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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第5話 戦争という遊戯
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(6)

【遊戯戦争における、プレイヤーの目的や目標】


 戦争点を獲得すること。

 及び、年度末の和平会談で戦争点を用いて様々な恩恵を得ること。


 そのために、プレイヤーは積極的に他のプレイヤーの領地に侵略アタックしなければいけない。一方で、自国の領地が占領状態に陥らないように、防衛ディフェンスにも気を配らなければいけない。




【遊戯戦争の流れ(一期)】


 一期は一年から為り、一節は一ヶ月から為る。

 一月から十月までの間、通常のターンが繰り返される。


 十一月は、和平ターンである。

 十二月は、休戦ターンである。




【遊戯戦争の流れ(一節)】


 (1)宣戦布告フェイズ

 (2)防衛宣言フェイス

 (3)交戦フェイズ

 (4)戦果報告フェイズ


 ※ 一節の流れを、和平ターン・休戦ターンと区別する意味で通常ターンとも呼ぶ。




【宣戦布告フェイズについて】


 毎月一日、遊戯戦争のプレイヤー管理代行者ゲームマスター(この場合は、管轄の教会)に宣戦布告書を提出しなければいけない。これを提出しないプレイヤーはペナルティを科せられる。


 プレイヤーは、宣戦布告書において、その節に侵略アタックする領地や侵略アタックのために投入する戦力を記さなければいけない。


 管理代行者ゲームマスターは、毎月五日、全てのプレイヤーに対して宣戦布告書の内容を開示すると共に、侵略アタックの権利を獲得したプレイヤーを発表する。


 ※ 宣戦布告は失敗する場合がある。


 一節の間に、複数のプレイヤーが同じ領地に侵略アタックすることはできない。複数のプレイヤーが同じ領地を選択して宣戦布告書を提出した場合、侵略アタックの権利はその節において最も順位の低い(戦争点の少ない)プレイヤーに与えられる。


 侵略アタック権利を獲得できなかったプレイヤーは、毎月八日までに再度、管理代行者ゲームマスターに宣戦布告書を提出しなければいけない。それらは毎月十日に開示されて、侵略アタック権利を獲得したプレイヤーが新たに発表される。


 二度目の機会にも失敗した場合、プレイヤーはその節の侵略アタックの権利を得られない。




【防衛宣言フェイズについて】


 毎月十五日、所有する領地に宣戦布告されたプレイヤーは、防衛宣言書を管理代行者ゲームマスターに提出しなければいけない。これを提出しないプレイヤーはペナルティを科せられる。


 防衛ディフェンス側のプレイヤーは、防衛宣言書において、〈戦争形式〉の選択の自由を与えられる。


 管理代行者ゲームマスターは、毎月十八日、全てのプレイヤーに対して防衛宣言書の内容を開示すると共に、それぞれの領地における戦場を決定・通知する。


 ※ 戦争形式は以下の六つ。


 決闘型――侵略アタック側と防衛ディフェンス側、それぞれが一人の代表者(騎士ナイトとゴーレム)を出し合い、一対一の決闘を行う。ダイレクトアタック(ゴーレムではなく、騎士ナイトに直接の攻撃を加えること)は禁止される。


 勝抜型――侵略アタック側と防衛ディフェンス側、それぞれが五人の代表者(騎士ナイトとゴーレム)を出し合い、勝ち抜き形式で決闘を行う。ダイレクトアタックは禁止される。


 選抜型――侵略アタック側と防衛ディフェンス側、それぞれが五人の代表者(騎士ナイトとゴーレム)を出し合い、決闘型や勝抜型に準じた広さの戦場で同時に戦う。ダイレクトアタックは禁止される。


