第十話 いざ、次の国へ
〜数分後〜
「もう目を開けて良いですよ。」
ユイナが目を開けたそこは見慣れたアルファの町だった。
「え、ここ、戻ってきた?ソウタさん?」
ユイナは混乱していた。
「アルファに戻ってきたんですよ、ユイナさん。」
「そんな、戻って、」
ユイナは混乱していた。
(ラーファ君の話だと2年前にいなくなったって言ってたな...それでよく気を保てたな。)
「かあ、ちゃん?」
ユイナは振り返った。
「ラーファ?ラーファなの?」
「なんでここに?」
ユイナはラーファに抱きついた。
「ごめん、ごめんねぇ、ごめん、ラーファ!」
「ソウタ、さん?」
創達から見てラーファは混乱して見えた。
「良かったね、お母さん見つかって。」
「ありがとう、ありがとう、ソウタさん!」
ユイナとラーファは自宅に帰って行った。
(お母さんがいたら他の子の心のケアもできるだろう。安心安心。)
創達は再び町の中に入り、先ほどの亜空間の場所へ向かった。
(今は頭痛がしないから無くなったってことなんだろうな。なんだったんだろ。)
創達は疑問に思いながらも町の散策を続けた。
(他の国とかも行ってみたいな...)
他の国にも思いを馳せた創達だった。
「次はどこに行こう。」
地図を開いた。
(アルストから近い国か...ナターリャ王国?がいいかもな。近くの人に聞いてみよう。)
「すみません、ナターリャ王国について少しお教え願えませんか?」
創達は近くの人に声をかけた。
「あ?ナターリャ?あそこは街の景観が綺麗でな、アルストとはまた違った風情がある。大陸内にある王政の国の中で1番大きいぞ。」
「へぇ〜。そうなんですね!」
「あんた、旅人かい?それとも冒険者?」
「えっと、露天商です!移動販売してます!」
「ナターリャ王国に行くつもりってことはいずれ大陸制覇するつもりか?」
「そういうことに、なります。」
何か考え込んだようだ。
「...大陸制覇をするなら、一つ警告しておこう。南東にアルテミカ帝国という国がある。あそこは大陸で屈指の実力を持つ国だ。行くなら最後にしておいた方がいい。」
「理由をお伺いしても?」
「帝国は異世界人を呼び寄せて得体の知れない軍隊を作っている。あくまでも噂話だが。だからあんたも気をつけな。」
「え、僕いつ異世界人って、」
薄く笑ったその人は少し不気味だった。
「いずれ分かる。少し遠いかもしれないが、きっとまた逢える。」
瞬きをするとその人は消えた。
「誰だったんだろう。ま、いっか。」
創達は次の国は足を進めた。
ナターリャ王国 王執務室にて
「隣国で転移者が出たか...まったく何回目だ。」
密偵から創達が転移した連絡を受けたこの人の名はアイン・ナターシャ。大陸北西部に位置するナターリャ王国の統治者である。
(異世界人が暴動を起こすような国が隣にあるのが我慢ならん。勘弁してくれ。)
近年の異世界人転移が多いアルストに不満を覚えていた。
(はぁ。国に悪さをしないよう警護をさらに強化せねばなるまい。とはいえ個人に対して軍を動かすのは難しい。こういう時は、彼らに頼ろう。)
ナターリャ王国冒険者組合支部長室
「陛下からの書状?」
ナターリャ王国のギルドマスターであるガニラ・サンライズは書状を受け取った。
「“委任状 ガニラ・サンライズ殿”......いつもの厄介払いか。名誉だけじゃ飯は食えないってのに...骨折り損だ。まったく。」
いつもの無茶振りに半ば疲弊していたガニラは自身の上着を身にまとい、外出の準備をした。
ナターリャ王国。大陸北西部に位置する王政の国。その歴史は長く、大陸の中では三番目に古い国として知られている。作物輸出が主な貿易科目となっており、若干依存的な輸出体形となっている。王国全体として大陸創世の神と言われるダリアを信仰している。
(…か。三番目ってどれくらいなんだ?そもそもこの大陸って何年前にできたんだろう。僕そんな宗教とか真面目に考えたことないし大陸創世とか全く分からないな。)
創達はキャンピングカーに乗りながらアリナにもらった大陸の国々についての本を読んでいた。
