第五話 街役場
創達は宿へ戻った。
(今のところギルドの人たちには印象は良さそうだな。安心安心。)
「ソウタ。初めてのギルドはどうだった?」
「優しそうな人が多くて安心しました。」
「そうか。そりゃ良かったな。」
宿の2階から誰かが降りて来た。
(他の宿泊客かな?)
「オーナー。その人が、例の異世界人ですか?」
「あぁ。そうらしい。話は2階でしろ。」
「初めまして。八城創達さん。オーナーから話は聞いています。何やら異世界人らしいですね。聞きたいことがあるので2階まで来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。分かりました。」
創達は2階に連れてかれた。
2人は向かい合ってソファーに座った。
「あの、僕に何の用ですか?」
「私はクリス・エイバと申します。異世界人の研究をしている者です。」
「え、何かヤバい薬でも飲まされて拷問されるんですか?」
「そんなことしませんよ。さすがに。あなたがいた世界について聞きたいんです。」
「僕がいた世界、ですか?何で聞くのかお尋ねしてもよろしいですか?」
「ここ十数年、各地で異世界人転移が多いんですよ。何かの前触れかもしれないため調査が必要と判断されました。ソウタさんがこちらに転移して来たと聞いたので参りました。」
「僕が転移して来たのはさっきなんですけど、そんなに来るのが早いんですか?」
「私は保安署常駐の魔法士なんです。」
(なんか、なんとなく胡散臭いぞ。)
「で、どこの出身なんですか?」
「えっと、日本です。」
「ニホン、東側の国にそのような言葉を聞いたことがあります。」
「え、そうなんですか?!」
「はい。確かタケやサクラが蔓延ってる国と聞きました。」
(竹と桜が蔓延ってるっていつの時代の話だ?というかどの時代でも蔓延ってはないが、こっちでも竹と桜が認知されてるのか。いつか絶対行こう。)
「そうなんですか...いつか行ってみたいですね。」
「それで、あなたが来た時のニホンはどのような文明があったのですか?」
「そこまで必要ですかね?」
「いやーこれが必要なんですよね。文明レベルが分かれば、異世界の時間においていつ頃こちらに来たのか分かります。つまりは年代分けができるんですね。多分。」
(いや多分って何だよ。というか文明か...AIとかスマホとかパソコンとかかな。なんて言えば良いんだろう。)
「う〜ん、人間ではない無機物?に思考・判断をさせて実行させる装置だったり、遠く離れているところでも連絡がとれたりするものがあるくらいの文明ですね。」
「なるほど...ありがとうございます。これらの情報は異世界人からしか得られないので。感謝します。」
「いえいえこちらこそ。」
クリスは席を立った。
「申し訳ありませんがこれから用事があるので宿を出ます。またどこかでお会いしましょう。」
一礼してからその場から消えたクリス。
(変な人だなぁ。)
宿から出たクリスは裏路地へ向かった。
「で、何か収穫は?」
「結構あります。人間ではない無機物に思考・判断をさせて実行させる装置がある程度の文明、まぁあなたが求めている情報のレベルと同じですね。」
「ほぉ。」
「まぁ、どうするかはご自分でご判断ください。私にはどうにもできませんので。本当の雇い主サマ。」
ナランは階段を上がり創達とクリスが話していた場へ行った。
「エイバに何聞かれた?」
「日本の文明レベルについて少しだけ聞かれました。」
「ニホン、そうか、ニホンか。」
「日本がどうかしたんですか?」
「いや、何もない。今日来たばかりで疲れただろう。夕食用意してあるから食べたらすぐ寝ろ。」
「ありがとうございます!」
創達は夕食を食べに食堂へ向かったら、
(他にお客さんはいないみたいだな。ちょっと寂しい。)
夕食後、創達は自分の部屋に戻りベッドに寝転んだ。
(色々あったなぁ。キャンプしてたら老人助けて恩返し?に異世界に来て、移動販売、露天商になるなんて。想像してなかったよ。明日の生活もわからないのに。1番困るのはお金だよな。両替とかは日本と違うだろうし、覚えるのが大変だ。何とかしなきゃな。)
『碧貨が10枚で蒼貨、蒼貨が10枚で紅貨、紅貨が10枚で白銀幣と交換可能』
(碧貨が日本円で10円、白銀幣が10,000円と考えた方が良さそうだ。いや待てよ。じゃ僕、あの剣1,000円で売ったってことか?そりゃ良いやつって言われるわ。これからは値段設定を気をつけよう。)
「疲れた...もう寝よ。目が覚めたら日本に戻ってるとかないよな?」
目を閉じて寝た創達。
そして夢の中で覚めた創達。
「あれ、ここ、どこだ?」
「ご機嫌いかがかな?創達殿。」
振り返ったら昨日自分が助けた老人がいた。
「あ、あの時の!」
「気に入ってもらえたかの?」
「ま、まあまあです。」
「これからが楽しくなるところじゃ。あそこでは味わえないことをここで体感すると良い。ではな、お優しい青年よ。」
そこで夢は覚めた。
「は!夢、か。ってまだ夜中じゃん。もう一回寝よう。」
もう一度眠りについた創達だった。
数時間後、創達は起きた。
「ふぁ〜眠い。」
(結局あの後夢は見なかったな...何だったんだろう。)
ベッドから降りて食堂へ向かった。
「一晩寝てどうだ?ソウタ。」
「ナランさん。まあまあ、ですね。」
「これ、飯だ。」
暖かいご飯が配膳された。
「ありがとうございます。」
創達がご飯に手をつけた瞬間、食堂の扉が開いた。
「誰だ。」
扉の奥からアリナと同じ軍服を着た人間が何人か入ってきた。
「ヤシロ・ソウタだな。」
「え、はい。」
「ウィルヘンゲンの街長がお呼びだ。」
(今すぐに来いってこと?ちょっと待ってよ僕の朝ごはんは?)
