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第六話 知ること

ソウタがキャンピングカーに乗って宿へ戻っている道中。

(ちゃんと日の光を浴びるのいつ振りだろうな。日が昇る前に家を出て日が沈んだ後に家に帰っていたから、懐かしい気もするな。)

キャンピングカー内の簡易ベットの上に座り窓から外を見ていた。

「あ、そうだ。」

ソウタは立ち上がりキャンピングカー内の改造を始めた。

(販売がしやすいように改造をしておかなきゃね。)

ベッドの向かい側にあった簡易キッチンはトイレの向かい側に移動し代わりに外から透けて見えるショーケースが入った。

(販売をする時に外装を少し外しちゃえば良いか。床下にはこの前作ったヤツをしまって、よし!)

「結構良い出来だな!おっと、宿に着いたみたいだな。さすが車。」

キャンピングカーから降りて“収納”した創達。

(この世界について僕は何も知らない。少し調べてみるか。スキル?に頼ることもできるだろうけど、自分の目で確かめたい。)

宿に入りカウンターへ向かった。ナランは先日と変わらず椅子に座って作業をしていた。

「役場はどうだった?」

「街長がなんか中身が見えなくて面倒そうでした。まぁ初対面なので当たり前ですかね。それより、僕はこの世界の歴史が知りたいんです。本とかありませんか?」

「昨日話してたところにある本が全部だ。読みたいだけ読め。」

「ありがとうございます!」

足早に階段を上がった創達だった。

(世界の歴史を知る、ねぇ。どんな国や地域にも黒い歴史はツキモノ。お前は“ここの”歴史を知ってどう思うかな。)


片っ端から本を自室に運んで読み始めた創達。

「何でも良いから今は知ることから始めよう。」

“ウィルヘンゲン史”

「この街の歴史か...」

分厚いその名の本を開いた。

“大陸の北部に位置するアルスト共和国の南東に位置する街。他と比べて比較的緑が多い地形である。主な産業は果樹や野菜などの作物を中心としたものの貿易である。”

(アリナさんが言ってたヤツだな。)

次に見た文字の羅列は創達を酷く驚かせた。

「“異世界人襲撃事件”?」

“60年前異世界なるところから転移してきた異世界人がウィルヘンゲンで無差別に人に暴力を振るい、死傷者を出した。保安署はこれを重大案件とし鎮圧。襲撃してきた異世界人は捕まり2度と塀の中から出てくることはなかった。”

(襲撃事件があったのか。...なら街の人たちは異世界人を恨んでるのでは?え、僕ヤバくね?この前の冒険者の人たちはまだ生まれてないだろうから大丈夫だと思うけど...)

“異世界人襲撃事件をきっかけにウィルヘンゲンで異世界転移者が出た場合はすぐに街長に顔見せをする慣習ができた。”

(街長さんが言ってた慣習ってそういうことだったのか。確かに過去に酷いことがあったから今を厳しくするのは当たり前か。でも敵意があるようには見えなかったな。逆鱗に触れて街の破壊を恐れているのか、それとも別に理由があるのか。分からないけど立ち回り方には気をつけた方が良さそうだな。)

次の本を手に取った創達。

「“近隣諸国地図帳”?地形がわかるのかな?クリスさんが言ってた東方の国の位置が分かるかも!」


〜数時間後〜

コンコン

「ソウタ〜昼飯できたぞ、って寝てんのか。」

机の上に散らばった本。本を片手にベッドに横たわって寝ている創達。

「風邪引いても知らねえからな。夕飯の時にまた来る。」

創達に毛布をかけて部屋から出ていったナラン。起きたのは昼の3時ごろだった。

「あれ、今何時?」

目をこすりながら部屋にある時計を見た。

「嘘、もう昼の3時?!寝過ごした...最悪。」

本を片付けてカウンターへ向かった。

「すみません...お昼間に合わなかったみたいで。」

「気にするな。それほど集中してたってことだろ。いきなり知らない土地に飛ばされて疲れが溜まってるんだろうな。お前の体には。」

「もう元気なんですけど...」

「無意識的に回復してないってことだろ。夕飯まで寝ていたらどうだ?下手に体壊されても困る。」

「今は、もう大丈夫です!少し風に当たってきますね。」

「おう。」

創達は宿から出た。

「見れば見るほど、“あの人”に似てるんだな。」


宿から少し離れた広場のベンチに腰掛けた。

「僕、そんなに疲れてるのかな。自覚ないんだけど...は!もしかして会社員時代の疲れが今になって押し寄せてきてるとか?あり得る。」

会社員だった自分の溜まった疲労は計り知れない。

(本格的に動くのは明日くらいからかな。よし、心機一転。頑張りますか!)

