じんにん
遊歩道を歩いていると、苦しそうにうずくまる30手前くらいの男性がいた。反射的に、
「大丈夫ですか!?」
と傍に寄ってしまった私を批判する者は誰もいないと思う。人道的に。だが男性は必死の形相で『あっちいけ』のジェスチャーをする。
「そんな事いっている場合じゃないでしょ!!今救急車を…」
救急車と言った途端、男性の表情は次第に青ざめてくる。何かマズイことを言ったのだろうか。男性は匍匐前進をするように、その場から逃げようとしている。ここらへんで私も、何らかの事情があるという事を察したので、彼に言うことにした。
「じゃあ、とにかく休めるところまで運びますから。大丈夫です、誰にも言いませんから」
するとようやく彼は私に従った。近くのベンチまで彼を運び、横にして寝かせる。このまま立ち去っても良かったが、私は少し事情が知りたくなった。何故そんなに必死に抵抗したのか?だがこれを訊いたのが拙かった。
「誰にも言わないでくれますか?」
「ええ、もちろん」
「実は、僕テレビに出てるんですよ」
「は?はえ?」
こんな人見たことあるかな?というような表情をしていると彼はガッカリそうに語った。
「やっぱり知らないですよね。テレビと言ってもコマーシャルで、さる栄養食品のチョイ役で」
それでも見たことはない。それで、それが救助を断るのとどう繋がるのだろう?彼は苦々しい語り口で喋った。
「実は今日も、新商品のコマーシャルの撮影があった帰りで、その栄養食品いくらか食べたんですよね」
「はい」
「きっと何でもかんでも栄養のあるものを混ぜたからでしょう、その中に、運悪く私のアレルギーになる食品が、」
「なるほど、含まれていたわけですね」
「そうです。」
で、それがバレるとあんまり良くはないから、断ったと。私は一人納得しかけた。が、彼は意外な事を語り始めた。
「いえ。実はそうじゃないんです。実は私、俳優を隠れ蓑にして、さる国家のスパイとしてここに派遣されているのです?」
「は?スパイ?」
「はい。そうですスパイです」
「それって言っちゃまずくないですか?」
彼は一瞬黙考した後、即座にこう答えた。
「いえ、別にそれ本職じゃないんで。」
「へ?じゃあ何が本職で?」
「実は私、さる惑星からこの星の生態系を調査にやってきた宇宙人なんです。だから身体調べられるのは困るんです」
…まずい。何を信じよう。どこまで信じよう。私は、しばし逡巡し、彼にこう言った。
「わ…分かりました。つまり、何であれ上の人に知られたくないって事なんですよね。分かりますよ、私もそういう経験はしていますから。この件は内密にしておきます。ち、ちなみに」
「何でしょう?」と、すっきりした表情の男性。
「何がアレルギーなんでしょうか?後学のため…」
「人参」
即答だった。




