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騎士団から弾き出されるモブキャラに転生した俺は、悪魔と共に世界を書き換える  作者: すなぎも
悪魔との契約・追放の制裁編

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第7話 裏切りと追放

 孤児院を出てから、数十日が経ち、ノエルと俺は王都騎士団、第七部隊に配属され、いくつかの任務を経験した。


 初めての巡回。山道での魔物討伐。王族の護衛任務。

 やることの全てが新鮮で緊張の連続だったが、なんとかやり遂げることができた。


 そんな中、ノエルの実力は既に話題になっていた。

 圧倒的な剣術に冷静な状況判断。

 部隊長からは目を掛けられ、訓練では騎士団長が様子を見に来ていた程だ。

 

 さすがはEveryone Smilesの主人公。

 物語の中心人物なんだから、当たり前と言えば当たり前の活躍だ。


 そして俺は、ノエルの後ろに付いて回るだけの一般兵。

 影に隠れて、戦場で倒れないよう必死に体を動かす毎日だ。

 モブと呼ぶに相応しい立ち回り。

 ノエルが他の騎士たちと話している時、息を潜めるのにも慣れたもの。


 そして、運命の日が来た。


 王都の街中を巡回中、俺とノエルは裏路地で三番隊の部隊長が怪しい人物と会話をしているのを目撃。身を潜めて会話を盗み聞ぎしたところ、それは薬のやり取り。


「隊長さん。例のモノは持ってこれたか?」

「隊長はやめてくれ。……これでいいかい?」

「どうも。にしてもこんな危険な粉を常備して、騎士団はなにしてるんだ?」

「調合すれば人を救う薬になるものさ。危険と言えど、使いようってわけさ」

「本当かよ? キメれば脳を一発で破壊する麻薬だぞ?」

「しらないねえ、そんなことは」

「隊長さんも一発どうだい?」

「冗談はやめてくれ。ボクはあんなゴミに成り下がるつもりはないよ」


 地面に数人の民が横たわっている。

 虚ろな目を開けたまま、唇の端に泡を浮かべて、意味のない声を漏らしている。


「早く金を。無駄話はここまでにしよう」

「残念だな。ほらよ」


 男から受け取った金を懐に忍ばせた隊長は、そのまま闇に消えていく。


「ノア。見た?」

「ああ。最近流行ってる麻薬だ。使ったら幻覚を見せる、中毒性が高いブツ」

「売ってたの、三番隊の隊長だったわよね?」

「俺には別人に見えたが。あんな長い髭を生やした奴、騎士団で見たことない」

「髭? 私の見間違いかしら」

「この件は慎重に調べよう。騎士団の中でもかなり問題視されてたからな」

「そうね。次から裏路地もしっかり巡回しましょう。……あんなの、許せないわ」


 横たわる民を見て、苦しそうに顔を逸らすノエル。

 遠目で見ても、その症状は深刻。

 もう彼らは助からないだろう。


 本来のストーリーではここで三番隊隊長だと確信しするが。

 今回はそれをしなくていい。

 本当の事を知っているのは俺だけでいいんだ。

 

