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第七話 前進

(なんか、どっと疲れたな。)

ベッドの上に仰向けに倒れ込んだ創達。

(アリナさんも近親者を亡くしたんだ。僕を恨んでも無理はないだろうに...それにしても結構良いタイミングで入ってきたよな?何か理由でもあるのかな。まぁ良いや。帰ってきたら聞こう。)

創達は目を閉じて仮眠することにした。数分後アリナが扉を叩いた。

「ソウタさん。戻りました。」

「あ、はい!」

創達は飛び起き、アリナは扉を開けて創達の部屋に入り、椅子に座った。

「アリナさん、少し聞きたいことがあります。」

「何でしょう?」

「何であのタイミングで僕の部屋に入ってきたんですか?」

「たまたま近くを見回りしていたんです。そしたらナランから何やら喧嘩をしていると連絡をもらいました。だから行ったんです。」

「タイミング良かったんですね。」

「そうですね。あの時に入ってなかったら危なかったかもしれません。」

「危なかったって?」

「あの老婆は、事件の被害者達の中でも1番異世界人に恨みを持っている人物です。何をしでかすか分からない、ということですね。」

「そう、なんですか。...アリナさんは、何でここまで僕によく接してくれるんですか?」

(気になってた。自分が恨んでいる人間と同じ世界から来た人間に対して優しくできる人間を僕は知らない。)

「仕事だから、というのはあくまで建前です。」

「建前?」

「異世界人襲撃の件があってから、ウィルヘンゲンは異世界人ヘイトのような状況でした。私の母方の祖父母が亡くなったので、母はずっと私に異世界人は悪と教え込まれてきました。何も知らなかった私は、本当に全異世界人が悪だと思っていました。ですが、ある日その私の、ある意味偏見でしょうか。変えてくれた人がいるんですよ。」

「変えてくれた人?」

アリナは懐かしそうに話した。

「私が友人と遊んでいた時、目の前に突然異世界人が転移してきました。」

約20年前

「アリナ、コイツ異世界人だ。」

転移してきた異世界人は突然私たちの目の前に現れました。

「えっと、」

「アリナに何の用だ?」

当時遊んでいた友人、ナランが私の前に出ました。

「ぼ、僕は悪い人間じゃないよ!」

「異世界人は皆んな悪!そう教えてもらったんだ!」

「う〜ん...」

その異世界人は困っていたようでした。

「異世界人が、私たちに何の用?」

「ここに来たばかりで何も分からないから何の用って言われても分からないんだよね...」

「さっさとどっか行け!この異世界人が!」


ガォーーーーーーーーーー!!!!!!!!


木々の間から魔物らしき咆哮が聞こえたんです。

「魔物?」

「!危ない!」

その異世界人は私とナランを庇って重傷を負いました。

「おいアンタ何して!」

「子供を、目の前、で見捨てるほど僕は、非情じゃない。」

話に聞いている異世界人とは違った人でした。冷酷で非情で人の話なんか聞かない人間だと思っていたんです。

「自作自演だろ!」

「自作、自演?もしそうであれば、僕はこんなに深手を負わない。」

魔物は3人に向かって襲いかかってきました。

「戦い方なんか知らない。でも、やるしかないんだ。」

その異世界人は戦い方を知らないにも関わらず、果敢に魔物に挑みました。私とナランは成す術なく地面に座り込んでいました。

(こんなにも、体が動かないなんて...)

「これで、終わりだ!」

魔物は異世界人にトドメを刺され地面に伏しました。

「よ、よか、」

異世界人は地面に倒れ込み、虫の息でした。私とナランは異世界人に駆け寄りました。

「おい!おい!起きろ!」

重たく瞼を開けて私たちを見ていました。

「分かった、かな?自作自演じゃ、ないこと。」

「そんなこと気にしている場合じゃ!」

「良いかな?異世界人?には良い人も、悪い人もいる。覚えておい、て、ね?」

「最後に名前だけ、教えてよ。異世界人。」

「僕の、名前、か。奄美蒼介(ソウスケ アマミ)。」

異世界人、ソウスケは目を閉じてその後開きませんでした。


「全ての異世界人が悪ではないと彼に教えてもらったんです。自作自演なら自分で命を落とすような馬鹿らしいことはしませんからね。」

「そんなことが...」

「あれから長い年月が経ち、その記憶を持つ者は減りました。そして異世界人への偏見が少しずつ減っていったんです。それも街長が緘口令を出したからですね。」

「当時の街長って、」

「今の街長の祖父です。当時は反感を買っていたらしいんですが何とか言いくるめたそうです。」

「凄い...」

アリナは立って扉の方へ歩いていき、目前で止まった。

「どうしたんですか?」

「いえ、何でもありません。露天商?でしたっけ。頑張ってくださいね。」

部屋から出たアリナ。

「どうしたんだろう。」

アリナは階段を降りてカウンターの前を通り過ぎようとした。

「おいアリナ。」

一歩止まって振り返った。

「何か用?」

「...大丈夫か?」

「何が?」

「お前は気づかないふりをしているんだろうが、知ってんぞ。アイツに言いたいことがあるなら言ってこい。」

「言いたいことなんかないわ。あの人とソウタは違う。」

「言わなきゃ一生後悔することになるだろ。3ヶ月後に消えるんだから。」

「聞こえてたの?」

「そりゃあ、な。宿場は犯罪現場になりやすいから、聞き耳くらいは立てる。」

「聞き耳、ねぇ。」

「そのおかげで今まで何人捕まえたと思ってる。」

「感謝はしてる。仕事面だけね。」

「相変わらず愛想ないな。お前。」

アリナは宿を去った。

日は西に傾き始め、空は橙色に染まった。

「みかん色だ...」

創達は部屋から窓を通して空を見上げた。

(明日からまともな商売が始まる。見ず知らずの土地で何があるか分からないけど、頑張ろう。)

