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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第4話 アルマ王国頂上決戦
34/64

(8)

 ユーマは一人、悲痛な声で叫ぶ。


「エンノイアさん!」


 焦っていた。

 必死だった。


「エンノイアさん、しっかりして下さい!」


 額からは冷や汗が流れ落ちる。


 服の下も、汗でびっしょり濡れていた。


 幾ら叫んでみても、エンノイアから返事はない。〈レーベンワール〉に異変が起こった瞬間、彼女はふらりとよろめいた。「これは、な、なんだ……?」と、小さな疑問の声が最後の呟きだった。次の瞬間には気を失った彼女を、ユーマが咄嗟に抱き留められたのは不幸中の幸いであるけれど――しかし、彼女は目覚めないのだ。


 普通ならば、医者に預けるべきだろう。


 だが、ユーマは既に気付いていた。


 何が起こっているのか――。


 だから、焦っていた。

 必死だった、怖かった。


 このままでは、彼女は死ぬ、と――。


 誰にも、どうにもできない、と――。


「目を、覚まして……」


 悪足掻きと知りながら、ユーマはエンノイアの手から杖を引き剥がそうとする。だが、触れられない。杖の先端にある〈デバイス〉が強烈な輝きを放っていた。一瞬、強引にその手に触れてみるものの――すぐに、ユーマは悲鳴を上げた。


 焼け付くような痛み。


 触れた所、ユーマの指の皮が爛れていた。


 一瞬だからこの程度で済んだけれど――。


 強引に触れ続ければ、骨まで溶かされる。


 ユーマにはわかっていた。


 拒絶の光――。

 エンノイアの心が拒んでいるのだ。


 否。あるいは、その心に浸食する何かが拒んでいる。


「あ……。ああ。どうしよう、どうしよう……どうすれば――?」


 ズキリ、と。

 こんな時に、頭が痛んだ。


「う、ぐ……」


 激しい痛み。


 ユーマは倒れそうになるけれど、どうにか耐える。


 耐えなければいけない――そう思っていた。引き金を引いたのは、他の誰でもなく自分であるから。ユーマは先程からずっと、ひたすら自分を責め続けている。


 本気を出した。

 全力を尽くした。


 それが、礼儀と思ったから――。


 だが、結果はこれである――。


「ぼ、僕のせいだ……」


 ユーマが操る〈イストアイ〉の一撃により、〈レーベンワール〉はエーテルフレームに致命傷を負った。ユーマのように〈デバイス〉を握り込んでいないとは云っても、その杖を握るエンノイアにはダメージのフィードバックもあったに違いない。そして、コントロールは失われた。傷付いたエーテルフレームに、まだ大量の〈魔力〉を残したままで――。


 縛るもののなくなった〈レーベンワール〉は――。


 否。


 その内に潜んでいた何かは――。


 だから、覚醒したのだ。


「僕のせいだ」


 もしも、〈レーベンワール〉にあれ程のダメージを与えなければ――。


 ダメージを与えずに、圧倒するぐらいの実力があれば――。


 最初から、〈レーベンワール〉に潜んだ危険に気付いていれば――。


 そうなのだ。ユーマが何もかも、もっと上手くやっていれば――。


「こんな事には、ならなかった」


 絶望が、そこに生まれていた。


 嘘のように、静か。

 何も聞こえない。


 聞こえるものと云えば――。




 キルキリ・キラリリ、と……。




 鳴き声。エーテルフレームの鼓動が空気を震わせているのだ。そのために、かん高い金属音のような鳴き声が生じている。不吉で、不快な音。キルキリ・キラリリ。世界の犯される音でもある。美しく、大いに穢されていく。


 大地が、大気が――。


 結晶化を始めていた。


 キラキラと美しいその輝きは、死の輝き。


 動植物の生存が許されない世界に変わっていく。


 漆黒の異形を中心として――。




 ――Another Dimension Automatic Monster




 異世界からの侵略者、機械生命――その見た目こそ、エーテルフレームがドス黒い輝きに染まっただけの〈レーベンワール〉にしか見えないけれど、気配が違う、臭いが違う。どれだけ信じたくない事でも、ユーマは絶対に間違うはずがなかった。


 それは、ADAM――。


 人類を滅ぼすに足る、災厄。


「ああ、う、嘘だ。嘘だ、どうして、どうして……」


 ユーマは呆然として呟いた。


 認めたくない。


 だが、認めるしかない。


 人類が背負うべき絶望を、この瞬間、ユーマは一人だけで背負うしかなかった。理解しているのは、自分だけなのだから。戦えるのは、自分だけなのだから。他の誰ができると云うのだろうか。誰にもできないのだ。


 勝てるだろうか。


 勝てない、だろう――。


「でも、それでも……」


 ユーマは、杖を掲げた。


「僕が、僕しか……」


 誰にもできないから――。


 ユーマが、やるしかないのだ。


 あの日の絶望と――今再び、一対一で対峙する。

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