 巡回を終えて騎士団の兵舎に戻る。

 薬のやり取りを目撃したことを報告書に記し。


「じゃあなノエル。また訓練の時間になったら」

「ええ。ゆっくり休みましょう」


 自分の部屋に向かうために分かれる。


「なあノエル」


 彼女が角を曲がろうとしたところで声を掛ける。


「なに? どうしたの?」

「……お互いに、頑張ろうな」


 その言葉に、ノエルはきょとんとした後。


「当たり前でしょ。これからなんだから」


 笑顔でそう言い残して姿を消した。

 暫く彼女のいた場所を見続けた後、俺は七番隊の隊長室へ足を進める。

 扉の前に立ち、深呼吸をした後。


「失礼します! 七番隊のノアです! 報告があります!」

「入れ」


 部屋に入ると、隊長のガイオが椅子に座っていた。


「どうした?」

「麻薬の件でご報告に」

「売買を目撃したらしいな。困ったもんだぜ、これのせいで王都の治安が悪くなってやがる。余計な仕事を増やさないで欲しいもんだ」

「その件なんですが……。売っているのが三番隊のフィリップ隊長でした」


 その発言に、ガイオ部隊長の眼が細められる。


「冗談、じゃないようだな。本当か?」

「はい。俺はしっかり見ました。間違いなくフィリップ隊長かと」

「確認を取る。一緒に巡回していたノエルは?」

「見間違いだと伝えてあります。本当の事を知るのは少ない方がいいと思って」

「わかった。ちょっと待ってろ」


 ガイオが部屋を出ていく。


 ゲームで読んだストーリー通りだ。

 そして、次に出てくるのが。


「待たせたな、ノア」

「はっ! ガイオ隊長! ジェラルド騎士団長!」


 現れたのは王都騎士団の騎士団長、ジェラルドだ。

 ガイオとジェラルドは逃げ道を塞ぐように扉の前に立つ。

 ジェラルドが獣のような眼光でぎろりとこちらを睨み。


「新兵のノアだな?」

「はっ! ジェラルド騎士団長!」

「薬の件。フィリップに確認をとったが、あっさりと認めた」

「ほ、本当でしょうか!?」

「ああ。この件は王も胸を痛めていたことだ。大切な民が危ない薬で蝕まれていくと。大手柄だな」

「光栄でございます!」


 そこで、ジェラルドとガイオが目を合わせ、静かに頷く。


「まだ入隊して日も浅いのに大したものだ。優秀な人材とは是非とも関係性を作っておきたいんだが、時間はあるか?」

「今日は非番なので、たっぷりと!」

「私に祝われる気分になってるか?」

「もちろんです!」

「ふっ、素直で可愛い奴だ。付いてこい」


 ジェラルドが先頭を行き、その後ろを歩く。

 俺を見張るように、ガイオがその後ろに付いた。


 兵舎を出て王城へと移動する。長い廊下を進んだ先。

 脇に騎士が立っている鍵がかかった扉を超えて、地下へと進む。


「どこへ行くのでしょうか?」

「地下にワインの貯蔵庫がある。王が集めているものだが、今日は特別だ」

「い、いいのでしょうか?」

「何かあったら私から伝えておく。お前が気にすることじゃない」


 地下深くへ進む。

 胸の鼓動が早まっていった。

 ここから先の展開を、俺は知っている。

 知っているが、それでも上手くいく保証はない。


 ……大丈夫だ。ノアになってから、俺はこの日のために鍛え続けて来た。

 問題ない。強い気持ちを持ち続ければ。


 やがて辿り着いた先にあったのは、巨大な魔法陣が刻まれた円形の広間。

 中央の陣は不気味な黒光りを放ち、縁には無数の鎖が壁に打ち付けられいる。


 画面で見ていた所より、暗くて、不気味な場所だ。


「ここは?」


 問いに、返事はない。

 ふいに腕が力強く締め上げられた。


「なっ! なにをするんですか!」


 抵抗する間もなく、地面に転がっていた鎖で手首を縛り上げられた。

 引っ張るも、岩に打ち付けられており、外れる様子はない。


「ジェラルド騎士団長! ガイオ部隊長! これはどういうことですか!」

「ワーワー騒ぐな耳障りだ! このカスが!」


 ガイオの拳が深々と俺の腹部に叩きこまれる。

 息が詰まり、膝が折れる。


「が、ガイオ隊長……」

「騒ぐなと言ったぞ! 言葉も理解できんか! これだからバカは!」


 そのまま複数回、顔面を殴られる 

 視界が弾け、目が腫れて視界が狭まる。


「手柄を上げた気にでもなったか? バカ者が!」

「やめてあげてくださいよ、ガイオ隊長」


 陽気な声が地下に響いた。

 現れたのは、フィリップ。

 薬を売っていた張本人だ。


「彼は勇敢だ。ボクがした悪事を即座に報告したのだから」

「フィリップ隊長。ど、どうして……」


 問いに、彼は答えない。

 懐から取り出した紙幣を騎士団長に渡した後、こちらに近付いてくる。


「青いねえ、少年。正義感に支配されて、周りが見えていないようだ」

「どうして……」

「どうして?」


 フィリップ隊長に顎を持ち上げられ、眼前で視線が合う。

 ――ゴッ! と鈍い音と同時に額に激しい痛みが走った。


「がはっ!」

「ボクはねえ、キミみたいな青臭いガキが大嫌いなんだ! なにも知らないで動き回ってヒーロー気取りかい? まさか本当に彼らが祝ってくれるとでも思っているのかい? まったくバカげているよ! 能天気にもほどがある!」

「どうして」

「あぁもう、うるさいなあ! どうしてどうしてって! 少しは自分で考えられないのかい? ……まあでもいいか。キミは悪魔の餌になるんだから」

「悪魔の、餌」

「そうさ。さっさと死ぬといい。自分の愚かさに泣きながらね」


 ガイオとフィリップが魔法陣から距離を取る。


「さよならだ。来世ではバカにならないといいな」


 唾を吐き、こちらを見下げるガイオ。


「ちゃんと悪魔に喰われて死ぬんだよ? キミはこの世に必要ない人間だ!」


 怒りを露わにしているフィリップ。


 そして。


「ふんっ」


 ただただこちらに憐みの視線を向けているジェラルド。


「そうか……」


 ノアがこの時、どういう気持ちだったのかわからない。

 彼は手柄を独り占めしようと、フィリップのことを告発した。

 だが、そこには正義感が少しでもあったはずだ。


 それなのに、こんな仕打ちを受けるのか?


 殴られ、罵倒され、悪魔に喰われて人知れず死んでいく?

 ノエルにそのことも知られずに。

 ベリトさんになんとも思われずに。


「許さない」


 気付けば、そんな言葉が漏れていた。


「はぁ? なんだって?」

「許さないぞ……。ガイオ、フィリップ。それに……」


 目の前でせせら笑う部隊長、冷ややかに見下ろす騎士団長。


「ジェラルド。俺は、絶対にお前らを、許さない!」


 次の瞬間、足元の魔法陣が眩い光を放ち始めた。

 低い唸りが響き、床が震える。


 光の粒が視界を埋め尽くすと、周囲が引き裂かれるように遠ざかっていく。

 最後に見えたのは、冷たい笑みを浮かべる部隊長たちの顔だった。


「許さないからな……。お前ら!」


 怒りと決意を胸に叫んだ瞬間、光が弾け、俺の意識は奈落へと引きずり込まれていった。

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