ベンチを勢いよく立った。


ニャー


「猫の鳴き声?」

草むらから猫の鳴き声がしたため、声がした方に動いた創達。

「子猫、随分と綺麗だな。飼い猫か?」

抱き上げてみたら子猫の首のあたりに違和感があったので毛を退かしてみたら首輪があった。

「メイ?君の名前はメイっていうのか。」

可愛らしく一声鳴いたメイ。

「飼い主さん探してるだろうし、どうしたもんかな。」

「メイ〜!メイどこ〜!」

小さい女の子がメイを呼ぶ声。その声は少し泣いていた。

「ここにいるよー。」

小さい女の子が走って近づいてくる音がした。

「あ、メイ〜!」

「あ、この子の飼い主さんかな?」

「うん!」

メイを優しく女の子の手の中に戻す創達。

「もう離さないであげてね。」

「ありがとう!お兄ちゃん!お母さ〜ん!メイ見つかったよ〜!」

(母親か?)

「もう、走らないでって言ったでしょ!すみません、うちの子が。」

「いえいえ。見つかって良かったですね。」

「何かお礼を、」

「お礼は結構です。僕この近くの宿に暫くいるので何かあったらまた来てください。」

「ありがとうございます。あの、お名前も聞いても?」

八城創達(ソウタ ヤシロ)です。じゃあ僕は帰りますね。」

「またね!お兄ちゃん!」

手を振る女の子と母、抱かれるメイを背中に創達は宿へ帰っていった。


「ソウタ。帰ったのか。」

書類に目を通しながら創達を迎えたナラン。

「はい。子猫を見つけました。」

「もしかして連れて帰ってきたのか?」

「いや、飼い主の人がいたので返してきましたよ。無事に。」

「そうか。そりゃ良かったな。幸いなのか知らんが、まだ日は高い。寝たきゃ寝ろ。夕飯になったら呼ぶ。」

空になったマグカップを持って奥へ消えたナラン。

「寝過ぎも良くないからな...部屋に戻るか。」

自室に入り本の整理を始めた。

(この大陸?の国の配置は大体分かった。政治体制・天候・産業・文化。その他諸々も大体把握した。あとは行動あるのみ。最低3ヶ月はここにいて、その後に国を周ろう。)

ふと手が止まった。

(ウィルヘンゲンの人たちは、異世界人を恨んでいるのだろうか。)

創達はウィルヘンゲン史の異世界人襲撃事件を思い出した。

(過去とはいえ、あったことは変わらない。中には恨んでいる人もいるだろう。僕がここにいることを快く思わない人もいるかもしれない。もし、そういう人がいたら。どう対処すべきなんだろうな。って、今そんなこと考えてる暇ない!)

心機一転するために自身の両頬を軽く叩いた。

「考えてもダメだ。」

(今は他にやるべきことがある。あるかも分からないことに頭を使う時間はない。)

「......よし!」


コンコン


「はい!」

創達の部屋の扉が開かれた。

「お兄ちゃん!」

「さっきの子?お母さんは?」

先ほどの小さい女の子が創達の部屋に来たようだった。そして後ろから初老の女性らしき人が出てきた。

「おばあちゃん!この人だよ、さっきメイのこと見つけたの!」

初老の女性らしき人は重く瞼を開いた。

(ぱっと見、初老ってとこかな?あ、もしかして異世界人襲撃事件の記憶がある人?)

「異世界人、と聞きました。事実ですか?」

その初老の女性らしき人は創達に言った。

「まぁ、はい。」

「異世界人襲撃事件のことはご存知ですか?」

「知ってます。」

(まさか僕が異世界人だから謝れとかいう気じゃないだろうな?)

