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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第5話 戦争という遊戯
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(19)

 それは、光。


 砂塵舞う荒野に、一筋の光が駆け抜けた。


 デーゼル王国が今回の交戦フェイズにおいて拠点としている簡易砦。その前門から広がる開けた土地には〈リル・ラパ〉が大量に布陣している。斥候に出したもの達と〈レーベンワール〉撃退のために派遣し、敗れたもの達を除けば、宣戦布告書に記されていた戦力の全てが未だここに留め置かれている。


 日の出と共に開始された交戦フェイズ。


 いつにも増して、ゆるゆると動きの少ない戦いと思っていた者が多かった。アルマ王国は〈殲滅戦〉を選択しておきながら、まったく動きを見せないのは臆したためだろうかと――デーゼル王国の騎士ナイトや従騎士は自陣で気楽に笑い飛ばしていたものだ。


 残念ながら、違った。


 デーゼル王国の面々は、激しい戦いが始まっていることに気付いていなかったばかりか、盤面がチェックメイトの寸前にまで及んでいることにも、未だ、間抜けにも気付かない。


 唐突に気付かされる。


 例えば、〈レーベンワール〉の大鎌の一撃。ゴーレムによる戦闘ではまずありえない、装甲とエーテルフレームを一撃で両断してしまったその光景。あるいは、そこに至るまでの滑らか過ぎる身のこなし、スピード。そして、圧倒的な魔力の輝き――紅蓮の魔力は周囲に満ち満ちていた。


 さらに、気付かされる。


 これ以上ないインパクトで、彼らは頬を打たれた。


 現状は、〈レーベンワール〉の襲撃は突然のものであったため、ほとんどの機体がようやく起動を終えたという段階である。最初の犠牲になった〈リル・ラパ〉が一体、あっさりと崩れ落ちて行く様を見つめながら、多くの者が現実を直視できないままに呆けていたが、それでも所詮、敵は突出して来た〈レーベンワール〉の一体――多勢に無勢、取り囲んでしまえば、討ち取るのは容易いだろうと常識的に判断するのは当然のこと。指揮官の命令が無くとも自然に、〈リル・ラパ〉の何体かは〈レーベンワール〉を狙って動き始めていた。


 そんな中に舞い込んだ、不可思議な童女の声。


 それと、光――。


 光のように、速かった。


 アルマ王国の次期正式量産型の試作二号機〈イストアイ〉は、純白の装甲を砂塵で汚すことなく、むしろより一層の黄金の輝きを纏いながら、戦場に舞い降りると同時に疾駆していた。


 何が起こったかわからないまま振り返った者には、まるで、太陽の吐き出した火の玉が降って来たかのように見えたかも知れない。そんな流星のような〈イストアイ〉の出現した地点は、ちょうど〈レーベンワール〉の位置とは正反対。奇しくも、デーゼル王国の本隊を挟撃する形になっていた。色々な積み重なりの果てに、彼らは何もかも出遅れる。


 まっすぐに――。


 純白の閃光は、数多の〈リル・ラパ〉を無視し、その脇をすり抜けて敵陣深くまで一気に突入していく。〈イストアイ〉は、ただ一点を目指していた。最初に狙うは、最大の獲物。デーゼル王国の最高位の騎士ナイトが操るカスタムゴーレム〈ドル・リル・ラパ〉――〈リル・ラパ〉の大群の中央において、本来は全体の指揮を取る役目を持ち、いざという時には切り札として出陣するデーゼル王国の最大戦力である。


 エーテルフレームの輝きは、明らかに他の〈リル・ラパ〉よりも強く激しい。全長も、通常の〈リル・ラパ〉より一回り大きく、それ自体がソードの代わりとなる腕部は、禍々しい程に肥大化されていた。カラーリングも赤一色ではなく、黒のラインが随所に走り、まるで毒を持った生き物のように危険な雰囲気を漂わせる。そのように、本来ならば一筋縄ではいかないだろう〈ドル・リル・ラパ〉に対し、〈イストアイ〉は一切の躊躇を示さないまま、むしろ勢いをさらに上げながら間合いの内に突入した。


