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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第5話 戦争という遊戯
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(22)

 遊戯戦争における久々の大勝に、アルマ王国の王都は湧いていた。


 王剣騎士団の凱旋は、そのままちょっとしたパレードとなる。沿道には、無数の人々。万雷の拍手と歓声で満ちていた。量産機である〈サーラス〉が続々と行進する中、その先頭に華々しく据えられたのは〈レーベンワール〉と〈イストアイ〉の二体である。


 まるで主役のようなポジション。ユーマは最初、騎士団の先頭に立つなんて恐れ多いと思い、その役目を辞退しようと申し出た。しかし、団長であるローマンは元より、エンノイアやガルシアと云った隊長勢にも無理矢理に押しやられ、なし崩し的に一番目立つ位置に立っている。


 前方左右に〈レーベンワール〉と〈イストアイ〉をゆっくりと進ませながら、ユーマとエンノイアはそれぞれ杖を掲げながら、並び立って行進していた。


 交戦フェイズのフィールドであった荒野と違い、王都の周辺には砂嵐なんて無縁である。


 それなのに、ユーマは銀糸の美しい黒のマントを羽織ったままだ。


 皆から、それを着たままの方が恰好が付くと云われたからである。ユーマはなんだか照れ臭いと思ったものの、エンノイアからしばらくジッと無言で見つめられてしまったため、マントを脱ぐタイミングを失したまま王都の門を潜った。


 そして今、割れんばかりの拍手と大歓声の中にいる。


 歓喜に染まった無数の人々に迎えられて、ユーマはいきなり戸惑ったものだ。赤面した。咄嗟にフードを被って顔を隠したのは、シンプルに恥ずかしかったからである。


 王都は広い。


 長年暮らしてきた場所と云っても、皆が皆、ユーマの顔馴染みなんてことはない。むしろ、知り合いなんて本当の一握りだ。だから、興味も湧くのだろう。交戦フェイズの久々の大勝という報せと共に、その立役者となった見習い騎士のユーマ・ライディングの名前も広く知れ渡ったらしい。それだから、皆、ユーマの方を熱心に見る。さらに、名前を呼ばれていた。「ありがとう」「よくやった」「こっちを向いて」などと、黄色い声すら入り混じる。


 無数の視線と声――。


 ユーマの知るそれらは、いつでも冷たいものだった。


 声は、侮蔑するもの。

 視線は、集団に加わることのできない不適合者を見下すもの。 


 今も――。

 昔も――。


 今の世界も――。

 昔の世界も――。


 ユーマは大抵、いつも一人だった。


 背中を、羽毛で撫でられているように、ぞわぞわする。落ち着かない。だが、決して不快ではなかった。ユーマには、この瞬間の気持ちを呑み込むだけの準備がまだできていなかった。だから、ひたすら下を向いて、機械のように右足と左足を交互に前に出していく。


 堂々としているのは、むしろ〈イストアイ〉の方である。


『ご主人さま! みんな、こっちを見ていますよ』


『……そうだね、アイ』


『わあ。アイも手を振っていいですか?』


『ダ、ダメだからね。真っ直ぐ歩いて、お願いだから』


 心の中で会話しつつ、ユーマはため息を吐いた。


 すぐ傍には、エンノイアと〈レーベンワール〉の姿もある。「皆、ユーマが気になるようだ」などと、からかうような言葉を彼女から向けられて、ユーマはさらに深く下を向いた。


 本人はそんな風に恥ずかしさのため、フードを目深に顔を隠しているのだけど――。


 それが、良い意味でミステリアスな雰囲気を醸していることには気付かない。


 ユーマを前々から知っている者はとにかく、初めて彼の存在を知り、この場で遠巻きにして眺める者からすれば、銀糸の意匠の入った豪奢な黒マントの出で立ち、面立ちの隠れた様子、前代未聞の大活躍を遂げながらその肩書きは見習い騎士であるという事実――あらゆる要素が、謎めいた魅力となっているのだ。