「どんな感じなのかな…楽しみ!」
少し時間が経ち、ナターリャ王国上空へ到着した。
「綺麗~。」
茶色の屋根レンガから変わって緑色の屋根レンガになっていた。
「緑っぽいのも良いな…で、どこら辺に降りよう。変なところに降りて怒られたくないし。」
創達は上空からナターリャを見下ろした。
(作物が主って言ってたことの納得がいったな。ぱっと見小麦とかが目立ってるな。)
上空から見たナターリャは、平屋が主で大きな建物は両手で数えられるほどだった。
(多分お城とか官庁なんだろうな。さっきみたいに着陸するんじゃなくてちょっと上空に浮いた状態で降りよう。しまう事もできるし。)
キャンピングカーは少しずつ降下した。
(来たようだな、件の異世界人。さて、どんな人間だろうか。)
ガニラは雲が少し浮かんでいる空を見上げた。
(王国に対して不利益なら、排除も致し方ない。したとて特別報酬を陛下経由で”スポンサー”からもらうだけだ。創作特化系のモノとは、これはまた面倒だな。物理・概念攻撃特化型ならまだ対処はできたんだが…その気になれば物品のみならず新たな能力能力を創ることも可能だろう。面倒なことだな。)
来る客人を考えて頭が痛くなったガニラだった。
「綺麗な街だな〜。」
キャンピングカーから降りた創達はナターリャの街中を歩いていた。
(なんか見たことあるような外観も、親近感湧く。)
創達がいた日本と違う、どちらかと言えば西洋風の建築が目立った。
(ゴシックっていうか、貴族っていうか、そんな感じだな。語彙力のなさがここで露見するなんて...)
創達は銀色の鎧を纏う人にぶつかった。
「あ、すみません!」
「貴様、何者だ?」
「えっと、こういう者です。」
創達はウィルヘンゲンでもらった身分証明書を出した。
「ソウタ・ヤシロ...異世界人か。」
「そうです。」
「また異世界人か...まったく。」
創達は“また”という言葉に引っかかった。
「またって、どういうことですか?」
「最近異世界人が多く転移している。今日はこれで五人目だ。」
「五人って、多いんですか?」
「じゃあ逆に聞かせてもらうが、貴様は他の世界からそうポンポンと人間が来ることを普通と思うか?」
「ア、タシカニー。」
「国防を強化しなければ...防衛費の増加...国民がどう思うか...勘弁してくれ。」
(苦労人なのかな?)
「最悪革命、王権交代もありうる。冒険者組合が直接関与する問題じゃないが、冒険者も人間だ。困る。」
「それ、僕がどうこうできる問題じゃないんですけど。」
「いっそのこと異世界人を抹殺できれば一番都合がいいんだがな。」
「それは困ります!」
「かの帝国では異世界人を兵器として利用している。人としての扱いを一切受けず、死ぬことを許されず兵器として上の人間に顎で使われるか死ぬかどっちがいい。」
ガニラの問いに創達は困惑した。
(人としての尊厳があるかないかの話だよね?尊厳がないなら死んだ方がまだマシだけど、死にたくはないな。)
「近頃の帝国の動向はますます怪しいし、西の中枢を担う我々としても異世界人を放置はできない。」
「なら、どうするんですか?」
「貴様がこの世界、この国に害を与えないことを証明してみせろ。簡単に言えば国に利益をもたらせば良い。」
「そんなこと言われましても...」
「偶然、この国は不作気味でな。そのよく分からぬ能力で救ってみろ。」
「不作、どれくらいですか?」
「例年の3割減だ。残りの7割と備蓄分で賄えてはいるが限界がある。外に回す作物との兼ね合いもある。早急に解決したい問題、と王は言っていた。できるか?」
「う〜ん、やってみないと分かりません。そもそも僕はこの国のことを何も知らないので。」
「それはそうだろうな。しばらく周ると良い。宿はあるか?」
「何も決めてません。」
「なら“宿は”紹介しよう。長居するなよ?」
「わ、分かりました〜。」
ガニラはその場から去った。
(変なことが起きなければ良いけど...)
創達はこれから先の自身の未来を危惧していた。
「ま、いっか!」