いします」
「ふむ、こんなところかな」
「あ、そうだ。クラウスさんに一つお願いしたい事がありました」
「ん、なんだい?」
「『料理の持ち帰り』ができるお店、できるだけ紹介してもらえませんか? アイテムボックスに入れたくて……」
「そうか、移動のときは私も君の買いだめした料理に世話になったからな。私の知り合いの店で良ければ、いくらかおごろう。もちろん美味しい店も紹介しよう」
アマウズメで集めた食品は移動に同席したメンバーに振る舞ったせいで空っぽだ。しかし冒険者にもクラウスさんにも大好評だったからよしとしている。
まあ干し肉やら携帯食料なんかではなくて、出来たてのおいしい料理が食べられるんだからな、喜ぶのも当然なのだろう。
「ありがとうございます。結構買いだめしようと思っていたので」
「ん? 君はまたどこかへ移動するのかい?」
「あ、いえ、しばらくレベル上げに行こうかと思ってまして……。それがどれくらいの期間行くか解らないし、沢山持っておこうかなと」
「なるほどな。君のアイテムボックスはとても荷物が入るからな……そんな事も出来るか」
クラウスさんそう言うと遠い目をする。彼は思い出したのだろう、異常な容量とも言える俺のアイテムボックスを。
本来ならばアイテムボックスはあまり荷物が入らないのだそうだが、俺のアイテムボックスはクラウスさんが運ぼうとしていた荷物のほとんど(多分全部入った)を入れる事ができた。
まぁそれもこれもゲーム時代に、課金でアイテムボックスを最大まで増やしたせいだと思うが。つかこいつに結構金かけてたのにLV1放置してたんだな俺。
「この後は時間があるならそのまま案内するがどうだい?」
「私は大丈夫ですよ」
「なら行こうか」
俺達は席を立ち、商談室を後にすると何件かの飲食店を回る。
その際ゲルトさんは俺のためにイスを引いてくれたり、ドアを開けてくれたりしてくれた。ありがとう、それを女の人にやってあげればすごく喜ぶと思うよ。
その様子を見ていたクラウスさん、初めは苦笑だったが今は大笑いである。
「君があの事を言わずにいる理由がなんとなくわかった。傍から見ればかなり滑稽な様子が見れるんだな」
「ふふっ、ほどほどに楽しみます」
結局彼は俺の付き人みたいな事をずっとしてくれた。もちろん彼は俺の性別を知らない。




