遠い日の約束
夏も過ぎ、紅葉深まる秋。
俺は紅葉を見ながら、頬杖を突いていた。そんな時だ。スパーンと言う良い音と共に、俺の頭部に痛みが走ったのは――。
「うおおおっ……」
悶絶する俺は、頭部を両手で抱え振り返る。
「和也! 人が話してるのに、何余所見してるの!」
和也とは、もちろん俺の事だ。
そして、俺の目の前にいるツリ目の女。こいつは幼馴染の相川 真希だ。
そんな真希の右手には物差が握られている。俺の頭を叩いたのは、間違いなくこいつだ。
「真希……何すんだ……」
「うっさい! 人が話してるのに、余所見しているからだ!」
力強い真希の声に、俺は不貞腐れた表情を見せた。すると、真希が額に青筋を立てる。
「その表情は……まだ、懲りてないみたいね!」
真希の物差が俺の頭部へ飛んだ。もちろん、物差は俺の頭部を殴打した。
「はうっ!」
先程と同じ所に物差が当たり、俺は頭を押さえたまま机に伏せた。
「う〜っ…。校内での暴力は、校則で禁止されてるんだぞ…」
「うっさい! これは、暴力じゃない! 愛のムチよ!」
そんな事を言い、真希は俺の頭を何度も殴った。
「くっそ〜っ! 人の頭をパコパコと!」
俺は資料を運びながら不満を将吾にぶちまけていた。半笑いを浮かべる将吾は、そんな俺の話を聞きながら軽く頷く。
「分からなくも無いけどさ、そう怒らなくてもいいんじゃないか? あれは相川なりのスキンシップだって」
「はぁ? あれでスキンシップだと!」
将吾の言葉に声を荒げる。だが、将吾は不思議そうな表情で言う。
「何だ? 知らないのか? 相川の携帯の登録番号、一番はお前なんだぞ」
「……」
俺は眉を顰め将吾の顔を睨む。首を傾げる将吾は、黙り込んだ俺に静かに聞く。
「何だ? 黙り込んで」
「別に……。登録番号が一番なのは、幼馴染だからだろ? そもそも、俺があいつに教えたんだぞ。携帯の使い方」
「は〜ん。それで、一番がお前なのか……」
「そう言う事だ」
俺はそう言い鼻から静かに息を吐く。
そんな時、俺の携帯が震えた。俺は持っていた資料を、将吾の持つ資料に重ね携帯を取る。真希からの電話だった為、俺は渋々と電話に出た。
「なんだ? 真希」
先程の事もあった為、少々機嫌が悪い俺に、携帯の向こうから今にも泣き出しそうな真希の声が聞こえた。
「助けて……」
「お、おい! どうかしたのか? 今何処にいる?」
「助け――」
俺の問いに答える事無く、電話は切れた。戸惑う俺は、どうすればいいのかわからず、硬直していた。そんな俺に将吾が声を掛ける。
「今の相川だろ? 多分、体育館裏辺りにいると思うぞ。誰かに呼び出されたっぽかったから」
「何! 本当かそれ!」
「ああ。本当だ。ここは任せて、行って来いよ」
俺は将吾のその言葉に甘え、体育館裏へと急いだ。
いつもは強気な真希だが、実際は非力だ。女なのだから。
そんな真希を危ない目にあわせたくない。それだけが理由で、俺はこの高校へと入学し、今では生徒会にまで入っている。
元々は、幼稚園の時の安易な約束だった。イジメられ泣いていた真希を、安心させる為に「ずっと守ってやるよ」と、俺は約束したのだ。きっと真希は忘れているだろう。
けど、俺はその約束をずっと守り続けている。小学・中学、そして、高校でも――。
「うおおおおっ! てめぇら! 真希に手出すな!」
声を張り、勢い良く体育館裏へと飛び出す。が、目の前の光景に俺は、驚愕し言葉を失う。
何と、目の前には悶絶する複数の男達。その中心には息を荒げ、泣き出しそうな表情をする真希の姿があった。
そんな真希と視線がぶつかった。苦笑する俺は、右手を軽く上げ「よ、よぅ」と呟く。すると、目を潤ませながら俺に抱きついてきた。
「お、おい……よ、よせよ……」
心拍数が上がり、俺は照れ笑いを浮かべた。だが、それも束の間だった。体が持ち上がり、ジャーマンスープレックスと言うプロレス技を浴びせられた。
「ぐあっ! ……な、何しやがる!」
「う…うっさい! お、遅いのよ! あんたは!」
「お、お前……」
真希の声が僅かに震えていた。そして、目からは涙が微かに流れている。それだけ、怖かったのだろう。
涙を拭う真希は、僅かに頬を赤く染め言い放つ。
「こ、これは、涙じゃないから! 汗なんだからね!」
誤魔化そうとしているのは明らかだ。その為、疑いの眼差しを向ける俺は、ため息を吐き言う。
「はいはい。そう言う事にしておくよ」
「ほ、本当に汗なんだから!」
「分かったって。何度も言わなくても」
立ち上がり帰ろうとする俺に、真希の小さな声が聞こえた。
「こ…今度は、ちゃんと守ってよ……。あの時の約束なんだから」
こんばんは。崎浜秀です。
この作品は、『電撃掌編王』に送り、落選したものです。
まぁ、当って砕けろの精神で応募したのですが、見事に砕け散りました。
テーマは『学校』『秋』『ツンデレ』と、言うことで……。まぁ、テーマには程遠い作品になったと言うわけです。
僕的には、随分と気に入っている作品です。何かあればまた書くかも知れません。では、またどこかで――