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第4話 起死回生のSOS

 日が落ちて人工的な明かりが灯り始めた頃。私、勇者ミナの軟禁生活一日目の夜は、さらなる尊厳破壊のステージへと突入していた。


「さぁミナ様、一日の汗を流しましょうね。お風呂の準備ができていますわ」


 エレナの甘ったるい声とともに私は再びヴァネッサにお姫様だっこで抱えられ、魔王城の奥深くとは思えないほど豪奢に改装された大浴場へと連行された。


 大理石が敷き詰められた床、湯気を上げる広い浴槽。そして待ち構えていたかのように私の周りを囲む三人のヤンデレたち。


 ルナの魔法によって四肢を空間固定されている私は脱衣所の中央でされるがままに立たされていた。


「動いてはダメですよミナ様。⋯⋯あっ、元から動けませんでしたね♡」


「私が支えているから、お前たちは服を脱がせてやってくれ」


「了解」


 ヴァネッサが背後から私を抱きすくめ、ルナとエレナが私の着ているフリフリのネグリジェに手をかける。


 スッ、パチッ、スルン、一切の無駄がない動きだった。

 腕を通す、ボタンを外す、布を引き下ろす。そのすべての動作がまるで流れる水のようにスムーズで三人の息が完全に合っている。ものの十秒で私は生まれたままの姿にされていた。


(⋯⋯ちょっと待て)


 私は全裸で背筋を凍らせた。

 昼間からうすうす感じていた疑惑がここに来て確信へと変わる。


(こいつら脱がせるの手際良すぎないか!? 私が魔法で動けない状態での脱衣シミュレーションなんて、普通やるわけないだろ! ってことは今まで魔王討伐の旅をしてた数年間、私が夜営で寝てる間に⋯⋯!?)


 これ以上考えるのはやめた。真実に辿り着いてしまったら私の精神(SAN値)が完全に崩壊してしまう。知らぬが仏という言葉はきっと今の私のためにある。


 しかし現実逃避を許さないのが目の前の狂人たちだった。


「あぁ⋯⋯何度見ても、美しいですねミナ様」


「うん。完璧な肌。傷一つない⋯⋯」


「守り抜いた宝だからな、我が事ながら誇らしいよ」


 三人は全裸の私を舐め回すような視線で見つめていた。その瞳の奥には友への親愛など微塵もない。あるのは至高の所有物を愛でる、重くドロドロとした執着だけ。


(こいつら常に目がマジなんだよ⋯⋯! 怖い怖い怖い! 誰かこのホラーゲーム終わらせて!)


 音の出ない悲鳴を上げる私の身体はそのまま広い浴槽の中へと運ばれ、温かいお湯の中に沈められた。そして、三人がかりの「洗浄作業」が始まる。


「お背中、流しますね」


「私が前」


「では下半身を洗おう」


 それぞれがスポンジと香りの良い石鹸の泡を手にして私の身体に触れてくる。

 それは女子同士のキャッキャウフフとした可愛らしい「洗いっこ」などでは断じてなかった。


 例えるなら国宝級の美術品を磨き上げる研磨職人。あるいは品評会に出す高級ペットの毛並みを整えるブリーダー。


 エレナの手が私の背中から腰のラインを執拗になぞる。


 ルナの手が未発達ながらも柔らかな胸の膨らみを、泡で包み込むように揉みほぐす。


 ヴァネッサの分厚い手が太腿の内側からふくらはぎにかけて隙間なく撫で上げる。


(あっ⋯⋯んっ⋯⋯)


 建前上はあくまで「身体を綺麗に洗う」という行為、そこに性的な意図は(表向きは)ない。


 それでもチート勇者として鍛え上げられ、あらゆる感覚が鋭敏になっている私の身体は、三人の指先から注がれる濃密な魔力と愛情の籠もった愛撫に、無意識に反応してしまう。


(ひぐっ⋯⋯!? ちょ、やめろ、そこは⋯⋯!)