それから少し時間が経ち、夕飯の時間になった。

「飯だぞ。」

「ナランさん!今行きます!」


「あの、さっきアリナさん来ましたよね?何か言ってませんでした?」

「何も言ってない。ただ無愛想なのが露見しただけだ。気にするな。それよりさっさと食え。」

創達はご飯を食べ始め、ナランは食堂を出た。

(気になるなぁ...)

黙々と食べ進めた創達。


夕飯を食べ終わった創達は宿の外に出た。

(もう空が薄暗い。太陽が沈むのが早いのかな。)

少し肌寒い空気が創達の肌を掠めた。

「うぅ...ちょっと寒い。中に入ろ。」


宿の中に入って自分の部屋に戻った。

(明日からも、頑張ろう。)

〜翌朝〜

昇った朝日が創達を起こした。

「まぶしい...よし、起きるか。」

眠たい瞼を擦りながら食堂へいった。

「お、早いな。もう少しで朝飯できるぞ。」

「|ありがとうごぞいます。」

「滑舌、終わってるな。先に顔洗ってこい。」

宿の外で顔を水でパシャパシャ洗った創達。

「よし、行こ。」

朝ごはんと支度を早々に終え、外に出た。

(“格納”からキャンピングカーを出す!)

創達が念じた後、地面に魔法陣が出現した。そしてキャンピングカーが出てきた。

「ピカピカだな!」

「お〜い!」

ガーダンが宿に走ってきた。

「ここにいるって聞いて来たんだ。今日から商売を始めるんだって?」

「そうなんですよ、ガーダンさん。」

「仲間の冒険者が今から来るところなんだ。ちょっと待っててくれねえか?」

「もちろん、良いですよ。」

「お〜い!」

ガーダンは誰かに手を振っているようだ。すぐ後に仲間の冒険者らしき人間が数人やってきた。

「コイツらに野宿用の物品を見せてやって欲しい。」

「分かりました!今から準備をするのでお待ちください。」

創達はキャンピングカーの中に入ってショーケースの準備を始めた。その間冒険者達は創達のことを興味深く見ていた。

(多分この世界には似たようなものがないんだろうな。)

創達はキャンプ用品基簡易野宿用品をショーケースに展示した。

(原寸で展示できない物は見本を設置してっと、よし!)

準備を終えた創達は一度キャンピングカーの外に出た。冒険者達は不思議そうに眺めていた。

「凄い、たまげたなぁ。ガーダン。」

「だろ!」

(何でこの人がドヤってるんだ?)

「短剣を見せてくれるか?」

1人の冒険者が創達に言った。

「良いですよ!短剣ですね、少々お待ちください。」

創達はキャンピングカーの中に一度戻ってから短剣を出した。

「これですね、短剣。」

創達は冒険者に短剣を渡した。冒険者は短剣を手に取り軽く握ってみた。

「ガーダンが言う通り、手のなじみがいい。これはいくらだ?」

「う〜ん、5蒼貨でお売りします。」

「5蒼貨だな、分かった。」

冒険者は懐から5枚の蒼貨を出し、創達に手渡した。

「お預かりいたしました。」

その後も冒険者達は創達が売るキャンプ用品基簡易野宿用品を買っていった。

「またな〜!」

ガーダン達は去っていった。

(初めてにしては上々ってとこか。ありがたいことだ。)

「ソウタさん。上手くいってますか?」

アリナが来た。

「なんとか上手くいってます。この街はお優しい人が多いんですね。」

「ガーダン達が優しいだけですね。機嫌が悪いと素行不良になりがちですが、冒険者の中では比較的交渉が効く人物です。一応(ハイ)Bランクだったはずです。」

(そういえばAとBでも上と下があるんだっけ?え、ならあの人結構強い人ってこと?!確かに筋骨隆々で歴戦って感じだったけど...)

「ランク審査には人柄も込みで見られるんです。冒険者は多少の荒くれ者もいますので。」

「じゃあガーダンさん達は人柄込みで上Bランクだった、と。」

「そういうことになります。彼も機嫌による素行不良を直せばもう少し上を目指せると思います。」

(もう少し上、つまりはAランクの冒険者か。この世界の魔物?がどれくらい強いのか分からないけど多分凄いことなんだろうな。)

「ソウタさんは魔物に遭遇したことがおありですか?」

「会ったことはないですね。こちらに来てあまり日は立っていませんし。」

「ウィルヘンゲンの街中で魔物が出ることはありませんが森の中に入れば遭遇するリスクは格段に跳ね上がります。...いずれ、この街を出るのならお気をつけください。」

アリナは少し寂しそうな顔をした後、その場を離れた。

(何で、そんな顔をしているんだろう。)

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