表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士団から弾き出されるモブキャラに転生した俺は、悪魔と共に世界を書き換える  作者: すなぎも
プロローグ ―孤児院編―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/31

第6話 出発

 あっという間の1年だった。

 ノエルと一緒に剣を振り続けた日々。


 最初は数発うけるので悲鳴をえげていた身体も、気付けば直撃を喰らわなければ耐えられるようになっていた。木刀をぶつけ合いながら、何度も笑って、何度も転がされてそれでも立ち上がった。最後まで俺の一撃を喰らわせることは出来なかったが、成長はあった。


 特に打たれ強さだ。

 ステータスで言えば防御と言うべきか、身構えれば木刀を喰らっても問題ない。

 さすがにノエルの本気を喰らった時は気絶しかけたが、それでも意識を保てた。

 成長のために『ノエル! もっと叩け!』と言って引かれたのはいい思い出だ。 


 状態異常耐性に関しては、ベリトさんのお陰でかなり成長した。

 数々の毒を受け入れ、何度も死にそうになった。

 Everyone Smilesは状態異常で死なない。

 わかっていながらも、あまりの苦痛に心が折れそうになったこともあった。

 それでも、ベリトさんが支え続けてくれた。


 ノエルのまっすぐな眼差し。

 ベリトさんの温かい手。

 孤児院で過ごした日々。

 間違いなく俺は、ノアは、強くなった。


「お待たせ、ノア」

「おう。忘れ物はないか?」

「大丈夫よ。持ち物なんて、あまりないけどね」


 孤児院の前。

 俺とノエルが持つのは1つの布袋のみ。

 中身は数日分の着替えと、少しのお金だけだ。


「あっという間だったな」

「ええ、本当に。ここに来てからまだ数日しか経ってないみたい」


 見慣れた孤児院を二人で見上げる。


「村が襲われた時はどうしかと思ったけど、なんとかなるものね」

「ベリトさんと、シスターたちのお陰でな」

「いろいろ迷惑かけちゃったわね。自分で言うのもあれだけど」

「ああ、だから。これからは恩返しをしよう。出来る限り」

「そうね。……頼りになる相棒もいることだし」

「頼りになる相棒? 俺がか?」

「他にいる?」


 問いに、俺は首を横に振る。


「嬉しいよ。ノエルにそう言ってもらえて」

「努力の成果ね。気合を入れ直したって言い始めた時は、逆に不安になったけど」

「そうなのか?」

「そうよ。やる気がなくて、だらしなくて、自分の事しか考えてない。そんなノアが、いきなり訓練に力を入れて、シスターたちの手伝いをして、子供の面倒まで見始めたんだもの。しっかりし過ぎて、いつものノアに戻った時のことを想像してぞっとしたわ」

「それは、そうかもな」

「ええ。けど、あなたは走り切った」


 ノエルが孤児院から俺へと視線を移す。


「私の無茶に付き合って、十分に強くなった。だから、あなたは私の相棒よ。とびっくり頼りになる、ね」


 そう言って、ノエルが片目をつむってウィンクした。

 わざと可愛らしく見せたその仕草に、それでも胸がどきりと跳ねた。


「でも、これからなんだから。しっかりしなさいよね」


 からかっているようで、それでも、心からの言葉と伝わってくる。

 Everyone Smilesでは、見せかけの相棒。詐欺キャラと叩かれていた。

 そんなノアが、ノエルに認めてもらえている。

 嬉しさが込み上げて、思わず息を吸い込む。


「ああ、これからだ。俺もノエルも。これからだからな」


 視線を交わして頷き合うと。


「ノア、ノエル!」


 呼びかけに振り向けば、ベリトさんが立っていた。

 その後ろには、他のシスターたち、そして子どもたちが小さな体を並べている。


「がんばってね!」

「辛かったらすぐに帰ってくるんだよ」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。またね!」

「応援しているよ」


 子供とシスターが口々に声を張り上げる。

 その姿に、思わず笑いがこぼれた。


「ノエル。立派になりましたね。ここに来たときは、少し落ち着きがなくて不安だったけど……。貴方の明るさに何度も助けられました」

「私もです。ベリトさんが私を引き取ってくれたから今の私がいるんですから」


 ベリトさんは少し涙を浮かべながら、そっとノエルを抱きしめる。


「そして、ノア。貴方は……」


 優しく見つめる瞳が、涙に濡れる。


「今の貴方なら大丈夫です。自信をもってくださいね」

「はい。ベリトさん、ありがとうございました」


 ベリトさんを別れの抱擁をして、離れる。


「それじゃあみんな」

「行ってきます!」


 門を一歩出た瞬間、背中に温もりを感じた。

 振り返らなくてもわかる。

 孤児院に残るみんなが、俺達を見守ってくれている。


「なに? あんた、泣いてるの?」

「泣いてねえよ。宿舎もここも、同じ王都だ。会おうとすればすぐ会える」

「本当? じゃあなんでそっぽ向くのよ?」

「いいだろ別に!」

「全く、弱虫なんだから。頼りがいがあるんだか、これじゃあわからないわね」


 そう言いながら、ノエルは自然に俺の手を取った。


「今だけよ? 騎士団に入ったら、こんな優しくしてあげられないからね?」


 小さな手なのに、不思議と力強くて、その温もりに涙が引いていく気がした。


 顔を見られるのが恥ずかしくて、俺は前だけを見た。

 それでも、手のぬくもりがある限り、きっと大丈夫だと思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