 首輪のせいで声は出ないが吐息だけは甘く漏れ出てしまう。

 背筋を駆け抜ける快感で胸がツンと張り、太腿が勝手にピクピクと痙攣する。


 男としての私の理性は「ふざけるな、やめろ!」と叫んでいるのに、女としてのこの肉体は、三人に触れられるだけでゾクゾクと悦んでしまっているのだ。


(っていうか、なんで私の体、こんなに敏感に反応してんの!? クソッ、こんな女同士の触れ合いで感じるはずが⋯⋯ああっ、ルナ、執拗に洗うなっ!)


「⋯⋯ミナ、可愛い。声が出なくても、体が正直」


「ええ。こんなにビクビクと震えて⋯⋯洗い甲斐がありますわ」


「手のひらに吸い付いてくるようだな。愛おしい奴だ」


 私の敏感な反応を見て三人の瞳はさらに暗く、熱を帯びたものに変わっていく。

 その光景を目の当たりにして、私はかつてないほどの『深刻な危機感』を抱いた。


(マズい。このままじゃ本当にマズい⋯⋯!)


 今はまだ私の「心」は男のままで、ゲーマーとしての愉悦部員の意地を保っている。

 だが、このまま彼女たちによる狂気の「お世話」が毎日続けばどうなる?


 ただでさえ逆らえない状況で四六時中、愛撫されて排泄まで管理され、手足の自由も奪われたまま。


 いずれ私の「肉体」が完全に雌として、彼女たちのペットとして調教されきってしまったら?


 肉体が完全に快楽と依存に堕ちた時、私の「心」もまた、それに引っ張られて雌堕ちしてしまうのではないか。


(嫌だ⋯⋯! 絶対に嫌だ! なんとしてでも、今すぐ脱出しなくちゃ完全に心が折れる! 私のアイデンティティが消滅する!)


 私はお湯の中で固く決意した。

 このふざけたバッドエンドルートから絶対に抜け出してやる。


 その決意の裏で三人の手つきはさらにエスカレートしていた。


「ミナ様、太腿の間もしっかり綺麗にしないと⋯⋯」


「胸、もっと泡立てる。⋯⋯ん、柔らかい」


「指の先まで磨いてやるからな」


(く、くそっ、やめろよ⋯⋯! そこは洗わなくていいから! んっ、はぁっ、ひぐぅ⋯⋯っ!)


 決意とは裏腹に私の身体は甘く弓なりに反りはじめ、三人の玩具として思う存分に弄ばれるのだった。


 ☆


 長い長い、屈辱的な入浴と「手入れ」の時間が終わり、私は再び天蓋付きのふかふかなベッドへと放り込まれた。


 配置は昼間と同じ、最悪の完全包囲網――右にエレナ、左にルナ、足元にヴァネッサ。


 部屋の明かりが消え、月明かりだけが差し込む暗闇の中。三人はまるで抱き枕を堪能するかのように、私の身体に容赦なく手足を絡め取ってきた。


「おやすみなさい、ミナ様⋯⋯ふふっ、すべすべですわ」


 エレナの手がネグリジェの隙間から滑り込み、私の腹部を執拗に撫で回す。


「ミナ、いい匂い⋯⋯」


 ルナが私の首筋に顔を埋め、スーハースーハーと深呼吸しながら私の胸を柔らかな手つきで揉みしだいてくる。


「冷えないように、私が温めてやるからな」


 ヴァネッサのたくましい腕が私の両足に絡みつき、大きな手が太腿の内側をさわさわと愛撫し続ける。


(こいつら、寝る気ゼロじゃねーか!!)


 私は暗闇の中で、必死に声を殺して喘ぎを堪えた。


(ああっ、んっ、やめ⋯⋯触るなっ、ひっ⋯⋯!)


 あちこちを撫でられ、揉まれ、全身が火照っていく感覚。

 こんなのが続けば理性が溶け切ってしまう。


 私は暗闇の中で必死に前世のゲーマー知識をフル回転させた。

 現状、エレナのバックドアによって私の莫大な魔力(MP)は完全に封印されている。ルナの《空間乖離》で手足は1ミリも動かせず、ヴァネッサの首輪で声帯も使えない。


 物理的にも魔法的にも完全に詰み状態、バッドエンド確定のイベント。

 でも私には「この世界がゲームだった頃の知識」がある。


(魔力が封じられているなら⋯⋯強制的に捻り出せばいい!)