 討伐型――侵略アタック側と防衛ディフェンス側、それぞれにリーダーを設ける。リーダーを先に倒した側の勝利となる。ダイレクトアタックは許可される。


 制圧型――防衛ディフェンス側は砦を使用する。制限時間内に、侵略アタック側は砦を攻め落とさなければいけない。ダイレクトアタックは許可される。


 殲滅型――投入できる戦力に制限を設けない。いずれかの陣営の全滅か、降伏によって勝敗が決する。ダイレクトアタックは許可される。




【交戦フェイズについて】


 毎月二十五日、防衛ディフェンス側が選択した戦争形式を用いて、宣戦布告書・防衛宣言書による申告に基づいた戦力で交戦が行われる。


 交戦の規模に応じた人数の管理代行者ゲームマスターが立ち会う。


 占領型・殲滅型においては交戦が数日間続く場合もあり得る。次節に影響が及ぶと管理代行者ゲームマスターが判断した場合、その権限により交戦フェイズは中断・中止される場合もある。


 交戦時の様々なルールは、遊戯戦争条約に基づく。条約に記されていないような特殊な状況が発生した場合は、管理代行者ゲームマスターの判断に委ねられ、プレイヤーはそれに従わなければいけない。



 

【戦果報告フェイズについて】


 全てのプレイヤーの交戦フェイズが終了した後、管理代行者ゲームマスターはできる限り早く戦果報告フェイズを開始しなければいけない。


 戦果報告フェイズにおいて、今回の節における全ての勝敗が開示されると共に、全てのプレイヤーの獲得した戦争点や現在の順位が発表される。




【和平ターンと休戦ターンについて】


 十一月は通常ターンと異なり、和平ターンである。


 全てのプレイヤーは十一月十一日までに、管理代行者ゲームマスターの指定した場所――通常は、教会の総本部である〈愚者の塔〉に集合しなければいけない。


 通常ターンで獲得した戦争点を用いて、和平ターンが行われる。


 来期の〈基本領〉の設定、〈特別領〉の範囲、各国間の関税率、人材の移動等――戦争点の消費と話し合いにより、様々な外交問題が解決されていく。


 十二月は休戦ターンであり、遊戯戦争に関する特別なイベントは何も起こらない。


 全てのプレイヤーは来期に備えた準備を行うものとする。


 ※特別領の獲得について


 交戦フェイズで侵略アタック側が防衛ディフェンス側を破った場合、その領地は侵略アタック側の占領状態となる。次の和平ターンが行われるか、再びいずれかのプレイヤー侵略アタックに成功するまでの間、占領状態は継続されていく。


 占領状態になったからと云って、侵略アタック側のプレイヤーがその特別領の所有権を得るわけではない。特別領の所有権を真に獲得するためには、和平ターンに戦争点を消費して交渉する必要がある。ただし、占領状態の間、侵略アタック側の勝利したプレイヤーは、防衛ディフェンス側の敗北したプレイヤーから数多くの恩恵を得ることができる。




【戦争点について】


 領地には、〈領地レベル〉が定められている。


 侵略アタックに成功した場合、侵略アタック側のプレイヤーはその領地を占領状態にできる他に、領地レベルに基づいた戦争点を獲得できる。


 領地レベルが高い程に、獲得できる戦争点は多くなる。


 ただし、交戦フェイズで使用された戦争形式や投入された戦力差、個々の戦果に応じて戦争点は大きく上下するため、どれだけの戦争点を獲得できるかは、戦果報告フェイズで管理代行者ゲームマスターからの発表があるまでは正確にはわからないものとなっている。