「おいおい保安署署員がズカズカと人の宿の敷地内に入るとはどういうことだ?」
ナランは署員に詰め寄った。
「貴様には関係ない。ナラン・リーシャ。」
「関係ないだって?一応コイツはウチの客人なんでね。そう容易く渡すわけにはいかねえんだわ。つうか、今何時か分かってんのか?朝の7時だぞ。朝飯くらいゆっくり食わせてやれよ。それとも何だ?朝飯抜きにしても重要なことがあるのか?署員サマ。」
開けられた扉の向こうを見たナラン。
「部下の教育はどうなってんだ?アリナ・アルバーン一等署員。」
アリナが出てきたのだった。先に入ってきた署員達は道を開けた。
「ア、アルバーン一等署員!我々は、」
「私の仕事を横取りしようなんて100年早い。それに人を連れてくるなら午前9時以降と決められているのに、今何時かしら?7時よ?時計の文字が読めないほどあなた達の目は節穴なのかしら。」
署員達は顔を青ざめさせた。
「ソウタさん、ごめんなさい。私の不手際で。」
「いえ、僕は大丈夫です。」
「帰るわよ。...ソウタさんは9時に街役場に来てね。」
アリナを先頭として署員は帰っていった。
「早く飯食え。冷めるぞ。」
「は、はい。」
あっという間にご飯を平らげた創達。
「街長がソウタに用だなんて...まさか、アレか?」
ナランがボソっと言った言葉を創達は聞き逃さなかった。
「ここの街長?さんはどんな人なんですか?」
「腹の底が分からんというか、何を考えているか分からない。あまり関わりたくない人間だな。目をつけられるような行動はするなよ?」
「は、はい。」
「街役場は保安署の隣だ。間違えるなよ。」
ナランは食堂から出ていった。
(僕、昨日来たばかりなんだけどなぁ。何もないと良いんだけど。)
そうこうしているうちに時間になり宿を出た。
(何も起こりませんように。)
〜街役場〜
「ここが街役場、か。」
保安署とあまり見た目が変わらない建物だった街役場。強いて言えば屋根の色が違うくらいだった。
「よし、入ろう。」
中に入ると元の世界の役所を彷彿とさせる光景があった。
(超アナログ版の役所って感じか。)
「ソウタ ヤシロだな。街長が奥でお待ちだ。続けて来い。」
声をかけてきた人についていった創達。通されたのは白い壁に覆われ、赤い絨毯が敷かれた部屋だった。“その人”は背もたれ付きの椅子に座りながら創達に背を向けていた。
「あなたが、街長ですか?」
“その人”は椅子を座りながら動かして創達に体を向けた。
「そうとも。ワタクシがウィルヘンゲンの街長、チャーリー・ガーロン。以後、知っておくと良い名だ。」
(見た目からして中性的、声色ははっきりしていない。目元は誰でも惹きつける艶かしさを持つといったところか。声色がはっきりしてない分、考えが読み取りにくいってことだな。多分。)
「座りたまえ。」
創達は背もたれ付きのソファーに座った。
「で、ウォル署長から話は聞いている。何でも創作特化型のスキルを持っているらしいな。」
「まぁ、はい。」
(この人、声と顔から感情が読み取りにくいな。)
「面白いスキルじゃないか。見せてくれるかな?」
「み、見せてと言われましても...」
「良いじゃないか。なぁに、取って食べるようなことはしない。少々怖いことを言うが、ウィルヘンゲンに害を為すかどうかを調べたいんだ。」
「う〜ん...そうだ。」
創達は先日ナランに見せたランタンを手に出した。
「これが、僕のスキルで作ったランタンです。」
「ほう。」
チャーリーはランタンを手に持って間近で見た。
「魔力によって光の調整ができるランタンか。これは良いな。いずれは売るつもりなのかな?」
「はい。移動販売、露天商的な感じで商売をしようと考えています。よろしければ許可をいただけないでしょうか?」
(許可がなければいずれ面倒なことになるからな。商売事は。)
「問題ないさ。身分証はもうあると聞いているからね。止める理由はない。商売に励んでくれ。用件は以上だ。帰って良いよ。」
「あの、それだけですか?」
「何がだい?」
「街の長が直々に僕を呼び出すなんててっきり詰られると思っていたので。」
一瞬目を大きく開け、また目を細め、口角を少しばかり上げて言った。
「気にする必要はない。ウィルヘンゲンでは転移してきた異世界人は全て僕と面会することになっている。君を呼んだのはそういう慣習になっているだけだ。心配はいらないよ。これから励むといい。」
「はい。ありがとうございます!」
「まだ朝だ。宿に帰ってゆっくりすると良い。」
「では失礼します。」
創達は部屋から出た。チャーリーはランタンを指で摘んで目の前に持っていき、目細めた。
(このような代物を創りだすとは、ね。ソウタ ヤシロ、中々の人物らしい。現在は鉱山で採れる石を火元にしているやつが普及していて劣化が早い。こちらが普及していけば儲けは出るだろう。あの話し方・所作から人柄は推測できる、悪いヤツではない。向こうは気味悪がっているようだが、それで良い。変に下に見られたら困るからね。)
ランタンを灯し机の上に置いた。
(“また”同じことを引き起こさないように気をつけなければならないね。)
超後付け設定
碧貨、蒼貨、紅貨、白銀幣の他に銀貨と金貨があり、銀貨が約1円で金貨が約5円