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第八話 首都、そして貧困街へ

その後時間が過ぎるのは一瞬で3ヶ月が過ぎていた。順調にお金を集められていた創達だった。

(今日でもう3ヶ月か...あの時は勢いで言っちゃったけど、一回言ったことなんだから、しょうがないよね。)


「おいおいソウタ、本当にこの街を出ていくつもりなのか?」

「まぁ、一応そのつもりです。」

ガーダンと談話していた。

「何でだよ、ずっとここにいれば良いじゃねぇか。」

ガーダンは少し不服なようだった。

「そういうわけにはいかないんです。僕の職業は移動販売、露天商なんです。ウィルヘンゲンにいるのも心地が良いのですが、新規開拓がしたい、もっと他の街を見てみたいと思うんです。冒険者の方々がダンジョン攻略を終えた後に他の場所へ移るのと同じ理由です。」

「それは、そうだが...」

創達は空を見上げて言った。

「この空が広がる限り、世界もまた広がっています。僕もあなたも、同じ空を見ているんです。同じ太陽や月、星を見ていれば、また巡り会えます。今生の別にはなりませんよ、きっと。」

「まぁ、確かに俺も冒険者張ってるし、どっかでまた会う可能性はあるよな。」

「はい。」

「また会おうぜ!ソウタ。」

握手を交わした2人。


〜宿屋にて〜

「アリナ、行かなくて良いのか?」

アリナは宿屋に来ていた。

「仕事があるから無理。」

「仕事があるなら何でここにいるんだ。署に戻れよ。」

「私があそこにいると部下達が萎縮して仕事が回らないのよ。」

「存在自体が武器だな、お前は。」

「あなたから知恵の女神が生まれるか試してみても良いかしら?」

「俺をどうしたいんだよまったく...俺は行くからな。」

ナランは宿を出た。静かになった宿に1人、アリナは椅子に座っていた。


〜街の出口〜

創達の見送りのためにガーダン、リリック、ナラン、チャーリー、メイを連れたマーヤと祖母の初老の女性が街の入り口に来ていた。

「こんなに来てくださらなくても...」

「今日は門出なのだろう。それに、これも仕事のうちだからな。」

「ウォル署長、今日くらい素直になっても良いのではないかな?」

「揶揄わないでください街長。」

「本当に行っちゃうの?」

マーヤは寂しい顔をした。

「うん。そうだよ。」

「また、会える?」

「いつ会えるかは分からないけど、いつかまた会えるよ。」

「約束、しよ?」

マーヤは小指を立てた。

「うん。」

創達はマーヤの小指と自身の小指を数秒間つなげた。

「ソウタ、また会おうな!その時にゃぁ、Aランクにでもなってるぜ!」

「そうですね、楽しみにしています。」

「ソウタ。」

「ナランさん。その、アリナさんにはよろしくお伝えください。」

「分かった。」

創達はキャンピングカーを出して乗り込んだ。

(さようなら、ウィルヘンゲン。また会おう。)

アクセルを踏み込み、徐々に遠ざかっていった。

(さて、次の目的地はどこにしようかな〜。)

ウィルヘンゲンに滞在している間にもらった地図でアルストの国図を見た。

(首都、アルファかぁ。アルストの北東部、結構近いんだな。よし、次は首都に行こう!)

目的地をアルファに変更した創達。

(道路が舗装されているとはいえ、アスファルトじゃない。タイヤがパンクする心配はないけど、事故が起きる可能性がある。飛ぶこととかはできないのかな?)

“キャンピングカー 改造開始”

創達を乗せたキャンピングカーは光った。

「え、何?!」

得体の知れない浮遊感が創達を襲った。

「え、ちょ、まさか、」

急いで窓を開けた創達。下には少し小さくなった町があった。

「と、飛んでる...規格外じゃん。って待って、このまま飛んでたら追撃されたりとか...」

その瞬間キャンピングカーは落下を始めた。

「段々下に落ちてる?改造が終わったってこと?」

地面に着地した後、そのまま前進したキャンピングカー。

(陸と空兼用のキャンピングカーってことか。ってそれはキャンピングカーなのか?陸路専用じゃないの?って、気にしちゃダメか。)

キャンピングカー内のベッドに寝転がった創達。

(ナランさんの話だとアルファはウィルヘンゲンより都会って言ってたな。どれほどなんだろう。楽しみ!)