 数ヶ月前の春、〈拝杖の儀〉の時もそうだった。


 華やかな空気の中に混じる、ひやりと冷たい予感――それは、英雄の登場を予感するもの。現在の大陸で栄華を誇る三大国も、その急成長を支えたのは並々ならない実力を持った騎士ナイトの存在である。アルマ王国においては、エンノイア・サーシャーシャという稀代の天才が、もしかするとその役を担ってくれるかも知れないと期待されてきた。


 今は、それがもう一人。


 勝利の喜びに酔いながら、皆、頭の芯では変化の兆しを感じていた。


 群衆だけでなく、〈レーベンワール〉と〈イストアイ〉の後ろに続く王剣騎士団の面々もそうである。彼らの中でも、交戦フェイズの最後の場面に立ち会った者の表情は特に険しく鋭い。教会の司祭であるエドワードがショックを受けたように、仲間であり身内である騎士団の面々にとっても、あれは余りに現実離れした出来事だったのだから――。


「ところで、ユーマ。あれは、ボクにもできる?」


 王都を行進する最中、ユーマは不意にエンノイアから問われた。


 何の事かと一瞬首を傾げるも、すぐに気付く。


 交戦フェイズにおける、ユーマの放った最後の一手である。


 すなわち、〈量子魔法〉。


 デーゼル王国の本隊、四十体余りの〈リル・ラパ〉を一瞬で一気に片付けてしまうのは、さすがにやり過ぎだろうかと思ったものだけど、あの場、あの瞬間には、〈イストアイ〉の学習のために必要なことだろうと割り切った。


 もちろん、その後、王剣騎士団の面々がエンノイアを除き、完全完璧に絶句し、恐怖に引き攣っている姿を見た時には、ユーマは改めて大いに反省したものだ(なお、エンノイアは「すごい、すごい。さすが、ボクのユーマ」と満面の笑みで抱き付いてきた)。


「はい。たぶん、できますよ」


「それは良いね。ねえ、教えてくれる?」


「もちろん。エノアさんなら、すぐに使えると思います」


 見つめ合い、にっこり笑い合う。


 なんだかんだ、他の誰よりも自分を受け入れてくれるエンノイアは話し易いのだ。


「それでは、手取り足取り……早速、今晩のベッドで教えてくれると――」


「真面目な話から、いきなり冗談に持っていくのやめてください!」


「失礼な。ボクはいつでも真面目だよ」


「……えっと、その方が怖いです」


 群衆の目があるので、あくまでも小声のやりとりである。


 大きな波が押し寄せる予感はあった。


 ただし、何はともあれ、この瞬間はまだ平穏の内にある。


 群衆も王剣騎士団の面々も、そうした兆しを感じつつも表面的には一時の歓喜と熱狂を楽しんでいた。ユーマとエンノイアも同じようなものだ。変わっていくから、今まで通りのやりとりを今まで以上に大切に感じられたりもする。


 今回の第七節の交戦フェイズにおいて、アルマ王国は防衛ディフェンスに専念した。


 長年の好敵手であるデーゼル王国は見事に罠にはまった形で、その戦力の大半を失っている。少なくとも今期中に立て直すことは不可能な痛手であり、アルマ王国が彼の国から侵略アタックを受けるような心配はもうないと云えた。むしろ、これからはアルマ王国が侵略アタックに回る番だ。


 残り、わずかに三節――。


 それでも、デーゼル王国の特別領を奪うにはまたとないチャンスである。


 これからのターン、アルマ王国はデーゼル王国に対して宣戦布告書を出していくものと――遊戯戦争のルールを鑑みれば、百人が百人、そんな当たり前の次の手を考えるだろう。


 だから、誰も想像すらしていなかった。


 アルマ王国は、ここから真に道を外れていく。


 たった一人の思惑――否、ただの熱意と覚悟のために。ユーマ・ライディングという〈アルマの魔王〉の宣戦布告により、大陸はかつてない混沌に包まれる。

【作者コメ】

風邪がさらに酷い。つらたん。


それはさておき、今日中にもう一回更新します。

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