「一体、一体次は何が目的ですか?」

「はい?」

「あの日、異世界人が来た日。私は母を亡くしました。次は、次は何が目的なんですか?娘ですか?孫ですか?飼い猫ですか?」

「おばあちゃん?」

その初老の女性らしき人は静かに怒りを露わにしていた。

「異世界人が来たら何かを奪われる。私はあの日母の命を奪われたことで痛感したんです。あなたのような、いや。お前のような異世界人は人のものを奪う悪魔だと。」

「悪魔?」

「この世に悪魔は必要ありません。即刻ウィルヘンゲンから出ていきなさい。」

「何言ってるの?おばあちゃん。」

「良いかい?マーヤ。異世界人はね、おばあちゃんの大切な人を奪った悪い人なんだよ。この人も異世界人。つまりはあの時のヤツと同じく悪いヤツなんだよ。」

マーヤの肩を両手で少し掴んだ。

「おばあちゃんはマーヤのことが大事だ。だから奪われたくない。異世界人なんかに奪われるわけにはいかないんだ。」

「おばあちゃん...」

「心配せずとも、あと三ヶ月近くしたら消えます。」

「え、いなくなっちゃうの?」

「三ヶ月後、いなくなるんですね?」

「はい。もちろん。」

(覚悟はしていたけど、本当にあるんだな。こういうこと。)

「やだよ、いなくならないで。お兄ちゃん。」

創達の服の袖を掴んだマーヤ。

「マーヤ、ちゃん?」

「おばあちゃん、お兄ちゃんはメイを助けてくれたんだよ?良い人だよ。お外から来た人がひいおばあちゃんたちを遠くの場所へ連れていったのかもしれないけど、このお兄ちゃんは違う!」

マーヤの目は幼きながら真剣さを含んでいた。

「マーヤ。惑わされては、」

「この人はいい人なの!」

「...確か、名はソウタと言いましたね。」

「それが何か?」

「一体、一体私の娘と孫に何の魔法をかけたのですか?洗脳魔法でもかけたんですか?」

初老の女性らしき人は半ば静かに憤慨しているようだった。

「勘違いをしているようですが、ソウタさんは他人に害を成すような魔法はかけませんよ。」

「!アリナさん?!」

マーヤ達の後ろからアリナが入ってきた。

「なぜ、なぜ言い切れるんですか?あなたも祖父母を異世界人襲撃事件で亡くしたでしょう。」

(え、嘘でしょ?)

「確かに私は祖父母を亡くしました。ですがソウタさんは違います。最初にソウタさんに会ったのは私です。もしソウタさんが他人に害を成す魔法をかかるとしたら、私は今ここにいません。ここに私がいるということは彼はそういったことはしないという証明になります。」

「あなたは、恨まないんですか?」

「恨む恨まない以前に私は祖父母の記憶がないのでほとんど何もありません。今現在事件の犯人達は大多数が天寿を全うしています。恨んだところで亡くなった人は戻ってこないんです。本当は分かっているんでしょう?娘さんやお孫さん、飼い猫が生きて無事で帰ってきたということは害を成す魔法をかけられていないということ。お孫さんの目をよく見てあげてください。」

マーヤは自身の祖母の目を見つめた。

「洗脳魔法にかかっている者は目から光が消えます。ですが、どうです?お孫さんの目にはちゃんとあなたの顔が映っていますよね?」

「写って、ます...」

「世の中にはいろんな生き物がいます。種族は同じでも精神は皆異なります。私とあなたが違うように。」

膝から崩れ落ちた。

「今あなたに必要なのは、何なのか分かりますか?」

アリナは問うた。

「ソウタ、さん。ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」

「いえ、僕は迷惑をかけられた記憶はありません。」

「でも、」

「ですが、一つ言わせてもらいます。」

初老の女性らしき人は固唾を飲んだ。

「これからは異世界人を異世界人だからと差別をしないでください。全員が善意を持っているわけではありませんが、かといって悪意を持っているわけでもありません。どうか、色んな人がいると解釈してください。僕からは以上です。」

「わかり、ました。」

「アリナさん。マーヤちゃん達を家まで送り届けてくれますか?」

「分かりました。また後で来ますね。」

アリナは初老の女性らしき人に手を貸して立たせた。

「お兄ちゃん、また会える?」

「うん。世界は狭いからね。バイバイ。」

創達が手を振るとマーヤも手を振り返した。そして3人は宿から出て行ったのだった。

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