数分後、窓から見える景色が変わった。

大きく変化はないが、若干近代的な建物が多かった。

「綺麗...。」

キャンピングカーから降りて“格納”した創達は、町の中を歩き始めた。

(食べ物のいい匂い。肉の匂いかな?)

創達は肉の匂いに釣られ、一つの屋台に入った。

「こんにちわ。何が売ってますか?」

「牛串と豚串と鶏皮串が売ってるよ。味付けは全部塩ね。」

「牛串ください。」

「はいよ〜。お兄ちゃん、見ない顔だね。どこら辺から来たの?」

(異世界人ってことは、秘密にしておこう。)

「ウィルヘンゲンから来ました。」

「ウィルヘンゲン...あぁ!!」

「有名なんですか?」

「あそこは空気が綺麗で街並みも付随して綺麗なんだよ。ここで仕事を最後まで終えた人間はウィルヘンゲンで隠居することが多いんだ。」

(東京で定年退職した人が地方に隠居するのと同じ原理なのかな?分からん。)

「アルストは色んな地域の人が来ることで有名だ。その分多様な文化があるから楽しむと良いよ。その分絡まれる可能性は十分にあるから気をつけて!じゃあ!」

創達は屋台から離れ、牛串を食べた。

(縁日で食べる牛串みたい。)

町中は活気にあふれていた。ウィルヘンゲンよりは賑やかなように感じられた。

(人が結構多いんだな。)

創達はふと路地裏を見た。

(あれ?)

路地裏に1人の子供が倒れていたのだ。創達は路地裏に入り、子供に駆け寄った。

「君、大丈夫?」

子供は唸って返答した。

(傷が酷い。下手に食べ物は与えないほうがいいな。包帯と消毒薬生成はできるのか?)

『包帯・回復薬 生成完了』

(お、できた。よし。)

「少し痛いけど、ちょっと待っててね。」

創達は丁寧に子供の怪我の手当てを始めた。

(切り傷と打撲、擦り傷か。子供同士の喧嘩にしてはやり過ぎな気がするけど。)

手当を終え、子供はぽつぽつ喋り始めた。

「何で、助けた?」

「助けない理由なんてないよ。ふと路地裏を見たら子供が倒れてるんだもん。」

(怪我している子供を見逃したら末代先まで呪われそうだし。)

「お名前は?僕は八城創達(ソウタ ヤシロ)。」

「俺の名前は、マーファ。」

「マーファ、いい名前だね。」

マーファは泣き始めた。

「え、どうしたの?どこかまだ痛い?」

「いい名前だなんて、言われたことなかった。」

(この子は、いったい何があったんだろう。)

「良かったらさ、君の家連れて行ってくれるかな?」

(子供がこの様子だと、家の方も少し心配になる。)

「分かった。ただ命の保証はしない。」

「ありがとう。」

創達はラーファの後をついて行った。

(痩せた腕、脂っぽい頭。まともなご飯が食べられていない、お風呂にも入れていない。虐待の可能性がある。その時は、僕がこの子を連れて行こう。)

ラーファは言った。

「俺ん家は、父ちゃんと婆ちゃん、俺含めた6人兄弟。俺は6人兄弟の長男だ。」

「8人家族なんだね。」

「いや、正確には8人家族“だった。”」

(あれ、もしかして地雷踏んだ?)

「真ん中の双子がこの前亡くなった。だから6人家族。」

「えっと、御愁傷様。」

「母ちゃんは末っ子を産んでからすぐにどこかへ行っちまった。父ちゃんが朝から晩で働いて婆ちゃんがみんなの面倒を見てる。」

「末っ子の子は、歳はいくつ?」

「2歳。」

(ってことは2年前にいなくなった、と。数日、数週間じゃないってことは家出とかではなくて蒸発か最悪誘拐の可能性がある。)

「ラーファ、君はいくつかな?」

「俺は8歳。」

(8歳にしては痩せこけているな...ここって一応首都なんだよな?首都にスラム街ってあるもんなのか?)

