駅の階段が一段少なくなっていて……
掲載日:2026/08/06
夏真っただ中の日常から一転、一瞬で不気味な異空間へと落ちていく緊迫した冒頭です。夏の暑さと冷たい闇のコントラストが際立つショートホラーを、ぜひお楽しみください。
照りつける夏の太陽が、駅のホームをフライパンのように熱していた。
セミの鳴き声が耳の奥で狂ったように鳴り響く中、俺は改札へ向かうためにコンクリートの階段を下り始めていた。
足取りは重い。タッ、タッ、タッ。自分の靴底が階段を叩く無機質な音が、周囲の蝉時雨を切り裂いて不気味に響く。
「……あれ?」
いつもの段数ではない。最後の一段を踏み下ろすはずだった右足が、空を切った。
スカッ。
体勢を崩した俺は、そのまま闇の深い地下へと倒れ込んでいく。その瞬間、耳元で響いていたけたたましいセミの鳴き声が、ピタリと止んだ。
静寂の中、一段足りない闇の底から、冷たい水が滴る「ポツン……」という音だけが響いていた。
【了】
著者あとがき】
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
どこにでもある真夏の日常が、ほんの一瞬で冷酷な異界へと変貌する恐怖を描きました。ジリジリとした猛暑と、骨まで凍りつくような暗闇のギャップを楽しんでいただけたら幸いです。
高架下やトンネルを歩く際は、どうぞ背後にお気をつけください。




