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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第5話 戦争という遊戯
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(11)

 月日が少し、流れた。


 第九十八期、第七節――。


 アルマ王国に宣戦布告書を出したのは、長年のライバルである隣国、デーゼル王国。


 宣戦布告書に記された戦力明細には、ゴーレム〈リル・ラパ〉が大量に並んでいた。デーゼル王国の総戦力とまでは云えないが、侵略アタックに割ける戦力としては最大規模。防御ディフェンス側のアルマ王国が〈決闘型〉や〈勝抜型〉を選択すれば、まったくの無意味になる過剰な侵略アタック体勢だが、デーゼル王国は前々からそんな風にして挑発を繰り返している。


 要は、いい加減に雌雄を決しようと――。


 そちらも全力を出してみせろと――。


 アルマ王国は屈辱に晒されながら、それでも〈決闘型〉の戦争形式でエンノイアに頼り、どうにか瀬戸際で侵略を凌いできた。正面からぶつかれば、〈サーラス〉で〈リル・ラパ〉に勝つことは難しい。もしも、激しい戦争で戦力の大半を消耗するようなことになってしまえば、今期はおろか、これから数年の間、アルマ王国は遊戯戦争の最下位から抜け出せなくなってしまうのだから。


 七月十八日――。


 アルマ王国は、防衛宣言書を管理代行者ゲームマスターである教会に提出した。


 これまで通りであれば、そこに記される戦力明細はゴーレム〈サーラス〉と騎士ナイトエンノイアだけである。そして、選択される戦争形式は代表者による一対一の〈決闘型〉。


 これだけが唯一、アルマ王国がデーゼル王国に勝利するためのプランであった。残念ながら、〈決闘型〉で勝利を収めても獲得できる戦争点はタカが知れている上、デーゼル王国の保有する戦力を削ることはできない。〈リル・ラパ〉を一体破壊した所で、次節にはまた、大量の戦力で宣戦布告書が提出される流れが繰り返されるだけなのだ。


 誰もが、既に飽き飽きとしている状況。


 膠着状態の泥仕合。


 ようやく――。


 風向きが、変わる。


 アルマ王国の提出した防衛宣言書――いつものように寂しい戦力明細ではなく、そこにはゴーレム〈サーラス〉とその騎士ナイトの名前がずらりと並んでいた。宣戦布告書を出すことを諦め、防衛ディフェンスに注力しているアルマ王国だから、その気になれば全戦力を投入することも可能なのだ。ただし、それでようやくデーゼル王国と数の上で五分である。スペックで圧倒的に上回る〈リル・ラパ〉に、ほぼ同数の〈サーラス〉では勝ち目がない。


 それなのに、戦争形式は〈殲滅型〉。


 双方、投入できる戦力に制限は設けられない。いずれかの陣営の全滅か、降伏によってのみ勝敗が決する。ダイレクトアタックも許可されるため、〈殲滅型〉は最も過酷で、勝敗に関わらず消耗の激しい戦争になることで知られていた。


 遂に、アルマ王国は自棄になったのかと――。


 周辺諸国は、そんな風に呆れたものだ。


 もちろん――。




【レーベンワール】

 操者:エンノイア・サーシャーシャ



【イストアイ】

 操者:ユーマ・ライディング




 防衛宣言書に記載された戦力明細に、アルマ王国の新型試作機があることは一目瞭然。目を通した者ならば、気付かないなんてことはないだろう。


 だが、一機や二機、新型を投入した所で戦況は変えられない。〈決闘型〉や〈勝抜型〉のような個の力が物を云う戦争形式ならばともかく、集団戦ではそれもまた常識である。


 歓喜したのは、デーゼル王国。


 なぜならば、アルマ王国がようやく決戦に臨む気になったのと、さらには〈殲滅戦〉が選択されたからである。ここで〈サーラス〉を大量に駆逐すれば、勝利した時に獲得できる戦争点は莫大なものとなる。


 所詮は、辺境の国家。


 デーゼル王国も最新鋭機の〈リル・ラパ〉のお陰で調子が良いものの、弱小国のひとつに過ぎないのだ。本来はなかなか、戦争点を大量に稼ぎ、遊戯戦争で上位を目指そうなんて夢は見られない。だから、欲が出る。まさか敗北するなんてことは想像すらしていなかったから、デーゼル王国から『撤退』の可能性は完全に消し去られた。


 新型の試作機に対しても、警戒心なんて微塵もないままで――。


 そのために、最悪の結末が待ち受けるなんて――。


 デーゼル王国の人間は誰一人、予想すらしていなかった。


『ご主人さま』


 風が、荒々しく吹き抜ける。


 七月二十四日――。

 交戦フェイズの前日――。


 アルマ王国の〈基本領〉の南部に位置する、唯一の〈特別領〉。デーゼル王国と国境を接する辺りの荒地が戦場となるのは、いつものことである。戦場を選定するのは、管理代行者ゲームマスター。すなわち、教会である。侘しい草がちらほらとしか生えない丘の上から、ユーマはこれから戦場となるその場所を見渡していた。


 ひと気はほとんどない。


 灼熱に揺れる景色の中、白装束の者達が幾人か――。


 彼らは、教会の司祭や助祭である。まるで神徒のように仮面を付けているが、それは戦場ゆえの形式なのだ。〈殲滅戦〉であり、侵略アタック側と防衛ディフェンス側、双方共に大量のゴーレムを投入しているためか、司祭と助祭の人数は非常に多い。普段よりも広々とした戦場を管理・監督するため、それだけの人数が割かれているようだ。


『ご主人さま、あれが敵ですか?』


『違うよ、アイ。彼らは審判だからね』


 ユーマは、端的に答えてやった。


 口には出さない会話である。


 頭の中で、ユーマは『怖くない?』と問いかける。


『あい、大丈夫です。ご主人さま!』


 舌足らずな返答。


 ユーマは苦笑して、杖を持ち変える。


 傍らを振り仰げば、純白の天使――エーテルフレームを黄金色に輝かせながら起動している〈イストアイ〉。試運転と称して、ユーマは彼女を宿場代わりの砦から連れ出していた。


 本当の戦争ではないからこその気楽さ、である。


 遊戯戦争における闘争は、あくまでも交戦フェイズの範囲内で行われる。明日、既定の時間になれば、刃を叩き付け合い、ゴーレムをぶつけ合う敵同士になるわけだが――逆に、今、この瞬間にデーゼル王国の人間と鉢合わせたとしても争う理由はまったくない。


 暢気に散歩していても大丈夫。


 ユーマにとっては、不思議な感覚でもあった。

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