【まとめ】


 毎月一日、宣戦布告書の提出。

 毎月五日、管理代行者ゲームマスターから宣戦布告書の開示。

 宣戦布告に失敗した場合、毎月八日までに宣戦布告書を再提出。

 毎月十日、二回目の宣戦布告書の開示。

 毎月十五日、防衛宣言書の提出。

 毎月十八日、管理代行者ゲームマスターから防衛宣言書の開示。

 毎月二十五日、侵略アタック側(あるいは、防衛ディフェンス側)として交戦。

 なお、プレイヤーは十八日から二十五日の間に戦場に移動しなければいけない。

 毎月末頃、管理代行者ゲームマスターから戦果報告が行われる。




 × × ×




「さあ、読み込んだかな?」


 しばらくの時間が経った頃、クレートは笑いながらそう云った。


 ユーマは自然と頷いていたものだ。素直に首を縦に振れるぐらいには、集中して読み込んでいた。元々、読書が好きな性質であり、他人の口からじっくりと説明されるよりも、ある程度は自主学習する方が性に合っているのかも知れない。


 ちらりと横を見てみると、レイティシアは涼しい顔である。


 ワイアットは、頭から湯気が立っていた。


「だ、大丈夫?」


 思わず、そう尋ねるユーマ。


「……わからん」


 ワイアットは爆発する一歩手前の頑固親父のような顔になっている。


「え、ユーマはなに? たったこれだけの時間で、さらりと読んで理解してしまえるぐらいに頭が良いわけ? 俺が馬鹿なだけですか?」


「落ち着いて。……いや、僕だって全部を丸ごと覚えられたわけではないよ。でも、何となくの感じは掴めるでしょう? ぼんやり、と。それに、遊戯戦争について常識として知っていた部分も幾らかあるから――」


 そうなのだ。


 遊戯戦争について、知らなかったことや改めて気付かされること。クレートのこれまでの説明や板書は、そうした新鮮な発見に満ちていたけれど、だからと云って、全てが初めて触れるものばかりというわけでもなかった。


 騎士ナイトだけでなく、一般大衆にも遊戯戦争は広く浸透している。


 既に、常識として知られている部分も多いのだ。


「はいはい、私語は謹んで」


 ユーマとワイアットは、クレートから注意された。


「念のために云っておくけれど、こんな堅苦しい説明だけで全てを理解しようなんて無理な話だからね。むしろ、全てを理解した気になられると困る。実際に、プレイヤーとして戦場に立って、感覚として覚えていかなければいけないことは一杯あるんだ。だから、焦らなくても良い。君達は見習い騎士で、一年間は学びの期間なんだから。ただし、脅すつもりはないけれど、従騎士になれば嫌でも戦場に立たなければいけない。その時に右往左往して、自分や仲間を危険にさらすようなことはして欲しくない。だから、勉強も疎かにしないように」


 三人はそれぞれ頷いていた。


「それでは、質問を受け付けようか?」


 それからは、質疑応答の時間になった。


 ユーマとワイアット、レイティシアはそれぞれに思い付いた疑問をクレートにぶつけていく。もちろん、それで納得のいった事柄もあるけれど、何もかも手堅い実感を得られるわけではなかった。クレートが先に云ったように、実際、プレイヤーとして戦場に立たなければわからない部分は多々あるに違いない。


 チェスのルールだけ覚えて、それで腕前が上がるなんてことはないのだから。


「あー、早く、戦えるようになりたい」


 講義の終わると同時、ワイアットはそんな風に呟いた。早く、戦えるようになりたい――云い変えると、早く、騎士ナイトになりたい。ユーマは一瞬、ちくりと罪悪感のようなものに胸を刺される。ふわふわと定まらないままの己の立場を想った。


 まだ、ユーマは見習い騎士である。


 ただし、〈拝杖の儀〉は終えたわけで――。


(どうなるやら、今後……)


 迷いを振り払うように、ユーマもワイアットに応えるように呟く。


「そうだね。戦って、戦って……そうして強くならないと」


 静寂。


「……あれ?」


 ワイアットならば、何かしらの反応をしてくれるだろうと思っていた。


 それなのに、無言――。


 顔を上げれば、彼はげっそりとした表情で肩を落としている。


「どうしたの?」


「いや、ユーマ、お前さ……」


 何気なく振り返れば、レイティシアからも奇妙な視線を向けられていた。


「お前、それ以上強くなる必要あるの?」


 ワイアットはそんなことを云う。


 クレートも、複雑そうな表情でため息を吐いている。


「……え? あ、だって。強くなれるからには、強くならないと――。それはたぶん、騎士ナイトの義務だよ。アイにも、まだまだ教えることがたくさん……いや、イストアイの調整作業も頑張らないといけないからね」


