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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第5話 戦争という遊戯
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(7)

「第二騎士隊長、エンノイア・サーシャーシャ。只今、戦場から帰還しました」


 騎士団長の執務室にて、エンノイアはローマンに迎え入れられていた。


 旅装から平服に着替えてはいるけれど、王都に帰り着いてから一切の休憩を挟んでいない。普通ならば、旅の疲れが出ていて当然である。実際、遠征に同行していた他のメンバーは王都に辿り着いた瞬間、ぐったりとして倒れ込んでしまったが、エンノイアだけはケロリとしており、そのままサッサとこの執務室に赴いていた。


 騎士ナイトとしての実力だけでなく、彼女は色々と規格外なのだ。


「うむ、ご苦労だった」


 敬礼するエンノイアに対し、ローマンはその労をまずねぎらった。


「相変わらずの活躍だったようだな」


 第六節の交戦フェイズ、防衛ディフェンス側として――。


 戦争形式は〈決闘型〉。


 戦争形式のひとつである〈決闘型〉は、侵略アタック側と防衛ディフェンス側、それぞれが代表者(一人の騎士ナイトと一体のゴーレム)を選出して、正々堂々と一対一の戦いで勝敗を決めるものだ。


「いえ、大した活躍はしていません」


 エンノイアは、さらりと真面目な口調で応える。


「普通に、勝利しただけですから」


 エンノイアは、アルマ王国の唯一所有する特別領を守るために先週から遠征に出ていた。彼女が遠征に出るのは珍しいことではない。アルマ王国で最強の騎士ナイトであり、性格以外のあらゆる性能がパーフェクトであるため、遊戯戦争では非常に重宝されている。


 正確には、現在この国は彼女一人に支えられていると云っても過言ではなかった。


 デーゼル王国は今年度の初めから一貫して、毎節、アルマ王国に宣戦布告してくる。国家の方針として、まずはアルマ王国に残った唯一の特別領を奪うことに決めたらしい。


 毎節、宣戦布告書の戦力明細にはゴーレム〈リル・ラパ〉がずらずらと並ぶ。


 正面から数でぶつかることになれば、アルマ王国の不利は必至である。


 昨年のシーズンにおいても、デーゼル王国からの宣戦布告は度々あった。遊戯戦争においてはそもそも、防衛ディフェンス側は侵略アタック側に対してかなり優位に立てるものだ。宣戦布告書に記された戦力を見て、先に対策を立てることもできれば、有利な戦争形式を選択することもできるのだから。


 これまでも、アルマ王国は決して考え無しだったわけではない。


 戦力の様々な運用方法と戦争形式の組み合わせを試してきたけれど――結局は、虚しくも敗北が続いてしまった。最近は、エンノイアの絶対的な個の力と〈決闘型〉の戦争形式を選択することで、どうにかギリギリで踏み止まっているような状態である。


「最近はもう、毎月のように云っていることだが……」


 ローマンはため息と共に告げた。


「エンノイア第二隊長、お前には本当に感謝している」


 アルマ王国は十年前、ゴーレム〈サーラス〉の量産化に成功した際に最盛期を迎えた。当時は最大で三つの特別領を支配するまでに至ったが、慢心のために次世代機の開発競争に乗り遅れ、数年前から周辺国に攻め立てられる一方の体たらくである。


 残された領地は、基本領の他には特別領がたったひとつだけ――。


 連戦連敗による悪循環。


 大敗を喫するということは、ゴーレムが多数破壊されることにも等しい。敗北を重ね、領地と共にじわじわとゴーレムの保有数も減らされた結果、現在のアルマ王国は侵略アタックに戦力を割けないぐらいに追い込まれている。


 本来、遊戯戦争は特別領の占領と戦争点の獲得を目指すものだ。


 宣戦布告書を出すに出せない状態というのは、まさにジリ貧――起死回生の一手を見つけられなければ、なかなかどうしようもない状況である。王剣騎士団の主要メンバーはそれだから、長い間、デーゼル王国を始めとした近隣国家に蹂躙され続けるだけの日々を歯痒い想いで耐え続けてきたわけだが――。


