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真・転生機神のシルバーフィオナ  作者: シロタカ
第4話 アルマ王国頂上決戦
32/64

(6)

「さて――」


 エンノイアは静かに告げる。


「ボクは、初めて本気を見せた」


 嘘ではない。


 こんな風に本気を見せるのは、エンノイアにとっても初めての事。エーテルフレームに捧ぐ魔力は最大――そうして生み出される紅蓮の世界。戦場を始めとして、多くの人々の目がある所では、大っぴらに見せつけるような事は絶対にして来なかった。


 エンノイアの本当の実力を知る者は少ない。


 王剣騎士団の中では、団長のローマンを含めた数人だけである。エンノイアが実力を隠すようになったのは、彼らの忠告もあっての事だった。確かに、これはさすがに普通ではない。ただの人間がやれる範疇にはないだろう。エンノイアもそれは認めるしかなかった。


 化け物。


 そう呼ばれないように、恐ろしい牙は隠しておいたのだ。


「いつから、これを……」


「さあ、いつだったかな?」


 ユーマに問いかけられて、エンノイアは首を傾げる。


 思い出すのも億劫なぐらい、昔のような――。

 見習い騎士になってから、大した時間は経っていなかったはずだ。


 もしかすると、やろうと思えば〈杖の儀式〉の時にやれたのかも知れない。


「まあ、大した事ではないさ」


 隣国の最新鋭機であるゴーレム〈リル・ラパ〉を、エンノイアだけが唯一、時代遅れとなったゴーレム〈サーラス〉で返り討ちにしてやれた理由がこれである。


 残念ながら、〈サーラス〉のエーテルフレームはエンノイアの全力に耐えられない。


 初めて試した時は、装甲に亀裂が走り、エーテルフレームは徐々に歪んでいった。それこそ、ユーマの〈杖の儀式〉と同じような状況に陥ったのだ。エンノイアは、「ああ、これではダメだ」と悟り、すぐに力をセーブするようになった。


 愛機を壊しては本末転倒である。〈リル・ラパ〉と対峙する時も、いざという時の一瞬だけに使用していたため、周囲の誰にも気付かれなかったのである。


「レーベンのお陰でもある、こうして本気を出せるのは……」


 エンノイアは感慨深げに呟く。


「さて、いい加減に始めようか。君が、本気を見せないならば……」


 エンノイアは再び、戦場の方に向き直る。


「殺せ、レーベン」


 エンノイアの声に応えるように、〈レーベンワール〉のエーテルフレームが輝く。


 宙に浮かんだままの〈レーベンワール〉から溢れ続ける魔力が、闘技場の一角を濃密に包み込んでいく。紅蓮の光の中を、〈レーベンワール〉は高速で移動を始めた。


 慣性だとか、重力だとか――。


 そんな常識には、もはや捉われない動きである。


 ユーマもようやく、我に返った。


(……マズイ)


 頭上高くから振り降ろされる〈レーベンワール〉の大鎌を、〈イストアイ〉は二刀を交差させてどうにか受け止める。


 反撃はできない。


 大鎌の間合いの方が、ソードよりも広い。相手が地上にいるならば、隙を見つけて踏み込む事もできるだろうが――空中に浮かぶ相手には、間合いを詰めようがなかった。


 ふわり、と――。


 紙が風に舞うように、〈レーベンワール〉は自由自在に空を飛び回る。


「うん、一方的なのは好きではない」


 エンノイアは退屈そうに云った。


 ユーマは歯噛みする。〈レーベンワール〉の動きに、〈イストアイ〉では追い付けない。一瞬で背後に回り込まれてしまう。〈イストアイ〉を振り返らせながら、その勢いのままにソードを振り降ろすものの、やはり、まったく当たらない。逆に、反撃。大鎌が、あちこちから振り降ろされる。


 防戦一方。


 ほとんど逃げ回るような、酷い有様だった。


「エンノイアさん。ひとつだけ、訊いても良いですか?」


 集中力を切らしてはいけない場面で、ユーマはそう呟いた。


 不思議そうに振り返るエンノイアに対し、短く尋ねる。


「声は、聞こえますか?」


「……声?」


「聞こえないんですね、まだ――」


 ユーマは頷いた。


「そうですか。それならば……」


 瞳を閉ざした。


 抱きしめるように、杖を胸元へ。そして、右手で柄を握ったまま、左手で先端の〈デバイス〉を握り込んだ。ぐにゃり、と。意識が引き込まれていく。瞳は閉ざしたまま――だが、ユーマにははっきりと見えていた。


 目の前に、〈レーベンワール〉の死神のような顔。


 瞳の輝きのように、エーテルフレームの紅蓮の光。


 そう、〈イストアイ〉から見えるその景色が――。


 ユーマにも見えている。


 戦場の空気が肌を撫でた。


 大鎌の鋭さ。その痛みまでも感じ取る。


「僕も、本気を出します。だから……」


 宣言。


 手加減は無しという事を――。


 本気を出す。エンノイアが本気を見せてくれたように、誠意には、誠意で返すべきだから。ユーマは感謝していた。感動していた。彼女の本気、その気持ちに胸が昂ぶる。


 集中した。


 本気を、全力を――。


 感謝と感動を、刃に込めた。


「僕の勝ちです」


 太陽。


 まるで、それだけのエネルギーを持った光である。


 黄金の世界。


 中心は、〈イストアイ〉。エーテルフレームから放たれた爆発的な輝きが、刹那、何もかもを呑み込んだ。それはもちろん、〈レーベンワール〉の世界すらも浸食する。紅蓮の輝きは掻き消されて、黄金の光が全てを包み込んでいく。


 ぐらり、と――。


 空中の〈レーベンワール〉が、不意にバランスを崩した。


「……馬鹿な」


 エンノイアが驚きの声を漏らす。


「ボクの、心を――」


 そして、落下を始める〈レーベンワール〉。


 ユーマは〈イストアイ〉に二刀を構えさせる。手加減はしない、油断はしない。全力を尽くすと決めたのだ。「エンノイアさん、覚悟を……」と、思わず口にしていた。さすがに動揺を隠せない様子の彼女だったが、ユーマが呼びかけたその瞬間、まるで冷や水を浴びせられたようにハッとしていた。


「ああ、そうだね」


 そんな風に、何かを納得したような呟き声。


 小さな笑い。楽しそうに、もう一言だけ彼女は続けた。


「楽しもう、最後まで……」


 エンノイアは戦士の表情を取り戻していた。最大の窮地に陥っている〈レーベンワール〉をそれでも器用に操り、勢いよく大鎌を降り降ろしてみせる。落下の勢いも乗せた、強烈な一撃。半端なゴーレムならば真っ二つになりそうな、それぐらいの必殺の一撃であるけれど――。


 ユーマは逃げなかった。


 正面から受け止める。〈イストアイ〉は頭上に二刀を交差させると、大鎌をそれで止めて、それから一気に弾き飛ばした。大地がひび割れる程の衝撃に耐えた〈イストアイ〉は、さらに身を捻る。防御からのカウンター。着地間際の〈レーベンワール〉に避ける術はない。


 十字斬りは、文句なしのクリティカルヒット。


 大鎌を握っていた〈レーベンワール〉の左腕の装甲に、ソードの刃が喰い込んだ。勢いの付いた刃はそのまま装甲を斬り裂き、エーテルフレームまで達する。


 凄まじい破砕音――。


 死神の片腕が弾け飛んだ。

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