 それはチート勇者だけが持つ隠しパッシブスキル――自らの生命力(HP)を極限まで削り落とし、ほんの数ポイントの魔力(MP)へと強制変換する「起死回生の裏技」


 代償として激痛と凄まじい疲労が襲うが、もはや四の五の言っている余裕はない。早急にこのヤンデレたちの寝首を掻かなければ、私は一生「気持ちよく鳴く高級ペット」として飼い殺されるのだから。


「ん⋯⋯ミナ様、体が熱いですわね。もっと涼しくして差し上げましょうか⋯⋯」


「やわらかい⋯⋯ずっと触っていたい⋯⋯」


「スベスベの肌が絡み合って⋯⋯あぁ素晴らしい」


(くそっ⋯⋯! 邪魔するな変態ども、今は集中⋯⋯っ、ああっ!)


 三人の執拗なイタズラに耐えながら私はギリッと奥歯を噛み締め、自らの魂の奥底に意識を集中させた。


 生命力を削り取る――まるで自分の寿命をカンナで削り出しているような、臓腑を直接握り潰されるような激痛が走る。


 冷や汗が全身から吹き出し呼吸が荒くなる。三人はそれを「私たちの愛撫で興奮している」と勘違いし、さらに愛おしそうに私を撫で回してくるが今は好都合だった。


(出ろ⋯⋯出ろォォォッ!)


 バチッと――暗闇の中、私の右手の指先にほんの数ポイント、極小の魔力が灯ったのを感知する。


 動かせない指先から探知機のようにその魔力を放射――目指すは、この部屋をドーム状に覆っているルナの《対勇者用絶対隔離結界》だ。念話を飛ばそうにもこの結界に阻まれてしまっては意味がない。


 私は極小の魔力を使って結界の構造を内側からチクチクと探った。ルナの魔法は完璧だ。蟻一匹通さない。


 ――しかし、見つけた。


 ⋯⋯穴がある!?


 完璧なはずの結界の一箇所、そこだけがまるで意図的に開けられたように「極細の魔力の抜け道」となっていたのだ。


 しかもその方角はこの国の首都――王都へ向けて一直線に伸びている。


 王都には王女様がいる。私の窮状を知ればきっと助けてくれるはず!


(ルナのやつ、完璧主義のくせにバグを残してやんの! ざまぁみろ、この脇の甘さが命取りだぜ!)


 私は内心で快哉を叫んだ。


 天才魔導師も所詮は人の子である。私への歪んだ愛情で目が眩み、術式の構築をミスったに違いない。ここからSOSの念話テレパシーを飛ばせば、確実に外へ届く!


(行けえええええええっ!!)


 私はHPを削って捻り出した全魔力を使い、その「結界の穴」に向けて渾身の力を込めたSOSの念話を叩き込んだ。


(ソフィア様! 私です、勇者ミナです! 狂った仲間に監禁されています! どうか、王家直属の騎士団を率いて助けてください!!)


 ――確かな手応えがあった。

 私の必死の叫びを乗せた念話は結界の抜け道を綺麗にすり抜け、夜空の彼方――王都へとすっ飛んでいった。


(⋯⋯やった⋯⋯! 届いたぞ⋯⋯!)


 HPを極限まで削った反動で急激な眠気とブラックアウトが私を襲う。

 ヤンデレ三人の愛撫の感触も、もはや遠のいていく意識の中では大した問題ではなかった。


(ざまぁみろヤンデレ共! 明日には王女様が重武装の騎士団を連れてこのドアを蹴破ってくれる! 私の、完全勝利だ⋯⋯!!)


 最後に久しぶりの愉悦の笑みを(内心で)浮かべながら、私は泥のような眠りへと落ちていった。


 すべては上手くいった。これで悪夢の軟禁生活は終わる。そう確信して。

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