 どうしようもなく、しどろもどろ――。


 罪悪感がまた、ちくりと――。


(やれやれ)


 胸中で吐いたため息。


 情けなさを向ける相手は、自分自身である。


 迷い――思い返せば、いつでも迷っていたように思う。今も、昔も――遥かな昔も。何気なく浮かび上がる、幻のような記憶。頭痛は起きない。滅んだ祖国、侵攻される人類の領土、空席が目立っていくスクールの教室――あの頃、ユーマは物心付いた時からパイロットであり、生きることは戦うことであり、生きる意味なんてものを欲するのはセンチメンタリズムとして唾棄されていたのだ。


 戦う理由なんていらない。


 それが、いつかの日々の常識である。


 ただただ戦い、ただただ強くなれば良い。


 心のない機械のように――。


(それなのに迷ってしまう、色々なことに……)


 戦わなければいけない。

 強くならなければいけない。


 それが、ユーマの偽らざる今の本心である。


 しかし、そう思っていても色々なものに足を引っ掛けてしまうのだ。例えば、ワイアットやレイティシアの顔色だとか――。ちくり、と。王剣騎士団の中で自分だけが前例のない特別扱いをされていることに関して、ユーマの迷いは未だに尽きていなかった。


「ああ。念のため……」


 クレートが思い出したように云った。


 午前中の講義は、これにて終了――。


 昼休みを挟んで、午後の講義と訓練が始まる。昼食は、各々で自由に取って良い。家族のある者ならば、一旦は家に帰るのが普通だ。ユーマとワイアットも、ターナー夫人が用意してくれている昼食を食べに戻るのが日課になっていた。


 クレートは、本日の午後のスケジュールについて確認する。


「ひとまず、午後はここに集合。騎士道のテストをするから、もう一度復習しておくように。その後、レイティシアとワイアットはいつも通りに基本の実技――本日のメニューは、ゴーレムの手足を同時に動かすのが目標だね。えー、それでユーマの方は、その……まあ、こちらもいつも通りだ。別行動で、イストアイの方に――」


「はい、わかりました」


 ユーマは素直に応じつつも、背中越しにワイアットとレイティシアの視線を感じていた。じっとりと無言で見つめられるよりは、むしろ恨みがましく云ってくれた方が良いだろう――などと思っていたら、「見習い騎士の癖に専用機があるとか……あー、畜生。やだやだ」と、ワイアットが素直に愚痴を零してくれた。


 ユーマは苦笑する。


「そんな風に云われても、ね……」


「えーい、すぐに追いついてやる。覚悟しろよ」


「うん、ワットならできるよ。頑張って」


「ああ、畜生! 天才は余裕があるな、まったく」


 いつものように戯れ合いながらも、ユーマはワイアットの中に妬ましさや悔しさの感情が燃えているのに気付いた。ワイアットも、無理に隠そうとはしていないようだ。その方が、互いに心地よい――ただし、ユーマは未だに自分がどんな風に振る舞うのが正しいのか、迷い続けているのだけど。


 とりあえず、現状は選択の余地がなかった。


(流されるままに……)


 ユーマはため息を吐く。


(やれることを、やっていくしかない)


 ゴーレム〈イストアイ〉を――否、EVEゴーレム〈イストアイ〉を自分から手放すなんてことは、目覚めさせた責任がある以上、ユーマにはできないのだ。彼女の面倒は、どこまでも必死に見てやらなければいけない。だから、王剣騎士団の中で特別の待遇を受けていることに関しても、自ら進んで受け入れるしかなかった。

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