第26話!!
彼をいじめるのはそこまでにして貰いましょう」
一筋の閃光が走る、その速さはまさに弾丸。
自身に迫るその凶器をユウから離れることでかろうじてかわす夜鶴。
いや、これは彼女をユウから遠ざけるためにはなった一撃なのだからかわしたではなくかわすよう誘導されたというべきか。
彼女がよけた地面に突き刺るのは何の変哲もないナイフ。
そんなただのナイフを弾丸のごとく飛ばしな張本人がユウをかばうように夜鶴の前にまえに現れた。
「シンさん」
シンと呼ばれた少年は優しい面持でこちらを見据えている。
黒に近い色のジーンズに白いパーカーといういでたち。
手には何やら棒状のものが布で巻かれている。
目元にかかりそうなほど長い茶髪は見ていて少しウザく思えるが、その清潔感のある顔が帳消しにしてくれているのでプラマイゼロである。
王子というよりは騎士といった面立ちの少年、それが自身の敵を見た夜鶴の第一印象だった。
「君の護衛を真理さんに言いつけられていてね。しばらくはそこの木の上で監視していたんだけど、君が怪我をしそうだったからね、たまらず出てきたというわけさ」
「むっ、それなら最初から助けてくださいよ」
そしたらあんな怖い思いはしなかったと抗議するユウ。
「いやいや、それじゃ味気ないだろ。ヒーローはここぞって時に現れるからカッコいいのだから」
「それ、ばらしたら余計かっこ悪いですよ」
いや、まったくだと苦笑しながら足元のナイフを拾い上げるシン、それが夜鶴には信じられなかった。
-わしが反応できなかったじゃと?-
驚きはそれ。
彼女はドール、主の命令は絶対だ。
故にそれは邪魔するモノは全て敵、正体不明のこの男も隙さえあればすぐに己が爪で殺すつもりだった。
しかし、この男にはユウと談笑しているときさえもその隙というものがなかった。
目線はユウの方に向けていても意識だけはこちらに向けている。
たとえ相手がただの人間であろうとそんな見え透いた罠の中に飛び込むほど愚かではないのが彼女だ。
だから動かなかった。
だけど、さっきのはどうだ?
ナイフを取る瞬間からの意識は間違いなくこちらからそれた、ならそれはチャンス一気に攻め込みその首をはねるそれで終わり、終わりのはずだったのに。
気付けば彼はすでにナイフを拾い上げていた。
それはあまりに自然な姿、奇跡のような一切の無駄のない動き。
それこそが夜鶴が動けなかった理由。
結局のところ彼女は見惚れていたのだ彼のその生物としてはあまりに美しすぎるその動きに。
「それでどうするそこのドール。今、彼を連れ去るというのなら私がお前の相手をすることになる。だがここでおとなしく引くというのなら見逃してやってもいい。どうするかはお前次第だが私に挑めば死ぬぞ」
それは脅しではなく冷静に敵を分析しての発言。
それは、夜鶴も気付いている。
彼女は戦闘に特化したドールだ、敵の能力を知ることなど造作もない。
故にわかるこの敵には絶対に勝てないということが、自分より強いとかそんなレベルの話ではないそもそもその程度では彼女は屈したりしない戦いの中で自分より強いものと争うなどよくあることだ。
だがコイツは違う、そもそも戦いにすらならない。
まるでゴミをごみ箱に捨てるように簡単に消し去られる、ならここは彼の言うように逃げるのが賢明だ。
だが、
「それは出来ぬ。主様の命令は絶対じゃ、ここで壊れることになろうと引くことは出来ぬ」
それは決して揺るぐことのない鉄の答えのだろう。
ユウはそんな彼女に少しばかりの輝きを覚えシンは、
「下らないな。命あればそのあともあるだろうにむげに捨てるとは理解できないよ」
「理解されようとは思わんわ!わしはただ主様に従うのみ」
臨戦態勢に入る夜鶴そんな彼女にシンは手をだし待ったのポーズをとる。
「落ち着け、別に主の命令に背けと言っているわけじゃない。今だけ引いてもらえないかと言っているだけだ」
「どういったことだ?」
困惑気な表情を見せる夜鶴、ユウもどういうことと不安を隠しきれていない。
「私は真理さんに、ユウ君の護衛を頼まれた。だからここでお前にユウ君を連れ去られるわけにはいかない、けどこれは今日に限ったことでね。その後のことなんて私は知らない。だから、今日以降ならお前の好きにするといい」
表情は変えず恐ろしいことをのべるシン、そのさまに二人は絶句する。
とくにユウなんかマジ!?と目を瞬かせている。
「ぬし、本気か?」
「ああ、そこまで肩入れする義理もないしね」
たしかにそうかも知れないがなんて冷酷な奴なんだとユウは思う。
「ふっふふ、あーはははは。良いなぬし。その冷淡さ人間にしておくには勿体ないほどじゃ。良い、今日は引こう。主様も期間は定めておらんかったからな、文句はいいまいて。わしはぬしの言うようにこの場は引く、ぬしも次は手を出すなよ」
「ええ、もちろん」
笑顔でそう返答するシン。
「ではな童、また迎えに行く。その時までしばしの別れを」
そう告げると夜鶴は闇夜の中へ消えていった。
「ほおー早いなまるで獣のよう、さて、ドールも去ったし私たちも帰ろうかユウ君。ここ蚊が多いし」
勝手な約束を交わしさっさっと旅館へと帰っていくシンさん、そんな彼の背中を見つめるボクは。
「えー」
としか反応できなかった。