「さて、いよいよだな」


 ローマンが不意に呟いた。


 それに頷き返しながら、エンノイアが尋ねる。


「レーベンの修復は終わりましたか?」


 起死回生の一手――。


「終わった。次節から使えるぞ」


 準備は整った。


「そうですか。団長殿、ようやくですね」


 エンノイアは、とても涼しい声で――。


 冷ややかに思えるぐらい、ぞっとした声で呟く。


「ようやく、デーゼルの奴らを殺せますね」


「おいおい、物騒だぞ……」


 ローマンは笑うが、笑みの奥底には殺気も滲ませていた。


「痛い目に合わせる、ぐらいの云い方にしろ」


 ゴーレム〈レーベンワール〉。


 春を迎えてすぐに、〈拝杖の儀〉で大破してしまったアルマ王国の次期正式量産型の試作一号機。本来ならば廃棄が決定されてもおかしくないだけのダメージを受けていた。それでも修復を試みることが決まったのは、エンノイアからの強い要望があったためである。


『ボクはレーベンに借りを返さなくてはいけない』


 エンノイアはそんな風に云ったものだ。


 何はともあれ、春から夏にかけての数節も、彼女は相変わらず元々の愛機である〈サーラス〉で戦い続けてきた。それはすなわち、アルマ王国が薄氷を踏むようなぎりぎりの防衛ディフェンスを繰り返して来たとも云い変えられる。


 エンノイアが最高クラスの騎士ナイトであることは疑いないが、〈サーラス〉と〈リル・ラパ〉の性能差は歴然としている。〈決闘型〉の戦争形式で勝利できることは、本来ならば異常事態なのだ。平然とやってのけるから、当たり前のように思えてしまうけれど――。


「次節が、計画通りに進んでくれたならば……」


 ローマンが椅子に深くもたれ掛かりながら呟いた。


「胃の痛くなるような、危うい防衛ディフェンス戦からも解放されるな」


「……団長殿は、ボクが負けると思っていたんですか?」


「馬鹿者。お前が傑物であることは重々承知している。だが、それでも、体調を崩す時ぐらいはあるだろう。何かしらの理由で、お前が本来の力を発揮できないタイミングが訪れれば、それでこの国はあっさりと追い詰められてしまうのだ。危うい。まったく、危うい状況が長く続いた。そこからようやく抜け出せるかも知れない。まだホッとするには早いが、それでも、どうしてもな……」


 ローマンは重たい息を吐き出していた。


 歴代の団長の中ではかなり若い方であり、まだまだ現役の騎士ナイトとして最前線に立っていても不思議ではない。これまでの功績や名声を踏まえれば、数年前、前任の団長が退役する際には、当時から第一騎士隊長であったジノヴィ・デニソフが昇格するのが筋だった。


 結局、ジノヴィは団長の席をローマンに譲ったわけで――。


 押し付けた、とも云える。


 ローマンが団長になった経緯には色々な力学が働いていた。政治、人間関係、能力――確かに云えることは、ローマンは騎士ナイトとしてもアルマ王国の中では上位の力の持ち主だったが、それ以上に、人心を掌握する方の力に長けていたということだ。


 ローマンは厳めしい顔立ちや巨躯に似合わず、繊細で機微を深く察する。


 この数年でかなり白いものが目立つようになった髪、深く刻まれた皺。悪く云ってしまえば、ローマンは前任者達の尻拭いをさせられていた。チェックメイト寸前の盤面を『交代』と気軽に云われて押し付けられてしまったのだ。不平不満も漏らしたくなる所だが、ローマンはぐっと堪えてやってきた。


 どうにか、しなければいけない。


 それが己の責任と知っていたからだ。


 耐えてきた。


 耐えてきた、耐えてきた。


 耐えてきた、耐えてきた、耐えてきた。


「ああ、まったく……」


 思い返すは、屈辱と辛苦の日々である。


 ようやく――。

 万感の想いで――。


 ローマンは、こんな風に云えるのだ。


「さあ、逆襲の開始だ」

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