第20話!!
「アイツ何か隠してたわね」
ユウが去った後、部屋に残った真理とセナは今の現状について語り合う。
「何か良くないモノと会ったみたいだ。アイツの体から嫌な気配がした。纏わりつくような死の匂いが」
吐き気がすると言い捨てるセナ。
その顔からは隠しきれない険悪感がにじみ出ている。
「やっぱりアイツの仕業?」
「ゼノル。・・・死の王と呼ばれてる鬼神か」
「でもそんな大物が本当にこんなところにいるの?」
真理の疑いはもっともなところ。
セナでさえゼノルがこんなところにいると聞いたときは疑心の心を払しょくしきれないでいた。
ゼノル。
千年を生きたといわれている鬼神たちの中でも最古のクラスに属する者。
長い年月を重ね蓄えてきた力はもはや神の領域にまであると囁かれている。
「しかも、何でそんなヤツを私たちが相手しないといけないわけ?」
「さあ、理由は知らないが。これは時雨からの命令だしな断るわけにもいかないだろ」
「でも~」
「それともなんだ、お前ゼノルが怖いのか?」
軽く真理を挑発するセナ、しかし今回真理はそれにはならない。
「まさか、相手は伝説級の化け物、そんなヤツを殺れるなんてワクワクしてるくらいだよ。ただ、命令っていうのが気に入らないの」
「野蛮なやつ」
「何よ冷静ぶっちゃってさ。アンタだって興味があるからここまで来たんでしょうが」
「まあな。神とうたわれるほどの力、興味がないといえば嘘になる」
「でも本当に其処まで強いのソイツ?噂なんて尾ひれがつくもんでしょ」
強くないとつまんないと口を尖らせる真理。
「さて、強いかどうかは知らないけど。この町に何かいることは間違いなさそうだけど・・・真理!!」
突然のセナの叫び声、それに即座に反応し真理はその場を飛び退く。
グサッという音とともに真理の座っていた座布団に包丁が深々と突き刺さる。
「なに!?」
「さて、こんな素敵な歓迎をしてくれる友人はいないはずなんだが。何者だお前達」
キッと包丁の飛んできたふすまを睨み付けるセナ。
その陰から五人の人影が現れる。
「こいつ等一体いつの間に」
五人の容姿はまさにマネキンそのもの。
肌は白く、髪もなく、服さえ身に着けていない。
性別というものもどうやらなさそうだ。
ここに個性といわれるものは何一つなく、死んだ人形の目をこちらに向けている。
なんとも不気味だ。
そして皆手には包丁やらナイフやらの武器を身に着けている。
「やる気満々ってところね。これ、ゼノルの仕業?」
「だろうな。さしずめこの人形たちは奴の駒か。胸糞悪い。コレ、人間の魂を媒介にしている」
「みたいね。まあ、こういうのは・・・」
完全なノーモーション状態から人形との距離を一瞬にしてゼロにする真理。
その拳からは炸裂弾にも匹敵する一撃が繰り出され、人形の頭はガラスのように砕け散る。
「え?こんな簡単に頭が吹っ飛ぶわけないのに」
唖然とする真理の肩を白い手が掴む。
「ウソ!コイツ顔のない状態でまだ動くの!?」
破壊された頭には中身などなくまるで陶器のように空っぽだ。
「なるほどどうりで体が脆いわけね、けど人形だから頭を壊されたくらいじゃ死なないか。・・・なら!」
先ほどよりも拳を強く握りしめ、攻撃を繰り出す真理。
もはやその威力は銃などではとどまらず大砲にすら匹敵する。
人間ですら原形をとどめることのできないほどの威力にこの脆い人形が堪え切れるはずもなく見事に砕け散る。
「なんのつもりか知らないけど自己もない人形が私に勝てるわけないのに。・・・ん?」
砕け散る一体の人形その体の中心からコップ一杯ほどの薄く濁った液体が飛び出す。
「これは!!」
ただならぬ危険を感じた真理は足元の畳を蹴り上げ盾にする。
液体は畳にかかり瞬時にそれをボロボロに溶解する。
「真理これは」
「ええ、トラップね。コイツらの体を砕くと強力な溶解液が出る仕組みみたい」
「となると素手での戦闘は不利だな。真理お前は下がれ、ここは私がやる」
