第19話!!
やばい、どうしよう。
何がやばいかなんてわかんないけど、あの女の子を見るたびに体がものすごい警告を出してくる。
なのに僕の体は彼女に見入ってしまって動けない。
まるで怖いものが苦手なくせにホラー映画を見てしまうような好奇心ともつかぬ衝動。
そんな感情が僕な足を止めている
対して、こちらへと向かってくる少女の足取りはとても優雅でまるで、橋という川の上を跳ね回っているように感じられる。
だがその足は確実にこちらに向かってきており、気づけばもう僕の目の前まで来ていた。
ぴたりと止まる足、やはり目的は僕らしい。
遠目ではよくわからなかった容姿が今ははっきりと見て取れる。
身長は僕より少し低いから150センチ位だろうか?
年も同じくらいに見える。
腰まで伸びる黒髪は、一切の乱れがなく絹のようにきれいで、肌は陶器のようにきめ細かい。
まるで人形のような和風美人。
けれどその、生気の感じられない白い肌が、うっすらと笑う口から見える刃物のようにとがった鋭い歯が、肉を引き裂くためにあるような獣のような爪が彼女が人ではないことを物語っていた。
多分この子が、この町に巣くう鬼。
鬼神だ。
セナさんの言葉が頭をよぎる。
まったく僕は馬鹿だ。
なぜすぐに逃げ出さなかったんだ。
セナさんの言ったように人影を見つけた時点で逃げ出せば助かったかもしれないのに。
ああ、でももうだめだ。
もう、逃げ出すことはできない。
僕はおそらくここで死ぬ。
女の子の手がこちらえと伸びてくる。
細く長い指、刃物のような爪は日本刀を思わせる。
綺麗だ。
そんな感想が思い浮かぶ。
死がゆっくりと近づいてくる。
それはどのくらいの時間だったのだろう?
一秒のようにも一分のようにも感じられた。
できるだけ楽に殺してほしいなんてことを考えてしまう。
できるだけ綺麗に殺してほしいなんてことを思ってしまう。
ああでも、鬼神は人を食べるって聞いた。
なら、楽にも綺麗にも殺されるわけないか。
はぁーやだな。
軽く鬱気味になりながらその時を待つ。
待ったのだが、一向にその時はやってこなかった。
もしかして帰った?
そんな都合のいいことを考えて目を開けようとしたその時、首に何か冷たいものが触れるのを感じた。
「ひゃ!」
驚き、すぐさま目を開く。
見ると彼女が僕の首筋を指でなぞっている最中だった。
「なっ、なに!?」
つい素で話してしまった。
「いや、なに。微動だにしないのでな、人形か何かと思い調べていただけよ。許せ。しかし、この町にまだ人がいたとはな、とっくに皆出て行ったとばかり思っていたぞ」
優雅できれいな声だがその貴族のようなしゃべり方と合わさり不気味さをかもしだしている。
ニィーと笑うその口からは、血のように赤い舌がのぞき怖い。
今度こそ本当に殺されるかと思ったが。
「童、こんなところに何しに来た?観光か?」
意外にも話を続けてきた。
旅行?
どうなんだろう?
鬼神退治に来ましたなんて言えないし。
とゆうか、多分彼女がそうだし。
とりあえずは肯定か。
「ええ、そうです。僕、オカルトマニアで人が消えたこの町にとても興味がありまして友人と一緒に来たんです」
何とも不謹慎な奴だが、無難な嘘だと思える。
「ほう、仲間とね」
不敵な笑みが増していく。
「まあ、気をつけよ。ここで人が消えるのは本当じゃからな」
「それはいったい誰が?」
ニィーと笑う彼女。
「誰じゃと?童、変なことをいうの。まるで誰かが起こしたかのような言いようじゃ。ヌシ、何か隠しておるな?」
「!!」
どうしよう、なんて答えれば。
緊張と夏の暑さのせいで汗が滝のように流れていくのを感じる。
気分が悪い。
「まあ、よい。わしには関係のないことじゃ。でわな童、早めにここを出るんじゃぞ」
そう言い残すと彼女は再び橋を渡り森の中へと消えて行った。
「・・・・」
あまりの出来事に声が出ない。
彼女はいったいなんだったのだろう?
人ではない、それはわかる。
けどあれが人食いの鬼、鬼神なんだろうか?
わからないけどどうしても僕は、彼女がそこまで凶悪なものとは思えなかったんだ。
宿に戻ると、セナさん達はすでに風呂から上がっており、二人とも宿にあったと思われる浴衣に身を包んでいる。
その姿を僕は茫然と立ちすくみながら見ている。
「どうしたユウ?立ったままで」
「なに?浴衣姿の私たちに見惚れた」
不思議そうに僕を見るセナさん、ケラケラと笑いながら僕をからかう真理さん、そんな二人を見て戻ってこれたんだという実感が今更ながらにわいてきた。
と、同時に起きる妙な虚脱感によりその場に座り込んでしまった。
「ちょ、なに。あまりの美しさに腰が抜けたとか?」
真理さん、この人は本当に何を言ってるんだろう。
でも、二人とも普段浴衣なんて来てないのにやけに似合って見える。
いつも見ない姿だからだろうか、普段はそんなことないのに今は少しドキドキしている。
なんせ種類はちがへど二人とも、いやセレナさんも含めて三人とも究極といえるほどの美人なんだから。
いや、真理さんはセナさん、セレナさんほどはないか。
といってもあの二人が異常なだけなんだが。
「ちょいユウ。なぜそこで私をかわしそうなものを見るような目で見る」
「いえ、別に」
お得意の納得でき以内という顔をする真理さんだが、当然本当のことなんて言えるわけもないのでここは無視をする。
すると今度はセナさんが何やら難しい表情をしてくる。
「どうしたんです?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそどうした?さっきまでの挙動あからさまに変だつたぞ。何かあったのか?」
本当にセナさんは鋭い。
多分ごまかしは利かないだろう。
けど、
「いえ、本当に何もありませんでしたよ」
けど、あの子のことを話すのはやっぱり気が進まなかった。
あの子は人ではない、それは確実。
あの子のことを話せば多分セナさん達はあの子のもとへと向かうだろう。
退治するために。
退治なんて言えばきこへはいいけど、つまるところ殺すということだ。
でも、相手はどう見ても普通じゃなかった。
いくら人外といっても見た目が人間と変わらないセナさん達じゃ勝てるとは僕には思えなかった。
なにより二人に殺し合いなんてしてほしくなかった。
だからこんな嘘をついたんだ。
「そうか」
セナさんはそれっきり何も聞いてはこなかった。
その後僕はまるで逃げるように風呂場へと向かった。
今にして思うとあの時僕が嘘をつかなければ誰も傷つく事無くすべて終わらせることができたのかもしれなかった。
そんなことを今思う。
話がだんだん重くなります。