 勝負は、一瞬。


 爆ぜた。


 光が――。


 光の奔流に、〈ドル・リル・ラパ〉は一瞬で呑まれ――。




 ――天之超弦剣、一の型〈風〉。




『……あい。ご主人さま、上手くできましたか?』


『うん、上出来。いい太刀筋だったよ』


 ささやかで気の抜ける会話は、幸いにして誰の心にも届かない。


 音のない声は、届く時と届かない時があるのだ。


 ただし、仮にもしも、〈イストアイ〉とその操者の会話が聞こえていたとしても、誰も気にしている場合ではなかったかも知れない。〈イストアイ〉と〈ドル・リル・ラパ〉が交差する刹那、天之超弦剣の横薙ぎの一閃を受け止めようと――あるいは、ぎりぎりのカウンターを狙っていたのかも知れないが――何にしろ、〈ドル・リル・ラパ〉はその凶悪な両手の爪を突き出していた。光のごとき異常な速度で襲いかかって来た〈イストアイ〉に対し、冷静な攻撃と防御を行った辺りはさすがにデーゼル王国トップの騎士ナイトとしての面目躍如と云った所だろうか。


 だが、そこまでである。


 結局の所、〈ドル・リル・ラパ〉の動きには何の意味もなかった。


 天之超弦剣の刃は、〈ドル・リル・ラパ〉の爪を苦もなく斬り裂き、そのまま胴体を真一文字に喰らった。音はない。するり、と――。ケーキを切り分けるように、〈ドル・リル・ラパ〉は上下で半分になっていた。非現実過ぎて、奇妙にも思える光景。当然ながら、誰も何も云えなくなる。


 もちろん、自軍の最大戦力があっさりと敗れたとなれば、それだけで戦意がガタ落ちしても不思議ではない。実際、〈ドル・リル・ラパ〉が何もできずに敗れた時点で、彼らの戦う気力は底を突いていた。だが、〈イストアイ〉の一撃はまったく容赦がなかった。そこからさらに、より一層の精神的ダメージをデーゼル王国の全員に与えたのだから。


 光が、爆ぜた。


 消滅――。


 端的に云って、〈ドル・リル・ラパ〉はそのような目に遭ったのだ。


 天之超弦剣の刃は、〈イストアイ〉のエーテルフレームが発する黄金の輝きに染まっていた。魔力を帯びていたと云い変えられる。刃に纏われた黄金の魔力は、〈ドル・リル・ラパ〉の胴体が真っ二つにされた瞬間、その切断面に〈付着〉――少なくとも、その状況を見守っていた者の多くには〈付着〉という表現がぴったり来るような感じに見えていた。


 黄金の輝きは、〈ドル・リル・ラパ〉の傷口でしばらく明滅していたが――。


 すぐさま爆発的に〈ドル・リル・ラパ〉の全身に広がると、火が消える間際のようなさらに強烈な輝きを放ちながら、後に何も残さず、いきなりパッと消滅した。


 跡形もなく、何もかも――。


 亡骸すら残すことを許されず、〈ドル・リル・ラパ〉は始末されてしまった。


『超弦剣の扱いは難しいからね。一の型を修得できただけでも大したものだよ』


『あい、ご主人さま! 褒めてもらえて、アイはうれしいです』


 再び、純白の天使と操者の会話――。

 ただし、それらはやはり誰にも聞こえない。


『さあ、ここからは手本を見せることにしようか』


 そこまでは、やはり聞こえなかった。届かなかった。


 だが、次の言葉は残酷にも聞こえてしまう。


『本気を出そう、少しだけ……』


 天気の話でもするように平坦な口調なのに、それは完全な死の宣告であり、聞こえてしまった多くの者の心には、それだから声の主であるユーマ・ライディングの名前と存在感が一生消えないものとして刻み付けられることになる。


 ユーマは右手で、杖の先端〈デバイス〉を握り込んだ。

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