「大丈夫なの?」
真理のらしくない心配にセナは口をつりあがらせる。
「大丈夫も何も私が適任だろ。素手での攻撃しか知らないお前は黙ってみていろ。さて、残る敵は四対、こちらのぶきは・・・」
あたりを見渡すセナは、先ほど真理が倒した人形が持っていた包丁を拾い上げる。
少し先端の錆びた出刃包丁だ。
「まあ、これで十分だろ」
切っ先を敵へと向ける。
八つの死んだ瞳がこちらを見る。
そこには自身の死に対する恐怖などひとかけらもない。
その事実にセナは言い知れぬ怒りを覚える。
「どこまで行っても人形は、作られたものはただの装置でしかないか。自らの意思もなく言われるがままに動く。まったくへどが出る」
疾走とともに繰り出される斬撃は常人の目には映らぬほど早く人形の手、足、首をバターを切るかのごとく解体していく。
「あと三体」
「なるほどね、あの液は人形の胴体部分にある。手足にないことは私の攻撃で確認済み。ゆえにそこを切り落とすことでヤツラらの機能を停止させたわけか」
セナの攻撃はまさに舞のごとく一切の無駄のない繊細された美しいもの。
軽やかに踊るように繰り出される斬撃は確実に敵の数を減らしていく。
その美しい舞は六秒ほどで終わりを告げる。
そうたった六秒で彼女は四体の人形すべての手足そして首を切り落として見せたのだ。
「へえ~やる~」
感嘆の言葉は真理から発せられる。
「別にどうとことないだろ、こんな人形たち」
「いやいや、別にアンタの力に驚いたわけじゃないの。てか、そんなのいまさらだしね。私はアンタがこの人形たちを壊せたことが少し驚きだったわけ。コイツラみたいのを見てたらアンタがまたあれを思い出すかもっと思って」
「そんなこと、ない」
「どうだか」
真理から視線をそらすセナ。
その行動が彼女の真意を物語っていた。
目をつぶるセナ。
その脳裏にある光景が流れてくる。
彼の胸を貫くは白い百合を思わせる腕。
そんな自身の死を目の当たりにして男和薄く微笑む。
‐ありがとう‐と、
空間は赤き地に彩られ、割れた窓から月明かりだけがライトのように私を照らし出していた。
其処はまるで舞台。
役者は二人、命を散らす哀れな男と、男を殺す冷酷な死神。
私はそんな演劇をただ見つめる観客。
そんな、記憶の奥にしまった光景が蘇りかけて。
忘れろ、と頭を振り再び自身の奥底へと沈めた。
「コイツラみたいのは処分すべきなんだ」
それは憐みなのか?
先ほどまでとは違い表情を消したセナからはもはやその真意は読み取れない。
そんなセナを見る真理は思う、そんなに気丈にふるまったところではたから見ればただただ痛々しいだけなのにと。
「まあ、価値観はそれぞれだし私から言うことは特にないけど、処分するにしたってどうするつもり?コイツラ壊したらこっちがひどい目に合うじゃん。なんかいい方法でもあんの?」
体の大部分をなくし床に転がるしかない人形を軽く足で小突きながら遊ぶ真理。
セナのように人形に妙な感情を持ってない彼女はどこまでも冷酷になれる。
そんな暇つぶしをしているとふとあることに気付いた。
ヒビだ。
人形たちの体、そのいたるところに細かなヒビが出ているではないか。
自分の記憶が正しければこんなヒビ先ほどまでなかったはず。
疑問に思いより注意深く観察してみるとどうやらこのヒビ刻一刻と広がってきているようである。しかもその隙間からどこかで嗅いだことのある気体が噴出している。
真理の頭に嫌な予感がよぎる。
「ね、ねぇセナ。物語上でかませ犬がみせる悪あがきってなにがあるかな?」
「はぁ?」
真理の質問の意図を読み取れずしかめっ面をするセナだったがすぐにあたりの異常に気づき現状を把握する。
「この臭いガス!?まさか真理!!」
「うん、そのまさかみたい」
ははと、ひきつった笑みを見せる真理だったが、その表情も部屋を包むまぶゆい光の中へと消えてしまった。