そうこうしているうちにラーファの家に着いた。

「ここだ。」

とたん屋根に土造りの壁。ところどころビニールシートが被せてある。ギリギリ雨風が凌げないレベルのお世辞にも家とは言えない場所だった。

(こんなところに6人入るものなのか?この家以外にも人はいるみたいだけど地面に麻袋を直接敷いて寝てる人もいるぞ?大丈夫なのか?)

「中に入ってくれ。」

中には編み物をしている老婆が1人、本を読んでいる子供が3人いた。

「帰ったぞ。皆んな。」

本を読んでいた子供の1人がラーファに走って抱きついた。

「おかえり!」

「ただいま。婆ちゃん、3人の守りありがとな。」

「これくらいいいよぉ。いつもラーファには迷惑かけているんだから。そちらのお客様は?」

八城創達(ソウタ ヤシロ)です!ラーファ君が路地裏で倒れていたので手当てをさせていただきました。」

「おやまぁラーファが怪我を?」

「幸い完治したのでご心配はいりません。」

「ラーファ、水とパンを持ってきなさい。」

「分かった。」

「え、ちょ、」

「どうぞ上がってください。ラーファが世話になったのですから、少なからずお礼がしたいのです。」

「で、でも、」

ラーファに抱きついていた子供がソウタを押した。

「お婆ちゃんが言うんだから、上がって?」

押されるがままに創達は上がった。

「僕はサイロ。奥にいるのがマーヤとリリィ。マーヤの方が下から2番目でリリィが末っ子。」

(ってことはこの子は次男ってことか。ラーファ君が8歳だから、7か6歳くらいか?しっかりしてるなぁ。)

ラーファがコップに入れた水と一切れのパンを持ってきた。

「今家にあるのがこれくらいなんだ。」

(少しヒビが入ったコップ。少しボロボロなパン。多分これだけでもこの子達にとってはご馳走に近いんだろうな。なんか申し訳ない。)

「ありがたく、いただきます。」

(一応人からもらった好意なんだから、無碍にはできないよね。)

パンを一口頬張った。

(首都とはいえ貧困街があるとは思わなかったなぁ。賑やかな町を少し抜けると貧困街。都政が何をやっているのか気になるな。まぁ突っ込む気はさらさらないけど。)

「おにいちゃん、おとうさんは、いつかえって、くるの?」

リリィはラーファに聞いた。

「父ちゃんが帰ってくるのは2週間後。昨日も言っただろ?」

「寂しいよぉ。」

「リリィはまだ2歳だから外に遊びに行けないのが寂しいんだよな。ごめんな。」

(まぁ確かに、2歳の子を1人で外に出せないよな...)

「なぁ兄ちゃん!何して遊ぶ?」

「ごめんな、今から夕飯作らないといけないから、また後でな。」

ラーファは外に出た。

「...んで、なんで、」

「僕が代わりに遊ぼうか?」

「なんで僕が我慢しなきゃいけないんだ!いつも、いつも我慢して、遊びたい時に自由に遊べない!知ってるんだぞ、母ちゃんは出稼ぎに行ったんじゃない。ウチがこんなに貧乏だから出て行ったんだ!」

「サイロ君...」

「こんな、こんな家に生まれなきゃ良かった!」

サイロは家から飛び出した。

「サイロ君!」

マーヤとリリィは重い雰囲気に耐えられなくてついに泣いてしまった。

「えっと、おばあさんは2人を頼みます。僕はサイロ君を探してきます。」

「婆ちゃん、さっきサイロが飛び出していったけど何があったんだ?」

「ラーファ君。細かいことは後で話す。着いてきて!」

「あ、ちょっと!」

創達に続いてラーファが家を出た。

「サイロ...ごめんねぇ。」

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