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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第5話 戦争という遊戯
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(5)

「遊戯戦争の歴史は長い」


 クレートは力強く云った。


「遊戯戦争条約が結ばれて、現在のようなルールに守られた平和な戦争が出来上がったのは百年ぐらい前のことだけど……さて、少しだけ理屈っぽい話をしておこうか。人間は、生き物である。動物である。だから、本能として備わった闘争心から逃れることはできない。でも、人間はちゃんと理性も持っているね。遊戯戦争という形で、百年前、偉大なご先祖様たちは飽くなき闘争を理性ルールの支配下に置くことに成功した――戦争は平和の礎と変わり、世界は平穏に満たされた。めでたし、めでたし……。さあ、わかるかな? 遊戯戦争とは詰まる所、原始的な戦争と同じく暴力的な外交手段であることに変わりはないんだ。最初に云った通り、そこに理性ルールがあるか、ないか――。忘れてはいけない。君達もいつか遊戯戦争に騎士ナイトとして参戦することになるだろうけれど、その時に理性ルールを見失っては絶対にダメだよ。それは己を死に導くだけでなく、百年間守られてきた平和を脅かすことにもなるんだから……」


 脅すような声色でそう云った後、クレートはいつもの笑顔に戻った。


「堅苦しい前置きは、これぐらいにして……」


 クレートは一旦、板書の続きを説明することをやめると、脇に置かれていた世界地図を手に取る。「はい。ノートを退けて」と、ユーマとワイアット、レイティシアが慌てて片付けた机の上に、その地図を大きく広げた。


 世界地図――。


 大陸全土を描いた地図である。


 ただし、この地図は遊戯戦争のために簡略化されたものであり、それこそチェスボードのように、大陸全土はきっちりとした正方形で、各国の領土は7×7の画一的なマス目で示されていた。マス目の中には領土の価値をレベル化した数字が書き込まれている。


「普通の地図ならば、学校の地理の時間に学んだね? 戦争地図は、さすがに見慣れないと思うけれど……。ちゃんと説明するから、ここで覚えてしまうように。遊戯戦争に参加する上で、盤面を理解しておくことは大切だからね」


 クレートはそう云って、戦争地図の端っこをまず指差した。


「大陸の北東に位置する辺境国が、アルマ王国。そして、こんな風に国名の入っているマス目が〈基本領〉になる。〈基本領〉と同色で塗られている他のマス目が〈特別領〉だけど……残念ながら、アルマ王国の〈特別領〉はわずかにひとつのマス目しかないね」


 それはすなわち、アルマ王国が近年は遊戯戦争で弱い、勝てないという事実を暗に示しているのだけど――。


「パッと見てわかる通り、大陸に存在する十二の国家、それぞれの〈基礎領〉は一マスだけだ。大国と小国の違いは〈特別領〉の支配域の差によって決まる――わかるね? 遊戯戦争で勝てる国は〈特別領〉を奪い取ることができるし、勝てない国は〈特別領〉を奪い取られていく。〈基本領〉はそれぞれの国家に最低限保証された領地だから、他国に脅かされることはない――これが、遊戯戦争の基本中の基本だ」


 クレートはそこまで説明すると、黒板の方を改めて指差していた。




【〈基本領〉と〈特別領〉】


 領地には、二つの種類が存在する。〈基本領〉は、国家に最低限保証された領地。遊戯戦争の勝敗に関わらず、他国から領地を奪われることはない。〈特別領〉は、遊戯戦争の勝敗によって支配国家が流動的に変わっていく。




「要は、陣取りゲーム」


 7×7の盤面に、十二の国家がプレイヤーとして存在する。


 プレイヤーは、〈特別領〉を懸けて激しい攻防を繰り広げていく。


「戦争地図は、大陸を無理矢理に盤面に仕立てている。大陸はこんな風に綺麗な四角形ではないし、それぞれの領地は画一的なマス目になっているわけでもない。でも、遊戯戦争をやるためにはこれが一番わかりやすいんだ。次に、ここに注目してみようか。ここだよ、ここ――領地のマス目に書かれたこの数字。領地の名前の下に書かれたこの数字が〈領地レベル〉。五段階で示される〈領地レベル〉は、領地の持つ価値を表している。人口や農産業、気候風土、魔物の危険度――参照される項目は多岐に渡るけれど、毎年、教会が独自の調査を行って〈領地レベル〉を発表しているんだ。〈領地レベル〉の高い所を奪い取れれば、国家は上手く繁栄していけるだろうね。〈領地レベル〉はそれぞれの国家が優先して攻めたり、守ったりする領地を決めるための目安になるし、それ以外にも様々な影響を遊戯戦争に与えるのだけど――」


 クレートはそこで説明をストップした。


「……いや、いきなり〈領地レベル〉の細かい所まで踏み込んでしまうと、説明の順番が滅茶苦茶になってわかり辛いね。それよりも先に、見習い騎士として知っておくべき内容はたくさんあるわけで……」


 腕組みしながら、クレートは「うーん」と悩み始める。


「大まかな概要は伝わっただろうし、ここからは本当に、競技のルールみたいなもの……口頭で説明するよりも、教科書を何度も読み返すようにして覚えた方が早いか――」


 ぶつぶつ、と。


 悩み中――。


 ユーマはしばらく、それを見守った。


 思えば、ここまでの澱みない説明が凄いのだ。


 教師らしさが板に付き過ぎて忘れていたけれど、クレートはあくまで騎士ナイトである。教壇に立つことが本職ではない。それなのに、川の流れのようにスムーズなその語り口――。ちょっとした才能かも知れない。


 ユーマがそんなことを思っている内に、クレートは考えをまとめたようだ。


 パチンと指を鳴らして、「ここら辺で、ルールを先に全部見て貰おうか」と結論を出していた。もう一度、彼は黒板の近くに戻る。先程までの説明では、まだ板書の半分にも到達していなかった。


「しばらく黙っているので、じっくりと板書を読み込んで欲しい」


 クレートはそう云う。


「君達が読み終わってから、改めて説明するからね」

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