(1)
新神暦294年、2月――。
年に一度の〈杖の儀式〉の季節である。
アルマ王国はとても華やいでいた。
北風と共にやって来る旅人の多くは〈杖の儀式〉を受けようとする若者である。
皆、十四歳――これから大人になろうとしている者達には王国内の旅だろうと、ちょっとした初めての冒険だ。まだまだ幼さの残る顔立ちに、着慣れない長旅用の服。大きいトランクには新調したばかりの正装を詰めている者も多い。
乗合馬車は、この時期が稼ぎ時である。都市間を結ぶ大きな街道はもちろん、この一ヶ月ぐらいはかなりの辺境まで商売範囲が広がっていた。
少しでも金銭を節約しようとする者や冒険心豊かな者は、数週間をかけて徒歩でゆっくりやって来たりもするが――何はともあれ、王都は凄まじい人で連日賑わいを見せる。
第三王壁区画は未完成であるため、王壁のあちこちは建造途中である。普段はそうした王壁の隙間から出入りする者も多いが、せっかく遠方から出向いたのだからと、若者のほとんどは中央の大門から王都の中に入りたがる。結果としての大混雑、乗合馬車が街道に行列を為す光景は毎年お馴染みのものだった。
王都の大門をようやく抜けた若者は誰だろうと、これ以上ない歓待の雰囲気に包まれる。旅の疲れも一気に吹き飛び、パッと晴れやかな表情に変わっていく。
王都の住人にとっては、〈杖の儀式〉の一週間は盛大な祭りである。
極彩色の飾り付けがあちこちに為された街並みは、住人の心も非日常に誘い込む。窓辺から誰かが振り撒いた紙吹雪、いつもの二倍、三倍に増えている露店。昼間から酒を呑んでいても文句を云う者なんていない。陽気な赤ら顔になった年寄りの集団が、きょろきょろと不安そうにしている旅の若者を強引に宴会に引っ張り込む風景も、この時期にはよく見受けられる。
一週間のそんな楽しい時間も、しかし、今日で終わり――。
七日目の朝である。
第一王壁区画の最奥、王城に繋がる門が今朝も開放されようとしていた。
そして、昨晩から門の前に寝泊まりして場所取りをしていた者達が一斉に走り出す。これもまた毎年の風物詩である。彼らの目指す場所は、王城の敷地内にある闘技場――すなわち、〈杖の儀式〉が行われる会場だった。
正午を迎えれば、国王の第一声と共に〈杖の儀式〉が始まる。
早朝から一番乗りした所で、何か明確なメリットがある訳ではない。夜中から並んでおくぐらいならば、昨日の内に〈杖の儀式〉に参加しても良いのだけど、彼らは、その日の一番になる事で縁起を担ごうとしていた。
闘技場の準備は既に整えられている。係員に入口で制止された者達は、通路の奥に目を凝らし、闘技場の地面に何体も横たえられている〈サーラス〉を確認する。獣が獲物を見つけたように、若者達は小さな唸り声を上げていた。
輝かしい己の未来を、若者達は夢想するのだ。
騎士になるための第一関門――それこそが〈杖の儀式〉なのだから。